5 / 72
第一章
学園生活その1
しおりを挟む
学園での暮らしが始まった。
どうにも過去のいじめられっ子時代を思い出して学校にはなじみにくいものがあったが、心機一転、新しい生活を楽しもうと思っていた。
初日、登校するとまず教員室へ。
ドアをノックし、
「本日よりお世話になるユージ・ミカヅチです。あの・・担任の先生は・・」
するとすぐそばから女性の声があがり、
「おう!お前が『英雄の村』からきたユージ・ミカヅチか!あたしはブリッツ・アルテ。皆からブリッツと呼ばれている。よろしくな!」
と声をかけてくれた。
「あ・・あのよろしくお願いします。転移者なのでご迷惑をかけることがあるかもしれませんが・・」
「おう!聞いてるぜ!他の星から来たんだってな!まぁはじめは珍しがられるかもしれないがそのうちなれるだろ。あたしは元ギルドランクBのランカーだ。困ったことがあったら言ってこい」
と中々男前なセリフが飛んできた。
あまりこの世界の女性については知らないけど、みなこんな感じなのかな?あの俺を助けてくれた子も凛々しい感じだったし・・まあ、おいおいわかるだろう。
授業までなんとなしにブリッツ先生と話をして授業開始時刻になったので、連れ立ってクラスに向かうことにした。
――――――――
2年次生のフロアは丁度校舎の2階にあった。
端からS、A、B、C、D、E、と続いて最後にF。
こんなところでも明確に区別されているだなぁ・・などと考えつつ
F組の教室の前で立ち止まる。
「よう、みな静かにしろ!」
ブリッツ先生の掛け声でざわざわしていた教室が静かになる。
先生はうまくクラスをまとめているみたいだな。きっぷのいい姉御肌って感じだからまとめ役には適してるのかもしれない。
「今日は転入生を紹介する。ユージ・ミカヅチだ。ユージ、入れ!」
俺は好機の視線の中おどおどと教室の前、黒板の前に立つ。
「あ・・あの・・ユージ・ミカヅチです・・みなさん・・よろしくお願いします・・・」
何らかの期待をしていたのだろう。教室に軽い失望感が広がる。
まぁ、イケメンでも美少女でもないしね・・おまけに挙動不審。仕方ないところだ。
そこでブリッツ先生が
「ユージは異星からの転移者で、『英雄の村』の出身だ。皆学べることも多いと思うので仲良くするように!」
と、ここでざわめきが広がる。さすがに異星からの入学者は珍しいらしく、好奇の目が俺に注がれた。
しかし、こういうのって内緒にするとか、そういう気づかいがあってもいいんじゃないのか?それともさほど珍しくないからばらしても問題ないってことなんだろうか。
そんなことを考えていると、
「ユージ、お前の席はそこの空いてる席だ。さっさと座れ」
とブリッツ先生に言われたので、指定された席に着く。
となりは茶髪のチャラ男くんっぽい男だ。
「よう!俺はキース!キース・リカルドだ!よろしくなユージ!」
と気さくに話しかけてきた。
見た目より感じがいい男だな。
「こちらこそ、よろしくキース君」
「おいおい、同級生に君付けはいらねーぜ!キースでいいよ」
とニャハハと笑う。
「じゃあ、よろしくキース。色々教えてくれると助かる」
「おう、まぁ学園のことでわからないことがあったら俺に聞きな!」
と頼もしいことを言ってくれる。
頼りにさせてもらおう。
学校では通常の一般教養や、魔術の授業を午前中。午後はほ魔術や武術の実践授業にあてられていた。
午前午後の授業の間にはお昼休憩があり、みな食堂やお弁当など思い思いにご飯を食べるらしい。
昼になると俺はキースに誘われ食堂へ向かった。
――――――――
食堂はほどほどに混雑していた。
国費で経営されているので食費はただらしい。金のない身には大変助かる。
キースとメニューをみつつ列に並んでいると、
「あれ?君はあのとき絡まれてた・・根性なし君じゃない?この学園だったんだ!」
と声を掛けられる。
そこには俺を路地裏で助けてくれた美少女と友人らしき少女が立っていた。
こ・・根性なし・・いや日本での俺を思い起こせば反論できないけど・・
「あ・・あのときはありがとう。おかげで助かったよ」
と答えると
「まぁ私、あーゆうの我慢できないクチだからね。幸運だったのよ君」
と美しい顔を少し自慢げにほころばせる。
「そういや、名乗っていなかったわね。私はアカネ。アカネ・ローゼンデールよ。こっちの友達はアイリス。」
アカネ?なんか日本っぽい名前だな?
