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連載
騒がしい始まり⑮
人垣が割れて、ゆっくりとした歩みで現した人物は、柔和な顔で話しかける。
「楽にするように。何の知らせもなく足を運んだ、私の落ち度である」
その人物の近くにいた人達が慌ててひざをついていたからね。おずおずと立ち上がる人達。
ボスザさんが、一気に緊張した顔になる。
私は近くの人の呟きを拾う。
「ザイーム殿下だ」
かつて、サエキ様のパーティメンバーとして、自身もSランクの冒険者として活躍した、シーラ王国の王弟ザイーム殿下。サエキ様の話だと、王族は面倒くさいからと百年程一緒に行動したらしい。時間感覚が長命のそれだね。そう言えば、サエキ様もおっしゃっていたなあ、「ザイーム自ら出迎えるでしょう」って。まさかね、と思っていたけど、本当にいらっしゃったね。ザイーム殿下には、何年も前にグーテオークションでご挨拶しただけで、迫力のある人、としか覚えてない。あの時初めてエドワルドさんやエレオノーラ様に会って、そちらの印象が強かった。
人垣は膝をついている人はいないが、さささ、と割れている。ミゲル君に罵声を浴びせていた青年は、蹲ったままだったけど、どうやらお仲間に引きずられて人垣に紛れるように引っ込んでいる。
ザイーム殿下は民族衣装、これ、きっとシーラの民族衣装と言うか、正装なんだろうね、イーゴリさん達とは明らかに生地と仕立てが上物を纏っている。品の良い光沢がある濃紺の生地で、金の縁取りも細やか。ベルトの草木模様の意匠も、素人の私が見ても素晴らしい。白髪が混じっている深い茶色の髪で、結構なお年のはずだけど、がっちりとした体格だ。太っている訳でなく、筋肉隆々って感じ。ドワーフは種族的に筋肉質なんだって。
きっと私達目的よね。まっすぐこっちに来てるし。
『ユイ、あの雄、敵意はないのです』
『どうする? 睨むだけでいい?』
確認してくるビアンカとルージュ。
「何もせんよ。側におってね」
『分かったのです』
『分かったわ』
ちら、と振り返る。心配なアレスにはアリスがつき、元気には晃太がついている。
少し強張った表情のホークさんとチュアンさんには、大丈夫だと視線を送る。
ザイーム殿下は一人で来たわけではない、お付の人が数人ついている。
ビアンカとルージュがぴったりついた私の前に到着前に、私はぺこり、と頭を下げる。
ザイーム殿下は、ちら、と周囲を見渡すと、頭を下げている私に声をかける。前回も感じたけど、迫力のある方だ。
「どうやら、何かあったようですな」
私は頭の角度を更に深くする。
「テイマー、ユイ・ミズサワ殿。私はこのシーラ王国王弟ザイーム。旧友であるダイチ・サエキ殿よりわざわざ連絡を受けていたにも関わらず、出迎える事が出来ずにご不快な思いをさせましたな」
「いいえ。案内役の方をつけていただきありがとうございます」
「ギルドでの用事はお済みで?」
「はい」
後はボスザさんが言っていた宿に行くだけ。
「宿は決まりましたかな?」
「はい。ご用意していただいたとお聞きしましたので。ご厚意に甘えようかと」
「それは良かった。是非に私に案内をさせていただきたい」
?
なぜ、案内? ザイーム殿下が?
うーん、どうしようかと一瞬迷うが、この状況からスムーズに抜け出せると思い、受ける事に。
「ありがとうございます。ザイーム殿下。ギルドの方に伝言をお願いしたいので、お時間いただけますか?」
「もちろん」
私は近くで直角に頭を下げていたワゾーさんに、小声でお願いする。マデリーンさんのお姉さん、マリエナさんは、ワゾーさんの奥さんだ。なので、私達が滞在中に、宿に連れてきてもらえないかのお願いだ。
「よ、宜しいのでしょうか?」
本当にいいの? みたいな顔のワゾーさん。
「はい。お願いします。この機会を逃したら、次いつシーラにこれるか分からないですし」
「あ、ありがとうございます」
「出歩かないと思うので、アウデにいる間は何時でも来てもらっても大丈夫ですから」
「ありがとうございます。妻も、マリエナも喜びましょう」
最後に、私達への騒ぎやザイーム殿下の登場でかちこち恐縮しているイーゴリさんとジョレスさんに挨拶する。
イーゴリさんとジョレスさんは、ガバッと頭を下げる。ザイーム殿下がいらっしゃるから、大きな声は出せないようで、当に絞り出すように声を出す。
「申し訳ありません、ミズサワ様、申し訳ありません」
ポヤポヤの白髪頭がプルプルしていて、こちらが申し訳ない気分。
「イーゴリさん。騒ぎを起こして申し訳ありません。ドロップ品は、さっき言ったように初回のみになります」
「はいっ、一度でもいいので卸して頂ければっ。パーティハウスはお詫びとして、無償で提供させて頂きます」
それはありがたい。素直に受け取ろう。
改めてイーゴリさんに挨拶して、私達はザイーム殿下の引率でスムーズにギルドを出る。もちろん注目は浴びたけどね。
外に出ると、ノワールがボスザさん達が騎乗していた山羊、それも一際大きな黒山羊と、頭突きあっていた。
ゴツッ、いい音が響き、周囲の人達がドン引きしている。
ちょっと、ノワールやめて、そして、黒山羊さんっ、吹き飛ばされかけて、体勢整えて再チャレンジしようとせんで。
