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第175話 人を信じる理由
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殿下のお体の具合が明らかに目に見えて良くなっており、私はほっと肩の力を抜いた。
「殿下、いつからこの状態だったのですか」
尋ねると殿下はなぜか視線を逸らす。
「殿下?」
不審に思って私はにっこり笑い、声を低く呼びかけてみたところ、殿下は苦笑いした。
「あー。昨日、憑かれてまあ大丈夫かなと夜を過ごしたんだが、今朝は忙しくて君に会う前に部屋を出なければならなくなった。その後は、何人かと会うことになって、さらに取り憑かれた」
「殿下。たとえ軽くてもその日の憑かれはその日の内にですよ! 夜中でも叩き起こしてくださいとわたくし、申し上げましたよね」
「いや。分かってはいたが……いや、すまない」
何か言い訳しようとしていた殿下を私が睨みつけていたので、殿下は素直に謝った。
「ジェラルド様がわたくしを迎えに来てくださった時、とても心配でした」
「ああ、悪かった」
「そして。ジェラルド様も」
私には職務と個人的な感情に明確な線引きをする殿下のお考えを否定することはできない。それでもお伝えしておきたいと思う。
「ジェラルド様も越権行為をしてまでわたくしにお尋ねしたくなる程、ご心配されていました」
「……そうか」
殿下は目を半ば伏せて少し考えた後、顔を上げる。
「悪いが、ジェラルドを呼んでくれるか」
「はい。かしこまりました」
立ち上がって軽くスカートを払うと扉へと向かう。そして扉をノックするとすぐに応答があり、ジェラルドさんが扉を開けた。彼は私の姿を見るなり口を開く。
「ロザンヌ様、殿下はいかがでしょうか」
「もう大丈夫だそうです。殿下がジェラルド様にお話があるとのことで、お呼びいたしました」
「承知いたしました。では」
私は一歩下がるとジェラルドさんが入室し、殿下の元へと近付く。
「殿下」
「ジェラルド、先ほどは悪かった」
「いえ。ご快復されたそうで良かったです」
「ああ。ありがとう」
ジェラルドさんは殿下に何も尋ねない。ただ快復を喜ぶのみだ。微笑む彼に殿下もまた笑みを返して頷く。
殿下は前のソファーを指し示した。
「ジェラルド、君に話がある。立って話もなんだから座ってくれ」
「いえ。私はここで」
「いいからまずは座ってくれ。ロザンヌ嬢、君も」
殿下は扉の近くで立っていた私にも視線を向けて来られたので、ジェラルドさんと共に殿下と向かいのソファーに座ることにした。
「これまで君には必要最低限の情報のみ与えていた」
殿下は私たちが席に落ち着くなり話を切り出す。
「それは王室に関わる情報を分散し、仕事を細分化することで、仮に機密情報が漏洩しても大きな損失にならないようにすることができるからだ。その形式は代々ずっと続いてきた」
「はい」
「だからジェラルド、君に肝心な事は何も言えずにやってきた。けれど君はそのことに不平不満一つ言わずについてきてくれた。すまないし、ありがたいと思っている」
ジェラルドさんはいいえと言葉少なく殿下の言葉を受け取る。
殿下もジェラルドさんも言葉足らずの中、互いにもどかしさのようなものを感じていたことだろう。
「だが、状況や環境が変わりつつある中で、私たちの対応も柔軟に変えていくべきだと思っている。何よりも私は君にも伝えたいとずっと考えていた」
「殿下……」
「だから話そうと思う。私のことを。王家のことを。今から言うことを信じるか信じないかは君が決めてくれていい」
ジェラルドさんは一瞬首を傾げたけれど、すぐにはいと頷いた。
殿下が全て話し終えると、誰ともなく息を吐いた。
皆が皆、それなりに緊張し空気もまた張り詰めていたらしい。誰がこの雰囲気を破るのかと思われた矢先、口を開いたのはジェラルドさんだ。
「そうだったのですか。ですからロザンヌ様を」
そう言ってジェラルドさんは私に視線を向けた。
……ジェラルドさん、今、何気に私を巻き込みましたね。
殿下を信じているけれど、確信が欲しいのかもしれない。私はほんの少し苦笑いしながら彼を見つめ返す。
「実は殿下のおっしゃる影はわたくしにも見えないのです。ですからわたくしは証明することはできません」
「そうなのですか」
「ええ。けれど、わたくしは殿下のおっしゃることを信じました。なぜなら、わたくしにそんな嘘を言っても何の利益も無いと思ったからです」
「え?」
ただそれだけで信じたのかと考えたのだろうか。ジェラルドさんは意外そうに目を見張った。
「自分に不利益を被らない限り、人を信じるか信じないかは意外と単純なもので良いのではとわたくしは考えております」
「……なるほど。そうですね。私は殿下を信じたいから信じる。きっとそれだけのことなのですね。複雑にする必要などない」
頷く私にジェラルドさんは笑みを零すと、殿下に向き直る。その表情には、もう迷いは無かった。
「私は殿下を信じます。今後ともよりいっそう殿下のお力になりたく存じます」
「ありがとう、ジェラルド」
