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道のり⑦
人により、考え方が異なるような思える様な表現あります、ご注意ください。
ホークさんは黙ったまま首を横に振る。
「出産も子育てもしたことがない、私が言う資格はないですが、ミノラさんは相当追い詰められていたんじゃないです? ホークさんがいた2ヶ月は、ホークさんが助けになっていて、随分頼りにしていたと思います。聞いた感じ、ミノラさんは相談できるような友達もいなかったようですし」
無言のまま頷くホークさん。
「子育てって、戦争なんですよ。赤ちゃんの頃はベッドで動かないけど、成長しますからね。気がついたら首が座り、ハイハイして、掴まり立ち。目が離せなくなります。なんでも口にするし、自我が芽生え、イヤイヤ期、しかも双子、初めての子育て、全てが初めて、ミノラさんは混乱し、考えが纏まらず、追い付かなかったのではないですか?」
私はふう、と、息をつく。
「お兄さんのお家って、魔道具が揃ってましたか?」
「いえ、水も井戸に汲みに行ってました」
「家事も相当な負担だと思いません? このルームみたいに蛇口捻れば水がでる。スイッチ入れたら光が灯る。洗濯機やガスコンロ、冷蔵庫やトースター、掃除機ありました?」
現代日本でも、ワンオペとか聞く。ミノラさんは日本で当たり前にある家電すらない状況で、エマちゃんとテオ君を育てていた。改めて思うと、すごくない?
「何も、ありません」
視線を落としてホークさんは答える。
「エマちゃんだって、テオ君だって成長するんです。じっとしてるわけないでしょう? 人見知りしなければ、ぱーっとどっかに行くし、ものは引っ張り回すし、泣くし、自分の嫌な事や通らない事は泣くし、断乳や離乳食がうまく行くとは限りませんし」
私と晃太が、正にぱーっとどこかに行くタイプで、スーパーで振り返ったらいないなんてよくあったと。断乳は困らなかったけどと、母がしみじみ言ってた。
「そこに旦那さんが帰って来ない。双子の育児、家事、少なくなる貯金。ミノラさんは待った、半年間、旦那さんを待った、一番手のかかる時期のエマちゃんとテオ君を抱えて、誰にも頼れず、打ち明けられず、待った。待って、待って、待って」
私は息をつく。
「ミノラさんの中で、何か壊れたのでは? 金目のものがないって、言っていましたが、元々なかったんじゃないです? 生活の為に売れるものは全て売ったんじゃないですか? それが底をついて、どうしていいか分からず、ミノラさんは飛び出した。鍵や閂はお母さんなら注意しますよ。ドアが開いてたら、何処に行くか分からないし、窓が開いていたら、見ていない時によじ登って落ちる可能性もありますし」
此方には、転落・侵入防止グッズなんて見たことない。ミノラさんは反射的にいつもしている事をして、飛び出したんじゃないかな。
「確かに、ミノラさんはエマちゃんとテオ君を置き去りにした。それは変わらない事実です。迎えに来なかった、それも事実で許される事ではありません。だけど、ミノラさんは精一杯の愛情をエマちゃんとテオ君に注いでいたはずです。だって2人を見てるとそう感じますもん。ホークさんのお兄さんが愛した人です、陣痛という壮絶な苦しみを乗り越えて、ホークさんの宝物である、エマちゃんとテオ君を生んでくれた人ですよ」
私の独りよがりの考えをホークさんは黙って聞いてくれた。
「確かに、ユイさんの言う通りです」
ため息を吐き出すホークさん。
「俺も薄々分かっていたんです。そうじゃないかって、ミノラはあんなに苦しい思いをしてエマとテオを産んだ。体調が悪くても、必死に2人の世話をしていました。だから、まさか置き去りにしたとは、始めは信じられなくて………………」
ホークさんは両手で顔を覆う。
「孤児院の人にも、リーダーにも言われました。もしかしたら、ミノラは飛び出した後に、何かの事件に巻き込まれてしまって、姿を出せないのでは、と? そうでなくても、置き去りにした事実から逃げて、自分では育てられないから逃げ続けているかのどちらかではないかと」
ホークさんは続ける。私は、ただ、聞くだけ。
「ミノラがそこに至るまでの経過なんて知ろうとしなかった、考えなかった。ただ、エマとテオを閉じ込めたという事実が、俺の目をそっちに向けなかった」
「でも、薄々、分かっていたんじゃないです?」
「はい」
ホークさんは両手を顔から外して、空を見上げる。
「俺はミノラが許せません。これは変わらない。変わらないけど、感謝はします」
私に視線を向ける、いつものホークさん。
「兄を愛して、待っていた事を。エマとテオを、産んで、俺に残してくれた事を」
そう言って少しだけすっきりした笑顔を浮かべるホークさん。
「ユイさん、ありがとうございます」
「いいえ、私は勝手に想像したことを話しただけです」
「きっと的を射てますよ」
良かった、いつものホークさんや。
「話に付き合ってもらってありがとうございます。すっきりしました」
「お役にたてたなら、良かったです」
たまには、役に立ちたかもんね。
じゃあ、そろそろ休みましょうと言う話になる。そこでちょっと気になる事を聞いてみた。テオ君はホークさんに目元がよく似ているが、エマちゃんはやっぱり母親似なのかなって。だけど、ホークさんは否定する。
