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第243話 結局呪いを掛けたのは誰か
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「に生涯触れることはないだろう。――それでも。……以上です」
ユリアは最後の一文を読み終えると顔を上げた。
その後は静まり返って誰も口を開かない。誰が最初に口火を切るだろうかと考えていたが、それは意外な人物、いや妥当とも言える空気を読まないユリアだった。
「おかしいですね。私が確認した箱は三重底ではなく、二重底でした」
それに答えるのは殿下だ。
「おそらく囮の手記も用意していたのだろう。わざと一つ見付けさせておいて油断させる」
なるほど。
手記でも検閲されると書かれていた。念には念を入れていたのだろう。
「それにしても彼の手記は、歴史書とはかなり異なることが書かれていましたね」
そう話すのはジェラルドさん。
「ああ。まず時系列からしても違う。歴史書では国王陛下が倒れてルイス王太子が玉座に就くことになったとあったが、この手記では倒れたのは王太子で、国王は健在だった」
「そうですね。また、エスメラルダ様はルイス殿下からの求婚を断っていたともあります」
歴史書では彼女は捨てられた恨みで呪いを掛けたというが、最初から身を引いていたのならその動機が無くなる。
「最期に残した言葉というのも、すぐ側で聞いていたブラックウェル騎士すらあまり聞き取れなかったようですし、誰かが改変したのでしょうか」
「改変か、自分なりの解釈と言ったところだろうか。彼女が罪を押し付けられて恨んだとして、その相手は病に伏せていたルイス王太子ではなく、オーギュスト国王とベルモンテ家となるだろうから『あなた』ではなく、『あなたたち』だったのかもしれないな」
「お待ちください、殿下」
私はようやくそこで声を上げた。
「もしかして殿下はエスメラルダ様がやはり呪いを掛けた人物だと思われているのですか?」
「最初にルイス王太子に掛けた呪いは違うだろうが、王家に代々続く呪いは彼女が掛けたのでは。動機は異なるが。……いや。だが、そうなると王太子を呪ったとの彼女の発言はおかしいか」
エスメラルダ様の実際の言動とブラックウェル様が描く彼女では矛盾点があり、殿下も混乱しているようだ。ただ、罪を押し付けられた恨みで、最期に王家を呪ったと考えるのは筋が通って見えるけれど。
「わたくしのネロは、エスメラルダ様のネロと同一だと考えております。仮にそうだとして、ネロがなぜ主人を死に追いやった王族の子孫、殿下の影を祓うと思われますか?」
「それは……」
殿下は私の左肩を見つめる。そこにネロがいるのだろうか。今、ネロは何を思っているのだろう。
「確かにとても無関係とは思えないが、君のネロがエスメラルダ嬢のネロと同一だとどうして言える?」
質問を質問で返す殿下に、私はユリアへと視線を流した。
「ユリア。リアーナ様の名字は書いていなかった?」
意外な人物に思えたのか、リアーナ様ですかと彼女はわずかに眉を上げる。
「はい。流し読みした中ではありませんでしたが、なぜですか」
「彼女の名字は――ダングルベールではないのかと思ったの」
「え?」
皆の視線が私に集まった。
「うろ覚えですが、初代のダングルベール夫妻は王宮勤めした方だったと聞いたことがあります」
お二人は気安い仲だった。互いに好意を抱いてさえいたかもしれない。それにリアーナ様はブラックウェル様に荷担した身だ。一緒に王宮を出たのではないだろうか。
「もしブラックウェル様がご自分の名を捨て、ダングルベール家に入っていたとしたら。エスメラルダ様が処刑の場でご自分の血を使って、術を施したネロをブラックウェル様に託していたとしたら――わたくしのネロと、エスメラルダ様のネロが繋がります」
殿下は息を呑んだ。
いや。言っている自分ですら、口がカラカラに渇いて息ぐらいしか飲み込むことができない。
「仮にそうだとしたら、彼女が自分で魔女だと叫んだ理由も分かります」
「確かに彼女の発言は不可解だと思ったが……どういうことだ?」
あくまでも推論ですがと私は最初に付け加える。
「能力の高い呪術師には必要がないかもしれませんが、技術の浅い彼女には呪術に血が必要だったのではないでしょうか。でも彼女は拘束されていて必要なだけの血を得ることができなかった。しかも刑の執行が火あぶりでは見込めそうにない。だから自分は魔女だと叫ぶことで、民衆の怒りを高めて石を投げさせた。……怪我を負って出血するために」
それでも足りなかった。だから民衆の中にネロの姿を見つけた時、最期の力を振り絞って呼び寄せた。きっとエスメラルダ様はネロに首を狙わせようとしたのだ。
「それに殿下の星紋。王族の方全てに出ないのは契約外だから。星紋が出るのは呪いを掛けられた王家の血を引くルイス殿下を主とした契約だったから」
殿下は反射的に自分の手首に視線を落とす。
