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首都へ⑦
注意必要な表現あります
ゲストハウスに戻り、担架を移動。付き添ってくれた赤騎士団の人が手伝ってくれた。
「ありがとうございます」
「いいえ、職務なので。何かあればお呼びください」
本当にありがたい。
赤騎士団の皆さんを見送って、ゲストハウスに戻る。
居間に寝かされたリーダーさんとエマちゃん。そして、不安そうな皆さん。元気達は近付きたそうだが、リーダーさんとエマちゃんに飛びかかると大惨事なので、元気とコハクはリードを装着したまま。ルリとクリスとヒスイは、チュアンさんに群がってる。
もっと商会で時間かかると思ったけど、まだ、日が高い。
ルームを開けよう。
「皆さん、今から私のスキルを使います。これは制約魔法でもありましたが、最も秘匿にして欲しいものです」
神妙な顔をする皆さん。
「ルーム」
唱えると、いつものドアが現れ、押し開ける。
「皆さん、これが私のスキル『ルーム』です。これはかなり特殊スキルなので、他言無用を」
ドアが出てきて、その向こうに広がる空間に、皆さん驚いている。
「まず、両親を呼びますね」
はい? みたいな顔をする。
今日は念のため、両親はパーティーハウスで待機している。
サブ・ドアを開けて、呼ぶと真っ先に花が飛び込んできた。
「クゥンクゥンクゥン」
「花ちゃん」
ぽちゃぽちゃボディのかわいか事。花は私の手をはみはみして、直ぐに開きっぱなしのルームのドアの向こうに短い足で駆けていく。
「えっ? 花ちゃん?」
マデリーンさんの驚いた声。
「クゥンクゥンクゥーン」
「ど、どこにいたの?」
「クゥンクゥンクゥーン」
花が絶好調にお腹を出して、牛蒡のような尻尾を振ってる。
「優衣、鷹の目の皆さんは?」
母が心配そうにルームに、父も続く。
「皆さんおるよ。お父さんとりあえず、ルームに運ぶの手伝って」
「ん」
ルームを経由して両親が、ゲストハウスに入る。
皆さんの顔に?がたくさん並ぶ。花はテオ君の手をはみはみしている。
「ああ、皆さん、ああ、エマちゃん、リーダーさん…………」
担架に乗せられた2人を見て、母が狼狽える。
「皆さん、ルームに入りましょう」
まず、仔達はルームの従魔の部屋に誘導し、花をダイニングキッチンのケージに。
次に担架をチュアンさん、ミゲル君、父、晃太が運ぶ。
「ゆっくり、ゆっくりね」
母が心配そうに付いていく。担架が運び込まれるのを確認。
私は母の寝室で手早く着替える。ワンピースだと、後々厄介かもしれないからね。
よし、いよいよや。
私は母の寝室を出る。
チュアンさん、マデリーンさん、ミゲル君、テオ君がルームに混乱しているのが、手に取るように分かる。
「皆さん、混乱しているのは分かりますが、今からリーダーさんとエマちゃんの治療を始めます。落ち着いてから説明しますから」
まず、ドアの確認。ルームのドア、サブ・ドアも開けたまま。もし、『神への祈り』を使った後、私はまた気絶する可能性があるから、扉を開け閉め出来なくなるから。
指には晃太から借りた消費魔力軽減の指輪がある。私には魔力回復SSSがあるので、これ以上の回復能力はない。
「優衣、なんとかなるね?」
母が心配そうに聞いてくる。
「きっと、神様が助けてくれるよ」
父は無言だが、心配が溢れている。
並べられた担架、そして、リーダーさんとエマちゃん。私は2人の前に膝をつく。
「お父さん、私の保有魔力でなんとかなる?」
「無理やな」
父はばっさり。
「やっぱりね」
シュタインさんとは比べられない魔力が必要だろう。
「晃太、ポーションば」
「ん」
「お父さん、私の魔力残留が半分になったら、肩を叩いて」
「ん」
「お母さん、剥離魔法でキズから包帯を外して」