「エマは俺達の母親、つまり祖母似なんです。ミノラと同じなのは髪の毛くらいですよ。本人達も、もうミノラの事は気にもしてませんから」
「え? なんで?」
気にならない? 自分を産んだ人。
「そりゃ、ユイさんがいますから」
「………………そうですか」
嬉しいのか悲しいのか。だって、私を母親のように慕ってくれてるってことやけど、せめて、お姉さん的な位置が。よく、マルシェで買い物してたら、勘違いされるんだよね。もう、慣れたけど。始めはこんな大きな子供がいるって思われて、ショックだったけど、エマちゃんとテオ君は素直でいい子やしね。ま、よかか、と思い至るのに時間はかからなかった。
「あの、ユイさん」
「あ、はい」
「今話した事は、2人に内緒にして貰えませんか? いつか、エマとテオが知りたいと思って聞いた時に話してやりたいので」
「それは、もちろん」
しーっ、て事ね。
元々私が口だしちゃいけないことやし。
私は約束して、自室に引っ込み休んだ。
で、次の日。
私はいつものように餃子の具。しっかり皮のホークさんに包まれる。
『準備はいいのですか?』
『行くわよ』
「ホークさん、お願いします」
「はい、お任せください」
「ブヒヒヒンッ」
ノワールは絶好調だ。ビアンカが風の結界を張り、母が遮断の魔法をかけてくれる。
ホークさんが手綱を操り、いざ、出発。
リアルロッククライミングが傾斜が緩く、随分いい感じなので、私も目を開けていられる。う、でも風が強か。
昼過ぎになって、やっと岩山の山場に到着。
『着いたのです』
『そろそろ休みましょう』
「はいはい。ホークさん、休みましょう」
「はい」
ノワールが器用に岩肌を闊歩して、平たい場所で止まる。
いつものように私はホークさんの首に手を回す。
身軽にホークさんは飛び降りる。
無事に着地すると、びゅうっ、と風が吹く。
ひーっ。マントがバタバタ言うーっ。ひーっ。
立ってるのが、やっとやーっ。ぐらつく足元、しっかりホークさんが肩をホールドしてくれる。
『ふんっ』
ビアンカの鼻息炸裂。
風が一気に弱まる。
『ユイ、一時的に風の結界を強めたのです』
「あ、ありがとうビアンカ。ルームに入ろうかね」
私はルームを開け、ホークさんに支えられながら、ぞろぞろと避難する。
「はあー」
息を整える。
風は突風だったのか直ぐに止んだ。
マントに包まったままだったので、まず脱いでゴーグル外して、はあ、すっきり。ゴーグルを元気が狙うので、直ぐにアイテムボックスに入れる。
『後、一息なのですよ』
『そうね、ユイ、もうじき魔境に入るわ』
「分かった」
その前に一休み。
ノワールにケガがないか、ホークさんがチェック。
ここまで来るのに、2ヶ月かあ。本当にノワールとホークさんに感謝や。
「姉ちゃん、大丈夫な?」
「うん。乗っとるだけやしね」
晃太も心配してくれるが、私は餃子の具に徹しているだけだからね。
ルームの窓の向こう、岩山を抜けた先、緑の絨毯が変わらず広がる。だけど、少しだけ、緑が濃い気がする。
実感は沸かないが、あそこの何処かがビアンカとルージュが生まれ育った場所があり、『彼女さん』がいる。
上手く、会えたらいいけど。
もし、ダメなら来年仕切り直しだ。
「ユイさん、どうしたの?」
お茶を持ってきてくれたエマちゃんが心配そうに聞いてきた。
「うん、上手く『彼女さん』に会えたらよかね、って思ってね。いつも同じ場所にいるわけやないらしいけん」
「もし、会えなかったら、来年もだもんね」
「そうやね。出来れば、それは避けたいけど」
また来るの大変やし。ああ、ルームのサブ・ドアがもう一個あったらなあ。贅沢な悩み。
「ま、なるようになるかな。神様にお祈りしようかね」
「あ、私もお祈りするっ」
私とエマちゃんがお祈り。振り返ったら晃太も他の鷹の目の皆さんもお祈りしていた。
どうか、上手くいきますように。
私はもう一度お祈りした。
ホークさんは黙ったまま首を横に振る。
「出産も子育てもしたことがない、私が言う資格はないですが、ミノラさんは相当追い詰められていたんじゃないです? ホークさんがいた2ヶ月は、ホークさんが助けになっていて、随分頼りにしていたと思います。聞いた感じ、ミノラさんは相談できるような友達もいなかったようですし」
無言のまま頷くホークさん。
「子育てって、戦争なんですよ。赤ちゃんの頃はベッドで動かないけど、成長しますからね。気がついたら首が座り、ハイハイして、掴まり立ち。目が離せなくなります。なんでも口にするし、自我が芽生え、イヤイヤ期、しかも双子、初めての子育て、全てが初めて、ミノラさんは混乱し、考えが纏まらず、追い付かなかったのではないですか?」
私はふう、と、息をつく。
「お兄さんのお家って、魔道具が揃ってましたか?」
「いえ、水も井戸に汲みに行ってました」
「家事も相当な負担だと思いません? このルームみたいに蛇口捻れば水がでる。スイッチ入れたら光が灯る。洗濯機やガスコンロ、冷蔵庫やトースター、掃除機ありました?」
現代日本でも、ワンオペとか聞く。ミノラさんは日本で当たり前にある家電すらない状況で、エマちゃんとテオ君を育てていた。改めて思うと、すごくない?
