無職メンヘラ男が異世界でなりあがります

ヒゲオヤジ

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第二章

アルバイト

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アイリスの誕生日プレゼントやなんやかんやで金欠が深刻になってきた。

ふと、思い立って学園の近くの街の方に足を延ばしてみた。

先日アカネと買い物にきたときに色々店を見て回ったのだが、その中のカフェに

『インディーズ・カフェ』
とあった。

ハンナ先輩のフルネームはハンナ・インディだ。
名前からしてハンナ先輩の家のお店かと思われる。ダースの店もあったし。

店のショウウインドウに『アルバイト募集』、とあったので気になって来てみたのだ。
確認してみると1時間10ベルムとあった。

この国では1ベルムが大体100円くらいなので1時間千円ってところか。

内容は接客、簡単な調理、とある。

いい加減、小遣いに悩むのも嫌だし、どうしようかなぁ・・?
でも勉強もついていくのがやっとだし、今度はBクラスになったし、ますます大変だしなぁ・・
そもそも中等部でバイトできるんだろうか・・?

などと貼り紙を見ながら考えていた。

すると、
「やあ、あんた、バイトに興味あるのかい?」
と豪快そうなおばちゃんが話しかけてきた。栗色の髪を後ろに束ねて上に白いエプロンを着けている。

「ええ・・このバイト募集の張り紙を見て・・」

「おお?そうかい?今人手が足りないんだよ!ああ・・?その恰好、魔術学園の生徒かい?うちの娘そこの学園なんだよ!」

「もしかしてハンナさんっていうんじゃ・・」

「ああ、そうそう!ハンナだよ!知り合いかい、あんた?」

「はい、クラブの先輩で・・僕は2年次生です。」

「おう、そうかいそうかい。身元がはっきりしてるのはいいねぇ!私はメグ・インディだよ!」

「あの・・バイトは中等部の生徒でもできるんでしょうか?」

「?あんた何言ってるんだい?ここじゃあ皆子供の頃から働いてるよ?」

そうだったのか。農作業や林業とかなら、子供が手伝っているイメージもあるけど、この世界では子供でも他の仕事もできるらしい。

「あの・・調理の経験はあまりないんですが。」

「ああ、そのあたりはおいおい教えてやるよ!心配すんな!」
とハンナ先輩と同じ栗色の髪を揺らしてガハハと笑った。

「うちは夜はバーになるけどね。まぁ、六時から九時まででも働いてくれれば助かるわね。」

六時からか・・それなら間に合いそうだ。

すると、
「ただいまー」
とハンナ先輩が帰ってきた。

「おお、ハンナ、お帰り!今、お前の後輩とバイトの話をしてたところさね!」

「?え?ゆ、ユージ君?えぇ!うちで働くの?」
ハンナ先輩が驚いたように言う。

「いや、まだ決めたわけじゃないんですが・・」

「そう・・。ま、まぁ、うちは働きやすいと思うよ?お父さんお母さんも優しいし。」

「優しいのはちゃんと働く奴に限るがね!」
とメグさんがガハハと笑う。

中々明るそうな職場だな。

「おかえり、ハンナ・・おや、お客様かい?」
と、奥の厨房からタバコを加えながら、髭を生やしたおじさんが顔を出す。

「ああ、あんた。今うちのバイトの募集見てきた子と話してるんだよ。ハンナの後輩らしいよ!」

「ほう、後輩!そりゃあ安心じゃないか!どうだキミ、うちは働きやすいよ!」
とお母さんと似たような事を言って誘ってくれる。

「もう、お父さんもお母さんも強引なのはダメだよ!ユージ君困っちゃうじゃない!」

おっとハンナ先輩もご両親には普段のオドオドした感じがないな。まぁ普通そんなもんか。

