ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
103 / 338

邪魔⑩

しおりを挟む
「待ちなさいウィンティアッ、ウーヴァ公爵様っ、申し訳ございませんっ」

 生物学上の父親が私の腕を掴む。
 ウィンティアの記憶をつつく。痛みを伴い記憶。
 突き飛ばされ、殴られ、蹴られ、踏みつけられた記憶。

「触らないでっ」

 私は力一杯抵抗したが、十二の女の子の力で、成人男性に勝てるわけない。私は椅子に強引に戻されそうになる。
 せっかくナタリアが綺麗にしてくれた髪を振り乱し、必死に抵抗。ぶれる視界の中で、フォークが入る。ケーキ用で、小さめのフォーク。

 私がウィンティアを守らないと。

 次、目が覚めたような感覚。私はフォークを握りしめ、腕を抑える生物学上の父親を見下ろしていた。
 私はウーヴァ公爵の執事、時計を渡してくれたいぶし銀の執事さんに拘束されていた。

「ウィンティア様、どうかフォークをお離しください」

 私は肩で息をしていた。どうやら、私がフォークで生物学上の父親の腕を刺したようだ。
 一気に溢れる罪悪感と恐怖。
 私が、フォークで、人を刺した。
 無我夢中とはいえ、これ、傷害事件だ。
 もしかしたら、私が、ウィンティアの未来を、断ってしまった。
 人を傷つけたショックや、罪悪感や、後悔や、これからのウィンティアの処遇で、私は気が遠退いた。


「あ、ウィンティア、気がついたかいっ」

 知らない天井。
 そして、生物学上の両親。
 ああ、私は気を失ったのかな。知らないベッドに横になっていた。
 ああ、これから、私はどうなるんだろう? それよりもまずは、やらないといけないけとがある。

「ローザ伯爵」

 起き上がる。

「腕を刺してしまい申し訳ありません」

「は? 何を言っているんだウィンティア、私は刺されてないよ」

 首を傾げる生物学上の父親。
 えっ、でも、刺したよ。多分、フォークで。

「腕を抑えていました」

「ウィンティアは混乱しているんだね。確かにフォークを握ったけど、私は刺されてなんかない。そもそも、ウーヴァ公爵の執事が、直ぐに私からウィンティアを引き離したんだよ」

 私は、混乱。でも、刺したはず、だって、フォーク握った私の前に、生物学上の父親が腕を抑えていたのだから。

「でも、フォークを」

「だから刺されてなんかないんだよ。ほら、ごらん」

 生物学上の父親は、シャツの袖を捲る。

「ほら、刺されてないだろう。こっちの腕もほら」

 反対の腕も肘上までシャツを捲る。確かにケガをしていない。

「ウィンティア、すまない。お前を混乱させてしまったのは私なんだ。不用意にお前に触れてしまったからね。だけど、私はお前にフォークで刺されてはいないから安心しなさい」

 私は、脱力感に襲われる。
 良かった、良かった、色んな事が良かった。ウィンティアを犯罪者にしなくて良かった。
 ああ、良かった。
 
「ウィンティア嬢」

 ほっとした所に、ウーヴァ女公爵が来た。

「気がついたようね」

 私はむぅ、とした顔になる。

「本当に子犬ね。でも、レオナルドが遅れているのは事実。このような事態になったのはこちらの落ち度。ローザ伯爵家の皆様、申し訳ございません」

 やっと、謝罪したよ。
 ちょっと待った、まだ帰って来てないわけ? 壁の時計ではもう門限突破してるよっ。
 もう、レオナルド・キーファーなんてどうでもいいや。
 どうでもいいや、だけど。

「ウーヴァ公爵様、騒ぎを起こしてしまい、申し訳ありません」

「ウィンティア嬢、学園には使いを出しました」

 そう。
 ウーヴァ女公爵の話では、私の体調気遣い、お泊まりって話。明日から連休だし、明日改めてって。

「いえ、学園に帰ります」

 疲れちゃった。色々、疲れちゃった。
 生物学上の両親が心配したような顔だ。

「ウィンティア、今日はローザ家に」

「学園に帰ります」

 押し問答の末。
 私は学園に帰ることに。
 ローザ伯爵家に戻ると更に時間がかかるので、直接学園に戻ることに。
 ウーヴァ公爵家の皆さんがずらーっとお見送りしてくれた。はあ、あの綺麗なお庭、ちょっと見たかったなあ。
 馬車に揺られて学園に。

「ウィンティア、恐らくまたウーヴァ公爵家に呼ばれると思う」

 馬車に揺られながら、伺うように生物学上の父親が話し出す。

「正直、もうあの人を思うことはないんですが。関わると、ろくな目に合わない」

 返す言葉がない生物学上の両親。
 だって、そうじゃん。
 まともに面会できたの、あのおしゃれなカフェと、リメイクドレスの時だけ。マナー違反迷惑女キャサリンとの方が長い時間接触してる。あっちが婚約者面もしている感じだし。ああ、考えるとイライラする。

「今日は何か事情があっはたはずだ。キーファー様の職業上な」

 王子様の護衛騎士。
 もしかしたら、火急な用事ができたかもって。
 そう言われたら、そうかもしれない。王族に関わるような仕事は、下手したら家族になにも告げられず、随行とかの為に外国に行ったりもするらしいし。
 通信手段がないから、仕方ないことかも。
 私はため息。
 だが、いきなり国外はないはず。
 レオナルド・キーファーが護衛しているレオンハルト殿下は、まだ学生の身分。確か、ユミル学園の高等部在籍して、公務ができる年齢に達していない。つまり、いきなり公務がまだ出来ない王子様の為に、護衛騎士があんな時間まで残業なんてない。
 ユミル学園に入った事もあるが、父親が騎士だったナタリアが詳しく知ってた。
 
「どうでもいいです。しばらく顔を合わせたくありません」

 可愛げもくそもない言い方。
 あーあ、ウィンティア、かわいいのに。
 撃沈する生物学上の両親、沈黙の中、馬車が学園に到着する。
 私は馬車から降りる。

「ウィンティア、我が家は立場上、ウーヴァ公爵家に、拒絶はできない」

「そうですか」

 宛には出来ないか。私は一緒馬車を降りた生物学上の両親に見送られる。
 どんだけ、弱みを握られているんだろう?
 門番の人が、お帰りなさいと声をかけてくれた。連絡行ってたんだ。
 門を開けてもらい、寮に向かって歩いていると。

「ウィンティア嬢ーっ」

 はぁ?
 振り返りと、柵の向こうで叫ぶレオナルド・キーファーが。え、今? 今? 嘘でしょ。
 門番の人が引き剥がしているけど、私の名前を呼ぶレオナルド・キーファー。止めてよ、すごく迷惑。
 私はイライラして踵を返す。

「ああ、ウィンティア嬢っ、申し訳ありませんっ、今日はっ」

 私はポシェットの手紙を、レオナルド・キーファーの足元に捨てる。
 それを見て、えっ? 顔をしている。

「今回は燃やしませんでしたが、次回は焼却炉にいれます。それから、しばらく貴方の顔は見たくありません」

 多分仕事着のレオナルド・キーファーが、間抜けな顔をしている。おろおろとしている生物学上の両親が、気遣うのは、レオナルド・キーファーで、私ではない。やっぱり、生物学上の娘より、そっちか。

「ま、待ってくださいウィンティア嬢っ」

 無視。
 私は寮に向かう。
 レオナルド・キーファーの声を完全無視して。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

処理中です...