つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第37話 わたくしは所詮、深窓のご令嬢ではない

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「これはこれは殿下」

 右に私服を持っているので、片手でスカートを広げて礼を取る。
 横でも護衛官が背中に板でも入れているのではと疑うほど、真っ直ぐに姿勢を正しているようだ。
 私は殿下と視線を合わせるとにっこりと笑った。

「丸め込もうだなんて、お言葉が悪いですわ。ただ、わたくし個人の失態で、殿下のご評判・・・・・・にまで関わるのではと危惧したまでですの」
「なるほど。物は言いようだな」
「ところで、殿下はいつこちらに?」
「官長! 不審な女が! と若い護衛官が叫んだところぐらいかな」

 ほぼほぼ聞こえているんじゃない!

「それで、どうしてこちらに?」

 騒ぎになる前だったし、ジェラルドさんが偶然駆けつけてきたとも思えない。何か理由があってジェラルドさんを伴い、部屋にやって来たはずだ。

「部屋に私物を置き忘れてな。それを取りに来たところ、部屋の近くで何やら面白そうな事が起こっていたというわけだ」

 面白そうですと!?
 よくもまあ、そんなことを意地悪そうな笑顔で言いますね!
 屈辱的である。屈辱的である。実に屈辱的である!

 ほほほと引きつった口元で笑顔を作る。

「まあ! 面白そうだなんて、ご冗談を!」
「そうだな。貴族の娘が不審者と間違えられるとは冗談のような話だ」
「うふふふ。わたくし、気さくさがウリですの」
「なるほど」

 殿下は楽しそうに腕を組む。

「確かに君のそのポジティブ思考は見習うべきところだな」
「ええ、ええ。どうぞ存分に見習ってくださいませ」

 ふふふ、ははははと、共に笑顔とは言え、ジェラルドさんはびしびし張り詰める空気に耐えられなくなったのか、頭を下げた。

「今回のことは私の監督不行届きです。ロザンヌ様におかれましては、お詫びの言葉もございません」
「も、申し訳ございません!」

 続いてアレオン護衛官が頭を下げる。
 さすが殿下の優秀なる護衛官。矛先を自分に向けてこられた。
 こう出られると、私も殿下に再度切っ先を向けるわけにはいかない。

「いいえ。先ほども申し上げましたが、わたくしも悪いのです。ジェラルド様はお気になさらぬよう。それより」

 私がアレオン護衛官に視線を流すと、彼はびくりと怯えたように震えた。
 別に取って食うわけではないってば。

「こちらの方が、このお部屋の主は殿下がお選びになったご令嬢のはずと申されていたのですが、もしかしたら何か誤解があるのではと」

 彼の言い方が意味深だったから引っかかった。元々それが原因で、私を頑なにロザンヌと認めなかったところもある気がするし。

「え? ――あ、ああ。そういうことか」

 一瞬眉をひそめた殿下がすぐに状況把握したらしく、一人納得した。

 何一人納得しているのか。早よ説明せよ。
 静かに睨み付けて先を促す私に殿下は少し苦笑した。

「ここは私の部屋の隣だからだ」

 それぐらいとうに存じておりますが?
 まだ疑問符がついて回る私に、殿下は君にはそこまでは分からないのかと馬鹿にしたような(被害妄想)ため息をつく。
 ええ。もちろん何だかムカつきますね!

「今回は諸事情があって君のために提供したが、本来は私の婚約者が入る部屋だ」
「――っ!?」

 そう言えば、部屋を探索していた私が一つの扉に手をかけようとした時、クロエさんに注意された。そちらの扉は殿下のお部屋と直接繋がっておりますと。
 その時はふーんと思っていたけれど、そうか。殿下と婚約者の夜更けの逢瀬に使われる扉だったのかぁぁぁ!

 大きな岩が頭を直撃したごとく、あまりにの衝撃にふらついた。

「ロ、ロザンヌ様!?」

 慌てて受け止めてくれるジェラルドさんに私は遠慮なく縋り付く。

「え、ええ。ジェラルド様、大丈夫ですわ。少し動揺しただけです。……ですが殿下」

 未だにガンガンと額に響く痛みに手をやりながら、殿下に抗議の目を向けた。

「その辺りを誤解なさっている方々がまだまだいらっしゃるのでは? お早めにご訂正なさった方がよろしいかと思われます」
「まあ、そうだな。女性避けにもなって一挙両得と思ったが、方向性も変わったことだしな」

 仕方なさそうにため息をつくのはお止めなさい。それにその上から目線の言い方、腹が立ちます!

「恐れ多くも申し上げますが、いくら引く手数多の殿下とはいえ、女性避けだとか耳障りな言葉をお使いになると、女性のみならず、男性からも反感を買われるかと。ほら、何なら彼もそうお思いでしょう」

 アレオン護衛官に視線を送ると、殿下も私を追って彼を見た。
 彼はびくりと肩を振るわせた。

「い、いえ! と、とんでもないことです。私はそんな事をっ、欠片も思っておりません!」

 青くなって否定するアレオン護衛官は、信じられないものを見るように私を見た。

 あら。わたくしが嫌がらせをしたとでもお思いでしょうか。――ええ、ご名答。嫌がらせです。あなたが本能的に察したように、しとやかな深窓のご令嬢ではございませんので。
 私はジェラルドさんの腕の中でそっと微笑んだ。
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