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第188話 殿下より経験値が上の私
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「ロザンヌ嬢、君のせいじゃない」
「……い」
「ロザンヌ嬢。聞いてくれ。決して君の」
「――ったい!」
「え?」
「絶対! 絶対絶対許さない! 絶対呪いを解明する! 呪いを解明して目に物見せてくれるわ!」
両手を合わせていた手を解いて握り拳を作ると、顔を勢いよく上げた。
すると。
「――わっ!? び、びっくりした。殿下、何をされているのです。危ないではありませんか」
いつの間にか近付いて、私に手を伸ばしていた殿下に抗議する。
殿下は呆気に取られていたが、直後、ぷっと吹き出しかと思うと声を上げて笑った。
……ん?
今度は私が呆気に取られる。
「ああ、いや。すまない。君らしいなと思って」
まだ笑いを抑えきれない殿下は半笑いしながら言った。
「わたくしらしいですか?」
「いや、落ち込んでいるのかと思っていたが、罪悪感と怒りの矛先を呪い解明の方に向けるとはね」
「もちろんマリアンジェラ様とお会いした時は落ち込みましたよ。でも、いつまでも落ち込んでいるわけには参りませんから」
やられたらやり返す。
クラウディア様に反撃しないとね。
「待て。まだクラウディア嬢がやったとは限らない」
あ。うっかり声に出してしまっていたらしい。
一つ咳払いする。
「ですが、ユリアの件も、今回のマリアンジェラ様の件においても、二人が触れたハンカチがクラウディア様の手に渡っております。特にマリアンジェラ様はご自分のハンカチです」
ユリアにも影を取り憑かせたけれど、彼女自身がほんの瞬間触れただけだったから、翌日もほとんど影響がなかったのかもしれない。
「君が言いたいことは分かるが、証拠不十分だ。それにこの時代に呪術を本能的に恐れる者は多くとも、本気で信じる者は少ない。呪術師として彼女を罰するのは難しいと考えてほしい」
私はため息をついた。
自分だって目に見えていない以上、呪いが存在すると言い切ることはできない。なのに他の人にそれを求めようとしても無理だろう。
「分かっております。影が見えるのが殿下だけとなれば、呪術で人を呪うということを証明するのは極めて困難だと」
「ああ。それに呪術の本も書庫室にあるにはあるが、人を呪う方法はない。いや、正確には書かれていない」
「え? 呪術の書物なのに人を呪う方法が書かれていないのですか? 人を呪わずして何のための呪術ですか」
呪術本をのうのうと名乗っておいて人を呪う呪術が書いていないとは、全くの役立たずではないか。恥を知れ!
呆れ果てる私に殿下は苦笑いした。
「呪術は何も人を呪って貶めるだけのものではない。無病息災や五穀豊穣、天下泰平などを願って行われる儀式もまた呪術とされてきた。王家の書物に残っているのはそちらだ。それに呪術の専門はベルモンテ侯爵家だから、王家の書庫には大した物が無くても仕方がない」
「なるほど。人を呪う黒魔術的な方はベルモンテ侯爵家にあるかもしれませんね」
「そうだな。だとしたら王家と言えども、手の出しようがない」
行き詰まりか。ベルモンテ侯爵家がすんなり出すわけがない。彼らにとっても門外不出の書物だろうから。
「王家の書庫にある呪術の本から手掛かりを探しても無駄ということですか」
「一応、目を通してはいるが今のところは無さそうだ」
「そうですか」
私は大きく息を吐く。
手掛かりが無いのなら仕方がない。
「でもまあ、果報は寝て待てと言いますし、ここはひとまず休みましょう」
「意気込んでいた割には休むとは吞気な言葉だな」
「ええ。気長に行きましょう」
「いや。当事者は君ではなく、私なのだが……」
苦笑いする殿下に私はにっこりと笑みを見せると、張った胸に手を当てて片目を伏せた。
「何百年かけても解けなかった呪いです。それがわたくしという影祓いと巡り会えただけでも奇跡のようなものですよ。さあ、ありがたがれ! とは申しませんが、まあ、崇めてくださっても結構ですよ」
「大きく出たな」
「それに何か手掛かりが掴めた時は芋づる式に――あ、ご存知ですか? 芋は蔓をたぐると次々と出てくるのですよ」
芋を掘り起こすように手を動かして示すと、殿下が当たり前だろという表情で息を吐いた。
「それぐらい知っている」
私はふふんと鼻を鳴らして得意げの表情になる。
「どうせそれは書物でお勉強なさっただけでしょう。土から掘り起こされたばかりの芋を手に取られたことはないでしょうに」
「まあ、そう言われると返す言葉はないな」
殿下は気まずそうに頬を掻く。
「でしょう。わたくしはありますから、殿下より経験値が上ですわね」
「……芋に関してはな」
「その経験値が上のわたくしが申します。何か手掛かりが掴めた時は芋づる式にずらずらと良い結果が付いてくるものです。ですから待ちましょう」
「そうか」
再び胸を張る私に殿下はふっと頬を緩ませた。
「では経験値が私より上のロザンヌ嬢に問う。その手掛かりとやらはいつ掴める?」
「それは――分かりません!」
私は拳を作って主張した。
「……い」
「ロザンヌ嬢。聞いてくれ。決して君の」
「――ったい!」
「え?」
「絶対! 絶対絶対許さない! 絶対呪いを解明する! 呪いを解明して目に物見せてくれるわ!」
両手を合わせていた手を解いて握り拳を作ると、顔を勢いよく上げた。
すると。
「――わっ!? び、びっくりした。殿下、何をされているのです。危ないではありませんか」
いつの間にか近付いて、私に手を伸ばしていた殿下に抗議する。
殿下は呆気に取られていたが、直後、ぷっと吹き出しかと思うと声を上げて笑った。
……ん?
