無職メンヘラ男が異世界でなりあがります

ヒゲオヤジ

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第二章

クラーケン

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巨大なタコだった。

「クラーケンだぁ!」
誰かが声を張り上げる。

クラーケンとは、地球ではこう言われている。
北欧の海の怪獣。背の周囲が2.4キロメートルあり、天地創造の時に生まれ、世の終わりまで生き続けるという。

そのクラーケンは・・

2.4キロメートルはなさそうだったが、俺たちが乗っている船を見つけるといい獲物を見つけたとばかり、足を船体に巻き付かせてきた。

船員さんはそれぞれ武器を持って引きはがそうとするが、もちろんそんなことではがせるわけもなく、船体がミシミシと音を立てる。

「風刃!」
ウェイ部長が真っ先に魔法を飛ばす。

だがその柔らかな触手が衝撃を吸収してしまうようでダメージを与えられない。

「炎弾!」
アカネの魔法が飛ぶ。

さすがに炎魔法には弱いのか多少の動揺が見られた。
しかし、それでも巻き付いた手を放そうとしない。

「まずいですわね・・。」

レインが船員に指示を飛ばす。

「皆、救命ボートの用意を!」

その指示を聞き、船員たちが再び我に返ったように動き出す。

しかし、この巨大な魔物がいる限り、ボートに移ったとしても生存は難しいだろう。

ここで奴を倒さなければならない。

アカネの炎で多少緩んだ触手にハンナ先輩が連続で風刃を飛ばす。

しかし、やはり風魔法は通りにくいようだ。

俺は剣をレインの屋敷に置いて来ていた。

『ホーンテッド、来い!』
と愛剣を呼び寄せる。

次の瞬間手にホーンテッドが現れる。

まずは普通に切りつけてみた。

すると傷はつくものの切断に至るほどではない。

あの表面のヌメヌメをなんとかしないと・・・

俺はウェイ部長に
「ウェイ部長、サンダーストームはできませんか?」
と聞いてみた。

「ダメだ!ここで使ったら、乗員まで感電してしまう!」

・・そっか・・電撃系は厳しいか。

するとアカネの炎に頼るしかない。

「アカネ、奴を空間魔法で固定して攻撃できないか?」

と聞いてみた。

「無理よ!今だとあいつの触手まで空間に閉じ込めなきゃいけない!船まで空間内に入っちゃうわ!」

やっぱりまずは触手をなんとかしないとだな・・

ちなみに俺はカナヅチだ。海中では戦えない。

よし!

「コール!柳生宗矩!」
体に力が湧き上がる。

柳生宗矩は、大坂夏の陣の時には2代将軍・秀忠の本陣で宗矩が刀を抜いたかと思うと、そこには7人の豊臣方が倒れていたと言われる、柳生家の繁栄を確とした剣豪である。政治家としても優秀で剣禅一如や活人剣を唱え、時の将軍に多大なる影響を与えたという。

俺はさらにホーンテッドに操気の術で真空をまとわせ、クラーケンの触手に切りつけた。

『ボォォォ!』
クラーケンが鳴く。

全てとはいかないが、半分ほど切ることができた。

よしこの調子だ。

「!ユージ、上!」

アカネの声にふと上を見るとクラーケンがその残りの触手を俺に叩きつけようとしている!

俺は慌てて風魔法でサイドステップすると、ゴォォンとすごい音を立てて触手が甲板に叩きつけられた。

甲板は一撃で叩き壊され、木製の床に大きな亀裂が入った。

「クッ!」

俺は急いで体勢を立て直すと、甲板に一撃をくれた触手に切り込む。

今度も半分ほどまで断ち切れた。

切りつけられた触手は痛みをものともせず暴れている。

!そうだ、もしかしたら・・

「アカネ!甲板に巻き付いてるやつで無事な触手に炎弾頼む!」

「!?わかったわ!」
アカネが炎弾を無事な触手に放つ。

見事ヒット!

炎弾が当たった触手はブスブスと煙を出しながらうごめいている。

今度はどうだ?

俺はアカネが炎弾を放った箇所に向かって切りつけた。

「ハァッ!」

すると、よし!今度は一撃で切断できた。

「よし!ユージ!やったな!」
ウェイ部長が叫ぶ。

「表面の滑った部分を焼いてから切りつければ、効果があります!」
と答えると、

「アカネ!皆さん、巻き付いてる触手に今の通りに炎魔法をお願いします!」

それを聞いて、アカネを始め、ウェイ部長、ハンナ先輩、レインが炎魔法を次々と繰り出した。

俺は炎魔法で焼けた箇所を片っ端から切り落としていく。

『ボォォォン!』
クラーケンがさすがに痛みに耐えかねたのか、単に足がなくなったら不便だと思ったのか、船体に巻き付いた触手を放していく。

よし、もう一息だ。

するとクラーケンが船の下に潜り込むような動きを見せた。

まずい!下にもぐられたらどうしようもなくなる!