「影を見る能力は血の契りによって、エスメラルダ様から引き継いだ能力。恨む血筋にそんな能力を継承させるでしょうか。――いいえ。彼女は命を懸けてルイス殿下を、王族を守ろうとしたのです。わたくしはそう思います」
ユリアは最後の一文を読み終えると顔を上げた。
その後は静まり返って誰も口を開かない。誰が最初に口火を切るだろうかと考えていたが、それは意外な人物、いや妥当とも言える空気を読まないユリアだった。
「おかしいですね。私が確認した箱は三重底ではなく、二重底でした」
それに答えるのは殿下だ。
「おそらく囮の手記も用意していたのだろう。わざと一つ見付けさせておいて油断させる」
なるほど。
手記でも検閲されると書かれていた。念には念を入れていたのだろう。
「それにしても彼の手記は、歴史書とはかなり異なることが書かれていましたね」
そう話すのはジェラルドさん。
「ああ。まず時系列からしても違う。歴史書では国王陛下が倒れてルイス王太子が玉座に就くことになったとあったが、この手記では倒れたのは王太子で、国王は健在だった」
「そうですね。また、エスメラルダ様はルイス殿下からの求婚を断っていたともあります」
歴史書では彼女は捨てられた恨みで呪いを掛けたというが、最初から身を引いていたのならその動機が無くなる。
「最期に残した言葉というのも、すぐ側で聞いていたブラックウェル騎士すらあまり聞き取れなかったようですし、誰かが改変したのでしょうか」
「改変か、自分なりの解釈と言ったところだろうか。彼女が罪を押し付けられて恨んだとして、その相手は病に伏せていたルイス王太子ではなく、オーギュスト国王とベルモンテ家となるだろうから『あなた』ではなく、『あなたたち』だったのかもしれないな」
「お待ちください、殿下」
私はようやくそこで声を上げた。
「もしかして殿下はエスメラルダ様がやはり呪いを掛けた人物だと思われているのですか?」
「最初にルイス王太子に掛けた呪いは違うだろうが、王家に代々続く呪いは彼女が掛けたのでは。動機は異なるが。……いや。だが、そうなると王太子を呪ったとの彼女の発言はおかしいか」
エスメラルダ様の実際の言動とブラックウェル様が描く彼女では矛盾点があり、殿下も混乱しているようだ。ただ、罪を押し付けられた恨みで、最期に王家を呪ったと考えるのは筋が通って見えるけれど。
「わたくしのネロは、エスメラルダ様のネロと同一だと考えております。仮にそうだとして、ネロがなぜ主人を死に追いやった王族の子孫、殿下の影を祓うと思われますか?」
「それは……」
殿下は私の左肩を見つめる。そこにネロがいるのだろうか。今、ネロは何を思っているのだろう。
「確かにとても無関係とは思えないが、君のネロがエスメラルダ嬢のネロと同一だとどうして言える?」
質問を質問で返す殿下に、私はユリアへと視線を流した。
「ユリア。リアーナ様の名字は書いていなかった?」
意外な人物に思えたのか、リアーナ様ですかと彼女はわずかに眉を上げる。
「はい。流し読みした中ではありませんでしたが、なぜですか」
「彼女の名字は――ダングルベールではないのかと思ったの」
「え?」
皆の視線が私に集まった。
「うろ覚えですが、初代のダングルベール夫妻は王宮勤めした方だったと聞いたことがあります」
お二人は気安い仲だった。互いに好意を抱いてさえいたかもしれない。それにリアーナ様はブラックウェル様に荷担した身だ。一緒に王宮を出たのではないだろうか。
「もしブラックウェル様がご自分の名を捨て、ダングルベール家に入っていたとしたら。エスメラルダ様が処刑の場でご自分の血を使って、術を施したネロをブラックウェル様に託していたとしたら――わたくしのネロと、エスメラルダ様のネロが繋がります」
殿下は息を呑んだ。
いや。言っている自分ですら、口がカラカラに渇いて息ぐらいしか飲み込むことができない。
「仮にそうだとしたら、彼女が自分で魔女だと叫んだ理由も分かります」
「確かに彼女の発言は不可解だと思ったが……どういうことだ?」
あくまでも推論ですがと私は最初に付け加える。
「能力の高い呪術師には必要がないかもしれませんが、技術の浅い彼女には呪術に血が必要だったのではないでしょうか。でも彼女は拘束されていて必要なだけの血を得ることができなかった。しかも刑の執行が火あぶりでは見込めそうにない。だから自分は魔女だと叫ぶことで、民衆の怒りを高めて石を投げさせた。……怪我を負って出血するために」
それでも足りなかった。だから民衆の中にネロの姿を見つけた時、最期の力を振り絞って呼び寄せた。きっとエスメラルダ様はネロに首を狙わせようとしたのだ。
「それに殿下の星紋。王族の方全てに出ないのは契約外だから。星紋が出るのは呪いを掛けられた王家の血を引くルイス殿下を主とした契約だったから」
殿下は反射的に自分の手首に視線を落とす。
「影を見る能力は血の契りによって、エスメラルダ様から引き継いだ能力。恨む血筋にそんな能力を継承させるでしょうか。――いいえ。彼女は命を懸けてルイス殿下を、王族を守ろうとしたのです。わたくしはそう思います」
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