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連載
その頃②
シュタインは久しぶりに実家と呼べる食堂に向かった。シュタインの母親は夫を早くに亡くして、この食堂で住み込みをしながら、女手1つで息子を育て上げた。その食堂を経営している夫婦は、シュタインを可愛がってくれた。母親が病で亡くなった後の今でも、たまに時間があれば顔を出していた。
ユイ達が首都に向かった為、ロッシュは数日間の休みを設けた。休み明けに再び冷蔵庫ダンジョンに潜ることにした。
その前に、シュタインは顔を出した。あの熊騒動がなければもっと早くに顔を出す予定にしていたが、のびのびになってしまっていた。
「ラクロおじさん、ジュナおばさん、ただいま」
久しぶりの食堂は、何も変わらない。ちょうど昼の忙しい時間をずらして来て良かった。客はまばらに残っているが、皆、男性客だ。
「まあ、シュタインッ。あんた、シュタインだよ。もう、熊に襲われたって聞いたのに、すぐにダンジョンに行ってるなんて、無理してもう」
中から中高年の女性が飛び出して、シュタインの手を取る。水仕事で荒れた手で、心配そうにシュタインの手を包む。
「ごめん心配かけて、でも大丈夫だから」
そこに中のキッチンから、つるっ、とした頭の中高年男性が出てくる。
「シュタイン、ケガはいいのか? ひどいケガをしたと聞いたが、すぐに治療院から出たって聞いたぞ」
「大丈夫だよ、おじさん。もうケガはないから」
「本当かあ?」
「本当だって」
「ほら、あんた、それは後、後。せっかくシュタインが来たんだから。お昼まだでしょう? ランチまだあるから食べてって」
「おう、シュタイン、ちょっと待ってろ」
「さあ、座ってちょうだい」
ジュナはシュタインを椅子に座らせる。それから別のテーブルの皿を片付ける。
「おばさん、俺、後で皿洗うから」
そう言いながら、視線を感じて振り返る。まばらに残る客は、すっと視線を逸らす。
気のせいか?
そこに長身の男性客が入って来た。シュタインの顔見知りだ。
「リーダー」
「よおシュタイン、久しぶりだな」
ここで言うリーダーは、ロッシュではない。シュタインが新人時代に世話になったパーティーリーダーだ。今は引退し、ギルドで依頼を出す時の相談窓口に座り、経験を生かしてアドバイザーやトラブル時の対応等をしている。
「同席してもいいか?」
「はい」
「ありがとう。おかみさん、ランチ残ってますか?」
「いらっしゃいトーヤさん。ランチね、はい、ありますよ。あんた、ランチ追加」
「はいよっ」
シュタインの前に座る、元リーダー。
「で、ケガはいいのか?」
「そればっかり聞かれますが大丈夫ですよ。もう、戦闘だって出来ますし」
「あれだけの大ケガしたのに、な」
「ユイさんが助けてくれただけですよ」
肩をすくめるシュタイン。
「なあ、シュタイン、実はな」
何やら言いにくそうに話を切り出す元リーダー、トーヤ。
切り出そうとした時に、近くのテーブルで突っ伏していた赤ら顔の中年男が顔を上げた。
「ひっ、ひっく、よお、色男さんよお、ひっく、お前さん、あの化け物みたいなやつの主人と、ひっく、よろしくやってるんだってなあ」
すう、と食堂内の空気が凍り付く。
「ひっ、ひっく、で、どうなんだぁ? 顔はパッとしないが、肉付きよさそうだもんなぁ、特に腰周りが、ひっく、やっぱり、化け物みないにおさかん、ぐええぇッ」
大きな音がなる。
シュタインが赤ら顔の中年男に、無表情で飛びかかり、椅子から引きずり下ろし、馬乗りになり襟首を容赦なく締め上げる。
「おい、もっぺん言ってみろ。顔面燃やしてやる」
シュタインの顔に浮かび上がるのは激しい怒り。ギリギリと襟首を締め上げる。赤ら顔の中年男は、ぐええぇと潰れた声をあげる。
「およし、シュタインッ」
「おばさんは黙っててッ。こいつはユイさんを侮辱した。ビアンカさんとルージュさんを侮辱した。ドラゴンからマーファを守ってくれたのにッ。おい、何て言った? もういっぺん言ってみやがれッ」
怒号が響き、残っていた客が立ち上がりざわめく。
シュタインのあまりの怒りように、ジュナが戸惑い、青ざめて立ち竦む。
「よせ、シュタイン」
トーヤが冷静にシュタインの首に腕を回して、赤ら顔の中年男から引き離す。
「離せッ、リーダーッ」