「ん」
私は浄化魔法で消毒されたハサミを取り出す。
「ユイさんっ、何するのっ」
テオ君が悲鳴のような声を上げる。
「テオッ」
チュアンさんが鋭く叱責。私の説明不足や。いきなりハサミ出されたら、驚くわな。しかもこんな大ケガしてるから、余計ピリピリしていたんだろう。テオ君にとってはリーダーさんは叔父さん、エマちゃんは双子の妹だから。
「大丈夫よテオ君。今から回復するとね、肉が盛り上がるけん、包帯が邪魔をするんよ。やから、いくつか切り込み入れて、邪魔にならんようにするんよ」
「う。うん…………」
テオ君は私の説明に頷く。うーん、半分理解してないかも。なんとなく頷いた感じだ。
私は慎重にハサミを入れていく。腕に巻かれた包帯の隙間から、ちらほらキズが見えた。肉芽が盛り上がっている最中なんだろうが、皮膚色は悪い。顔に巻かれた包帯にも、切り込みをいれる。リーダーさんの左の耳、原型がない。
テオ君はよくわかってないだろうが、救いを求めているのは変わらない。チュアンさんも、マデリーンさんも、ミゲル君もだ。たいした説明もしていないのに、何も聞かずに見ているのは、私を信じているからだ。
なんとかせんと。
晃太が魔力回復ポーションを出す。
並べられる魔力回復ポーション。
見ながら、時空神様の言葉を思い出す。
奴隷の為に『神への祈り』を使う時、俺に祈りを。回復に必要な体力を、削らず、癒す。ただし、10分以内だ、いいな? 10分だ。魔力残留に気を付けろ、回復手段を用意しろ、どんな手段でもいい。ポーション中毒になるな。
私は息を吸う。
きっと、大丈夫。
ヒスイの腕も再生した、ビアンカとルージュのキズも治した、シュタインさんも治した。だから、エマちゃんもリーダーさんも治せる。きっと、大丈夫。
「時空神様」
正座をして、両手の手のひらを合わせる。
ああ、聞こえている
時空神様の声が響く。
「リーダーさんとエマちゃんのキズを治してください。アルブレンで最後に見た姿に、治してください」
魔力が抜けていく。
以前、シュタインさんに使ったように、リーダーさんとエマちゃんの体の中の魔力の流れが見える。全身の流れが悪い、少しずつ、少しずつ、本当に髪の毛の様な隙間に、魔力が流れていく。ゆっくり、ゆっくり。
肩を叩かれる。もう、半分?
私は片手を出すと、母が魔力回復ポーションを握らせる。そのまま飲む。う、まずう、苦い、えぐい、喉に貼り付く。でもこれでも、全快はしない、せいぜい保有魔力の3割だ。
私は時空神様に祈りを捧げ続ける。
リズムよく、肩が叩かれ、私は喉に貼り付く魔力回復ポーションを飲み続ける。
少しずつ、切り込みを入れた包帯が揺れだし、肉が盛り上がる。
効いてる。
神への祈りが効いてる。
エマちゃんの中に流れる魔力が、少しずつ勢いが増す。それに伴い、腕の肉が盛り上がり、顔に巻かれた包帯がうごめく。
「エマ、エマ…………」
テオ君が必死に声をかける。
肩を叩かれ、魔力回復ポーションを飲む。喉に貼り付く。もう、お腹の中、魔力回復ポーションで一杯寸前だ。
う、お腹、気持ち悪くなってきた。気のせいか、手足に痺れが出てきた。
『ユイ、魔力の流れがおかしいのです』
『その不味い匂いのは、もう、飲まない方がいいわ。魔力の流れが悪くなるだけよ』
見守ってくれたビアンカとルージュが心配そうに声をかけてきた。魔力を自然回復以外で回復させると、体の中を巡る魔力の流れが一時的に乱れる。1~2本の魔力回復ポーションなら大したことない乱れで、そのうち自然に元に戻る。ポーションと名の付く物は、多飲すると中毒を起こす。薬も使い方しだいで、体に毒になるように。
だけど、まだ、治療が終わらない。私は魔力回復ポーションを飲む。うぐう、吐き気出てきた。
「ユイ様、それ以上はポーション中毒になりますよ」
