もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
107 / 876
連載

馬車の旅⑤

 戦闘しています、ご注意ください。




 ビアンカと道を駆け抜けて、驚く門番さん達の間を抜ける。
 畑に向かって走ると、すでにあちこちで悲鳴が上がっている。
『ユイッ、あそこにオルクがいるのですッ』
 ビアンカの声で視線を走らせると、離れた場所にどす黒い人型の魔物。汚い鎧に手には武器。うわあ、顔があ。不揃いの歯に、小さな目はギラギラ、近づきたくないフォルムだあ。
 たけど、その片手には、泣き叫ぶ3歳くらいの女の子。
 向こうのオルクも、こちらに気がついて、背中を向ける。
「ビアンカッ」
『任せるのですッ』
 ビアンカは一気に加速してオルクに追い付き、オルクの首が飛ぶ。
 私は必死に走って追い付き、オルクの腕からなんとか逃れた女の子に向かって手を伸ばす。
「おいでッ」
 火がついたように泣き叫ぶ女の子は、私にしがみついてくる。ざっと女の子をチェック。頬に小さなキズがあるだけのようだ。
 低音で唸り声を上げ続けるビアンカ。
 まだ、近くに別のオルクがいるんだろう。だけど、探さないと、この女の子の両親を。周りは背の高い麦畑だ。どこかにいるはずだけど。
 ビアンカが次々に水の矢を放ち、逃げようとするオルクに突き刺さる。私には見えてないのに、ビアンカは迷いなく放っている。汚い悲鳴が上がる。
「ビアンカッ、他に人はおらん?」
『あっちに2匹いるのです』
 女の子を抱え直し、ビアンカの後に続く。
 麦畑の中を掻き分けて進むと、若い男女が倒れている。
 男性は背中に、女性は肩付近から胸にかけてひどいキズが。
「ママッ、パパッ」
 泣き叫ぶ女の子。やはりこの子の両親か。
 だが、まだ、生きてる。
 私はアイテムボックスから上級ポーションを2本取りだす。
 緊急時は直接キズにかけるのが、応急処置だとディードリアンさん情報です。
 両親にすがり付こうとする女の子を抱えて、ポーションの瓶の蓋を口で咥えて開け、ポーションを振りかける。
  しゅううううぅぅぅ
 薄く白い煙が上がり、キズ口に付着した汚れがなくなったと思った瞬間、まるで逆再生の様にキズが塞がる。
 すごい、これが上級ポーションか。
「大丈夫ですか? 痛みはありせんか?」
 なんとか身を起こす男女に声をかける。
「ああ、一体何が…………ヒイッ」
 私の後ろのビアンカに引く男性だが、女の子を見て血相を変える。
「ナラッ」
「ママァッ、パパァッ」
 私は女の子を離すと、男性は女の子を抱き締める。
「ああ、ありがとうございます、ありがとうございます」
「ナラッ、ナラッ、ああ、ありがとうございますッ」
 良かった。
 でも、キズは大丈夫だろうか?
 だが、喜びつかの間、女性は地面を這い出す。
「いないわ、いないわ」
 真っ青な顔で繰り返す。男性も女の子を抱えて、麦を掻き分けて地面を探す。
「どうされました?」
「いないんですっ。赤ん坊がいないんですっ。さっきまで背中にいたんですっ」
 女性が悲鳴を上げる。
 よく見たら、女性の体に服とは別の布が巻き付いている。おんぶ紐だ。一部、切り裂かれている。
 オルクは、小さな子供を食料にする。
「ビアンカ」
『ユイを残して行けないのです』
「お願いビアンカ」
『…………分かったのです。アオォォォーンッ』
 ビアンカはまず空に向かって、遠吠え一つ。
『ルージュがこっちに来るのです』
 そして、女性のおんぶ紐の匂いを嗅ぐ。女性はガチガチに固まっている。
『行くのですッ』
「後で合流するけん、お願いねッ」 
『分かったのですッ』
 ビアンカが弾丸の様に駆け出していく。
「あの…………」
 女の子を抱えた男性が不安そうに聞いてくる。