「アイリスです。アイリス・ローム・ヴァレンティ。よろしくお願いしますね?」
こっちは凛々しい系のアカネと違い優し気な金髪美少女だ。アカネが凛々しい美人系だとしたらアイリスはかわいい癒し系といったところだろうか。胸も大きい。制服の上からじゃわかりにくいがアカネはささやかに見える。
男が胸に目が行くのは自然のことだよな・・
って俺は何を考えてるんだ?
隣でキースが俺の脇腹をつつく。
『おい!この学園の2大美神がなんでお前に挨拶してるんだ??』
『いや、俺もアイリスさんのことは知らないよ。アカネさんには昨日チンピラにからまれてたところ助けてもらったけど』
とそんな話をボソボソしていると、
「せっかくだからお昼一緒に食べましょ!丁度4人分空いてる席もあるみたいだし。」
とアカネは取り終えた食事をのせたトレーを持って窓際に向かって歩いていく。
俺とキースもメニューを決めるとトレーをかかえて窓際に向かう。
――――――――
「へぇーユージは異星出身で『英雄の村』で鍛えられたんだ」
とアカネは興味深そうに聞いてくる。
「うん。まぁもともとが何もわからない状態からだから、多分やっと授業についていけるくらいだと思う。」
「んで、故郷に帰りたいと。でもそれって簡単じゃないわよ?」
「うん。そのあたりのことは少し聞いてる。ローム王国、カーティス皇国、ホーリー聖教皇国の同意が必要なんだよね?」
「そうよ。それには並大抵の努力じゃ無理よ。ここにいるアイリスならローム王国への融通は多少効くかもだけど?」
え?どういうことだ?
話を振られたアイリスは、
「いや、私貴族といってもヴァレンティ家のことにはタッチできる立場じゃないし・・七女だから後を継ぐなんてこともないし。」
なるほど。貴族と言ってっも家の相続権とか色々あるだろうしな。
「でもヴァレンティ家くらい大きな貴族だったら、王様に会える機会もあるんじゃない?」
「無理だよ。せいぜいお父様や一番上の兄さまくらいじゃないかな・・抜群の功績なんかあげられたら別だけど。
それにそんなこと言ったらアカネの家だって貴族じゃない」
「うちはそんな立派なものじゃないわよ。ただの没落貴族。国名の名乗りまで許されてるアイリスとは違うわ。」
なるほど。アイリスのロームというミドルネームは王から下賜された家名か。
日本でも戦国武将が自分の名前の名乗りを配下に許すことがあったしな。つまりそれだけアイリスの家は王家の信も厚いってことなんだろう。
ここでアカネが決意に満ちた顔で言う。
「でも私だってこのままにはしておかないわ!お父様の失敗で没落した家名は私が再興して見せるんだから!」
なるほど。目的地は違うがアカネも俺と同じく出世を目指しているんだな。
「アカネならできるよ!炎を使わせたら学園一だし、他の魔術も主なものは全部使えるじゃない」
「アイリスだってヒールに関しては学園一でしょ?」
「あはは・・私はヒールだけだから・・・」
二人は仲良さそうだがどういう関係なんだろうか?