チュアンさんまで止めに入る。
やめる訳にはいかない。この10分以内でなんとかせんと。
震えだした手で、魔力回復ポーションを取るが、落としてしまう。
「優衣?」
母も魔力回復ポーションを落とした事で、私の異変に気がついた。
「あんた、顔色が悪かよ」
返事をしたいが、鼻から抜ける変な匂いに、再び吐き気が込み上げる。うぐう、本当に吐きそう。
私は並べられた魔力回復ポーションを取り、必死に飲み干す。
「ぐふう………」
むせて、半分近く噴き出す。
『ユイ、もう止めるのですッ』
『それ以上はダメよッ』
ビアンカとルージュが止めに入るが、エマちゃんの手が、手の甲まで出来ている。リーダーさんも、失っていた部分の半分弱盛り上がっている。
まだ、全然足りん、まだ、足りん、魔力が足りん。
なんで、足りんのや。
「魔力が、魔力が、足りん……………魔力が足りん……………」
痺れが、吐き気が、気持ち悪い。
「魔力、魔力を……………」
震える手で魔力回復ポーションに手を伸ばす。
「優衣、これ以上はお前の体がもたんっ」
父が声を荒げる。基本的に寡黙な父が、珍しく声を。
母が私に差し出そうとした手を引っ込めるが、私はその手の魔力回復ポーションを引ったくるように手にするが、その手を父が叩き落とす。
ガチャンッ
ポーションの瓶が、割れて中身が流れ出す。
魔力が足りん。足りん、圧倒的に足りん。
補填する手段が。
ぽん、と、肩に、父の手とは違う感触が。
『『神様、私の魔力をユイに』』
ビアンカとルージュが鼻先を、私の肩に押し付けている。
許可しよう
減り続けている魔力が、一気に戻る。魔力回復ポーションとは比べられない程の回復だ。絶える事なく、ビアンカとルージュから魔力が流れ込む。
ありがとう、ビアンカ、ルージュ。
回復した魔力を使い、神への祈りを続ける。
エマちゃんの指先、爪まで綺麗に出来上がる。顔を覆う包帯も、剥がれ落ちるが、その下の皮膚もキズ一つない。途端に一気にエマちゃんの体を巡る魔力がスムーズになる。
「エマちゃん完治ッ」
父が叫ぶ。
よしっ。
「エマッ、エマッ」
テオ君がもぞもぞと動き出したエマちゃんの包帯を取り払う。
私はリーダーさんに集中する。
う、吐きそう。お腹がぐらぐらし始める。手足の痺れがきつい。
やめる訳にはいかない。
制限時間内に、なんとなかせんと。
せっかくビアンカとルージュが魔力を供給してくれるから、なんとかせんと。
時空神様、リーダーさんのキズを治してください。
口に出したいが、吐きそうだから、心の中で祈り続ける。
今まで2人に施していたのが、1人になり、リーダーさんの腕の肉が、スピードを上げて盛り上がる。
もう少し、もう少し、もう少し、もう少し、もう少し。
顔を覆う包帯も、ハラハラと落ちる。
腕の肉が、盛り上がる。たくましい腕が、拳が、節くれだった指が。顔の包帯が落ちて、左の耳が覗く。
ああ、もう少し。
リーダーさんの体を巡る魔力が、爪先まで流れる。なんの抵抗もなく流れる。
びくり、と体格のいいリーダーさんの体が震える。
「リーダーさん完治ッ」
父が叫ぶ。
私は合わせていた手を離す。
ああ、終わった、終わった、良かった。
いかん、気持ち悪い、お腹の奥底から気持ち悪い。ダメや、意識が、もたん。
意識が。
「ユイ様、吐いてくださいッ。飲んだポーション出来るだけ吐いてくださいッ。中毒死しますよッ」
「優衣、吐くんやッ」
無理、言わんでよ、もう、痺れやなんやらで、目が開かん。
目が、開かん。
「ユイ様、失礼しますッ」
目の前が暗くなるが、私の口にごつい指が入り込み、喉を刺激。
反射的に指に噛みついたが、喉を突かれて、一気に胃の内容物が、這い上がり、口から噴き出す。
きつい、きつい、きつい、きつい、きつい。