「落ち着けシュタイン。あ、すみません、こいつをそこの壁際の椅子に座らせてください」
トーヤは暴れるシュタインを抱えて後退しながら、立ち上がっていた客の1人に声をかける。客は言われるがまま、咳き込む赤ら顔の中年男を壁際の椅子に座らせる。
「おかみさん、鍋一杯の水を」
「あ、はい」
ジュナは慌ててキッチンに走る。
暴れるシュタインを抱えながらトーヤは冷静に指示を出す。それを見て、腰が引けていた客達も落ち着きを取り戻していた。
足をばたつかせるシュタインの服が捲れる。
左脇腹に大きく残る傷痕に、見た全員が絶句する。
冷蔵庫ダンジョンから溢れ落ちた魔物による重症者に、シュタインの名前が上がった。だが、数日後にはぴんぴんして治療院から退院したので、大したケガではなかったと、勝手に誰もが思った。
引き締まった腹に残る、大きな傷痕。
あれは、本当だったんだ。
「シュタイン、座れ、とにかく座れ」
肩で息をするシュタインを、無理やり座らせるトーヤ。
「いいな、ちょっと待て、いいな」
トーヤは繰り返す。更に近くのガタイのいい客にシュタインを任す。
「おかみさん、あいつを知っていますか?」
次にキッチンで水を準備していたジュナに声を掛ける。
「確か、コーノ工房の職人だったはず」
「誰か、工房主を呼んできてもらえますか? こんな酔っ払いを1人では返せませんから」
じゃあ、俺が、と、客の1人が呼びに走る。
誰もがおとなしく指示に従うのは、トーヤがギルドの制服を身に纏っているからだ。
「ふ、ふざけるなッ、こいつ、こいつ、つかまへろっ」
赤ら顔の中年男がかみながら吼える。
「ずいぶん酔ってるな」
トーヤは冷静に一瞥。
「さて、皆さん。お騒がせしました。今日は俺が奢ります」
一息つく、トーヤ。
「皆さん、ギルドに所属していますよね? 確証もない噂は耳にしてもよく考えるように。ああ、今から起こることは他言無用で。見たい方は自己責任で」
そこに鍋一杯に水を入れて、ジュナがキッチンから出てくる。ラクロはまだ怒りの表情のシュタインに貼り付く。客は先ほどの騒ぎで恐怖を感じていたが、今は興味津々だ。誰も帰らない。
「さて、頭を冷やす必要があるな」
鍋を両手で持つトーヤ。視線の先には椅子に座らせたシュタイン。
「ま、待ってくれトーヤさんっ。シュタインは、命の恩人が悪く言われたのに腹を立てただけなんだっ」
ラクロがシュタインの前に立って必死にいい募る。その姿にシュタインの顔から怒りが消えて、冷静さを取り戻し始める。
「親父さん、分かってますよ。頭を冷やすのはこっちだ。おかみさん、床を濡らします。後で掃除しますから」
トーヤは鍋を抱えて振り抜く。
バッシャァァァァァッ
水は未だに喚く赤ら顔の中年男の顔面に。
「ッ、ッ、ッ……………な、何、しやがるッ」
水をかけられ、一瞬止まった赤ら顔の中年男は、吼える。
「何を、だと?」
トーヤは空になった鍋をジュナに戻し、声のトーンを落として、赤ら顔の中年男に近付く。そして、ごついブーツを履いた片足を上げた。
ガツンッ
靴底が、左耳を掠めて、壁にめり込むような勢いで着く。
「てめえ、自分が何を言ってんのか、分かっているんだろうな?」
先ほどまで冷静だったトーヤの顔に凄みが浮かぶ。
威勢の良かった赤ら顔の中年男が、ひきつっていく。
元々トーヤはギルドで依頼のトラブル対応している。そんな中で荒くれ連中の対応は日常茶飯事だ。中にはこの赤ら顔の中年男のように酔っ払って、いちゃもん付けてくる者もいる。完全に言い掛かりな事もある。理詰めで撃退出来ずに、どうしても力や威圧が必要な時に、元Bランク冒険者であるトーヤが対応している。
「てめえも工房所属なら分かっているよな? 今の好景気が誰のお陰か?」
次は拳を見せつけるように握り締める。
「おい、その話、どこで聞いた? ああ、どこで聞いた?」
赤ら顔の中年男は、あまりの迫力に、口が開いたままだ。
「どこで聞いたッ」
トーヤが声量をあげる。
「ひぃっ、さ、酒場だ、酒場…………西通りのキャツナの店………」
「誰がッ」
「ひぃ、ひぃっ。た、確か、女だ、女だ」
「どんな女だッ」
「わ、若い………4人くらいで、た、確か、皆、女で」
赤ら顔の中年男は必死に記憶を手繰りよせる。
話はこうだ。
酒場でいつものように酒を引っかけていたら、ざわめきの中から聞こえてきた。
ねえ、聞いたあ?