「私たちは初等部のころから一緒で幼馴染なの。子供のころから良く一緒に遊んだり勉強したりしてきたの」
「なるほどね。ところで二人のクラスはどこなんだ?」
少なくとも俺よりは上だと思うんだけど。
「私はSよ。まだまだ満足していないわ。Sクラスの中でもNo1になってみせるんだから!」
と、アカネは言う。この子ならやりそうな雰囲気があるな・・しかしクラス内でも順位があるのか?Sクラスは中々に厳しそうだ。
「私はBかな。ヒーラースペルだけだから、あとは勉強で評価されてる感じかな?」
とアイリスは謙虚にいうが、Bクラスだって今の俺にとっては雲の上だ。
ここで美少女二人に見とれていたキースが口をはさむ。
「アイリスちゃんのヒーリングスペルは有名なんだぜ?学校の先生も負けるかもしれねぇってレベルだ。」
なるほど。そんなに優秀なヒーラーならパーティーなどを組む戦いなら引く手あまただろうなぁ・・
「ちなみに俺は全部平均値だ!」
とキースがドヤ顔で言う。なんでドヤ顔なんだよ・・。
「そんでユージ?あなたは何ができるの?」
おっとこっちに矛先がきた。
「まぁ・・武術かな・・まだまだ修行中だけど・・」
「ハァ?あなたチンピラにやられてたじゃない?そんなレベルで武術?」
いや・・あれは突然でパニクってしまったというか・・ビビってしまったというか・・
「魔術にしたほうがいいんじゃない?どっちかというと性格的にそっちむきのような気がするんだけど。」
痛いところつくな・・多分俺もホーンテッドがなければそちらにシフトしたいところだが、魔術の才能はないとルースに言われたしな・・
「いや・・実は賢者って言われてるルースから主な魔術の才能はないって言われてて・・」
「え!ルースって賢者ルース・アインハルト?私の目標なんだけど!!ああ、あなた『英雄の村』出身だったわね!」
「うん・・そこでルースやベルフェって人に教えてもらってたんだ。」
「ベルフェって元騎士長のベルフェ・グール?あなた、どれだけ恵まれてるよ!」
やっぱり恵まれてたのか。
地獄のような修業の日々だったけど、向上心のある人には最高の環境なんだろうなぁ・・
さて、お昼時間も終わりそうだし、そろそろ教室に戻るか。
――――――――
教室に戻るとさっそくキースが食いついてきた。
「おい、ユージ。俺たちは友達だよな?」
いや、会ったばかりなんだけど・・まぁ友達でもいいか。
ただ、日本で、俺が心を病み、まともな生活ができなくなっていくにつれ、友人たちは俺と距離を取るようになり、それぞれ家庭を築き、俺も付き合いを遠慮するようになっていった。それがいい年して引きこもりメンヘラへの道だったのかもしれないが・・そういった経験があったので今一つ友人という言葉に身構えてしまう。所詮一時の交わりに過ぎないと考えてしまうのだ・・
「おい、ユージ、聞いてるのか?」
「あ、ごめん。聞いてなかった・・」
「だから、アイリスちゃんの趣味とか好きなものが知りたいんだよ!お前、アカネちゃんと繋がりがあるんだったら何とか聞き出せないか?」
いや、繋がりといっても俺は助けられただけなんだが・・これが男がかっこよく女の子を助けたとかなら、脈があるかもしれないけど。
「まぁ努力はしてみるよ」
「頼むぜ!この学園じゃクラス順位がそのままカースト制になってるからな。Fクラスの俺がBクラスのアイリスちゃんに声かけるなんてできねぇからさ!」
まぁこういうのも青春の1ページなんだろう。自分がその立場にいることを忘れてすっかりおっさん思考で考えていた。
――――――――
午後からは魔術・武術の授業だ。
クラスごとに行う場合もあるが学年一斉に行うこともあるらしい。
今日はクラス別なのでF組のみ校庭に移動した。
今日は雷魔法とのことで各生徒が校庭に建てられた的に向けて思い思いに魔法弾を発射している。
さすがというべきかなんというか、Fクラスだけなあり、まともに的にあたるのはごくたまに。むしろ的にかすらない生徒のほうが多いくらいだ。
俺もなんとかルースの教えを思い出しつつ、体で念を練って雷属性の魔力弾として発射してみる・・・が的まで届かず消えてしまった。
うーん、やっぱり適正なしか・・・
しかし、この時俺の中にはある考えがあった。
どうせ適正がないなら他属性魔法を捨てて一つに集中するというもの。
その中でも武術にいかせそうなのは風だ。
風魔法であればホーンテッドを使った戦いにおいて、真空を剣にまとわせ、剣の射程範囲を伸ばしたり、大きな敵が現れた場合、空中に飛んで攻撃を届かせる、といったことが可能では?
