無職メンヘラ男が異世界でなりあがります

ヒゲオヤジ

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第二章

信長との語らい

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「よう、よく来たの。同郷の者よ。儂は信長じゃ。」

そこには肖像画などで描かれたままの織田信長がいた。
丁度亡くなったと言われている数え49歳(満年齢47)くらいだろうか。
しかし、伝えられているような刺々しさはなかった。

「その恰好は・・」

「ん?これか?このほうが信長とわかりやすいであろう?」

「あ・・はい・・いえ・・あの、本物の織田信長様ですか?」

すると信長はフッと笑い、

「お主が不審に思うのも分からんではない。何せ儂が生きていた時代から数百年経っておるからのう。」

「は・・はい。信長様は僕・・私の時代では日本史上最大の英雄です。」

「ほう・・キンカ頭(光秀)にしてやられた儂が最大の英雄のう。歴史とは面白いもんじゃな。」

信長は改めて
「して、儂のことじゃが・・なぜ数百年前の時代に生きた儂がここにいるかと言うと・・力を与えられたのよ。お主と同じようにな。」



信長もゲートを通って『建物』にたどり着いたのか!

「お主の来た『建物』とは異なると思うが。本能寺で切腹の準備をしておった儂は突然開いた次元ホールに引き込まれた。そこで『建物』内で目を覚ましたのよ。わしの願いは不老だった。今一度日本にて成し遂げられなかった天下布武をもう一度成してやろうかと思っての。それには時間が邪魔じゃった。だから時間を超越する存在になるため、不老を願ったのよ。当時この国は小国が乱立する群雄割拠の様相を呈していた。日本の戦国時代のようにの。そこで今一度統一事業に着手したのよ。」

確か信長の死体は見つからなかったはずだ。次元ホールに吸い込まれていたのか。

「そして小国を吸収合併、時に打ち滅ぼし、三十年ほどでこのローム王国を打ち立てたのよ。ロームは宣教師から聞いたことのあったローマ帝国をもじっての。」

「なるほど・・。統一はまだ道なかばですか?」

「いや、実は儂の不老には制約があっての。一日一時間ほどしか意識を保つことができん。今までは有能な家臣や子供たちを使って進めてきたが、ここが限界と思い定めたのよ。今は日本の文化を伝えることや民の生活水準を上げることに興味が向いておる。不老のせいか欲が無くなったのかもしれん。基本政治は王や王子たちに任せておるしの。そのうちまた気が変わるかもしれんが?」
とニヤッと笑って見せた。

伝え聞いているヒステリックな信長よりだいぶ角が取れた印象だ。
数百年の時を生きていればそうなるのだろうか?

「逆にいつ死んでもかまわんという心境ではあるな。永遠のときというものはときに人の意欲を失わせていくのかもしれん。」

なるほど。そういうものかもしれない。

「ときおり、お主のように地球、じゃったか?その地球からゲートを超えてくるものが現れる。そんなときはそ奴らの話を聞くことにしておる。」

信長はそう言って、

「最近の興味としては通信網、じゃな。未だ研究させておる段階じゃが現在の地球のように通信を発達させたいと思って居る。まずはデンキ、そしてデンワじゃな。」

「なるほど・・さすが目の付け所が素晴らしいですね。ところで信長様と言えば鉄砲ですが、この国には鉄砲がないのでは・・?」

「この世界に来てから、魔法や魔族、他種族の異能をさんざん見ての。鉄砲隊も持っておるが、そのままでは勝てないことが分かったのよ。それよりは魔術の方が効率が良い。優秀な魔術師であれば一人で一軍に匹敵するからの。だからこそこの国に魔法を教える教育機関を作ったのよ。」

確かに、アカネたちの魔法を見ていれば、鉄砲などは時代遅れになってしまうのだろう。

「そうれもそうですね。ところで信長さまの話しぶりに尾張弁がありませんが・・」

「儂が気を付けているのもあるが、この世界独特の、念話での会話法のおかげじゃろう。それに尾張弁でまくしたてられては地元出身者のものしかわからんからのぅ。」

「なるほど・・ところで王子さまの名前についてですが・・ノブタダ様はご嫡子のお名前ですよね?」

「王子や王には、代々日本での我が子らの名前を名乗らせておる。知っておるかもしれんが儂は名づけが面倒でな。今は儂の実子であった信忠の名を第1王子に名乗らせることにしておる。以降、子が生まれれば信雄、信孝など適当に付けておる。代が変わればまた繰り返しじゃ。最も和名はなじみにくい面もあってな。迅速なまつりごとに影響を及ぼす恐れもあるため、普段は別の名前を名乗らせておる。」

