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第二章
一戦明けて
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クラーケン戦後、俺はアカネたちに船に引き上げられていた。
横たわっていると、アカネが言う。
「まったく!なんであなたはいつも戦闘後ダメになるのよ!」
「いやぁ・・狙ってるわけじゃないんだけどね・・ハハ・・」
「戦闘中と戦闘後の差が激し過ぎよ!」
そういわれても。ん?戦闘中は格好いいってこと?
「ち・・違うわよ!」
否定されてしまった・・。
・・・
船長さんや、船員さんも集まってきた。
「いやぁ、この度は本当にありがとうございました!さすがはお嬢さまのご学友ですな!」
「いえいえ、撃退できてよかったです。船は大丈夫ですか?」
と俺が甲板を見つつ言う。
甲板は損傷が見られるものの、船体はどうだろうか。
「ええ、アイリスさまのおかげもあってなんとか帰れそうです。」
それは良かった。
「私も人間以外にヒールかけたのなんか初めてだよ!さすがに生物にかけるほどは効かなかったけど。木製だったから効果あったのかなぁ・・?」
アイリスが首をかしげる。
まぁ何事もやってみるもんだな。
ウェイ部長がやってきて、
「ユージ、今回はお手柄だったね!クラーケンを仕留めた剣も見事だったけど、指示も的確だった。」
と褒めてくれた。
「いや、なんか必死にやってたら思いついて。生意気ですいません。」
「いいんだよ。非常時に先輩も後輩もない。」
「本当に良かったですわ!船も無事に済みましたし・・今回特に功績の大きかったユージさんとアカネさんには、家から何かお礼を差し上げなくては・・」
レインが言う。お礼ってなんだ?正直金なら助かるけど、同級生からもらうのもなぁ・・
「いやいや、そんなのいらないよ。今回は皆の功績。それでいいじゃない?」
「そういうわけにはまいりませんわ!何か考えておきます。」
とニッコリ回答するレイン。
うーん、まぁいいか。
ハンナ先輩が来て言う。
「ゆ、ユージ君、すごかったね!クラーケンの体内に入っていったときはびっくりしたよ!」
「いや、急所に届かなかったから仕方なく、です。おかげさまでこの通り。」
と、クラーケンの体液と海水で酷い有様の自分を見せる。
「アハハ!名誉の負傷ならぬ名誉の汚れだね!でも怪我なさそうで良かったよ。うちのバイトもあるしね。」
「おかげさまで無事です。ただこの臭いのがなんとも・・」
「帰ったらゆっくり洗い流してね。」
「はい。」
そんな話をしつつ・・俺たちは無事に陸まで辿り着いた。本当に船が大丈夫でよかった。
――――――――
陸に到着すると。
船長、船員たちは港の管理組合や地元ギルドへ。
俺たちはとりあえずレインの別荘へ引き返した。
まずはシャワーを浴びる。
ようやくクラーケンの匂いや海水を洗い流してさっぱりした。
部屋で落ち着いてると、
『コンコン』
ノックの音。
「ユージ様、落ち着かれたらリビングに来るようにとのレインお嬢様のお言葉です。」
召使いの方だった。
?なんだろう?