「アカネ、今なら空間魔法であいつの本体を固定できないか?」

「やってるのよ!ちょっと待って!こんな大質量、簡単には固定できないわ!」

よし、アカネが魔法を発動するまでにできることは・・

「アイリス、船体のヒールはできるか?」

「?そんな事考えたこともないよ!わからないけど、やってみるね!」

「エリア・ヒール!」
アイリスが船体にヒールをかける。

淡い光が船体を包む。

すると生命体ではないので効果は遅いものの、船体の傷が多少修復された。

「残りの皆さんは風魔法で燃やした触手部分を攻撃してください!」

「おう!」「わ、わかったよ!」「了解ですわ!」
ウェイ部長、ハンナ先輩、レインがそれぞれ応答する。

俺はそれを見て未だ残った触手に向かい切り落とした。

これで船に巻き付いた触手ははがせた。

すると、

「ユージ!準備できたわよ!」
とアカネの声が上がる。

「よし、それじゃ、奴の体を固定してくれ!!」

「了解!エェーイ!!」

すると半分ほど海中に沈んでいた体がそこで固定され、ピタリと止まった。

「よし、アカネ、例の複数熱線はできるか?ルースの?」

「!簡単に言ってくれるわね!やってやろうじゃない!」

アカネは固定したクラーケンの空間内に炎弾を複数作り出した。

「よし、頼む!」

「いくわよ!複角度マルチアングルヒートレイ!」

『ボボボォォォオオ!』

クラーケンの体に複数の熱線が突き刺さり、その体を焦がしていく。

貫通こそしないものの、その体全体は焼け焦げた色を示し始めた。

「アカネ、空間の一部に俺が通れるような隙間を開けてくれ!」

「?わかったわよ!でももう、そろそろ魔力の限界よ!」
といいつつ俺が空間内に入れるくらいの隙間を開けてくれた。

・・

今だ!

俺は風魔法をまとってクラーケンを固定している空間内に飛ぶ。

クラーケンは飛び込んできた人間に驚いたのか、距離を置こうとするが、アカネの空間魔法で固定されているため動くことができない。

俺はとりあえず目に突きを入れてみた。

『ボォォォオ!』

効いているのかどうかわからない。

なにせ、図体がでかすぎて急所に届いているのかどうかわからないのだ。

いや・・待てよ?確かタコの急所は・・

「目と目の間・・そのすぐ下だ!」

俺は日本でタコを〆るテレビを見たことを思い出し、その場所に突きを入れてみる。

更に下に切り抜く。

『ボォォォオ!』

ダメか・・でかいせいで急所に届かない。

いや、まてよ?今なら使えるかもしれない。
「操気の術!」

再び風を呼ぶ。そして、
真空エバキュエイテッド固定フィックス!」

一気に風を真空に練り上げていく。

伸長エクステンション!」
刀身が1メートルほど伸びた!

これなら!

「ぬあああ!!」

俺は急所目指して一気に切り裂く!

クラーケンの眉間から下が切り裂かれる。

『ボボボォォォオオオオ!』

まだ届かないか・・?

ならば!

今度は切り裂いたクラーケンの眉間下から体内に自分の体をねじりいれた。

そろそろタイムリミットだ。

「ずりゃああああ!!」

クラーケンの体内で粘液にまみれながら、伸ばした真空のホーンテッドを再度突き入れ、力任せに切り落とす。

『ボ・・ボボ・・』

クラーケンの体から力が抜けていく。

もう一発だ。

これで恐らく、コール効果は切れてしまう。

再度体をクラーケンの内部にねじりこむ。そして
「いい加減くたばってくれよ!ぬおおおおお!!」
突き入れ、切り落とした。

クラーケンは
『ボオオオオオン!!』
と叫び声をあげると、徐々にその体から力を失っていった。

・・・
・・


動きがなくなった。

どうやら仕留めたようだ。

ようやくおとなしくなってくれたか・・

体内に体をねじりこんでいるため、息も限界だ。

俺はクラーケンの粘液まみれになりながら体外に脱出する・・と、クラーケンが海中に沈んでいく。

連れて俺の体も海中へ・・

・・

やばい、俺泳げないんだった。

俺はクラーケンの外に出ると、海上でアップアップしたながら、

「俺、泳げないんだ!誰か助けてくれぇ~!!」
と情けない悲鳴を上げていた。

べ・・別に最後が情けないのはいつものことだし?気にしないし??
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