「何も、ありません」
視線を落としてホークさんは答える。
「エマちゃんだって、テオ君だって成長するんです。じっとしてるわけないでしょう? 人見知りしなければ、ぱーっとどっかに行くし、ものは引っ張り回すし、泣くし、自分の嫌な事や通らない事は泣くし、断乳や離乳食がうまく行くとは限りませんし」
私と晃太が、正にぱーっとどこかに行くタイプで、スーパーで振り返ったらいないなんてよくあったと。断乳は困らなかったけどと、母がしみじみ言ってた。
「そこに旦那さんが帰って来ない。双子の育児、家事、少なくなる貯金。ミノラさんは待った、半年間、旦那さんを待った、一番手のかかる時期のエマちゃんとテオ君を抱えて、誰にも頼れず、打ち明けられず、待った。待って、待って、待って」
私は息をつく。
「ミノラさんの中で、何か壊れたのでは? 金目のものがないって、言っていましたが、元々なかったんじゃないです? 生活の為に売れるものは全て売ったんじゃないですか? それが底をついて、どうしていいか分からず、ミノラさんは飛び出した。鍵や閂はお母さんなら注意しますよ。ドアが開いてたら、何処に行くか分からないし、窓が開いていたら、見ていない時によじ登って落ちる可能性もありますし」
此方には、転落・侵入防止グッズなんて見たことない。ミノラさんは反射的にいつもしている事をして、飛び出したんじゃないかな。
「確かに、ミノラさんはエマちゃんとテオ君を置き去りにした。それは変わらない事実です。迎えに来なかった、それも事実で許される事ではありません。だけど、ミノラさんは精一杯の愛情をエマちゃんとテオ君に注いでいたはずです。だって2人を見てるとそう感じますもん。ホークさんのお兄さんが愛した人です、陣痛という壮絶な苦しみを乗り越えて、ホークさんの宝物である、エマちゃんとテオ君を生んでくれた人ですよ」
私の独りよがりの考えをホークさんは黙って聞いてくれた。
「確かに、ユイさんの言う通りです」
ため息を吐き出すホークさん。
「俺も薄々分かっていたんです。そうじゃないかって、ミノラはあんなに苦しい思いをしてエマとテオを産んだ。体調が悪くても、必死に2人の世話をしていました。だから、まさか置き去りにしたとは、始めは信じられなくて………………」
ホークさんは両手で顔を覆う。
「孤児院の人にも、リーダーにも言われました。もしかしたら、ミノラは飛び出した後に、何かの事件に巻き込まれてしまって、姿を出せないのでは、と? そうでなくても、置き去りにした事実から逃げて、自分では育てられないから逃げ続けているかのどちらかではないかと」
ホークさんは続ける。私は、ただ、聞くだけ。
「ミノラがそこに至るまでの経過なんて知ろうとしなかった、考えなかった。ただ、エマとテオを閉じ込めたという事実が、俺の目をそっちに向けなかった」
「でも、薄々、分かっていたんじゃないです?」
「はい」
ホークさんは両手を顔から外して、空を見上げる。
「俺はミノラが許せません。これは変わらない。変わらないけど、感謝はします」
私に視線を向ける、いつものホークさん。
「兄を愛して、待っていた事を。エマとテオを、産んで、俺に残してくれた事を」
そう言って少しだけすっきりした笑顔を浮かべるホークさん。
「ユイさん、ありがとうございます」
「いいえ、私は勝手に想像したことを話しただけです」
「きっと的を射てますよ」
良かった、いつものホークさんや。
「話に付き合ってもらってありがとうございます。すっきりしました」
「お役にたてたなら、良かったです」
たまには、役に立ちたかもんね。
じゃあ、そろそろ休みましょうと言う話になる。そこでちょっと気になる事を聞いてみた。テオ君はホークさんに目元がよく似ているが、エマちゃんはやっぱり母親似なのかなって。だけど、ホークさんは否定する。
「エマは俺達の母親、つまり祖母似なんです。ミノラと同じなのは髪の毛くらいですよ。本人達も、もうミノラの事は気にもしてませんから」