リビングに降りていくと、
「あら、ユージさん。いらしたのね。」
とレインはじめ、皆が出そろっていた。
「こちら地元の漁協の方々です。」
「ライン・ビーチ漁業協同組合の代表をしておるものです。この度はクラーケンを討伐いただき、ありがとうございました。」
と、代表者の方が頭を下げた。
「いえいえ、たまたま出会っただけですから。」
ウェイ部長が答える。
「いえいえ、ここ最近の不漁の理由がまさかクラーケンだったとは・・思いもしませんでした・・が、おかげさまで、これでまた漁ができます。」
と顔をほころばせる。
「明日、早速取れた魚を届けさせます。どうぞご堪能ください。」
と漁協の代表者の方は去っていった。
今回は地元の方たちにも大きな事件だったようだ。
少しは役に立てたんならうれしい。
「お嬢様、ギルドの方がいらっしゃいました。」
召使いの人がレインを呼ぶ。
「初めまして、皆さま。ライン・ビーチのギルド長を務めております、ヘスティと申します。」
ヘスティが挨拶をする。
「今回はクラーケン討伐、ありがとうございました。不漁の原因がわからなかったため、冒険者への依頼としては出しておりませんでしたが、今回の件は明確に功績となります。」
「どういうことですの?」
レインが聞くと、
「ギルドランクに影響を与える記録に残るということです。通常、Fクラスからのスタートとなるギルドランクですが、今回の件を考慮し、上位のクラスからスタートといったことが可能になるかもしれません。」
それは、俺やアカネなど早く実績をあげたいものにとってはありがたいな。
「今回のクラーケン討伐については冒険者か否かにかかわらず報奨金が出されます。後ほど通達が行くかと思いますので少々お待ちください。また勲章授与がある可能性があります。いずれにせよ、皆さまが王都に帰還してからのお話となるかと思いますが、その心づもりでいてください。」
なんだか大事になってきたな。
「それでは皆様、改めてありがとうございました。ラインビーチを代表してお礼を申し上げます。」
ヘスティが立ち去っていく。
想像以上にクラーケン討伐は大きかったみたいだな。
まぁ苦労した甲斐はあったかな。
「それではみなさま、取り急ぎ料理を準備させましたので召し上がりください」
レインが言う。
そういえばしばらく食ってなかったな。気が付いたら腹が減ってきた。
俺たちはとりあえず食事をご馳走になった。
――――――――
翌日は漁協組合の人が持ってきてくれた様々な魚を使ったシーフードだった。
うーん、うまい。
久々の魚だった。日本で食べて以来だったから感慨もひとしおだ。
なんと刺身まであった。これも初代王様の影響だろうか?
シーフードを堪能しているとウェイ部長が言った。
「さぁ、みんな。今日で最終日だ。色々あったが、最後は合宿の予定通り訓練を行って学園に帰還する。」
「「「「はい!」」」」
俺たちは思い思いに修業をし、学園への帰途についた。
――――――――
帰り道。
「それにしてもクラーケン、大きかったねぇ?」
アイリスが感想を述べる。
クラーケンの巨大さにいまだ驚きが残っているようだ。
「ええ。あんなに大きなモンスターは滅多にいないでしょうね。焼き殺せればよかったんだけど、私もまだまだだわ。」
アカネが言う。
「いや、アカネは十分やったよ。アカネの炎がなければ倒せなかったかもしれない。」
「あら、ユージ。それ誉め言葉?」
「もちろん。」
「一応お礼を言っておくわ。ふふ。」
「本当だ。」
実際アカネの空間と炎の複合魔法がなければ倒せなかったし、良くても、逃げられていたか、船の下にもぐられて船体が破壊されていたかもしれない。
「でも今回の件で風魔法研究部も少しは有名になったかしら。」
「うーん、どうなんだろう?学園には伝わるらしいからそれで少しでも部の助けになればいいんだけど。」
そんな会話をしながら俺たちは王都についた。
学園に馬車が着くと、
「それじゃ、皆、今日は解散だ。まずはゆっくり体を休めてくれ。」
ウェイ部長のあいさつで俺たちはそれぞれ解散し、自宅に帰っていった。
――――――――
翌日。
「おいおい、ユージ!クラーケン倒しちまったってなぁ?」
登校するとさっそくダースが話しかけてきた。
「まぁ・・。皆の力を合わせてなんとかなったって感じかな?アカネも大活躍だったよ。」
「おお、アカネちゃんが?さすが俺の女神だぜ!」
「クラーケンみたいな軟体動物には衝撃が通りにくいのよねぇ。私は何もできなかったかもしれないわ。」
フレンダがポニーテールを揺らしながら言ってきた。
やはり武術家だけあってシュミレーションをしてしまうのだろうか。
「まぁ、今回とどめを刺したのはユージ君だからね。最後はクラーケンの中に入っていって切り裂いたんだよ?びっくりしちゃった。」
とアイリス。
「クラーケンの体内に?すげーな、ユージ!」
ダースが驚いたように言う。
「いや、そうじゃなきゃ急所に届かなかったんだよ。まぁ半分ヤケクソみたいなもんだよ。」
「まぁこれでドラゴンバスターに加えてクラーケンハントまでしちまったわけだ。どうなるか楽しみだぜ!」
うーん、そんなに変わるもんかな?
