無職メンヘラ男が異世界でなりあがります

ヒゲオヤジ

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第三章

氷竜の国

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「アイズ?どういうことなんだ?」
俺は慌ててアイズを問い詰める・

「使いの者が来た。父上が病気になった。国が荒れるかもしれない。」

「父上のことは心配だろうけど、それでアイズ、お見舞いとかで帰るわけじゃないのか?」

「父上が病気になったら国が荒れる。僕は姫だから混乱を収めなきゃいけない。」
アイズが珍しく決意に満ちた目で言う。

そうか・・竜人族でも王族となると色々あるんだな。

「だから急いで帰る。」

「そうか・・わかった。国が落ち着いたら連絡してくれよ。」

「うん。連絡する。」

――――――――

数日後。

アイズはバタバタと支度すると、しばらくして国へ旅立っていった。

俺たちはそれぞれアイズを見送ると
「まさかアイズがなぁ・・でも姫ならそういうこともあるのかな。」

あの時のアイズはいつもの飄々としたアイズではなく、王族の顔になっていた。

「まぁ、仕方ないわよ。立場も立場だしね。寂しいけどね。」
アカネが感想を言う。

「もっとアイズちゃんとは話したかったな・・もう会えないかもしれないんだよね?」

・・そうなんだよな。簡単な帰郷とは違う。国の混乱を収めるための帰還だ。そうそう会えるわけではないだろう。

俺たちはしばらくアイズの話でしんみりとしていた。

急だったので碌な挨拶もできなかったな・・。

ところが意外な展開が待っていた。

――――――――

数日後。

俺は信長様に呼び出されていた。

「ユージよ。この度はお主に氷竜族の国に行ってもらいたい。」

「!え!そこは先日私の友人が帰っていったばかりですよ?」

「聞いておる。アイズと申すものであろう。」

「国の混乱を収めるために帰還しましたが・・。何かあったんですか?」

「それがのう、想定以上に氷竜王のカリスマは大きかったらしくてな。そのドラゴンが崩御するかもしれんというので今まで押さえつけられていた不満分子が動き始めているのよ。」

「!アイズも心配していました・・そうですか・・。不満分子・・。」

「ドラゴンは他の魔獣とは存在がことなる。ドラゴンは理性的な種族じゃが・・反乱軍が暴れだしたら、国の一つや二つ崩壊しかねん。」

俺はかつてのアイズや赤竜たちを思い出して、さもありなん・・と納得した。
あの圧倒的な破壊力で来られたら人間は大混乱に陥るだろう。

「今回も好きなメンバーを連れて行ってよい。当然サンダユウを始め草も出す。必要なら後詰の軍も出すが・・軍はローム王国と氷竜族との戦いになりかねんため、正直、おぬしらだけでことを見て収めてほしいのが本音じゃ。」

「・・わかりました。まずは、様子を見て、できることがあるようであれば混乱の収束に努めます。」

「うむ。今回の任務も難しいものになるかもしれんが・・頼む。」

――――――――

俺はアカネとアイリスに事情を説明して着いて来てもらうことにした。
アカネには戦闘で頼らせてもらう。
アイリスには戦闘時の援護と、もしかしたらアイズのお父さんにもヒールが効くかもしれないという期待を持っている。

「はぁ、今度は氷竜の国だなんてね・・。ホントユージといると退屈しないわ。」
アカネがどこかウキウキしながらそんな感想を漏らす。

「私はアイズのお父さんが心配だな・・、私のヒールが効けばいいけど。」

「まぁ、まずは現状偵察だ。それから何をするかを決めていこう。」

俺たちは王宮が準備してくれた馬車に乗ると氷竜の国に向けて出発した。

・・こんなことならアイズに乗せて行ってもらえばよかった。
確かアイズだったら鱗干しに来れるくらいの距離なんだよな。
どのくらいかはわからないけど。

――――――――

数日後。

目的地に近づくにつれて峻嶮な山々が増えてきた。

空気もだいぶ冷えてくる。

一応防寒の準備はしてきたが、これで間に合うかはわからない。

「寒いね・・」
アイリスが襟を締めながら言う。

「ああ、さすがは氷竜族の国だな。」

「でも、人間にはちょっと厳しい環境ね・・。」
アカネもマフラーを巻きなおしながら言う。

俺も防寒着を羽織りなおした。
丁度、エスキモーが着ているような厚手のコートを着てきたがそれでも肌に染み入るくらい寒い。

アイズは良くこの環境から温暖なローム王国にやってきたな。
温暖差などドラゴンにはたいしたことないのだろうか。

そんなことを話しながらしばし。

やがて街が見えてきた。

――――――――

「ここがアイズの国か・・。」

「なんか思ってたより小さいね。」
周りを見渡しながらアイリスが言う。

「竜人族は数が少ないからこんなもんなんじゃない?」
アカネがそう感想をもらす。

街は丁度ヨーロッパの小さな街のようで、石造りで作られた建物が並んでいる。

家々に煙突が見えているのは暖炉があるのだろうか?
やっぱり竜人族といえど寒いのかな?