「いえいえ、誘っていただき、ありがとうございます。金欠なので・・ただ、少しだけ考えさせてください。」

「わかったよ!待ってるからね!」
とお母さんが言う。

俺はインディー一家にとりあえず別れの挨拶をすると、その場を去って寮に向かった。

――――――――

翌日、クラスに行くと、

「よう、ユージ、アルバイトやるんだってなぁ?」
とダースが話しかけてきた。

「いや、まだ決めたわけじゃないんだけど。少し考え中なんだ。何で知ってるんだ?」

「お?学生街の商店ネットワークは早いんだよ!なんか面白いことあったら一晩で広まっちまうぜ?」

うーん、商店ネットワーク恐るべし。

「クラブも授業もあるし、時間大丈夫かなあって少し心配してるんだ。」

「ああ、そっかぁ・・学校にクラブにバイトするってぇと結構きついからなぁ。まぁゆっくり考えてみろや。」

そうさせてもらおう。

するとフレンダが来て
「ユージ君、うちの学校は別にバイト禁止してないけど、学業に支障がないようにね?」
とくぎを刺してきた。

「ああ。気を付けるよ」

「ところで何のバイトなの?」

「ああ、風魔法研究部のハンナ先輩の店でカフェやってるんだ。夜はバーもやるらしいけど。俺が働くのは九時までだから関係ないかな。」

「ふーん、そう。カフェなら問題なさそうね。身元もしっかりしてそうだし。」
どうやら風紀委員のチェックはOKのようだ。

「なになに?ユージ君アルバイトするの?」
とアイリスが入ってきた。

「うーん、まだ考え中なんだ。今は待ってもらってる感じ。」

まさかアイリスへのプレゼントが金欠の決定打になったなんて言えない。

「そうかぁ、カフェなら私も遊びにいっちゃうけどね?」
おっと早速上客ゲットかな?

「まぁ決まったら言うよ。その時はよろしく。」

そう答えておいた。

――――――――

昼食時、昨日の件を皆に話すと、

「僕もお金ない。僕も働きたい。」
とアイズが食いついてきた。

氷竜族の姫なのにお金がないのだろうか?

聞いてみると、家にお金はあるが、ご両親(ご両ドラゴン?)の教育方針で、最低限のお金しか与えられておらず、不便らしい。

「いや、アイズは補習があるだろう?難しいんじゃないか?」

「僕、ベンキョー・・・飽きてきた。」

「いや、そういわずにもう少し頑張れよ・・」

「まぁアイズは人間の仕事はやめといたほうがいいかもね。接客とか難しいだろうし。」
とアカネ。

「いい社会勉強になるかもしれないけどね?私も働こうかな?」
とアイリス。いや、アイリスこそ必要ないだろう。大貴族のお嬢様なんだから。

「まぁ、アイズはやめといたほうがいいだろうなぁ・・商品ぶっこわす未来しか見えねぇ・・」
キースが誰もが心配していることを言う。

確かに人間形態でもアイズは怪力だからな。商品を扱う仕事には向いてないかもしれない。

「まぁ、もう少し、考えてみるよ。」
と俺は言った。

――――――――

クラブにて

「ゆ、ユージ君、どう?バイトする決心ついた?」
とハンナ先輩が話しかけてきた。

「ええ、もうほぼ決めてるんですが・・実は気鬱持ちなので突発的な休みをもらうことがあるかもしれません。あと学校のイベントとか。そのあたりは大丈夫でしょうか?」

「うちはもともとお父さん、お母さんで回してるから大丈夫だと思うよ?でも一応聞いてみるね?」
と確認を請け負ってくれた。

翌日、大丈夫だったよ、とハンナ先輩から許可をもらった。

――――――――

数日後。

俺は履歴書らしきものを握りしめ、『インディーズ・カフェ』に向かっていた。
履歴書と言っても日本にいたころのことを書くとややこしくなるので『英雄の村』出身、という程度にぼかしておいた。