と考えたためだ。
恐らく他の魔法に費やしている余裕はない。今後はこの方針でいこう。
『ズバァン!』
そんな授業上の空で考えていると見事な炸裂音が聞こえてきた。
「あれ?当たっちった!やるな~俺!ニャハハ!」
キースだった。
的の中心に当てるどころか的全体が消滅していた。
自分では全部平均っていってたのに・・やるな・・
――――――――
寮に戻ると寮に付属している食堂で手短に食事を済ませ、ランニング、筋トレをして教科書を開く。ここ1年でトレーニングの習慣がついたせいか体を動かさないとなんだか気持ちが悪いためだ。それに何より、メンタル的に症状が軽くなることを発見した。それでも週に2度は疲れ切ってベッドに倒れこんでいたが、この世界で生きるために・・故郷へ帰るために・・・と言い聞かせて体を動かし、教科書を開いた。
良い思い出などほとんどない故郷だが、ここまで自分のモチベーションになるとは驚きだ。
どうにも過去のいじめられっ子時代を思い出して学校にはなじみにくいものがあったが、心機一転、新しい生活を楽しもうと思っていた。
初日、登校するとまず教員室へ。
ドアをノックし、
「本日よりお世話になるユージ・ミカヅチです。あの・・担任の先生は・・」
するとすぐそばから女性の声があがり、
「おう!お前が『英雄の村』からきたユージ・ミカヅチか!あたしはブリッツ・アルテ。皆からブリッツと呼ばれている。よろしくな!」
と声をかけてくれた。
「あ・・あのよろしくお願いします。転移者なのでご迷惑をかけることがあるかもしれませんが・・」
「おう!聞いてるぜ!他の星から来たんだってな!まぁはじめは珍しがられるかもしれないがそのうちなれるだろ。あたしは元ギルドランクBのランカーだ。困ったことがあったら言ってこい」
と中々男前なセリフが飛んできた。
あまりこの世界の女性については知らないけど、みなこんな感じなのかな?あの俺を助けてくれた子も凛々しい感じだったし・・まあ、おいおいわかるだろう。
授業までなんとなしにブリッツ先生と話をして授業開始時刻になったので、連れ立ってクラスに向かうことにした。
――――――――
2年次生のフロアは丁度校舎の2階にあった。
端からS、A、B、C、D、E、と続いて最後にF。
こんなところでも明確に区別されているだなぁ・・などと考えつつ
F組の教室の前で立ち止まる。
「よう、みな静かにしろ!」
ブリッツ先生の掛け声でざわざわしていた教室が静かになる。
先生はうまくクラスをまとめているみたいだな。きっぷのいい姉御肌って感じだからまとめ役には適してるのかもしれない。
「今日は転入生を紹介する。ユージ・ミカヅチだ。ユージ、入れ!」
俺は好機の視線の中おどおどと教室の前、黒板の前に立つ。
「あ・・あの・・ユージ・ミカヅチです・・みなさん・・よろしくお願いします・・・」
何らかの期待をしていたのだろう。教室に軽い失望感が広がる。
まぁ、イケメンでも美少女でもないしね・・おまけに挙動不審。仕方ないところだ。
そこでブリッツ先生が
「ユージは異星からの転移者で、『英雄の村』の出身だ。皆学べることも多いと思うので仲良くするように!」
と、ここでざわめきが広がる。さすがに異星からの入学者は珍しいらしく、好奇の目が俺に注がれた。
しかし、こういうのって内緒にするとか、そういう気づかいがあってもいいんじゃないのか?それともさほど珍しくないからばらしても問題ないってことなんだろうか。
そんなことを考えていると、
「ユージ、お前の席はそこの空いてる席だ。さっさと座れ」
とブリッツ先生に言われたので、指定された席に着く。
となりは茶髪のチャラ男くんっぽい男だ。
「よう!俺はキース!キース・リカルドだ!よろしくなユージ!」
と気さくに話しかけてきた。
見た目より感じがいい男だな。
「こちらこそ、よろしくキース君」
「おいおい、同級生に君付けはいらねーぜ!キースでいいよ」
とニャハハと笑う。
「じゃあ、よろしくキース。色々教えてくれると助かる」
「おう、まぁ学園のことでわからないことがあったら俺に聞きな!」
と頼もしいことを言ってくれる。
頼りにさせてもらおう。
学校では通常の一般教養や、魔術の授業を午前中。午後はほ魔術や武術の実践授業にあてられていた。
午前午後の授業の間にはお昼休憩があり、みな食堂やお弁当など思い思いにご飯を食べるらしい。
昼になると俺はキースに誘われ食堂へ向かった。
――――――――
食堂はほどほどに混雑していた。
国費で経営されているので食費はただらしい。金のない身には大変助かる。
キースとメニューをみつつ列に並んでいると、
「あれ?君はあのとき絡まれてた・・根性なし君じゃない?この学園だったんだ!」
と声を掛けられる。
そこには俺を路地裏で助けてくれた美少女と友人らしき少女が立っていた。
こ・・根性なし・・いや日本での俺を思い起こせば反論できないけど・・
「あ・・あのときはありがとう。おかげで助かったよ」
と答えると
「まぁ私、あーゆうの我慢できないクチだからね。幸運だったのよ君」
と美しい顔を少し自慢げにほころばせる。
「そういや、名乗っていなかったわね。私はアカネ。アカネ・ローゼンデールよ。こっちの友達はアイリス。」
アカネ?なんか日本っぽい名前だな?