「さぁ、みなさん、そろそろ授業ですわよ!席にお戻りになって!」
レインがパンパンを手を打って皆を席に戻らせる。
忘れてたけど、レインは委員長だった。
やがてマーティン先生がやってきた。
「みなさんおはようございます。どうやら知れ渡っているようですが、風魔法研究部がクラーケンを倒すという偉業をなしとげました。」
みなざわざわと俺たちを見る。
「今回の件で表彰があります。この後講堂で表彰式を行いますので、皆さん移動してください。」
おっとそんなものがもらえるのか。なんか想像以上に影響がでかいな。
講堂では、俺、アカネ、アイリス、レイン、ウェイ部長、ハンナ先輩が壇上に立ち、ロイド学園長から表彰状をもらった。
「諸君の偉大な功績をここに称える!よくやってくれたね!」
ロイド学園長が祝辞を述べる。
代表してウェイ部長が受け取った。
今回の戦いはアイズとの戦闘やウルヴァンとの一戦と異なり、地元民の人たちのためになったな。それは今までにない達成感を俺に感じさせた。
生徒から拍手があがる。
ちょっと照れ臭い。
見るとアカネも顔を少し赤らめている。アカネでも緊張するんだな。
――――――――
放課後、
風魔法研究部には数十人の入部希望者が詰めかけていた。
「ちょっと・・これはすごいわねぇ・・少しは増えるかも、と思ったけどこんなに入部希望者がくるなんて。」
アカネが驚いている。
「俺たちの想像以上にクラーケン討伐は大きかったんだな・・」
俺も驚いて生徒たちを見ていた。
「私先に入っておいて良かった・・」
とアイリスも感想を口にする。
なんとフレンダも来ていた。
「私は風紀委員との兼部になりますけど、よろしくお願いいたします!」
ウェイ部長に挨拶をしている。
「おいおい、フレンダ、どうしたんだ?」
俺が聞くと、
「武術に風魔法はマッチしてるのよ。高速移動なんかぴったりでしょ?」
まぁ確かに。
「前々から考えてたの。でも風紀委員があったから兼部はどうかな・・って思ってたんだけど、今回の風魔法研究部の活躍を聞いてやっぱり入ろうと思ったのよ。」
うーん、クラーケン討伐は風魔法はさほど活躍してなかったような・・まぁ。触手切るのには役立ってたけど。
「それに、風刃とか、切る技は私の武術にないものよ。身に着けておいて損はないでしょう?」
それは・・そうかもしれないな。
それだけ言うとフレンダは颯爽と入部希望者の列に戻っていった。
「さぁ、それでは皆簡単なテストをしていくよ?この人数全員はさすがに入部しても面倒見切れないからね!」
ウェイ部長が簡単な入部テストをするようだ。
「じゃあまずは風刃から!あの的に向けて風の刃を飛ばしてみて!」
入部希望者たちは思い思いに風刃を的に飛ばしていく。
うーん、俺よりうまいな。
しかし、大体は的に当てるのが精いっぱいで切り裂くまでには至らない。
その中で一人気弱そうな男の子が見事に風神で的を切り裂いていた。
「ほう、君は・・1年のハル・ハウストン君か。なかなかやるね!」
「あ・・ありがとうございます!このために修業してきました!」
ハル・ハウストンと呼ばれた男の子が緊張しながらも答える。
「ハル君・・頑張ってたのね・・。」
アカネが感慨深そうに見ている。知り合いのようだ。
その後、風刃の実技テストを終え、躁気の術を用いての移動やジャンプなど一通りテストを終える。
移動についてはフレンダが抜きんでていた。風魔法を武術に使いたいというだけはあるな。練習していたのだろう。
最後に入部動機を聞くターンになった。
「それでは、ハル・ハウストン君、君の入部動機は?」
「はい!僕はローゼンデール先輩のように強くなりたくて、修業してきました!憧れの先輩のもとで頑張りたいです!」
と、アカネへの憧れを隠さずに言ってのけた。
ふとアカネを見るとなんかもにょもにょしている。照れているのだろうか?
「ふむふむ、目標があるのはいいことだね!実技も良かったし・・よし、結果は後ほど発表するが、君の入部を前向きに考えてみるよ!」
ウェイ部長からお褒めの言葉が出た。
「お願いします!」
と頭を下げるハル君。
なんか微笑ましいな。
アカネは早速、
「おめでとうハル君。入部できたら一緒に頑張りましょう?」
とハル君に声をかけている。
「はい、よろしくお願いします!ローゼンデール先輩!」
「アカネでいいってば・・まぁもうどっちでもいいわ。」
ハル君は満身にアカネへの憧憬を見せながら喜んでいた。
アカネ、後輩にもモテるな。
結局、フレンダやハル君を含む、5名ほどが入部することになった。
賑やかになりそうだな。
横たわっていると、アカネが言う。
「まったく!なんであなたはいつも戦闘後ダメになるのよ!」
「いやぁ・・狙ってるわけじゃないんだけどね・・ハハ・・」
「戦闘中と戦闘後の差が激し過ぎよ!」
そういわれても。ん?戦闘中は格好いいってこと?