俺たちはとりあえず、王都が手配してくれた宿へと向かった。

宿は古風なロールプレイングゲームに出てくるような風体で、お世辞にも豪華とは言えない。まぁ、街を見ても高い建物が見当たらなかったからどこの宿もこんなものなんだろう。

「いらっしゃいませ!ローム王国からのお客さまですね?」

「ああ、はい。予約した3名です。」

「アイズ様のお友達ということで。お待ちしておりました。ごゆるりとお過ごし下さい。」

俺たちはとりあえず荷物を置きに2階の部屋に向かった。

アカネとアイリスで二人部屋、俺は一人部屋だ。

部屋にも暖炉がともっていたが人間にはやや肌寒い。

俺はロビーにあった大きい暖炉を思い出し、下へ降りてみた。

そこにはアカネとアイリスも来ていた。

「ユージも来たのね。やっぱり部屋の暖炉じゃちょっと寒いもんね・・」
アカネが人心地ついたように言う。
暖かそうなコーヒーを飲んでいる。

「あ、いいなそれ。俺ももらえるかな?」

「待ってて?今宿の人にお願いしてくるね?」
アイリスが取りに行ってくれた。

「はい。ユージ君。どうぞ。」

「ありがとうアイリス。早かったな?」

「やっぱり人間のお客さんには温かい飲み物を出すことが予想されるから準備してるみたい。いつでも出せるようにしてるんだって。」

「そりゃそうだよな。氷竜族ならともかく。人間にはちときつい。」
俺は暖かいコーヒーを飲みながらそう感想を漏らす。

「それで、これからどうするの?まずはアイズに会いに行く?」
アカネが尋ねてきた。

「ああ、王都からも連絡が行ってると思うが改めて会いたいことを伝えておいた方がいいだろうな。」

俺は宿の主人に聞いてみた。
「あの、アイズに使いを出したいんですが、どうすればいいですか?」

「ああ、それなら、私が行ってきますよ。ここからすぐですから。」

そりゃ助かるな。
それにしても民衆と王族との間が近いんだな。

俺たちはしばらく暖炉の前でくつろいであれこれと話をしていた。

「でもこんな平和そうな街で反乱なんてあるのかしら?」
アカネが疑問を呈す。

「まぁ、大体反乱軍なんてのは隠れてやるもんだからな。街中でドンパチにはならないだろう。」

「この中で戦うってなったらまず寒さと戦わないといけないわね・・。」

「見て。外。キラキラしてるよ?」
アイリスが外を見て言うのでそちらに目を向けていると確かに空気がキラキラと輝いていた。
ダイヤモンドダストという奴だな。

確かテレビで氷点下30度とかの国で見たことがある。

「多分、この気候が氷竜族の天然の防壁になってるのね・・。あまり大きな城壁もなかったし。」
アカネが言う。

確かに街に入ってきたときも申し訳程度に城壁が築かれていた程度だった。ローム王国の王都と比べたらだいぶこじんまりとしている。

「それにしても、家も人サイズだよね?竜化はしたりしないのかな?」
アイリスが言う。

確かに。しかし竜化なんかしたらこの街自体があっさり崩壊しそうだ。

「そのあたりは人間の姿の方が便利なんじゃないか?アイズも学園ではずっと人間の姿だったし。」

「言われてみればそうだね!アイズが竜化したのなんて遠征合宿で初めて会った時とこの前のテイマー戦くらいだもんね。」

「竜のサイズに合わせて街を作っていたら経済的にも割りが合わないんじゃない?全部大型にしなきゃだめでしょう?」
アカネがそんな至極もっともな感想を言う。

「それもそうだな・・。別に竜人族が特に裕福だという話は聞かないし・・。ここのご主人も人間の姿だしな。」

そんなことを話していると宿の主人が帰ってきた。

「王宮に行ってきましたよ!明日お会いになるそうです。」

「わざわざありがとうございました。僕たちではこの寒さの中では出歩くのはきつかったんで。」

「はっはっは。人間の方には厳しいでしょうな。まぁ当宿には必要なものはすべて取り揃えておりますから明日までごゆるりとお過ごしください。」

「ありがとうございます。そうさせてもらいます。あ、あとお願いなんですが・・部屋の暖炉の薪を増やしてもらえませんか?」
俺は部屋のうす寒さを思い出してそうお願いしてみた。