「アイリスです。アイリス・ローム・ヴァレンティ。よろしくお願いしますね?」
こっちは凛々しい系のアカネと違い優し気な金髪美少女だ。アカネが凛々しい美人系だとしたらアイリスはかわいい癒し系といったところだろうか。胸も大きい。制服の上からじゃわかりにくいがアカネはささやかに見える。
男が胸に目が行くのは自然のことだよな・・
って俺は何を考えてるんだ?
隣でキースが俺の脇腹をつつく。
『おい!この学園の2大美神がなんでお前に挨拶してるんだ??』
『いや、俺もアイリスさんのことは知らないよ。アカネさんには昨日チンピラにからまれてたところ助けてもらったけど』
とそんな話をボソボソしていると、
「せっかくだからお昼一緒に食べましょ!丁度4人分空いてる席もあるみたいだし。」
とアカネは取り終えた食事をのせたトレーを持って窓際に向かって歩いていく。
俺とキースもメニューを決めるとトレーをかかえて窓際に向かう。
――――――――
「へぇーユージは異星出身で『英雄の村』で鍛えられたんだ」
とアカネは興味深そうに聞いてくる。
「うん。まぁもともとが何もわからない状態からだから、多分やっと授業についていけるくらいだと思う。」
「んで、故郷に帰りたいと。でもそれって簡単じゃないわよ?」
「うん。そのあたりのことは少し聞いてる。ローム王国、カーティス皇国、ホーリー聖教皇国の同意が必要なんだよね?」
「そうよ。それには並大抵の努力じゃ無理よ。ここにいるアイリスならローム王国への融通は多少効くかもだけど?」
え?どういうことだ?
話を振られたアイリスは、
「いや、私貴族といってもヴァレンティ家のことにはタッチできる立場じゃないし・・七女だから後を継ぐなんてこともないし。」
なるほど。貴族と言ってっも家の相続権とか色々あるだろうしな。
「でもヴァレンティ家くらい大きな貴族だったら、王様に会える機会もあるんじゃない?」
「無理だよ。せいぜいお父様や一番上の兄さまくらいじゃないかな・・抜群の功績なんかあげられたら別だけど。
それにそんなこと言ったらアカネの家だって貴族じゃない」
「うちはそんな立派なものじゃないわよ。ただの没落貴族。国名の名乗りまで許されてるアイリスとは違うわ。」
なるほど。アイリスのロームというミドルネームは王から下賜された家名か。
日本でも戦国武将が自分の名前の名乗りを配下に許すことがあったしな。つまりそれだけアイリスの家は王家の信も厚いってことなんだろう。
ここでアカネが決意に満ちた顔で言う。
「でも私だってこのままにはしておかないわ!お父様の失敗で没落した家名は私が再興して見せるんだから!」
なるほど。目的地は違うがアカネも俺と同じく出世を目指しているんだな。
「アカネならできるよ!炎を使わせたら学園一だし、他の魔術も主なものは全部使えるじゃない」
「アイリスだってヒールに関しては学園一でしょ?」
「あはは・・私はヒールだけだから・・・」
二人は仲良さそうだがどういう関係なんだろうか?