「ち・・違うわよ!」
否定されてしまった・・。
・・・
船長さんや、船員さんも集まってきた。
「いやぁ、この度は本当にありがとうございました!さすがはお嬢さまのご学友ですな!」
「いえいえ、撃退できてよかったです。船は大丈夫ですか?」
と俺が甲板を見つつ言う。
甲板は損傷が見られるものの、船体はどうだろうか。
「ええ、アイリスさまのおかげもあってなんとか帰れそうです。」
それは良かった。
「私も人間以外にヒールかけたのなんか初めてだよ!さすがに生物にかけるほどは効かなかったけど。木製だったから効果あったのかなぁ・・?」
アイリスが首をかしげる。
まぁ何事もやってみるもんだな。
ウェイ部長がやってきて、
「ユージ、今回はお手柄だったね!クラーケンを仕留めた剣も見事だったけど、指示も的確だった。」
と褒めてくれた。
「いや、なんか必死にやってたら思いついて。生意気ですいません。」
「いいんだよ。非常時に先輩も後輩もない。」
「本当に良かったですわ!船も無事に済みましたし・・今回特に功績の大きかったユージさんとアカネさんには、家から何かお礼を差し上げなくては・・」
レインが言う。お礼ってなんだ?正直金なら助かるけど、同級生からもらうのもなぁ・・
「いやいや、そんなのいらないよ。今回は皆の功績。それでいいじゃない?」
「そういうわけにはまいりませんわ!何か考えておきます。」
とニッコリ回答するレイン。
うーん、まぁいいか。
ハンナ先輩が来て言う。
「ゆ、ユージ君、すごかったね!クラーケンの体内に入っていったときはびっくりしたよ!」
「いや、急所に届かなかったから仕方なく、です。おかげさまでこの通り。」
と、クラーケンの体液と海水で酷い有様の自分を見せる。
「アハハ!名誉の負傷ならぬ名誉の汚れだね!でも怪我なさそうで良かったよ。うちのバイトもあるしね。」
「おかげさまで無事です。ただこの臭いのがなんとも・・」
「帰ったらゆっくり洗い流してね。」
「はい。」
そんな話をしつつ・・俺たちは無事に陸まで辿り着いた。本当に船が大丈夫でよかった。
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陸に到着すると。
船長、船員たちは港の管理組合や地元ギルドへ。
俺たちはとりあえずレインの別荘へ引き返した。
まずはシャワーを浴びる。
ようやくクラーケンの匂いや海水を洗い流してさっぱりした。
部屋で落ち着いてると、
『コンコン』
ノックの音。
「ユージ様、落ち着かれたらリビングに来るようにとのレインお嬢様のお言葉です。」
召使いの方だった。
?なんだろう?