今度は私が呆気に取られる。
「ああ、いや。すまない。君らしいなと思って」
まだ笑いを抑えきれない殿下は半笑いしながら言った。
「わたくしらしいですか?」
「いや、落ち込んでいるのかと思っていたが、罪悪感と怒りの矛先を呪い解明の方に向けるとはね」
「もちろんマリアンジェラ様とお会いした時は落ち込みましたよ。でも、いつまでも落ち込んでいるわけには参りませんから」
やられたらやり返す。
クラウディア様に反撃しないとね。
「待て。まだクラウディア嬢がやったとは限らない」
あ。うっかり声に出してしまっていたらしい。
一つ咳払いする。
「ですが、ユリアの件も、今回のマリアンジェラ様の件においても、二人が触れたハンカチがクラウディア様の手に渡っております。特にマリアンジェラ様はご自分のハンカチです」
ユリアにも影を取り憑かせたけれど、彼女自身がほんの瞬間触れただけだったから、翌日もほとんど影響がなかったのかもしれない。
「君が言いたいことは分かるが、証拠不十分だ。それにこの時代に呪術を本能的に恐れる者は多くとも、本気で信じる者は少ない。呪術師として彼女を罰するのは難しいと考えてほしい」
私はため息をついた。
自分だって目に見えていない以上、呪いが存在すると言い切ることはできない。なのに他の人にそれを求めようとしても無理だろう。
「分かっております。影が見えるのが殿下だけとなれば、呪術で人を呪うということを証明するのは極めて困難だと」
「ああ。それに呪術の本も書庫室にあるにはあるが、人を呪う方法はない。いや、正確には書かれていない」
「え? 呪術の書物なのに人を呪う方法が書かれていないのですか? 人を呪わずして何のための呪術ですか」
呪術本をのうのうと名乗っておいて人を呪う呪術が書いていないとは、全くの役立たずではないか。恥を知れ!
呆れ果てる私に殿下は苦笑いした。
「呪術は何も人を呪って貶めるだけのものではない。無病息災や五穀豊穣、天下泰平などを願って行われる儀式もまた呪術とされてきた。王家の書物に残っているのはそちらだ。それに呪術の専門はベルモンテ侯爵家だから、王家の書庫には大した物が無くても仕方がない」
「なるほど。人を呪う黒魔術的な方はベルモンテ侯爵家にあるかもしれませんね」
「そうだな。だとしたら王家と言えども、手の出しようがない」
行き詰まりか。ベルモンテ侯爵家がすんなり出すわけがない。彼らにとっても門外不出の書物だろうから。
「王家の書庫にある呪術の本から手掛かりを探しても無駄ということですか」
「一応、目を通してはいるが今のところは無さそうだ」
「そうですか」
私は大きく息を吐く。
手掛かりが無いのなら仕方がない。
「でもまあ、果報は寝て待てと言いますし、ここはひとまず休みましょう」
「意気込んでいた割には休むとは吞気な言葉だな」
「ええ。気長に行きましょう」
「いや。当事者は君ではなく、私なのだが……」
苦笑いする殿下に私はにっこりと笑みを見せると、張った胸に手を当てて片目を伏せた。
「何百年かけても解けなかった呪いです。それがわたくしという影祓いと巡り会えただけでも奇跡のようなものですよ。さあ、ありがたがれ! とは申しませんが、まあ、崇めてくださっても結構ですよ」
「大きく出たな」
「それに何か手掛かりが掴めた時は芋づる式に――あ、ご存知ですか? 芋は蔓をたぐると次々と出てくるのですよ」
芋を掘り起こすように手を動かして示すと、殿下が当たり前だろという表情で息を吐いた。
「それぐらい知っている」
私はふふんと鼻を鳴らして得意げの表情になる。
「どうせそれは書物でお勉強なさっただけでしょう。土から掘り起こされたばかりの芋を手に取られたことはないでしょうに」
「まあ、そう言われると返す言葉はないな」
殿下は気まずそうに頬を掻く。
「でしょう。わたくしはありますから、殿下より経験値が上ですわね」
「……芋に関してはな」
「その経験値が上のわたくしが申します。何か手掛かりが掴めた時は芋づる式にずらずらと良い結果が付いてくるものです。ですから待ちましょう」
「そうか」
再び胸を張る私に殿下はふっと頬を緩ませた。
「では経験値が私より上のロザンヌ嬢に問う。その手掛かりとやらはいつ掴める?」
「それは――分かりません!」
私は拳を作って主張した。
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