聞いた聞いた、あの、テイマーでしょう。嫌ね、あっちこっちの冒険者や職人に手を出してるって。
可哀想に、それで捨てられた女の子もいるんですって。
嫌ね、ちょっと派手な従魔がいるからって、威張り散らして、やな奴ね。
ギルドもあんな従魔がいるから仕方ないじゃない? 気の毒~。
ねえねえ、知ってる? パーティーハウスだって、脅して借り続けているんだって。
そうなの? そうよね、別の街に行ってるのに、借りていたしね。脅さないと借りれないわよね。
大した顔でもないのに。いろんな人に、あんな従魔いるからって関係迫っているんだってえ。
本当にやな奴よね、女として最低~。
誰が関係迫られてるの?
ダンジョンに一緒に行ってる人はもれなくそうだってえ。後は、出入りしている仕立屋の若い職人だってえ。
「ほうぅ。どんな女だった?」
話を聞いて、目を細めるトーヤ。
「確か、確か、確か、あっ」
トーヤの迫力に押されながら、赤ら顔の中年男が思い出したように叫んだ。
ユイ達が首都に向かった為、ロッシュは数日間の休みを設けた。休み明けに再び冷蔵庫ダンジョンに潜ることにした。
その前に、シュタインは顔を出した。あの熊騒動がなければもっと早くに顔を出す予定にしていたが、のびのびになってしまっていた。
「ラクロおじさん、ジュナおばさん、ただいま」
久しぶりの食堂は、何も変わらない。ちょうど昼の忙しい時間をずらして来て良かった。客はまばらに残っているが、皆、男性客だ。
「まあ、シュタインッ。あんた、シュタインだよ。もう、熊に襲われたって聞いたのに、すぐにダンジョンに行ってるなんて、無理してもう」
中から中高年の女性が飛び出して、シュタインの手を取る。水仕事で荒れた手で、心配そうにシュタインの手を包む。
「ごめん心配かけて、でも大丈夫だから」
そこに中のキッチンから、つるっ、とした頭の中高年男性が出てくる。
「シュタイン、ケガはいいのか? ひどいケガをしたと聞いたが、すぐに治療院から出たって聞いたぞ」
「大丈夫だよ、おじさん。もうケガはないから」
「本当かあ?」
「本当だって」
「ほら、あんた、それは後、後。せっかくシュタインが来たんだから。お昼まだでしょう? ランチまだあるから食べてって」
「おう、シュタイン、ちょっと待ってろ」
「さあ、座ってちょうだい」
ジュナはシュタインを椅子に座らせる。それから別のテーブルの皿を片付ける。
「おばさん、俺、後で皿洗うから」
そう言いながら、視線を感じて振り返る。まばらに残る客は、すっと視線を逸らす。
気のせいか?