リビングに降りていくと、
「あら、ユージさん。いらしたのね。」
とレインはじめ、皆が出そろっていた。
「こちら地元の漁協の方々です。」
「ライン・ビーチ漁業協同組合の代表をしておるものです。この度はクラーケンを討伐いただき、ありがとうございました。」
と、代表者の方が頭を下げた。
「いえいえ、たまたま出会っただけですから。」
ウェイ部長が答える。
「いえいえ、ここ最近の不漁の理由がまさかクラーケンだったとは・・思いもしませんでした・・が、おかげさまで、これでまた漁ができます。」
と顔をほころばせる。
「明日、早速取れた魚を届けさせます。どうぞご堪能ください。」
と漁協の代表者の方は去っていった。
今回は地元の方たちにも大きな事件だったようだ。
少しは役に立てたんならうれしい。
「お嬢様、ギルドの方がいらっしゃいました。」
召使いの人がレインを呼ぶ。
「初めまして、皆さま。ライン・ビーチのギルド長を務めております、ヘスティと申します。」
ヘスティが挨拶をする。
「今回はクラーケン討伐、ありがとうございました。不漁の原因がわからなかったため、冒険者への依頼としては出しておりませんでしたが、今回の件は明確に功績となります。」
「どういうことですの?」
レインが聞くと、
「ギルドランクに影響を与える記録に残るということです。通常、Fクラスからのスタートとなるギルドランクですが、今回の件を考慮し、上位のクラスからスタートといったことが可能になるかもしれません。」
それは、俺やアカネなど早く実績をあげたいものにとってはありがたいな。
「今回のクラーケン討伐については冒険者か否かにかかわらず報奨金が出されます。後ほど通達が行くかと思いますので少々お待ちください。また勲章授与がある可能性があります。いずれにせよ、皆さまが王都に帰還してからのお話となるかと思いますが、その心づもりでいてください。」
なんだか大事になってきたな。
「それでは皆様、改めてありがとうございました。ラインビーチを代表してお礼を申し上げます。」
ヘスティが立ち去っていく。
想像以上にクラーケン討伐は大きかったみたいだな。
まぁ苦労した甲斐はあったかな。
「それではみなさま、取り急ぎ料理を準備させましたので召し上がりください」
レインが言う。
そういえばしばらく食ってなかったな。気が付いたら腹が減ってきた。
俺たちはとりあえず食事をご馳走になった。
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翌日は漁協組合の人が持ってきてくれた様々な魚を使ったシーフードだった。
うーん、うまい。
久々の魚だった。日本で食べて以来だったから感慨もひとしおだ。
なんと刺身まであった。これも初代王様の影響だろうか?
シーフードを堪能しているとウェイ部長が言った。
「さぁ、みんな。今日で最終日だ。色々あったが、最後は合宿の予定通り訓練を行って学園に帰還する。」
「「「「はい!」」」」
俺たちは思い思いに修業をし、学園への帰途についた。
――――――――
帰り道。
「それにしてもクラーケン、大きかったねぇ?」
アイリスが感想を述べる。
クラーケンの巨大さにいまだ驚きが残っているようだ。
「ええ。あんなに大きなモンスターは滅多にいないでしょうね。焼き殺せればよかったんだけど、私もまだまだだわ。」
アカネが言う。
「いや、アカネは十分やったよ。アカネの炎がなければ倒せなかったかもしれない。」
「あら、ユージ。それ誉め言葉?」
「もちろん。」
「一応お礼を言っておくわ。ふふ。」
「本当だ。」
実際アカネの空間と炎の複合魔法がなければ倒せなかったし、良くても、逃げられていたか、船の下にもぐられて船体が破壊されていたかもしれない。
「でも今回の件で風魔法研究部も少しは有名になったかしら。」
「うーん、どうなんだろう?学園には伝わるらしいからそれで少しでも部の助けになればいいんだけど。」
そんな会話をしながら俺たちは王都についた。
学園に馬車が着くと、
「それじゃ、皆、今日は解散だ。まずはゆっくり体を休めてくれ。」
ウェイ部長のあいさつで俺たちはそれぞれ解散し、自宅に帰っていった。
――――――――
翌日。
「おいおい、ユージ!クラーケン倒しちまったってなぁ?」
登校するとさっそくダースが話しかけてきた。
「まぁ・・。皆の力を合わせてなんとかなったって感じかな?アカネも大活躍だったよ。」
「おお、アカネちゃんが?さすが俺の女神だぜ!」
「クラーケンみたいな軟体動物には衝撃が通りにくいのよねぇ。私は何もできなかったかもしれないわ。」
フレンダがポニーテールを揺らしながら言ってきた。
やはり武術家だけあってシュミレーションをしてしまうのだろうか。
「まぁ、今回とどめを刺したのはユージ君だからね。最後はクラーケンの中に入っていって切り裂いたんだよ?びっくりしちゃった。」
とアイリス。
「クラーケンの体内に?すげーな、ユージ!」
ダースが驚いたように言う。
「いや、そうじゃなきゃ急所に届かなかったんだよ。まぁ半分ヤケクソみたいなもんだよ。」
「まぁこれでドラゴンバスターに加えてクラーケンハントまでしちまったわけだ。どうなるか楽しみだぜ!」
うーん、そんなに変わるもんかな?