目から鼻から、色んな液体があふれでる。きつい、苦しい。
私の口から聞くに堪えないうめき声が上がる。一度吐いたら止まらない、2度、3度と吐き出す。鼻の奥底に激痛が走る。苦しい、苦しい、苦しいッ。
チュアンさんと父が私の背中を必死にさする。
『ユイの魔力の流れがおかしいのですッ』
『不味いわッ、流れを正さないとッ。あっ、コウタッ、光属性の支援をッ、状態異常を回復させる支援をッ』
「分かった、アップ」
「我らの神よ、その身を汚す毒より、恩人をお救いください」
晃太が支援、チュアンさんも何かしてるが、私はそれどころではない。喉が苦しい、お腹が苦しい、全部苦しい。
だけど。
「ユイさんッ」
エマちゃんがテオ君と母の手を借り起き上がり、目に涙を浮かべている。リーダーさんもマデリーンさんとミゲル君に支えられて起き上がり、自分の手を見て戸惑っている。
「ユイさん?」
ああ、良かった。
私の口から再び聞くに堪えない声が出て、もう、吐くものがない。苦しい、苦しい、もう、意識手離しても、いいよね?
「あ、神様や、姉ちゃんッ、神様来たよッ」
そうなあ、もう、お礼言う、気力ないんよ。
意識が、もたん。
チュアンさんが、私を抱えて移動する。う、揺らされたら、もうきつさが、倍増する。もう、いかん……………
「無茶したな」
聞いたことのある声。黒髪褐色の肌、超絶イッケメンの時空神様だ。困ったやつだな、みたいな顔して、そして、色々汚れている私を、時空神様は腕に抱える。
相変わらず、イッケメンやなあ。
あ、お礼、言わんと。
ありがとうございます、時空神様。
声、ちゃんと出たかな?
そう思った瞬間、やっと意識を手離した。
ゲストハウスに戻り、担架を移動。付き添ってくれた赤騎士団の人が手伝ってくれた。
「ありがとうございます」
「いいえ、職務なので。何かあればお呼びください」
本当にありがたい。
赤騎士団の皆さんを見送って、ゲストハウスに戻る。
居間に寝かされたリーダーさんとエマちゃん。そして、不安そうな皆さん。元気達は近付きたそうだが、リーダーさんとエマちゃんに飛びかかると大惨事なので、元気とコハクはリードを装着したまま。ルリとクリスとヒスイは、チュアンさんに群がってる。
もっと商会で時間かかると思ったけど、まだ、日が高い。
ルームを開けよう。
「皆さん、今から私のスキルを使います。これは制約魔法でもありましたが、最も秘匿にして欲しいものです」
神妙な顔をする皆さん。
「ルーム」
唱えると、いつものドアが現れ、押し開ける。
「皆さん、これが私のスキル『ルーム』です。これはかなり特殊スキルなので、他言無用を」
ドアが出てきて、その向こうに広がる空間に、皆さん驚いている。
「まず、両親を呼びますね」
はい? みたいな顔をする。
今日は念のため、両親はパーティーハウスで待機している。
サブ・ドアを開けて、呼ぶと真っ先に花が飛び込んできた。
「クゥンクゥンクゥン」
「花ちゃん」
ぽちゃぽちゃボディのかわいか事。花は私の手をはみはみして、直ぐに開きっぱなしのルームのドアの向こうに短い足で駆けていく。
「えっ? 花ちゃん?」
マデリーンさんの驚いた声。
「クゥンクゥンクゥーン」
「ど、どこにいたの?」
「クゥンクゥンクゥーン」
花が絶好調にお腹を出して、牛蒡のような尻尾を振ってる。
「優衣、鷹の目の皆さんは?」
母が心配そうにルームに、父も続く。
「皆さんおるよ。お父さんとりあえず、ルームに運ぶの手伝って」
「ん」
ルームを経由して両親が、ゲストハウスに入る。
皆さんの顔に?がたくさん並ぶ。花はテオ君の手をはみはみしている。
「ああ、皆さん、ああ、エマちゃん、リーダーさん…………」
担架に乗せられた2人を見て、母が狼狽える。
「皆さん、ルームに入りましょう」
まず、仔達はルームの従魔の部屋に誘導し、花をダイニングキッチンのケージに。
次に担架をチュアンさん、ミゲル君、父、晃太が運ぶ。
「ゆっくり、ゆっくりね」
母が心配そうに付いていく。担架が運び込まれるのを確認。
私は母の寝室で手早く着替える。ワンピースだと、後々厄介かもしれないからね。
よし、いよいよや。
私は母の寝室を出る。
チュアンさん、マデリーンさん、ミゲル君、テオ君がルームに混乱しているのが、手に取るように分かる。
「皆さん、混乱しているのは分かりますが、今からリーダーさんとエマちゃんの治療を始めます。落ち着いてから説明しますから」
まず、ドアの確認。ルームのドア、サブ・ドアも開けたまま。もし、『神への祈り』を使った後、私はまた気絶する可能性があるから、扉を開け閉め出来なくなるから。
指には晃太から借りた消費魔力軽減の指輪がある。私には魔力回復SSSがあるので、これ以上の回復能力はない。
「優衣、なんとかなるね?」
母が心配そうに聞いてくる。
「きっと、神様が助けてくれるよ」
父は無言だが、心配が溢れている。
並べられた担架、そして、リーダーさんとエマちゃん。私は2人の前に膝をつく。
「お父さん、私の保有魔力でなんとかなる?」
「無理やな」
父はばっさり。
「やっぱりね」
シュタインさんとは比べられない魔力が必要だろう。
「晃太、ポーションば」
「ん」
「お父さん、私の魔力残留が半分になったら、肩を叩いて」
「ん」
「お母さん、剥離魔法でキズから包帯を外して」
「ん」
私は浄化魔法で消毒されたハサミを取り出す。
「ユイさんっ、何するのっ」
テオ君が悲鳴のような声を上げる。
「テオッ」
チュアンさんが鋭く叱責。私の説明不足や。いきなりハサミ出されたら、驚くわな。しかもこんな大ケガしてるから、余計ピリピリしていたんだろう。テオ君にとってはリーダーさんは叔父さん、エマちゃんは双子の妹だから。
「大丈夫よテオ君。今から回復するとね、肉が盛り上がるけん、包帯が邪魔をするんよ。やから、いくつか切り込み入れて、邪魔にならんようにするんよ」
「う。うん…………」
テオ君は私の説明に頷く。うーん、半分理解してないかも。なんとなく頷いた感じだ。
私は慎重にハサミを入れていく。腕に巻かれた包帯の隙間から、ちらほらキズが見えた。肉芽が盛り上がっている最中なんだろうが、皮膚色は悪い。顔に巻かれた包帯にも、切り込みをいれる。リーダーさんの左の耳、原型がない。
テオ君はよくわかってないだろうが、救いを求めているのは変わらない。チュアンさんも、マデリーンさんも、ミゲル君もだ。たいした説明もしていないのに、何も聞かずに見ているのは、私を信じているからだ。
なんとかせんと。
晃太が魔力回復ポーションを出す。
並べられる魔力回復ポーション。
見ながら、時空神様の言葉を思い出す。
奴隷の為に『神への祈り』を使う時、俺に祈りを。回復に必要な体力を、削らず、癒す。ただし、10分以内だ、いいな? 10分だ。魔力残留に気を付けろ、回復手段を用意しろ、どんな手段でもいい。ポーション中毒になるな。
私は息を吸う。
きっと、大丈夫。
ヒスイの腕も再生した、ビアンカとルージュのキズも治した、シュタインさんも治した。だから、エマちゃんもリーダーさんも治せる。きっと、大丈夫。
「時空神様」
正座をして、両手の手のひらを合わせる。
ああ、聞こえている
時空神様の声が響く。
「リーダーさんとエマちゃんのキズを治してください。アルブレンで最後に見た姿に、治してください」
魔力が抜けていく。
以前、シュタインさんに使ったように、リーダーさんとエマちゃんの体の中の魔力の流れが見える。全身の流れが悪い、少しずつ、少しずつ、本当に髪の毛の様な隙間に、魔力が流れていく。ゆっくり、ゆっくり。
肩を叩かれる。もう、半分?
私は片手を出すと、母が魔力回復ポーションを握らせる。そのまま飲む。う、まずう、苦い、えぐい、喉に貼り付く。でもこれでも、全快はしない、せいぜい保有魔力の3割だ。
私は時空神様に祈りを捧げ続ける。
リズムよく、肩が叩かれ、私は喉に貼り付く魔力回復ポーションを飲み続ける。
少しずつ、切り込みを入れた包帯が揺れだし、肉が盛り上がる。
効いてる。
神への祈りが効いてる。
エマちゃんの中に流れる魔力が、少しずつ勢いが増す。それに伴い、腕の肉が盛り上がり、顔に巻かれた包帯がうごめく。
「エマ、エマ…………」
テオ君が必死に声をかける。
肩を叩かれ、魔力回復ポーションを飲む。喉に貼り付く。もう、お腹の中、魔力回復ポーションで一杯寸前だ。
う、お腹、気持ち悪くなってきた。気のせいか、手足に痺れが出てきた。
『ユイ、魔力の流れがおかしいのです』
『その不味い匂いのは、もう、飲まない方がいいわ。魔力の流れが悪くなるだけよ』
見守ってくれたビアンカとルージュが心配そうに声をかけてきた。魔力を自然回復以外で回復させると、体の中を巡る魔力の流れが一時的に乱れる。1~2本の魔力回復ポーションなら大したことない乱れで、そのうち自然に元に戻る。ポーションと名の付く物は、多飲すると中毒を起こす。薬も使い方しだいで、体に毒になるように。
だけど、まだ、治療が終わらない。私は魔力回復ポーションを飲む。うぐう、吐き気出てきた。
「ユイ様、それ以上はポーション中毒になりますよ」
チュアンさんまで止めに入る。
やめる訳にはいかない。この10分以内でなんとかせんと。
震えだした手で、魔力回復ポーションを取るが、落としてしまう。
「優衣?」
母も魔力回復ポーションを落とした事で、私の異変に気がついた。
「あんた、顔色が悪かよ」
返事をしたいが、鼻から抜ける変な匂いに、再び吐き気が込み上げる。うぐう、本当に吐きそう。
私は並べられた魔力回復ポーションを取り、必死に飲み干す。
「ぐふう………」
むせて、半分近く噴き出す。
『ユイ、もう止めるのですッ』
『それ以上はダメよッ』
ビアンカとルージュが止めに入るが、エマちゃんの手が、手の甲まで出来ている。リーダーさんも、失っていた部分の半分弱盛り上がっている。
まだ、全然足りん、まだ、足りん、魔力が足りん。
なんで、足りんのや。
「魔力が、魔力が、足りん……………魔力が足りん……………」
痺れが、吐き気が、気持ち悪い。
「魔力、魔力を……………」
震える手で魔力回復ポーションに手を伸ばす。
「優衣、これ以上はお前の体がもたんっ」
父が声を荒げる。基本的に寡黙な父が、珍しく声を。
母が私に差し出そうとした手を引っ込めるが、私はその手の魔力回復ポーションを引ったくるように手にするが、その手を父が叩き落とす。
ガチャンッ
ポーションの瓶が、割れて中身が流れ出す。
魔力が足りん。足りん、圧倒的に足りん。
補填する手段が。
ぽん、と、肩に、父の手とは違う感触が。
『『神様、私の魔力をユイに』』
ビアンカとルージュが鼻先を、私の肩に押し付けている。
許可しよう
減り続けている魔力が、一気に戻る。魔力回復ポーションとは比べられない程の回復だ。絶える事なく、ビアンカとルージュから魔力が流れ込む。
ありがとう、ビアンカ、ルージュ。
回復した魔力を使い、神への祈りを続ける。
エマちゃんの指先、爪まで綺麗に出来上がる。顔を覆う包帯も、剥がれ落ちるが、その下の皮膚もキズ一つない。途端に一気にエマちゃんの体を巡る魔力がスムーズになる。
「エマちゃん完治ッ」
父が叫ぶ。
よしっ。
「エマッ、エマッ」
テオ君がもぞもぞと動き出したエマちゃんの包帯を取り払う。
私はリーダーさんに集中する。
う、吐きそう。お腹がぐらぐらし始める。手足の痺れがきつい。
やめる訳にはいかない。
制限時間内に、なんとなかせんと。
せっかくビアンカとルージュが魔力を供給してくれるから、なんとかせんと。
時空神様、リーダーさんのキズを治してください。
口に出したいが、吐きそうだから、心の中で祈り続ける。
今まで2人に施していたのが、1人になり、リーダーさんの腕の肉が、スピードを上げて盛り上がる。
もう少し、もう少し、もう少し、もう少し、もう少し。
顔を覆う包帯も、ハラハラと落ちる。
腕の肉が、盛り上がる。たくましい腕が、拳が、節くれだった指が。顔の包帯が落ちて、左の耳が覗く。
ああ、もう少し。
リーダーさんの体を巡る魔力が、爪先まで流れる。なんの抵抗もなく流れる。
びくり、と体格のいいリーダーさんの体が震える。
「リーダーさん完治ッ」
父が叫ぶ。
私は合わせていた手を離す。
ああ、終わった、終わった、良かった。
いかん、気持ち悪い、お腹の奥底から気持ち悪い。ダメや、意識が、もたん。
意識が。
「ユイ様、吐いてくださいッ。飲んだポーション出来るだけ吐いてくださいッ。中毒死しますよッ」
「優衣、吐くんやッ」
無理、言わんでよ、もう、痺れやなんやらで、目が開かん。
目が、開かん。
「ユイ様、失礼しますッ」
目の前が暗くなるが、私の口にごつい指が入り込み、喉を刺激。
反射的に指に噛みついたが、喉を突かれて、一気に胃の内容物が、這い上がり、口から噴き出す。
きつい、きつい、きつい、きつい、きつい。
目から鼻から、色んな液体があふれでる。きつい、苦しい。
私の口から聞くに堪えないうめき声が上がる。一度吐いたら止まらない、2度、3度と吐き出す。鼻の奥底に激痛が走る。苦しい、苦しい、苦しいッ。
チュアンさんと父が私の背中を必死にさする。
『ユイの魔力の流れがおかしいのですッ』
『不味いわッ、流れを正さないとッ。あっ、コウタッ、光属性の支援をッ、状態異常を回復させる支援をッ』
「分かった、アップ」
「我らの神よ、その身を汚す毒より、恩人をお救いください」
晃太が支援、チュアンさんも何かしてるが、私はそれどころではない。喉が苦しい、お腹が苦しい、全部苦しい。
だけど。
「ユイさんッ」
エマちゃんがテオ君と母の手を借り起き上がり、目に涙を浮かべている。リーダーさんもマデリーンさんとミゲル君に支えられて起き上がり、自分の手を見て戸惑っている。
「ユイさん?」
ああ、良かった。
私の口から再び聞くに堪えない声が出て、もう、吐くものがない。苦しい、苦しい、もう、意識手離しても、いいよね?