「お待たせしてすみません。ユージです。アルバイト募集の件で来ました。」

「おお!あんたかい?決心はついたのかい?」
さっそくメグ母さんが話しかけてきた。

「はい、お願いしたいと思ってます。これ、一応経歴です。」
と書いてきたものを渡すと、

「おや?あんた『英雄の村』出身かい?じゃあ賢者ルースや元騎士長ベルフェ知ってるかい?」

有名だなあの二人。

「はい、お二人には色々と手ほどきいただきました。」

「そうかいそうかい、これでますます安心だねぇ!ああ、ハンナから聞いたが気鬱持ちだって?きついときは、ハンナに言うか、私に言えば問題ないからね!大丈夫だよ!」
と言ってくれた。

「やぁ、来たのかい!」
奥からお父さんが顔を出す。

「ああ、あんたこの前のハンナの後輩君だよ!決めたってさ!」

「おう、それは良かった!あ、僕はダムド。ダムド・インディだよ。よろしく。」

「ユージ・ミカヅチです。よろしくお願いします。」
と頭を下げた。

「それじゃ早速仕事に入ってもらおうかね!まずは皿洗いからだ!」
とメグ母さんが言った。

「丁度、夜の混雑前だから数は少ないけど、とりあえずそこにある皿からやってくれるかい?皿にこのダムダムの樹脂を付けて洗うんだ。」
ダムド父さんが見本を見せてくれる。