「私たちは初等部のころから一緒で幼馴染なの。子供のころから良く一緒に遊んだり勉強したりしてきたの」
「なるほどね。ところで二人のクラスはどこなんだ?」
少なくとも俺よりは上だと思うんだけど。
「私はSよ。まだまだ満足していないわ。Sクラスの中でもNo1になってみせるんだから!」
と、アカネは言う。この子ならやりそうな雰囲気があるな・・しかしクラス内でも順位があるのか?Sクラスは中々に厳しそうだ。
「私はBかな。ヒーラースペルだけだから、あとは勉強で評価されてる感じかな?」
とアイリスは謙虚にいうが、Bクラスだって今の俺にとっては雲の上だ。
ここで美少女二人に見とれていたキースが口をはさむ。
「アイリスちゃんのヒーリングスペルは有名なんだぜ?学校の先生も負けるかもしれねぇってレベルだ。」
なるほど。そんなに優秀なヒーラーならパーティーなどを組む戦いなら引く手あまただろうなぁ・・
「ちなみに俺は全部平均値だ!」
とキースがドヤ顔で言う。なんでドヤ顔なんだよ・・。
「そんでユージ?あなたは何ができるの?」
おっとこっちに矛先がきた。
「まぁ・・武術かな・・まだまだ修行中だけど・・」
「ハァ?あなたチンピラにやられてたじゃない?そんなレベルで武術?」
いや・・あれは突然でパニクってしまったというか・・ビビってしまったというか・・
「魔術にしたほうがいいんじゃない?どっちかというと性格的にそっちむきのような気がするんだけど。」
痛いところつくな・・多分俺もホーンテッドがなければそちらにシフトしたいところだが、魔術の才能はないとルースに言われたしな・・
「いや・・実は賢者って言われてるルースから主な魔術の才能はないって言われてて・・」
「え!ルースって賢者ルース・アインハルト?私の目標なんだけど!!ああ、あなた『英雄の村』出身だったわね!」
「うん・・そこでルースやベルフェって人に教えてもらってたんだ。」
「ベルフェって元騎士長のベルフェ・グール?あなた、どれだけ恵まれてるよ!」
やっぱり恵まれてたのか。
地獄のような修業の日々だったけど、向上心のある人には最高の環境なんだろうなぁ・・
さて、お昼時間も終わりそうだし、そろそろ教室に戻るか。
――――――――
教室に戻るとさっそくキースが食いついてきた。
「おい、ユージ。俺たちは友達だよな?」
いや、会ったばかりなんだけど・・まぁ友達でもいいか。
ただ、日本で、俺が心を病み、まともな生活ができなくなっていくにつれ、友人たちは俺と距離を取るようになり、それぞれ家庭を築き、俺も付き合いを遠慮するようになっていった。それがいい年して引きこもりメンヘラへの道だったのかもしれないが・・そういった経験があったので今一つ友人という言葉に身構えてしまう。所詮一時の交わりに過ぎないと考えてしまうのだ・・
「おい、ユージ、聞いてるのか?」
「あ、ごめん。聞いてなかった・・」
「だから、アイリスちゃんの趣味とか好きなものが知りたいんだよ!お前、アカネちゃんと繋がりがあるんだったら何とか聞き出せないか?」
いや、繋がりといっても俺は助けられただけなんだが・・これが男がかっこよく女の子を助けたとかなら、脈があるかもしれないけど。
「まぁ努力はしてみるよ」
「頼むぜ!この学園じゃクラス順位がそのままカースト制になってるからな。Fクラスの俺がBクラスのアイリスちゃんに声かけるなんてできねぇからさ!」
まぁこういうのも青春の1ページなんだろう。自分がその立場にいることを忘れてすっかりおっさん思考で考えていた。
――――――――
午後からは魔術・武術の授業だ。
クラスごとに行う場合もあるが学年一斉に行うこともあるらしい。
今日はクラス別なのでF組のみ校庭に移動した。
今日は雷魔法とのことで各生徒が校庭に建てられた的に向けて思い思いに魔法弾を発射している。
さすがというべきかなんというか、Fクラスだけなあり、まともに的にあたるのはごくたまに。むしろ的にかすらない生徒のほうが多いくらいだ。
俺もなんとかルースの教えを思い出しつつ、体で念を練って雷属性の魔力弾として発射してみる・・・が的まで届かず消えてしまった。
うーん、やっぱり適正なしか・・・
しかし、この時俺の中にはある考えがあった。
どうせ適正がないなら他属性魔法を捨てて一つに集中するというもの。
その中でも武術にいかせそうなのは風だ。
風魔法であればホーンテッドを使った戦いにおいて、真空を剣にまとわせ、剣の射程範囲を伸ばしたり、大きな敵が現れた場合、空中に飛んで攻撃を届かせる、といったことが可能では?
と考えたためだ。
恐らく他の魔法に費やしている余裕はない。今後はこの方針でいこう。
『ズバァン!』
そんな授業上の空で考えていると見事な炸裂音が聞こえてきた。
「あれ?当たっちった!やるな~俺!ニャハハ!」
キースだった。
的の中心に当てるどころか的全体が消滅していた。
自分では全部平均っていってたのに・・やるな・・
――――――――
寮に戻ると寮に付属している食堂で手短に食事を済ませ、ランニング、筋トレをして教科書を開く。ここ1年でトレーニングの習慣がついたせいか体を動かさないとなんだか気持ちが悪いためだ。それに何より、メンタル的に症状が軽くなることを発見した。それでも週に2度は疲れ切ってベッドに倒れこんでいたが、この世界で生きるために・・故郷へ帰るために・・・と言い聞かせて体を動かし、教科書を開いた。
良い思い出などほとんどない故郷だが、ここまで自分のモチベーションになるとは驚きだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる