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願い③

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 どれくらい、謝ったか。
 もう、涙が出ない、鼻はぐずぐす、声が枯れた頃。
 くいっ、と後ろに引かれる。身体全体が引っ張られる感じ。
 耳に届くのは、私を呼ぶ声。

 お嬢様、ウィンティアお嬢様。

 ナタリアの啜り泣く声。

 ウィンティア嬢、ウィンティア嬢。

 レオナルド・キーファーの祈るような声。

 思わず、振り返ると、一気に引き剥がす力がかかる。
 引き戻される。
 お父さん、お母さん、みどりお姉ちゃんと離される。
 もう、二度はない。

「お父さん、お母さん、みどりお姉ちゃんっ、離れたくないっ、離れたくないっ」

 私は叫ぶ。以前心底思っていたこと。

「そっちに帰りたいっ」

 私を呼ぶ声が聞こえるが、本来の私のいる世界ではない。ウィンティアがいる世界だ。

「まどか、まどかっ、帰ろう、一緒に帰ろうっ」

 お父さんの腕に力が入る。

「まどか、帰ろう、帰りましょうっ」

「帰ろうまどかっ」

 お母さんとみどりお姉ちゃんの腕にも力が入る。
 私も必死に腕をつかむ。だけど、どんどん後ろに引き戻される。

「まどか?」

 ふいに、お父さんが呟く。

「お前、生まれ変わったのか?」

 え?

「え? そうみたいだけど」

 ウィンティアの身体に居候しているだけだけど。

「呼ばれているのは、お前か?」

「うん、そうみたい」

 お母さんも気がついたみたい。
 ぐいっ、と後ろに引き戻される力が増える。一気に腕に力が入る。
 当然、痛みが走る。

「ううっ」

「まどかっ、まどかっ」

 必死の形相で腕を掴むみどりお姉ちゃん。ぐいぐいとうしろに引かれる。それでも、私の腕を離さない。
 痛い、痛い、腕が、千切れそう。
 めきめき、と言う音がした。

「痛いっ」

 たまらず、叫んだ。

「お父さん、お母さん、なにするのっ」

 私の腕を掴んでいるみどりお姉ちゃんの指を、引き剥がそうとするお父さんとお母さん。

「みどり、離すんだっ」

「離しなさいっ」

「バカなこと言わないでっ」

「お、お姉ちゃん…………」

「離すんだっ、まどかは新しく生きているんだっ」

「呼んでいるのは、まどかを待っている人よっ」

 お父さんとお母さんの力に勝てず、とうとうみどりお姉ちゃんの手が離れる。
 ぐいっ、と後ろに引き戻される。

「まどかっ、幸せにっ」

「まどかーっ」

「わぁぁっ、まどかーっ」

 あっという間に、お父さん、お母さん、みどりお姉ちゃんの姿が見えなくなった。
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