「ビアンカがきっと探してくれます。さあ、一旦避難しましょう。キズは痛みませんか? 歩けます?」
「はい、大丈夫です」
 女性も自分で立ち上がる。良かった、上級ポーションが効いているようだ。
 ノータの門に向かって移動する。
 数人が、既に門番さん達に保護されている。
 ノータに入る時に対応してくれた門番さんが、こちらに向かって必死に手を振る。
「急ぎましょう」
 声をかけた瞬間、何だか、嫌な予感がした。
 咄嗟に、私は武器用のフライパンをアイテムボックスから引き抜き、嫌な予感のする方に振り抜く。
 乾いた音と共に、手首に軽い衝撃。
 地面に落ちたのは、黒い矢だ。
 嫌な予感。
 振り返ると、複数のオルクがじわじわと迫って来ている。
 どうしよう。
「うわああぁぁぁぁん」
 女の子が再び泣き出す。
 どうしよう、どうしよう。
 後ろで、男性が女の子と女性を抱き締めるのが分かる。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 オルクが次々に麦畑から姿を表し、私達は囲まれている。
 どうしよう。
 ジリジリと距離を詰められる。
 私の中で、すとん、となにかが落ちる。
 腹を、括ろう。
 先頭のオルクに向かって、私フライパンを構える。
 構えたが、横から光の塊がオルクを直撃。頭がきれいに吹っ飛ぶ。
 ひーっ、えぐい。
 晃太の支援で精神力がアップしているのか、何とか耐えられる。
 光の塊、リンゴサイズの光の塊だ。次々にオルクを直撃し、汚い悲鳴を上げて倒れていく。
 と、言う事は。
『ユイッ』
 物凄い勢いで、ルージュが走り込んで来た。
 2、3匹弾き飛ばしている。大型バイクが爆走している様なものだ。
 私の前に立ち、低い唸り声を上げる。
『ユイに手を出そうとした事、あの世で悔いるがいい』
 ルージュは容赦なく光の塊を放ち、オルク達を倒していく。
 あっという間にオルク達が倒れ伏している。
『ユイ、もう大丈夫よ』
「ありがとうルージュ」
 相変わらず凄かなあ。
 私は親子を振り返る。
 ルージュの登場で、更に緊張した顔だ。
「大丈夫ですよ。私の従魔ですから」
 手を貸して立ち上がらせる。
「姉ちゃんッ」
「ブヒヒヒヒーンッ」
 晃太の声と、ノワールの嘶き。馬車がこちらに向かって爆走して到着。馭者台には見たことない白髪頭の男性が同乗している。
「姉ちゃん、大丈夫ね?」
 馭者台から降りる晃太と男性。白髪頭の男性の腰には、ごつい剣がぶら下がっている。
「大丈夫よ、こちらの方は?」
「冒険者副ギルドマスター、ウィークスです」
 胸に手を当てて腰を曲げて挨拶してくれる。
 どうやら、あの若い冒険者から話を聞いて、飛び出して、出発しようとした晃太にお願いして同乗したようだ。
「残ったオルクは?」
 ウィークスさんが聞いてくる。そこら辺に転がってますよ。直視したくない。
『私が見落とすわけないわ』
「残ってないそうです」
「そうですか。流石、噂のテイマー殿ですな」
「あの、この人達を馬車で運んでもらえます? ケガがあるとは思えませんが、保護を」
「了解した」
 私は親子に馬車に乗るように指示する。
「でも、ムルが、息子が…………」
 女性が泣きそうな顔だ。
「私が今から追いかけますから、晃太、今ねビアンカがオルクに連れ去られた赤ちゃんを追いかけようとよ。とにかく馬車にこの人達ば乗せて、町に戻ってん」
「よかけど。姉ちゃん、大丈夫な?」
「大丈夫よ、ルージュ、ビアンカ追える?」
『任せて、問題ないわ』
 不安そうな、親子をウィークスさんが馬車にのせる。
「姉ちゃん、気をつけてなあ。アップ」
 ふわあ、と温かくなる。
 心配そうな晃太がノワールの手綱を操り、方向転換する。
 馬車を見送り、私はルージュと共に魔の森に向き直った。
感想 851

あなたにおすすめの小説

「三番以下を取りなさい」と五年言われ続けたので、公開試験で本気を出しました

歩人
ファンタジー
王立魔法学院、入学時首席のリュシエンヌは、婚約者レイナルト公爵令息から五年間「女は三番以下を取れ」と命じられてきた。学院の序列は国家序列の縮図。レイナルトは常に一位に居続けた。婚約披露を控えた十九歳の春、レイナルトが新しい婚約者を連れて告げる。「お前では並び立てぬ。学力も身分も、足りなすぎる」——リュシエンヌは微笑んで、その翌日の年次公開試験で、五年封じてきた本気を出した。国王臨席の場で、史上最高点。魔法局長官が教授陣に命じる。「過去五年間の彼女の実測点と、もし本気で受けていたら出せた推計点を、公表したまえ」。教授陣は震える手で数字を並べた。レイナルトの「首席」は、全て彼女が譲った場所だった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

夫の不倫相手に「妻の座を譲れ」と言われたので、譲る代わりに全部置いていきます 〜行き先は老舗旅館。追いかけてきても、もう遅いです〜 

なつめ
恋愛
夫の愛人に「妻の座を譲れ」と言い渡された主人公は、怒鳴り返すこともしがみつくこともせず、ただ静かに頷いた。 家のこと、食事のこと、社交のこと、義実家のこと、会社の裏方のこと。 誰も価値を知らなかった“妻の座”の中身を、そっくりそのまま置いて家を出る。 向かった先は、かつて傷ついた自分を受け入れてくれた老舗旅館。 再建に奔走する若旦那とともに働く中で、主人公は初めて「役に立つから愛される」のではなく、「あなた自身がいてほしい」と言われる温かさを知っていく。 一方、主人公を軽んじた元夫の家では、生活も体裁も仕事もじわじわと崩壊を始める。 これは、何も持たずに出ていったはずの女が、自分の人生を取り戻し、最後には新しい恋と居場所を手に入れる再生の物語。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

夫が私にそっくりな下の娘ばかりをかわいがるのですけど!

山科ひさき
恋愛
「子供達をお願い」 そう言い残して、私はこの世を去った。愛する夫が子供達に私の分も愛情を注いでくれると信じていたから、不安はなかった。けれど死後の世界から見ている夫は下の娘ばかりをかわいがり、上の娘をないがしろにしている。許せない。そんな時、私に不思議な声が呼びかけてきて……。

「お前の泥だらけの手で触るな、気持ち悪い」と追放された令嬢——王宮の食器が一枚も焼けなくなった

歩人
ファンタジー
「お前の泥だらけの手で触るな、気持ち悪い」——王宮御用達の食器を焼く伯爵令嬢エルザは、婚約者の第二王子に手の荒れを嗤われて追放された。十二歳から十年間、王宮の全ての食器を手ずから焼いてきた。彼女の食器は特殊な土と焼成技術で魔力を通し、毒に触れると色が変わる。料理の温度も保つ。追放から三ヶ月後、晩餐会で新しい食器を使ったところ、毒が検知されず隣国の大使が倒れた。外交問題に発展する中、第二王子が「食器くらい誰でも焼ける」と窯に立った結果、出来上がったのは歪んだ灰色の皿だった。

元の世界に帰らせていただきます!

にゃみ3
恋愛
淡い夢物語のように、望む全てが叶うとは限らない。 そう分かっていたとしても、私は敵ばかりの世界で妬まれ、嫌われ、疎まれることに、耐えられなかったの。 「ごめんね、バイバイ……」 限界なので、元いた世界に帰らせていただきます。 ・・・ 数話で完結します、ハピエン!

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※