「え? なんで?」
気にならない? 自分を産んだ人。
「そりゃ、ユイさんがいますから」
「………………そうですか」
嬉しいのか悲しいのか。だって、私を母親のように慕ってくれてるってことやけど、せめて、お姉さん的な位置が。よく、マルシェで買い物してたら、勘違いされるんだよね。もう、慣れたけど。始めはこんな大きな子供がいるって思われて、ショックだったけど、エマちゃんとテオ君は素直でいい子やしね。ま、よかか、と思い至るのに時間はかからなかった。
「あの、ユイさん」
「あ、はい」
「今話した事は、2人に内緒にして貰えませんか? いつか、エマとテオが知りたいと思って聞いた時に話してやりたいので」
「それは、もちろん」
しーっ、て事ね。
元々私が口だしちゃいけないことやし。
私は約束して、自室に引っ込み休んだ。
で、次の日。
私はいつものように餃子の具。しっかり皮のホークさんに包まれる。
『準備はいいのですか?』
『行くわよ』
「ホークさん、お願いします」
「はい、お任せください」
「ブヒヒヒンッ」
ノワールは絶好調だ。ビアンカが風の結界を張り、母が遮断の魔法をかけてくれる。
ホークさんが手綱を操り、いざ、出発。
リアルロッククライミングが傾斜が緩く、随分いい感じなので、私も目を開けていられる。う、でも風が強か。
昼過ぎになって、やっと岩山の山場に到着。
『着いたのです』
『そろそろ休みましょう』
「はいはい。ホークさん、休みましょう」
「はい」
ノワールが器用に岩肌を闊歩して、平たい場所で止まる。
いつものように私はホークさんの首に手を回す。
身軽にホークさんは飛び降りる。
無事に着地すると、びゅうっ、と風が吹く。
ひーっ。マントがバタバタ言うーっ。ひーっ。
立ってるのが、やっとやーっ。ぐらつく足元、しっかりホークさんが肩をホールドしてくれる。
『ふんっ』
ビアンカの鼻息炸裂。
風が一気に弱まる。
『ユイ、一時的に風の結界を強めたのです』
「あ、ありがとうビアンカ。ルームに入ろうかね」
私はルームを開け、ホークさんに支えられながら、ぞろぞろと避難する。
「はあー」
息を整える。
風は突風だったのか直ぐに止んだ。
マントに包まったままだったので、まず脱いでゴーグル外して、はあ、すっきり。ゴーグルを元気が狙うので、直ぐにアイテムボックスに入れる。
『後、一息なのですよ』
『そうね、ユイ、もうじき魔境に入るわ』
「分かった」
その前に一休み。
ノワールにケガがないか、ホークさんがチェック。
ここまで来るのに、2ヶ月かあ。本当にノワールとホークさんに感謝や。
「姉ちゃん、大丈夫な?」
「うん。乗っとるだけやしね」
晃太も心配してくれるが、私は餃子の具に徹しているだけだからね。
ルームの窓の向こう、岩山を抜けた先、緑の絨毯が変わらず広がる。だけど、少しだけ、緑が濃い気がする。
実感は沸かないが、あそこの何処かがビアンカとルージュが生まれ育った場所があり、『彼女さん』がいる。
上手く、会えたらいいけど。
もし、ダメなら来年仕切り直しだ。
「ユイさん、どうしたの?」
お茶を持ってきてくれたエマちゃんが心配そうに聞いてきた。
「うん、上手く『彼女さん』に会えたらよかね、って思ってね。いつも同じ場所にいるわけやないらしいけん」
「もし、会えなかったら、来年もだもんね」
「そうやね。出来れば、それは避けたいけど」
また来るの大変やし。ああ、ルームのサブ・ドアがもう一個あったらなあ。贅沢な悩み。
「ま、なるようになるかな。神様にお祈りしようかね」
「あ、私もお祈りするっ」
私とエマちゃんがお祈り。振り返ったら晃太も他の鷹の目の皆さんもお祈りしていた。
どうか、上手くいきますように。
私はもう一度お祈りした。
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