そこに長身の男性客が入って来た。シュタインの顔見知りだ。
「リーダー」
「よおシュタイン、久しぶりだな」
ここで言うリーダーは、ロッシュではない。シュタインが新人時代に世話になったパーティーリーダーだ。今は引退し、ギルドで依頼を出す時の相談窓口に座り、経験を生かしてアドバイザーやトラブル時の対応等をしている。
「同席してもいいか?」
「はい」
「ありがとう。おかみさん、ランチ残ってますか?」
「いらっしゃいトーヤさん。ランチね、はい、ありますよ。あんた、ランチ追加」
「はいよっ」
シュタインの前に座る、元リーダー。
「で、ケガはいいのか?」
「そればっかり聞かれますが大丈夫ですよ。もう、戦闘だって出来ますし」
「あれだけの大ケガしたのに、な」
「ユイさんが助けてくれただけですよ」
肩をすくめるシュタイン。
「なあ、シュタイン、実はな」
何やら言いにくそうに話を切り出す元リーダー、トーヤ。
切り出そうとした時に、近くのテーブルで突っ伏していた赤ら顔の中年男が顔を上げた。
「ひっ、ひっく、よお、色男さんよお、ひっく、お前さん、あの化け物みたいなやつの主人と、ひっく、よろしくやってるんだってなあ」
すう、と食堂内の空気が凍り付く。
「ひっ、ひっく、で、どうなんだぁ? 顔はパッとしないが、肉付きよさそうだもんなぁ、特に腰周りが、ひっく、やっぱり、化け物みないにおさかん、ぐええぇッ」
大きな音がなる。
シュタインが赤ら顔の中年男に、無表情で飛びかかり、椅子から引きずり下ろし、馬乗りになり襟首を容赦なく締め上げる。
「おい、もっぺん言ってみろ。顔面燃やしてやる」
シュタインの顔に浮かび上がるのは激しい怒り。ギリギリと襟首を締め上げる。赤ら顔の中年男は、ぐええぇと潰れた声をあげる。
「およし、シュタインッ」
「おばさんは黙っててッ。こいつはユイさんを侮辱した。ビアンカさんとルージュさんを侮辱した。ドラゴンからマーファを守ってくれたのにッ。おい、何て言った? もういっぺん言ってみやがれッ」
怒号が響き、残っていた客が立ち上がりざわめく。
シュタインのあまりの怒りように、ジュナが戸惑い、青ざめて立ち竦む。
「よせ、シュタイン」
トーヤが冷静にシュタインの首に腕を回して、赤ら顔の中年男から引き離す。
「離せッ、リーダーッ」
「落ち着けシュタイン。あ、すみません、こいつをそこの壁際の椅子に座らせてください」
トーヤは暴れるシュタインを抱えて後退しながら、立ち上がっていた客の1人に声をかける。客は言われるがまま、咳き込む赤ら顔の中年男を壁際の椅子に座らせる。
「おかみさん、鍋一杯の水を」
「あ、はい」
ジュナは慌ててキッチンに走る。
暴れるシュタインを抱えながらトーヤは冷静に指示を出す。それを見て、腰が引けていた客達も落ち着きを取り戻していた。
足をばたつかせるシュタインの服が捲れる。
左脇腹に大きく残る傷痕に、見た全員が絶句する。
冷蔵庫ダンジョンから溢れ落ちた魔物による重症者に、シュタインの名前が上がった。だが、数日後にはぴんぴんして治療院から退院したので、大したケガではなかったと、勝手に誰もが思った。
引き締まった腹に残る、大きな傷痕。
あれは、本当だったんだ。
「シュタイン、座れ、とにかく座れ」
肩で息をするシュタインを、無理やり座らせるトーヤ。
「いいな、ちょっと待て、いいな」
トーヤは繰り返す。更に近くのガタイのいい客にシュタインを任す。
「おかみさん、あいつを知っていますか?」
次にキッチンで水を準備していたジュナに声を掛ける。
「確か、コーノ工房の職人だったはず」
「誰か、工房主を呼んできてもらえますか? こんな酔っ払いを1人では返せませんから」
じゃあ、俺が、と、客の1人が呼びに走る。
誰もがおとなしく指示に従うのは、トーヤがギルドの制服を身に纏っているからだ。
「ふ、ふざけるなッ、こいつ、こいつ、つかまへろっ」