ダムダムの樹脂は丁度日本の液体せっけんのような感じで皿を洗うとピカピカになる。

俺は日本でも皿洗いのバイトをしていたことがあったのでさほど不安を感じることもなく作業に没頭した。

「ほう、なかなか手際がいいじゃないか。」

「以前少し家の手伝いでやってたんです。」
とごまかしておいた。

「じゃあ次はこっちの料理だ。うちはカフェだから難しい調理はしないけどね。」
とパスタを作り始める。

「丁度内側に線が一本残ってる感じで茹で上げるんだ。始めは壁に貼り付けてみるとわかりやすいよ」
とパスタを壁にくっつけて見せる。

アルデンテのようなものか。

「あの、時計を使うわけにはいきませんか?」

「すぐ体で覚えるから大丈夫だよ。」
と却下されてしまった。

俺は見様見真似でパスタを茹でてみる。

うーん、体感三分ちょいってところか。

と、パスタを作っていると、

「ただいまぁ~おなかすいたぁ」
と声が聞こえてきた。

ハンナ先輩だ。

「お帰り!今丁度あんたの後輩君が厨房で勉強してるとこだよ!」

と、ハンナ先輩が厨房を覗き、

「ユージ君、うちに決めてくれたんだね!これからよろしく・・って今作ってるのもらってもいい?」

「あ、ああ、どうぞ先輩。まだ初めてなので味の保証はできないですけど・・」

「いただきま~す!あれ、まだちょっと固いみたい・・。」
ダメ出しをされてしまった。

「すみません、あと少し茹でるべきでした!」

「いいよいいよ、まだ食べられないわけじゃないし。」
とお腹がすいていたせいかペロリと食べてしまった。

クラブでのハンナ先輩のイメージと違うなぁ・・。小食のイメージだったけど。

「じゃあ今度は私が作ってあげるね!」
と言うとササッとサンドウィッチを作ってくれた。

これはありがたい。
一応寮でも晩飯は出るのだが、時間がずれてしまって間に合いそうになかったからだ。

「いただきます。お!」

「お?」

「おいしいです・・絶妙な塩加減にハムと卵がマッチして・・」

「ふふ、結構長いこと家の仕事は手伝ってるからね?」
ハンナ先輩がドヤ顔で言う。

やっぱり経験値の差だな。

と、七時を過ぎることから店が混み始めてきた。

「ほい、そろそろ混んできたよ!ユージ、早速だが、皿片っ端から洗っておくれ!」
メグ母さんが気合を入れなおす。

「はい、皿はこっちにまわしてください。」

・・それから九時までは戦争状態のような忙しさだった。

数日、料理や接客を教えてもらいつつ、忙しい日々を過ごした。

――――――――

ある日。

「おお?こらあ、嬢ちゃんこっちきて酌しろやぁ!」
と怒号が聞こえてきた。

「す・・すみません、お客様、当店ではそういったことはしておりませんので・・」
ハンナ先輩が絡まれているみたいだ。

時間は八時過ぎ。この時間になるとバーとしての店になっていくため、こういった酔っ払いも現れる。

「ちょいとお客さん、飲みすぎだよ!そろそろ帰ったほうがいいんじゃないかい?」
とメグ母さんが助けに入る。

「おいおい、この店は客を無理やり帰そうとするのかぁ?(ヒック) 俺ぁまだ飲み足りねぇんだよ!さっさと酌しろや!」
酔客が更に絡みだす。

ちょっとまずい流れだな・・助けに入るか・・

と俺が動こうとすると

「お客さん、ちょいと酔い過ぎだね。」
とダムド父さんが出てきた。

そして、男の腕を取ると、あっという間に逆手にねじり上げてしまった。

「いて、いててて!何しやがる!!」

「そろそろお帰りの時間だよ!」
ダムド父さん、更にねじり上げると、店の外へ放り出してしまった。

「ち、ちっくしょー!覚えてろよ!!こんな店、二度とこねぇからなぁ!」
とテンプレなセリフを吐いて男が去っていく。

お父さんやるなぁ・・

荒事に向いてなさそうな雰囲気だったのに・・

「いや、これでも昔Cクラス冒険者だったんだよ。昔の話だけどね。」
と明かしてくれた。

道理で。

「こういうお店をやってると、たまにあるんだ。だから慣れだよ。」

なるほどなぁ・・。

「ま、ユージ君もいざというときは頼むよ?結構やるって話じゃないか?」
とダムド父さんがニヤリと笑って言った。

「い、いえいえ、僕は今一つ気が弱いもので・・」
と答えた。

アイズやウルヴァンとの戦いは、たまたまうまく行ったけど、気の弱さは変わらない。今でも街のチンピラにビビるくらいだ。

ダムド父さんは
「ま、そういうことにしておこうか。でも僕がいないときは頼むよ?」

「はい。自信はないですが・・わかりました。」
と一応答えておいた。

――――――――

更に数日。

友人たちがちょくちょく顔を出してくれるようになった。

「おいおい、注文くるのおせーぞ!ニャハハ!」
キースが冗談ぽくいちゃもんを付けてくる。

「キース君ダメだよ。ユージ君も忙しいんだから・・」
とアイリスがフォロー。

「ふーん、ちゃんと働いてるじゃない、ユージ?」
アカネが見直したように言ってくる。

「僕お腹すいた。」
ひたすら食欲のアイズ。

「あんまからかうなよ?ほい、お待たせ!」
と注文を出す。

また別の日には、Bクラスの友人も来た。

ダース、フレンダ、レインという面々。

ダースが
「おお?なかなか頑張ってるじゃねぇか?ユージ?」
と感嘆している。
ダースは子供の頃から何回も来たことがあるらしく、この店のことはよく知っていた。

「雰囲気は・・悪くないわね。落ち着いた感じだし。ここなら風紀も大丈夫かしら?」
とフレンダ。いや、遅くなってくるとそれなりに風紀悪いぞ、と言いたいのをこらえる。

レインは
「あら、ここのパフェ美味しいですわ!家のものに言ってメニューに加えさせようかしら?」
家のものって、まぁ、料理番がいるんだろうなぁ・・さすがお嬢様だ。

時折、全員が揃うこともあり、またウェイ部長や、Bクラスのマーティン先生、Fクラスのブリッツ先生も来てくれた。

「いやぁ、あんたのおかげで学園のお得意様が増えたねぇ!うちのハンナは全然連れてこないからねぇ!!」
とメグ母さんが、からかって言う。

「もう!私は友人誘うのが得意じゃないの!いつも言ってるでしょうお母さん!」
ハンナ先輩が反撃するが、メグ母さんはガハハと笑い飛ばしてしまう。

「いや、僕も得意じゃないですよ・・今の友人はたまたまです。」

「そうかいそうかい。まぁうちはお客さんが来てくれりゃなんでもいいさね!」

まぁそりゃそうだよな。

といった感じで俺は忙しい日々を過ごしていた。
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