13 / 31
13 車持皇子 -くらもちのみこ-
しおりを挟む「かぐや、車持皇子殿も旅立たれるそうじゃ」
石作皇子の事があり、何とも言えない顔で爺さんが報告してくる。
はて、クラモチノミコとは誰だっただろう…?
『…。…あなたが蓬莱の玉の枝を求めた者です』
呆れた声のお姫様が教えてくれた。
いや、求婚者の1人だという事はなんとなくわかったのだが、あの時はちょっとテンパっていた為、その時に居た人物の正確な名前と顔と誰に何を求めたのかは覚えていないのだ…。
…あれ、つまり求婚者達に関しては何にも覚えていないという事か…?
…まぁ大丈夫だろ。
そうか、クラモチノミコは…
「…蓬莱の玉の枝…」
「…そうじゃ。…きっと見つけて来てくれるからのぉ…」
俺の呟きを聞き、ポンポンと軽く肩を叩きつつ爺さんは何故か俺を慰めてくれる。
いや、見つけて来て欲しくないんだって…
爺さんと婆さんは何故か俺が結婚に対して否定的な事をすっかり忘れているようだ。
まぁ、どうせ失敗するから良いのだが…。
「よし。行くか」
部屋にて1人になりお姫様に声を掛ける。
『…また行くのですか…』
お姫様の声は嫌そうだ。
…だが、今回は大丈夫。
「クラモチノミコは蓬莱の玉の枝の偽物を用意する筈だ。」
『…』
俺の確信を持った言葉にお姫様の反応がない。
「…あれ?聞こえてる?」
『…聞こえていますが、一体何を根拠に…』
根拠はないが、俺は知っているのだ。
「大丈夫。今回は簡単に証拠を集めてこよう」
俺は自信を持ってそう言った。
「あれ?」
思っていた状況と違う。
影を渡り移動して車持皇子のお屋敷へと向かったが既にお屋敷に人手はなく、どうも港へと向かったらしいことが残った家人の話で知る事が出来た。
よくわからないが、港に居るのならば行ってみようと向かったところ、なにやら悲壮感やら緊張感やら激励といった雰囲気で別れを惜しむ人々のいる現場へと到着した。
一人の年老いた家令っぽいのが、船へと渡ろうとする男へと声を張り上げている。
「…本当に海へとお渡りになるのですか?」
家令っぽいのへ向かって返事をする男。
「大丈夫だ。きっと無事に戻って来る」
「…しかし…海は命懸けの旅になります」
男は家令に向かって爽やかに宣言する。
「私は、姫の為に何としてでも蓬莱の玉の枝を手に入れて帰るつもりだ」
「…なんと!
そこまで想っておいでなのですね…」
家令がおいおいと泣き始める。
少し遠巻きにそれを見る人々。
「…見送りはここまでで良い。
朝廷には湯治に参ると伝えてあるし、私は気心の知れた者たちとひっそりと御忍びで行く予定だ。
…あまり目立ちたくない故、皆はここで帰ってくれ」
「…わかりました。
…旅のご無事をお祈りしております」
泣いていた家令っぽい老人は見送りの者達と少し後ろへと下がる。
周りで遠巻きに見る者たちはどうも感動しているようで中には涙ぐむ者まで居る。
え、何やってんだ…?
俺は純粋に疑問に感じたのだが…
『…これは…どうも感動的な見送りの場面に立ち会ったようですね』
…お姫様の言葉に考え直す。
…これは、感動的な場面なのか。
何かの演目でも演ってるのかと思った…。
旅立つ予定の男はやたら爽やかな笑顔を振り撒き、動作もわざとらしくて胡散臭いし、御忍びとか目立ちたくないと聞こえた割には男も家令もよく通る声で話しているうえ、遠巻きにすごい注目されている。
むしろ、これから旅立ちますアピールをしているのかと思った。
…というか、会話からしてアイツが車持皇子か。
なんだか生理的に受け付けな…いや、第一印象で全てを決めつけては失礼だな。
…そんな事よりも、こいつ船で旅立つのか?
いやいや、…蓬莱の玉の枝っていえば偽物作って持ってくる筈だよな。
いったいどうなってるんだ?
詳しい事を知りたいが、本人は船で出港しようとしている。
「お姫様、アイツの船に乗ったら帰って来るのは無理かな?」
『…道さえ繋げば行き来は出来ますが、…旅の様子まで見に行くのですか?』
お姫様は少しゲンナリとしているようだ。
「いや、ちょっと確かめたい事が…」
と、いうか…
「旅の様子まで見に行けるのか?」
なにそれ楽しそう。
『…余計な事を言いました…』
珍しくお姫様の反省の言葉を聞くこととなった。
影の移動のポテンシャルがすごい。
とりあえず船へと影の移動で渡り、今がどんな状況なのかを知る為に船上での会話を聞けるようにする。
船の上にはゆったりと寛ぐ様子の爽やか男と側近らしき男が居る。
他にも何人か居るようだがそちらはバタバタと出港の準備をしている。
船は屋形船の屋形部分に壁をつけて漁船を少し大きくした感じの小さくはないが、すごく大きいという程でもない木で出来た船だ。
…こんなので船旅に出るなんてすごいな…。
ちょっと態度にワザとらしさはあるが、本当に命を懸けてまで海に出るなんてすごい奴なのかも知れない。
こんな木で出来た船で何十日とかかる船の旅に出るなんて普通に考えたら無理だろう。
…しかも、良いとこのお坊ちゃんなら尚更箱入りで育ったのだろうに…
俺がちょっと尊敬の気持ちを込めて見つめた先から会話が聞こえて来る。
-「…計画通り旅立つ事が出来そうですね」-
-「そうだな。…これで私が旅立ったと皆にしっかり印象付ける事が出来たはずだ…」-
…
やっぱり、あれは旅立つアピールだったのか…
俺の中で上がった好感度が少し下がった。
-「準備は順調です」-
-「そうか。…では、予定通り2~3日程したら船を岸へとつけよう」-
-「岸に着くまで暫く窮屈な船旅となりますが…」-
-「良い。わかっている。
これも、全てを手に入れる為には仕方のない事だ…」-
…?
…2~3日?
「お姫様…2~3日の船旅で海って越えれ…」
『…』
「…ないよな…」
『…』
…。
こいつもか…。
いや、し、知ってたけどな。
危ない…俺はコイツが偽物を作らせるって元々知ってたはずなのに、ここまで派手な感動の別れシーンを見せられてつい信じそうになってしまっていた…。
これは、遠巻きに見ていた奴らがすっかり信じてしまってもしょうがないな。
それにしてもコイツ石作皇子よりタチが悪いな…。
あまり長時間家を空けると爺さん婆さんに気付かれてしまうので、一度家に帰ることにした。
お姫様曰く、一度道を繋げば辿り着く事が出来るらしいので、また見に行こうと思う。
ひとまず、船から家へと帰ることにする。
『…下界の男に誠実な者は居ないのですか…』
お姫様は下界の男に不信感を抱き始めたようだ。
「いや、たまたまそんな奴ばっかに当たっただけだよ…」
…たぶん。
そんな男ばかりではないと言い切りたいが、正直俺も少し不安になってきた。
「…クラモチノミコは2~3日は船に乗るみたいな事言ってたし、とりあえず何処かに着く頃にまた見に行ってみるか…」
『あんな者の事は放っておけば良いのではないですか…どうせ見つける事など出来ないのですから』
お姫様はうんざりした声で言うが、奴は失敗するのではなく、偽物を作って持ってくるはずなのだ。
一応確認しておかないと不安が残る。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる