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閑話 次への おまけ?②
スカイラン領主の館、ラーバフ伯爵邸の中の執務室で落ち着きのない中年夫婦がいた。
ラーバフ伯爵夫妻だ。
頭のてっぺんが寂しいドメニコ・ラーバフ、ぽっちゃりとして、真っ赤な口紅を引いたレッティーナ・ラーバフ夫妻だ。二人とも余所行き用の格好をして、今か今かと待ち人の知らせを待っている。
「遅い、遅い。とっくに接触しているはずなのに」
スカイランに例のテイマーが来たときから接触のチャンスをうかがっていた。できれば、伯爵専属の冒険者に、と。
ドラゴンを一撃で仕止めたフォレストガーディアンウルフ、そして血の道を作ると謳われるクリムゾンジャガー。この2体がいれば、お妃レースに優位に立てる。なんせ、国の礎を初代女王と築いた、ユリ・サエキのテイムしていたのが、フォレストガーディアンウルフだ。心証がかなり違うはず。そしてクリムゾンジャガーは最近ではほぼ目撃情報のない、珍しい魔物だ。主人はどうでもいい。この2体をどうにかして、手に入れなければ、お妃レースに参加し続けたとしても、勝ち目はない。3人の娘は、親の贔屓目があるが皆美しい。貴族の女性としてふさわしい立ち振舞いも十分。だが、ジークフリード王子とゲオルグ王子の正室候補とされる令嬢に、届かない。容姿、教養、財力、そして人となりが、ラーバフ伯爵の娘達が一歩及ばないのだ。
だから、なんとしても、どんな手を使っても、手に入れなければ、このレースに勝てない。
この、2体の従魔を。それに5匹も子供がいるのだ。それも使ってあちこちの権力者に渡せば、強い繋がりができるはずだ。
軍隊ダンジョンから出てきた、という報せを受けてすでに2時間経過している。
ドメニコが出した指示はこうだ。軍隊ダンジョンから出てきた所を何か理由を付けて突っかかり、警備兵が両者を捕らえて屋敷の一室に連れ込み、尋問中に自分が登場。警備兵を叱責して、テイマーに接触の機会を得て、丸め込む。専属冒険者、もしくは両方か1体の所有権の譲渡を。すでに頭にいくつものシミュレーションはしてある。
この為に頭の悪そうな若い冒険者を雇った。警備兵の格好をさせるための連中も金で雇った。本物の警備兵長に話したら、激昂されたからだ。
「スカイランを血の海にするおつもりですかッ」
「だが、正式な手続きさえすれば」
「そんな簡単な訳ないでしょうッ」
「私の指示に従えぬのかッ」
「ええ、従えません。この指示だけには従えません。我々にはスカイランの民と、私には部下の命を守る義務がありますからね。領主の指示は、部下だけでなく、多くの民の命と生活を脅かすものです」
ドメニコは警備兵長を怒鳴り付けて帰らせた。
何と頭の硬い男だ。直ぐにクビにしてやる。いや、一番下まで降格させて、屈辱を味わわせるのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、テイマー達を待つ。後は、テイマー達が来るだけ。
「遅いッ」
ドメニコは癇癪を起こしたように叫ぶ。
もともとはフェリアレーナ王女が、自分の嫡男と結婚していたら、このようなことにはならなかった。
あの時、ガーガリア妃が決まりかけた最初の婚約を無理矢理壊したのがきっかけだ。その後、ラーバフ伯爵の嫡男はフェリアレーナ王女の婚約者候補の中で、かなり優位に立っていたのだ。もちろんドメニコも動いた。ありとあらゆる伝を使い、金を捻出し、ガーガリア妃にもかなりの額を送った。現金ではなく、菓子箱に宝石を仕込んで渡した。賄賂だ。それも一度ではない。
だが、生母であるカトリーナ様は一切受け取らなかった。
それなのに。
土壇場で選ばれたのは、候補者の中では最下位のハルスフォンだ。
訴えようにも、相手は王妃だ。それから贈った多額の賄賂は、返ってくるわけないし、向こうからも一切連絡はない。おそらく、ラーバフ伯爵以外の候補者の家も同じ煮え湯を飲まされたはずだ。
だから、どうしてもこのお妃レースに、勝ちたい。王家とパイプを持ちたいだけではない。貴族としてのプライドが、ラーバフ伯爵の背中を押していた。格下のハルスフォンに、負けたままではいられなかった。
コンコン
「あなたっ」
「おお、やっと来たか、よし」
ドメニコは襟を正し、妻レッティーナはドレスのスカートにシワがないか確認。
「なんだ」
鷹揚に答える。
『旦那様、お客様がお見えです』
ドメニコとレッティーナの顔に歓喜の色が浮かぶ。
手筈は、テイマーが用意した部屋に着いたら報せる。待ちに待った報せだ。
「よし、通せ」
必死に歓喜の色を殺したドメニコは、ドアに向かって答える。
ドアが開くと、そこにはギルドの制服を纏った美しい女性が1人。
「ア、アステリ、何故、お前が…………」
予想外の人物に、ドメニコとレッティーナは動揺。
「何故、ですか? それはご自分がよく分かっていらっしゃいますよね?」
アステリは無表情にいい放つ。
「なっ、なんだ、その態度はっ。何の約束もなく来て、無礼ではないかっ。かつては妹でも、お前はただの平民だっ。場をわきまえよっ」
声を張り上げるドメニコ。
だが、アステリが怯むことはない。美しい青い目に、徐々に力が籠っていく。
「私はギルドを代表して参りました。理由は知らぬでは済みませんよ。あれだけ、彼女達に関わるな、と申し上げましたよね? 中央からも警告が来ているはず。あのテイマーに妙な介入してはならぬ、と」
中央とは、このユリアレーナの中枢であり、最高峰の権力者。
つまり、国王と、そして政府だ。
「な、何のことだ? 私は知らんぞ」
「そう来ると思っていましたよ。どうせ、誰かが仕組んだ、とか仰るでしょうけど、そうは問屋は下ろしませんよ。今回の件、ギルドは徹底的に追及します。そうなれば、兄上には管理責任能力を問われます。当然、お説教で済むわけないことくらいは、お分かりですよね?」
さっき、ギルドの尋問室で締め上げた少年冒険者、警備兵もどきは、冒険者ギルドマスターの殺気駄々漏れの威圧にあっさり白状している。
「アステリッ、お前は兄を窮地に追いやるつもりかッ」
「私はこの家を出た、平民でございます。知ったことではありません」
氷のような声で続けるアステリ。
「この騒動は既に首都のギルドに報告がされています。言い逃れできませんよ。当然、お妃レースは脱落」
「そんなッ」
悲鳴を上げて崩れ落ちるレッティーナ。
「アステリッ、お前はなんということをッ」
「ご自分の撒いた種でしょう? ご自分で何とかなさいませ。我々全ギルドはラーバフ伯爵の擁護は一切いたしませんので」
アステリの言葉に、ドメニコの膝が震え始める。
「死者が出なかっただけが、せめてもの救いです」
ユイに少年冒険者が剣を向けた時点で、その少年の命は尽きていた。本来なら、だ。
従魔は主人を守る。そう、武器を故意に向けた時点であの少年冒険者はフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーにとって排除対象だ。
そうならなかったのは、常日頃から、ユイが人を傷つけてはならないと言い聞かせていたからだ。あくまでも向こうから、手を出されたら、防御、威嚇くらい、と。
「ミズサワ様はおそらく、あの2体に安易に傷つけるなと、言い聞かせているはずです。そうでなければ、無傷ではすみませんからね。あの従魔も主人であるミズサワ様には従順です。理想的なテイマーと従魔の関係です。もしその主人であるミズサワ様が傷でも負ったら、どうなるか分かります? あの少年は八つ裂きにされていましたよ」
だらだらと、汗を流すドメニコ。
「だがっ、負傷者はっ」
「ただの結果論。もし、ミズサワ様が重傷、もしくは命を落としたらどうなると思います? 主人を失った従魔が何をするか? スカイランは数刻も持ちませんよ」
「…………ッ、そうだ、今、Sランクの冒険者がいたはずッ」
みっともなく、いい募るドメニコ。かつての妹であるアステリの目はゴミを見るような目になる。
「そのSランク冒険者からの伝言です。スカイランと心中する気はない、と。あの2体を前にして、ランクがどうかではありませんよ。ドラゴンを一撃で倒したのですよ? Sランク冒険者1人でどうにかなるわけないでしょう? 最悪の事態になった時に、どれだけ逃げられるか、どれだけ怒りが治まるのを待ち続けられるか、です。その時、どれだけ生き残れるか。そんな存在なんですよ、彼女が連れているのは。お分かりいただけました?」
ふん、とアステリは兄夫婦を一瞥。
「せいぜいミズサワ様の裏に誰がいるか気づいてお怒りにならない事を祈っては? ああ、急いで家督を譲る手配でも、してはいかがですか? これは、妹としての最後のアドバイスです。では、失礼します」
アステリは振り返ることなく、執務室を後にした。
その後、どんなに醜い言い争いがあろうがお構い無しだ。
アステリにとって、スカイランは大切な故郷だ。それをあんな形で危険に晒した兄夫婦が許せなかった。
あれだけ、忠告したのに。
アステリはため息を吐いた。サハーラの話では、最後にユイは「分かっていますよ」と言ってくれた。それだけが救いだ。
スカイランに、ギルドに対して、悪印象を持たれていない、そう思いたいが。
数日以内には、ユイ達はギルドに来るはず、転移門の件もあれば、今回の件も聞いてくるはずだ。
これをどう対応するかで、流れが変わる。
短期間で軍隊ダンジョンを踏破し、販路がないからと、大量のドロップ品を回してくれた。出来れば、こちらに移住してほしいのが、素直な考えだったが、もう、無理だ。
ユイが従魔と、その仔達を大事にしていたのは、僅かな期間でも十分感じていた。そんな大事な従魔に武器を向けられ、ユイの腹の中がどうなっているか、想像しなくても分かる。
もう、来ない。
そう言われる可能性が高い。
アステリは、深くため息をついた。
ラーバフ伯爵夫妻だ。
頭のてっぺんが寂しいドメニコ・ラーバフ、ぽっちゃりとして、真っ赤な口紅を引いたレッティーナ・ラーバフ夫妻だ。二人とも余所行き用の格好をして、今か今かと待ち人の知らせを待っている。
「遅い、遅い。とっくに接触しているはずなのに」
スカイランに例のテイマーが来たときから接触のチャンスをうかがっていた。できれば、伯爵専属の冒険者に、と。
ドラゴンを一撃で仕止めたフォレストガーディアンウルフ、そして血の道を作ると謳われるクリムゾンジャガー。この2体がいれば、お妃レースに優位に立てる。なんせ、国の礎を初代女王と築いた、ユリ・サエキのテイムしていたのが、フォレストガーディアンウルフだ。心証がかなり違うはず。そしてクリムゾンジャガーは最近ではほぼ目撃情報のない、珍しい魔物だ。主人はどうでもいい。この2体をどうにかして、手に入れなければ、お妃レースに参加し続けたとしても、勝ち目はない。3人の娘は、親の贔屓目があるが皆美しい。貴族の女性としてふさわしい立ち振舞いも十分。だが、ジークフリード王子とゲオルグ王子の正室候補とされる令嬢に、届かない。容姿、教養、財力、そして人となりが、ラーバフ伯爵の娘達が一歩及ばないのだ。
だから、なんとしても、どんな手を使っても、手に入れなければ、このレースに勝てない。
この、2体の従魔を。それに5匹も子供がいるのだ。それも使ってあちこちの権力者に渡せば、強い繋がりができるはずだ。
軍隊ダンジョンから出てきた、という報せを受けてすでに2時間経過している。
ドメニコが出した指示はこうだ。軍隊ダンジョンから出てきた所を何か理由を付けて突っかかり、警備兵が両者を捕らえて屋敷の一室に連れ込み、尋問中に自分が登場。警備兵を叱責して、テイマーに接触の機会を得て、丸め込む。専属冒険者、もしくは両方か1体の所有権の譲渡を。すでに頭にいくつものシミュレーションはしてある。
この為に頭の悪そうな若い冒険者を雇った。警備兵の格好をさせるための連中も金で雇った。本物の警備兵長に話したら、激昂されたからだ。
「スカイランを血の海にするおつもりですかッ」
「だが、正式な手続きさえすれば」
「そんな簡単な訳ないでしょうッ」
「私の指示に従えぬのかッ」
「ええ、従えません。この指示だけには従えません。我々にはスカイランの民と、私には部下の命を守る義務がありますからね。領主の指示は、部下だけでなく、多くの民の命と生活を脅かすものです」
ドメニコは警備兵長を怒鳴り付けて帰らせた。
何と頭の硬い男だ。直ぐにクビにしてやる。いや、一番下まで降格させて、屈辱を味わわせるのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、テイマー達を待つ。後は、テイマー達が来るだけ。
「遅いッ」
ドメニコは癇癪を起こしたように叫ぶ。
もともとはフェリアレーナ王女が、自分の嫡男と結婚していたら、このようなことにはならなかった。
あの時、ガーガリア妃が決まりかけた最初の婚約を無理矢理壊したのがきっかけだ。その後、ラーバフ伯爵の嫡男はフェリアレーナ王女の婚約者候補の中で、かなり優位に立っていたのだ。もちろんドメニコも動いた。ありとあらゆる伝を使い、金を捻出し、ガーガリア妃にもかなりの額を送った。現金ではなく、菓子箱に宝石を仕込んで渡した。賄賂だ。それも一度ではない。
だが、生母であるカトリーナ様は一切受け取らなかった。
それなのに。
土壇場で選ばれたのは、候補者の中では最下位のハルスフォンだ。
訴えようにも、相手は王妃だ。それから贈った多額の賄賂は、返ってくるわけないし、向こうからも一切連絡はない。おそらく、ラーバフ伯爵以外の候補者の家も同じ煮え湯を飲まされたはずだ。
だから、どうしてもこのお妃レースに、勝ちたい。王家とパイプを持ちたいだけではない。貴族としてのプライドが、ラーバフ伯爵の背中を押していた。格下のハルスフォンに、負けたままではいられなかった。
コンコン
「あなたっ」
「おお、やっと来たか、よし」
ドメニコは襟を正し、妻レッティーナはドレスのスカートにシワがないか確認。
「なんだ」
鷹揚に答える。
『旦那様、お客様がお見えです』
ドメニコとレッティーナの顔に歓喜の色が浮かぶ。
手筈は、テイマーが用意した部屋に着いたら報せる。待ちに待った報せだ。
「よし、通せ」
必死に歓喜の色を殺したドメニコは、ドアに向かって答える。
ドアが開くと、そこにはギルドの制服を纏った美しい女性が1人。
「ア、アステリ、何故、お前が…………」
予想外の人物に、ドメニコとレッティーナは動揺。
「何故、ですか? それはご自分がよく分かっていらっしゃいますよね?」
アステリは無表情にいい放つ。
「なっ、なんだ、その態度はっ。何の約束もなく来て、無礼ではないかっ。かつては妹でも、お前はただの平民だっ。場をわきまえよっ」
声を張り上げるドメニコ。
だが、アステリが怯むことはない。美しい青い目に、徐々に力が籠っていく。
「私はギルドを代表して参りました。理由は知らぬでは済みませんよ。あれだけ、彼女達に関わるな、と申し上げましたよね? 中央からも警告が来ているはず。あのテイマーに妙な介入してはならぬ、と」
中央とは、このユリアレーナの中枢であり、最高峰の権力者。
つまり、国王と、そして政府だ。
「な、何のことだ? 私は知らんぞ」
「そう来ると思っていましたよ。どうせ、誰かが仕組んだ、とか仰るでしょうけど、そうは問屋は下ろしませんよ。今回の件、ギルドは徹底的に追及します。そうなれば、兄上には管理責任能力を問われます。当然、お説教で済むわけないことくらいは、お分かりですよね?」
さっき、ギルドの尋問室で締め上げた少年冒険者、警備兵もどきは、冒険者ギルドマスターの殺気駄々漏れの威圧にあっさり白状している。
「アステリッ、お前は兄を窮地に追いやるつもりかッ」
「私はこの家を出た、平民でございます。知ったことではありません」
氷のような声で続けるアステリ。
「この騒動は既に首都のギルドに報告がされています。言い逃れできませんよ。当然、お妃レースは脱落」
「そんなッ」
悲鳴を上げて崩れ落ちるレッティーナ。
「アステリッ、お前はなんということをッ」
「ご自分の撒いた種でしょう? ご自分で何とかなさいませ。我々全ギルドはラーバフ伯爵の擁護は一切いたしませんので」
アステリの言葉に、ドメニコの膝が震え始める。
「死者が出なかっただけが、せめてもの救いです」
ユイに少年冒険者が剣を向けた時点で、その少年の命は尽きていた。本来なら、だ。
従魔は主人を守る。そう、武器を故意に向けた時点であの少年冒険者はフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーにとって排除対象だ。
そうならなかったのは、常日頃から、ユイが人を傷つけてはならないと言い聞かせていたからだ。あくまでも向こうから、手を出されたら、防御、威嚇くらい、と。
「ミズサワ様はおそらく、あの2体に安易に傷つけるなと、言い聞かせているはずです。そうでなければ、無傷ではすみませんからね。あの従魔も主人であるミズサワ様には従順です。理想的なテイマーと従魔の関係です。もしその主人であるミズサワ様が傷でも負ったら、どうなるか分かります? あの少年は八つ裂きにされていましたよ」
だらだらと、汗を流すドメニコ。
「だがっ、負傷者はっ」
「ただの結果論。もし、ミズサワ様が重傷、もしくは命を落としたらどうなると思います? 主人を失った従魔が何をするか? スカイランは数刻も持ちませんよ」
「…………ッ、そうだ、今、Sランクの冒険者がいたはずッ」
みっともなく、いい募るドメニコ。かつての妹であるアステリの目はゴミを見るような目になる。
「そのSランク冒険者からの伝言です。スカイランと心中する気はない、と。あの2体を前にして、ランクがどうかではありませんよ。ドラゴンを一撃で倒したのですよ? Sランク冒険者1人でどうにかなるわけないでしょう? 最悪の事態になった時に、どれだけ逃げられるか、どれだけ怒りが治まるのを待ち続けられるか、です。その時、どれだけ生き残れるか。そんな存在なんですよ、彼女が連れているのは。お分かりいただけました?」
ふん、とアステリは兄夫婦を一瞥。
「せいぜいミズサワ様の裏に誰がいるか気づいてお怒りにならない事を祈っては? ああ、急いで家督を譲る手配でも、してはいかがですか? これは、妹としての最後のアドバイスです。では、失礼します」
アステリは振り返ることなく、執務室を後にした。
その後、どんなに醜い言い争いがあろうがお構い無しだ。
アステリにとって、スカイランは大切な故郷だ。それをあんな形で危険に晒した兄夫婦が許せなかった。
あれだけ、忠告したのに。
アステリはため息を吐いた。サハーラの話では、最後にユイは「分かっていますよ」と言ってくれた。それだけが救いだ。
スカイランに、ギルドに対して、悪印象を持たれていない、そう思いたいが。
数日以内には、ユイ達はギルドに来るはず、転移門の件もあれば、今回の件も聞いてくるはずだ。
これをどう対応するかで、流れが変わる。
短期間で軍隊ダンジョンを踏破し、販路がないからと、大量のドロップ品を回してくれた。出来れば、こちらに移住してほしいのが、素直な考えだったが、もう、無理だ。
ユイが従魔と、その仔達を大事にしていたのは、僅かな期間でも十分感じていた。そんな大事な従魔に武器を向けられ、ユイの腹の中がどうなっているか、想像しなくても分かる。
もう、来ない。
そう言われる可能性が高い。
アステリは、深くため息をついた。
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