「楽にするように。何の知らせもなく足を運んだ、私の落ち度である」
その人物の近くにいた人達が慌ててひざをついていたからね。おずおずと立ち上がる人達。
ボスザさんが、一気に緊張した顔になる。
私は近くの人の呟きを拾う。
「ザイーム殿下だ」
かつて、サエキ様のパーティメンバーとして、自身もSランクの冒険者として活躍した、シーラ王国の王弟ザイーム殿下。サエキ様の話だと、王族は面倒くさいからと百年程一緒に行動したらしい。時間感覚が長命のそれだね。そう言えば、サエキ様もおっしゃっていたなあ、「ザイーム自ら出迎えるでしょう」って。まさかね、と思っていたけど、本当にいらっしゃったね。ザイーム殿下には、何年も前にグーテオークションでご挨拶しただけで、迫力のある人、としか覚えてない。あの時初めてエドワルドさんやエレオノーラ様に会って、そちらの印象が強かった。
人垣は膝をついている人はいないが、さささ、と割れている。ミゲル君に罵声を浴びせていた青年は、蹲ったままだったけど、どうやらお仲間に引きずられて人垣に紛れるように引っ込んでいる。
ザイーム殿下は民族衣装、これ、きっとシーラの民族衣装と言うか、正装なんだろうね、イーゴリさん達とは明らかに生地と仕立てが上物を纏っている。品の良い光沢がある濃紺の生地で、金の縁取りも細やか。ベルトの草木模様の意匠も、素人の私が見ても素晴らしい。白髪が混じっている深い茶色の髪で、結構なお年のはずだけど、がっちりとした体格だ。太っている訳でなく、筋肉隆々って感じ。ドワーフは種族的に筋肉質なんだって。
きっと私達目的よね。まっすぐこっちに来てるし。
『ユイ、あの雄、敵意はないのです』
『どうする? 睨むだけでいい?』
確認してくるビアンカとルージュ。
「何もせんよ。側におってね」
『分かったのです』
『分かったわ』
ちら、と振り返る。心配なアレスにはアリスがつき、元気には晃太がついている。
少し強張った表情のホークさんとチュアンさんには、大丈夫だと視線を送る。
ザイーム殿下は一人で来たわけではない、お付の人が数人ついている。
ビアンカとルージュがぴったりついた私の前に到着前に、私はぺこり、と頭を下げる。
ザイーム殿下は、ちら、と周囲を見渡すと、頭を下げている私に声をかける。前回も感じたけど、迫力のある方だ。
「どうやら、何かあったようですな」
私は頭の角度を更に深くする。
「テイマー、ユイ・ミズサワ殿。私はこのシーラ王国王弟ザイーム。旧友であるダイチ・サエキ殿よりわざわざ連絡を受けていたにも関わらず、出迎える事が出来ずにご不快な思いをさせましたな」
「いいえ。案内役の方をつけていただきありがとうございます」
「ギルドでの用事はお済みで?」
「はい」
後はボスザさんが言っていた宿に行くだけ。
「宿は決まりましたかな?」
「はい。ご用意していただいたとお聞きしましたので。ご厚意に甘えようかと」
「それは良かった。是非に私に案内をさせていただきたい」
?
なぜ、案内? ザイーム殿下が?
うーん、どうしようかと一瞬迷うが、この状況からスムーズに抜け出せると思い、受ける事に。
「ありがとうございます。ザイーム殿下。ギルドの方に伝言をお願いしたいので、お時間いただけますか?」
「もちろん」
私は近くで直角に頭を下げていたワゾーさんに、小声でお願いする。マデリーンさんのお姉さん、マリエナさんは、ワゾーさんの奥さんだ。なので、私達が滞在中に、宿に連れてきてもらえないかのお願いだ。
「よ、宜しいのでしょうか?」
本当にいいの? みたいな顔のワゾーさん。
「はい。お願いします。この機会を逃したら、次いつシーラにこれるか分からないですし」
「あ、ありがとうございます」
「出歩かないと思うので、アウデにいる間は何時でも来てもらっても大丈夫ですから」
「ありがとうございます。妻も、マリエナも喜びましょう」
最後に、私達への騒ぎやザイーム殿下の登場でかちこち恐縮しているイーゴリさんとジョレスさんに挨拶する。
イーゴリさんとジョレスさんは、ガバッと頭を下げる。ザイーム殿下がいらっしゃるから、大きな声は出せないようで、当に絞り出すように声を出す。
「申し訳ありません、ミズサワ様、申し訳ありません」
ポヤポヤの白髪頭がプルプルしていて、こちらが申し訳ない気分。
「イーゴリさん。騒ぎを起こして申し訳ありません。ドロップ品は、さっき言ったように初回のみになります」
「はいっ、一度でもいいので卸して頂ければっ。パーティハウスはお詫びとして、無償で提供させて頂きます」
それはありがたい。素直に受け取ろう。
改めてイーゴリさんに挨拶して、私達はザイーム殿下の引率でスムーズにギルドを出る。もちろん注目は浴びたけどね。
外に出ると、ノワールがボスザさん達が騎乗していた山羊、それも一際大きな黒山羊と、頭突きあっていた。
ゴツッ、いい音が響き、周囲の人達がドン引きしている。
ちょっと、ノワールやめて、そして、黒山羊さんっ、吹き飛ばされかけて、体勢整えて再チャレンジしようとせんで。
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