「ああ、これは失礼いたしました!つい先日まで氷竜族の方が泊まっていたので人間の方に備えておりませんでしたな!すぐに準備いたしましょう。」

「これで助かるわね。」
アカネがコーヒーを飲みながら言う。

「うん。ちょっとあの部屋じゃ寝れないもんね・・。」
アイリスが同調する。

しばらくして、俺たちは食事を済ますとそれぞれの部屋に戻っていった。

――――――――

翌朝。

「昨日は寝られた?」
アカネが聞いてきた。

「ああ、おかげさまで。部屋あったかくなってたからな。」

「私は寒さより旅の疲れでぐっすりだったよ。」
アイリスがつやつやした顔で言う。

「あて、じゃあアイズのとこに向かうか。」

「なんか変な感じね。友達のとこに行くみたい。」

それもそうだな。一応姫だった。

俺たちはブルブル震えながら王宮へ向かった。
迎えの馬車などはない。氷竜族ならすぐ飛んでいけるからだろうか。

少し歩くと城が見えてきた。
宿の主人が言ってた通り近くて助かった。

小さながらも立派な城だ。

「む、お前らは?」
衛士が聞いてきた。

「ローム王国より来た、アイズ姫の友人です。」

「おお、お主たちが!では通るがよい。」

・・なんとなく、アイズは民衆に慕われているように感じた。

広間へ行くと。

「ユージ、アカネ、アイリス。久しぶり。よく来た。」
とアイズが一段高いところから言って来た。

やっぱり変な感じだ。アイズが遠くなった気がする。

「アイズ!まずは私への挨拶が先でしょう?」
とアイズの隣、白銀の髪の女性がクレームを付けた。

「あ、失礼しました。母上。ユージ、アカネ、アイリスです。」
おお!アイズが敬語を使っている!

「もう仕方のない子。この度は遠路よくお越しくださいました。アイズの母、ヘスティですわ。よろしくお願いしますね、皆さま。」

「こ、この度は拝謁にあずかり、こ、光栄です・・。」
俺がどもりながら挨拶をしていると、

「ちょっとユージ!しっかりしなさいよ!」
とアカネのお叱りがきた。

「おほほ!大丈夫ですわ。小さな国ですもの。一般の王族ではなく友人の母として接してくださいませ。」

「は・・はぁ助かります。」

信長様との会談などでだいぶ慣れたとはいえ、やっぱり偉い人との話は緊張する。
元々気が小さいのだから仕方がない。

「お気を使わずに。ユージ様は数々の武功をたてられた方だとか・・そうそう、アイズも懲らしめられたんですわね。」

「あ、あの時はただ目を突いただけというか・・とにかくアイズ・・様のご容姿が竜でしたので・・。」

「あらあら。大丈夫ですわよ。本当にいつまでたっても子供っぽさが抜けきれないんですから・・あの時も突然出かけていってしまったっきり留学してしまうし・・。」

「母上。僕そんな子供じゃない。」
と子供っぽくアイズが隣でむくれている。

「でも皆さま方には本当によくしていただいたようで・・この度も我が国のためにお越しいただいたとか?」

「は・・はい。アイズ様の父上がご病気だとお聞きして、こちらが優秀なヒーラーのアイリスです。」

「アイリスと申します。私の力が及ぶかどうかわかりませんが、全力を尽くさせていただきます。」
アイリスが深々とお辞儀をする。さすが大貴族の令嬢だ。俺よりよっぽどしっかりしている。

「王は、今も臥せっておりますが、今日明日にどうこうなる容体ではありません。それより気になるのは反乱の兆しなのです。」
ヘスティ様が憂慮に顔を伏せる。

「そのことなんですが、現状はどういった様子なんでしょうか?」
俺が聞くと、

「そのことですが・・つい先般色々と判明いたしました。反乱軍は元我が王国の将軍をしていたもので、実力もあるものです。その者が仲間を募り、城外に拠点を作り、準備しているという報告がありました。」

城外か・・なら竜化しても街を破壊することはなさそうだな。反乱軍にとっても自分たちが治めることになる国は破壊したくないんだろう。

「わかりました。明日にでも様子を見に行きましょう。」

「そうしていただけると助かります。ええと、アイリス様、でしたかしら?アイリス様には後ほど王の容態を見ていただければありがたいですわ。」

「はい。かしこまりました。」

「では、本日は城内にお泊り下さいませ。人間の皆様にも快適にお過ごしいただけるように準備いたしましたので。」
そういってヘスティ様は微笑んだ。

暖かいということかな?
確かに城内に入ってから寒さを感じることはなくなった。

「わかりました。では、お言葉に甘えます。」

俺たちは城内に泊まることになった。

明日は忙しくなりそうだな。
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