ようやくジェラルドさんに秘密を打ち明け、そして信じてもらえたことに対して肩の力が抜けたのかもしれない。殿下は嬉しそうに笑った。
「殿下、いつからこの状態だったのですか」
尋ねると殿下はなぜか視線を逸らす。
「殿下?」
不審に思って私はにっこり笑い、声を低く呼びかけてみたところ、殿下は苦笑いした。
「あー。昨日、憑かれてまあ大丈夫かなと夜を過ごしたんだが、今朝は忙しくて君に会う前に部屋を出なければならなくなった。その後は、何人かと会うことになって、さらに取り憑かれた」
「殿下。たとえ軽くてもその日の憑かれはその日の内にですよ! 夜中でも叩き起こしてくださいとわたくし、申し上げましたよね」
「いや。分かってはいたが……いや、すまない」
何か言い訳しようとしていた殿下を私が睨みつけていたので、殿下は素直に謝った。
「ジェラルド様がわたくしを迎えに来てくださった時、とても心配でした」
「ああ、悪かった」
「そして。ジェラルド様も」
私には職務と個人的な感情に明確な線引きをする殿下のお考えを否定することはできない。それでもお伝えしておきたいと思う。
「ジェラルド様も越権行為をしてまでわたくしにお尋ねしたくなる程、ご心配されていました」
「……そうか」
殿下は目を半ば伏せて少し考えた後、顔を上げる。
「悪いが、ジェラルドを呼んでくれるか」
「はい。かしこまりました」
立ち上がって軽くスカートを払うと扉へと向かう。そして扉をノックするとすぐに応答があり、ジェラルドさんが扉を開けた。彼は私の姿を見るなり口を開く。
「ロザンヌ様、殿下はいかがでしょうか」
「もう大丈夫だそうです。殿下がジェラルド様にお話があるとのことで、お呼びいたしました」
「承知いたしました。では」
私は一歩下がるとジェラルドさんが入室し、殿下の元へと近付く。
「殿下」
「ジェラルド、先ほどは悪かった」
「いえ。ご快復されたそうで良かったです」
「ああ。ありがとう」
ジェラルドさんは殿下に何も尋ねない。ただ快復を喜ぶのみだ。微笑む彼に殿下もまた笑みを返して頷く。
殿下は前のソファーを指し示した。
「ジェラルド、君に話がある。立って話もなんだから座ってくれ」
「いえ。私はここで」
「いいからまずは座ってくれ。ロザンヌ嬢、君も」
殿下は扉の近くで立っていた私にも視線を向けて来られたので、ジェラルドさんと共に殿下と向かいのソファーに座ることにした。
「これまで君には必要最低限の情報のみ与えていた」
殿下は私たちが席に落ち着くなり話を切り出す。
「それは王室に関わる情報を分散し、仕事を細分化することで、仮に機密情報が漏洩しても大きな損失にならないようにすることができるからだ。その形式は代々ずっと続いてきた」
「はい」
「だからジェラルド、君に肝心な事は何も言えずにやってきた。けれど君はそのことに不平不満一つ言わずについてきてくれた。すまないし、ありがたいと思っている」
ジェラルドさんはいいえと言葉少なく殿下の言葉を受け取る。
殿下もジェラルドさんも言葉足らずの中、互いにもどかしさのようなものを感じていたことだろう。
「だが、状況や環境が変わりつつある中で、私たちの対応も柔軟に変えていくべきだと思っている。何よりも私は君にも伝えたいとずっと考えていた」
「殿下……」
「だから話そうと思う。私のことを。王家のことを。今から言うことを信じるか信じないかは君が決めてくれていい」
ジェラルドさんは一瞬首を傾げたけれど、すぐにはいと頷いた。
殿下が全て話し終えると、誰ともなく息を吐いた。
皆が皆、それなりに緊張し空気もまた張り詰めていたらしい。誰がこの雰囲気を破るのかと思われた矢先、口を開いたのはジェラルドさんだ。
「そうだったのですか。ですからロザンヌ様を」
そう言ってジェラルドさんは私に視線を向けた。
……ジェラルドさん、今、何気に私を巻き込みましたね。
殿下を信じているけれど、確信が欲しいのかもしれない。私はほんの少し苦笑いしながら彼を見つめ返す。
「実は殿下のおっしゃる影はわたくしにも見えないのです。ですからわたくしは証明することはできません」
「そうなのですか」
「ええ。けれど、わたくしは殿下のおっしゃることを信じました。なぜなら、わたくしにそんな嘘を言っても何の利益も無いと思ったからです」
「え?」
ただそれだけで信じたのかと考えたのだろうか。ジェラルドさんは意外そうに目を見張った。
「自分に不利益を被らない限り、人を信じるか信じないかは意外と単純なもので良いのではとわたくしは考えております」
「……なるほど。そうですね。私は殿下を信じたいから信じる。きっとそれだけのことなのですね。複雑にする必要などない」
頷く私にジェラルドさんは笑みを零すと、殿下に向き直る。その表情には、もう迷いは無かった。
「私は殿下を信じます。今後ともよりいっそう殿下のお力になりたく存じます」
「ありがとう、ジェラルド」
ようやくジェラルドさんに秘密を打ち明け、そして信じてもらえたことに対して肩の力が抜けたのかもしれない。殿下は嬉しそうに笑った。
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