「さぁ、みなさん、そろそろ授業ですわよ!席にお戻りになって!」
レインがパンパンを手を打って皆を席に戻らせる。
忘れてたけど、レインは委員長だった。
やがてマーティン先生がやってきた。
「みなさんおはようございます。どうやら知れ渡っているようですが、風魔法研究部がクラーケンを倒すという偉業をなしとげました。」
みなざわざわと俺たちを見る。
「今回の件で表彰があります。この後講堂で表彰式を行いますので、皆さん移動してください。」
おっとそんなものがもらえるのか。なんか想像以上に影響がでかいな。
講堂では、俺、アカネ、アイリス、レイン、ウェイ部長、ハンナ先輩が壇上に立ち、ロイド学園長から表彰状をもらった。
「諸君の偉大な功績をここに称える!よくやってくれたね!」
ロイド学園長が祝辞を述べる。
代表してウェイ部長が受け取った。
今回の戦いはアイズとの戦闘やウルヴァンとの一戦と異なり、地元民の人たちのためになったな。それは今までにない達成感を俺に感じさせた。
生徒から拍手があがる。
ちょっと照れ臭い。
見るとアカネも顔を少し赤らめている。アカネでも緊張するんだな。
――――――――
放課後、
風魔法研究部には数十人の入部希望者が詰めかけていた。
「ちょっと・・これはすごいわねぇ・・少しは増えるかも、と思ったけどこんなに入部希望者がくるなんて。」
アカネが驚いている。
「俺たちの想像以上にクラーケン討伐は大きかったんだな・・」
俺も驚いて生徒たちを見ていた。
「私先に入っておいて良かった・・」
とアイリスも感想を口にする。
なんとフレンダも来ていた。
「私は風紀委員との兼部になりますけど、よろしくお願いいたします!」
ウェイ部長に挨拶をしている。
「おいおい、フレンダ、どうしたんだ?」
俺が聞くと、
「武術に風魔法はマッチしてるのよ。高速移動なんかぴったりでしょ?」
まぁ確かに。
「前々から考えてたの。でも風紀委員があったから兼部はどうかな・・って思ってたんだけど、今回の風魔法研究部の活躍を聞いてやっぱり入ろうと思ったのよ。」
うーん、クラーケン討伐は風魔法はさほど活躍してなかったような・・まぁ。触手切るのには役立ってたけど。
「それに、風刃とか、切る技は私の武術にないものよ。身に着けておいて損はないでしょう?」
それは・・そうかもしれないな。
それだけ言うとフレンダは颯爽と入部希望者の列に戻っていった。
「さぁ、それでは皆簡単なテストをしていくよ?この人数全員はさすがに入部しても面倒見切れないからね!」
ウェイ部長が簡単な入部テストをするようだ。
「じゃあまずは風刃から!あの的に向けて風の刃を飛ばしてみて!」
入部希望者たちは思い思いに風刃を的に飛ばしていく。
うーん、俺よりうまいな。
しかし、大体は的に当てるのが精いっぱいで切り裂くまでには至らない。
その中で一人気弱そうな男の子が見事に風神で的を切り裂いていた。
「ほう、君は・・1年のハル・ハウストン君か。なかなかやるね!」
「あ・・ありがとうございます!このために修業してきました!」
ハル・ハウストンと呼ばれた男の子が緊張しながらも答える。
「ハル君・・頑張ってたのね・・。」
アカネが感慨深そうに見ている。知り合いのようだ。
その後、風刃の実技テストを終え、躁気の術を用いての移動やジャンプなど一通りテストを終える。
移動についてはフレンダが抜きんでていた。風魔法を武術に使いたいというだけはあるな。練習していたのだろう。
最後に入部動機を聞くターンになった。
「それでは、ハル・ハウストン君、君の入部動機は?」
「はい!僕はローゼンデール先輩のように強くなりたくて、修業してきました!憧れの先輩のもとで頑張りたいです!」
と、アカネへの憧れを隠さずに言ってのけた。
ふとアカネを見るとなんかもにょもにょしている。照れているのだろうか?
「ふむふむ、目標があるのはいいことだね!実技も良かったし・・よし、結果は後ほど発表するが、君の入部を前向きに考えてみるよ!」
ウェイ部長からお褒めの言葉が出た。
「お願いします!」
と頭を下げるハル君。
なんか微笑ましいな。
アカネは早速、
「おめでとうハル君。入部できたら一緒に頑張りましょう?」
とハル君に声をかけている。
「はい、よろしくお願いします!ローゼンデール先輩!」
「アカネでいいってば・・まぁもうどっちでもいいわ。」
ハル君は満身にアカネへの憧憬を見せながら喜んでいた。
アカネ、後輩にもモテるな。
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ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
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