「あ、神様や、姉ちゃんッ、神様来たよッ」
そうなあ、もう、お礼言う、気力ないんよ。
意識が、もたん。
チュアンさんが、私を抱えて移動する。う、揺らされたら、もうきつさが、倍増する。もう、いかん……………
「無茶したな」
聞いたことのある声。黒髪褐色の肌、超絶イッケメンの時空神様だ。困ったやつだな、みたいな顔して、そして、色々汚れている私を、時空神様は腕に抱える。
相変わらず、イッケメンやなあ。
あ、お礼、言わんと。
ありがとうございます、時空神様。
声、ちゃんと出たかな?
そう思った瞬間、やっと意識を手離した。
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放浪人政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
聖女って無給で無休なんですか?じゃあやらないです
こじまき異世界に聖女として召喚されたイラストレーターのチヒロ。しかし聖女には給料も休みもないことを知って「じゃあやらないです」と聖女就任を断る。
「国と人を救う崇高な仕事には、私どもからの感謝を捧げよう」
「心底いらないです」
異世界でまで、やりがい搾取されてたまるかよ。
※小説家になろうにも投稿しています
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまうリリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、悪役令嬢として断罪された少女が、「誰かの物語の脇役」ではなく、自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
五年も笑わなかった辺境伯の娘が、追放された保育係の令嬢の前で初めて笑った
歩人(あゆと)侯爵令嬢クラリスは、五年間、兄夫婦の公爵家で三人の御子の保育を任されてきた。表向きは「下女扱い」だったが、彼女の保育記録には毎日の歌・手作りの絵札・夜泣きの記録が綿密に綴られていた。「育児など侍女の手伝い。本物の貴族のすることではないわ」兄嫁の侮辱に、クラリスは保育記録帳を置いて去る。訪ねた先は、妻を亡くした辺境伯ロタールの屋敷だった。彼の娘リーリャは六歳、母を亡くして以来、誰の前でも笑わなかった。「五年、御子さま方を見続けたあなたなら、リーリャの心も読めるだろうか」ロタールの不器用な依頼に、クラリスは静かに頷く。春が来る頃、リーリャは初めて声を上げて笑った。クラリスの隣で、ロタールも気づくと微笑んでいた——五年ぶりに。
【完結済】ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家華麗に亡命する
satomi醜く自らに魔法をかけてケルリール王国王太子と婚約をしていた侯爵家令嬢のアメリア=キートウェル。フェルナン=ケルリール王太子から醜いという理由で婚約破棄を言い渡されました。
もう王太子は能無しですし、ケルリール王国から一家で亡命してしまう事にしちゃいます!
【完結】妹は庶子、文句があるか? 常識なんてぶっ飛ばせ!
青空一夏(ざまぁ×癒し×溺愛)
庶子として公爵家に引き取られたアメリアは、
王立学園で冷たい視線に晒されながらも、ほんの少しの希望を胸に通っていた。
――だが、彼女はまだ知らなかった。
「庶子」の立場が、どれほど理不尽な扱いを受けるものかを。
心が折れかけたそのとき。
彼女を迎えに現れたのは、兄――オルディアーク公爵、レオニルだった。
「大丈夫。……次は、俺が一緒に通うから」
妹を守るためなら、学園にだって入る!
冷酷なはずの公爵閣下は、妹にだけとことん甘くて最強です。
※兄が妹を溺愛するお話しです。
※ざまぁはありますが、それがメインではありません。
※某サイトコンテスト用なので、いつもと少し雰囲気が違いますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。