信長が奇妙丸や三七丸などと自分の息子たちに名付けていた話は有名だ。
この世界でも同じことをしていたのか。

「して、お主はどこの出身じゃ?」

「は・・はい。千葉・・じゃなかった、下総の出身です。」

「ほう、尾張とはだいぶ離れておるな。」

「今は新幹線という乗り物で2時間ちょっとです。江戸・・じゃなかった武蔵の国に首都の東京ができまして・・そこからシンカンセンという乗り物に乗りまして・・」

「みなまで言うな!シンカンセンのことやトウキョウのことは存じておる。家康が作った江戸の跡地であろう?」

「はい、その通りです。」

「先ほども申したが、儂は地球からの転移者より情報を入手しておる。お主が思うよりは現在の日本を存じておるぞ!」

「はい!失礼いたしました!」

「最も最近は転移者がおらんかったが。数年前かのう?最後の転移者が現れたのは。」

「ああ、それでしたら、ほとんど私が説明しなくてもご存じですね。」

「うむ。日本が米国と戦争をし、負けたことものう。」

「今はインターネット革命が起きて、携帯電話などを用いていつでも情報が引き出せるようになりました。」

「それも存じておる。しかし、その発展が人間の成長に伝わってるかはわからんな。」

「?どういうことですか?」

「己で考えることが無くなるということよ。儂の時代は古い本くらいしかなかったからの。その分、己で解決策を考えねばならなかった。もちろん儂などは勉強が嫌で外でばかり遊んでおってうつけと呼ばれたものじゃが。」
と信長は笑う。

「しかし信長様の遊びは戦いの模倣、実践訓練であったという方もいます。」

「おう、長柄の槍や集団戦などはよくやっておったの。まぁうつけ時代に実地に戦術を学んでいたのはあるな。」

「信長様のあとは秀吉様、家康様と天下の持ち主は変わりましたがそれについては、どうお考えですか?」

「筑前(秀吉)も三河殿(家康)も戦国に生きた武将じゃ。機会があれば取りに行くのが当然であろう。特に何も感慨はない。」

・・さすがだな・・これが戦国を駆け抜けた風雲児の冷徹な考えか。

「お主のことを聞かせよ。お主はどういった人生を歩んできたのじゃ?」

俺は今までのことをかいつまんで話した。

「ワハハッ!お主のようなものは戦国であれば真っ先に殺されていたであろう!まず家督を相続できんな!」

「はい、そう思います・・」

「それが、ドラゴンを撃退し、クラーケンを討伐するとはの・・。人とはわからぬものじゃ。」

「たまたまのまぐれです。」

「ふん、そういうことにしておこうか。」

「それよりお主じゃ。聞くところによると日本に帰りたいそうじゃの?」

「え・・ええ、はい。よくご存じですね。難しいことはわかっているのですが。」

「儂の情報網を見くびるでない。未だに草・・忍びを飼っておるからな。しかし、お主の願いについては簡単ではない。膨大なエネルギーが必要の上に、三国の同意が必要じゃからな。簡単ではないが不可能でもない。精進せよ。機会はいずれ巡ってくるであろう。」

「はい。ありがとうございます。」

「儂も協力できるところはしてやろう。現在のところは平和じゃからの。もっとっも他国や他族がいつ攻め込んでくるかもわからん。その備えはせねばならんがな。」

「他勢力との戦争はありうるんですか?」

「ないという方がおかしいであろう。人は拡大を目指すものじゃ。」

なるほど。さすがの見識だ。

「とはいえ、現在の状況は拮抗しており、停戦協定も各国と結んでおる。しかしお主も知っておるかもしれんが、浅井家は裏切った。そしてキンカ頭(光秀)もじゃ。人とは、げに思い通りにならぬものじゃ。」

確かに信長はその評判の悪さを利用され、本願寺などに宣伝に使われ、各勢力に敵対されたり同盟者や部下に裏切られていた時期がある。

俺が頷いていると。

「さて、そろそろ一時間じゃ。儂は眠りにつく。また何かあったら面会を申し込むがよい。」

と言って別室にさがってしまった。

ふぅ・・緊張したなぁ・・日本史史上最大級の英雄との話。
ありがたいやら、困るやら。

でも伝えられている人物像より、だいぶ丸くなっていた気がする。

やはり長い時を生きたせいだろうか?

それとも伝えられている信長像が間違っているのか。
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