赤ら顔の中年男がかみながら吼える。
「ずいぶん酔ってるな」
トーヤは冷静に一瞥。
「さて、皆さん。お騒がせしました。今日は俺が奢ります」
一息つく、トーヤ。
「皆さん、ギルドに所属していますよね? 確証もない噂は耳にしてもよく考えるように。ああ、今から起こることは他言無用で。見たい方は自己責任で」
そこに鍋一杯に水を入れて、ジュナがキッチンから出てくる。ラクロはまだ怒りの表情のシュタインに貼り付く。客は先ほどの騒ぎで恐怖を感じていたが、今は興味津々だ。誰も帰らない。
「さて、頭を冷やす必要があるな」
鍋を両手で持つトーヤ。視線の先には椅子に座らせたシュタイン。
「ま、待ってくれトーヤさんっ。シュタインは、命の恩人が悪く言われたのに腹を立てただけなんだっ」
ラクロがシュタインの前に立って必死にいい募る。その姿にシュタインの顔から怒りが消えて、冷静さを取り戻し始める。
「親父さん、分かってますよ。頭を冷やすのはこっちだ。おかみさん、床を濡らします。後で掃除しますから」
トーヤは鍋を抱えて振り抜く。
バッシャァァァァァッ
水は未だに喚く赤ら顔の中年男の顔面に。
「ッ、ッ、ッ……………な、何、しやがるッ」
水をかけられ、一瞬止まった赤ら顔の中年男は、吼える。
「何を、だと?」
トーヤは空になった鍋をジュナに戻し、声のトーンを落として、赤ら顔の中年男に近付く。そして、ごついブーツを履いた片足を上げた。
ガツンッ
靴底が、左耳を掠めて、壁にめり込むような勢いで着く。
「てめえ、自分が何を言ってんのか、分かっているんだろうな?」
先ほどまで冷静だったトーヤの顔に凄みが浮かぶ。
威勢の良かった赤ら顔の中年男が、ひきつっていく。
元々トーヤはギルドで依頼のトラブル対応している。そんな中で荒くれ連中の対応は日常茶飯事だ。中にはこの赤ら顔の中年男のように酔っ払って、いちゃもん付けてくる者もいる。完全に言い掛かりな事もある。理詰めで撃退出来ずに、どうしても力や威圧が必要な時に、元Bランク冒険者であるトーヤが対応している。
「てめえも工房所属なら分かっているよな? 今の好景気が誰のお陰か?」
次は拳を見せつけるように握り締める。
「おい、その話、どこで聞いた? ああ、どこで聞いた?」
赤ら顔の中年男は、あまりの迫力に、口が開いたままだ。
「どこで聞いたッ」
トーヤが声量をあげる。
「ひぃっ、さ、酒場だ、酒場…………西通りのキャツナの店………」
「誰がッ」
「ひぃ、ひぃっ。た、確か、女だ、女だ」
「どんな女だッ」
「わ、若い………4人くらいで、た、確か、皆、女で」
赤ら顔の中年男は必死に記憶を手繰りよせる。
話はこうだ。
酒場でいつものように酒を引っかけていたら、ざわめきの中から聞こえてきた。
ねえ、聞いたあ?
聞いた聞いた、あの、テイマーでしょう。嫌ね、あっちこっちの冒険者や職人に手を出してるって。
可哀想に、それで捨てられた女の子もいるんですって。
嫌ね、ちょっと派手な従魔がいるからって、威張り散らして、やな奴ね。
ギルドもあんな従魔がいるから仕方ないじゃない? 気の毒~。
ねえねえ、知ってる? パーティーハウスだって、脅して借り続けているんだって。
そうなの? そうよね、別の街に行ってるのに、借りていたしね。脅さないと借りれないわよね。
大した顔でもないのに。いろんな人に、あんな従魔いるからって関係迫っているんだってえ。
本当にやな奴よね、女として最低~。
誰が関係迫られてるの?
ダンジョンに一緒に行ってる人はもれなくそうだってえ。後は、出入りしている仕立屋の若い職人だってえ。
「ほうぅ。どんな女だった?」
話を聞いて、目を細めるトーヤ。
「確か、確か、確か、あっ」
トーヤの迫力に押されながら、赤ら顔の中年男が思い出したように叫んだ。
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