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第三章
反乱軍との戦い
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その夜。
「病気には効きが悪いですが、いきます!ヒール!」
アイリスが寝込んでいるアイズのお父さんに施術をする。
アイリスの額に汗が浮かんでいる。全力なのが見て取れる。
「ああ・・すまないね・・私が万全ならば反乱などはさせぬものを・・。」
お父さんが息を切らしながら言う。
「いえ、大丈夫です。きっと反乱軍は私たちがなんとかしますから!」
そんなことを請け負っている。
現実問題、ドラゴンの群れにどう戦っていくのかが問題だ。
可能ならば竜化する前に倒してしまいたい。
お父さんは
「ああ・少し楽になってきたよ・・ありがとう・・。」
と体をもぞもぞと動かしている。
「もう少しいきます・・これは・・心臓近くの疾患ですね・・セレクテッド・ヒール!」
アイリスも集中している。
「ありがとう・・。ああ・・ユージ君だったか?明日はすまないがアイズも連れて行ってやってくれ。あれは子供っぽいがドラゴンとしての力は確かだ。」
確かアイズも氷竜族の中でも強いって自分を言ってたな。一応姫だから連れて行くのはまずいかと思っていたけど、あてにできるなら助かる。
「ありがとうございます。僕たちもアイズの力は知っています。お言葉に甘えて頼りにさせてもらいます。」
「ああ、王国のピンチに王族がでないわけにはいかない・・。私の名代だと思って使ってやってくれ。」
お父さんはそういうとやがて疲れたのか眠りに落ちていった。
「これで少しは楽になってくれるといいんだけど・・。全開でヒールかけたからね・・。」
アイリスも額の汗をぬぐって言う。
「アイリス、お疲れ様。今日はもう休もう。」
「ううん。もう少し、治療を続けたい。ようやく病気の根が見えてきたから。」
そういうと再びヒールをかけ始めた。
仕方ない。アイリスの好きにさせよう。
――――――――
翌日。
俺、アカネ、アイリス、アイズは郊外の森に来ていた。
「アイリス、昨日寝てないだろう?大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫だよ!今度はみんなのサポートに回るからね!」
健気だなぁ・・
さすが学園の女神だ。
「僕、今日は手加減しない。全力。」
アイズが闘志に燃える目でそんなことを言う。
「今さらだけど・・王族の姫が戦いに出て大丈夫なの?」
アカネが心配して俺に聞いてくる。
「ああ、お父さんからも頼まれたし・・何より俺たちにはアイズの力が必要だ。」
「確かにアイズは頼りになるけどね。」
「それに初めから戦いにしようってんじゃない。まずは話し合いをしたい。」
竜人族は理性的だと聞いた。
もしかしたら話が通じるかもしれない。
俺たちは郊外の拠点とされている場所にたどり着いた。
今日は、氷竜族の特殊な皮で作った服を着こんでいる。
今朝、お母さんから与えられたものだ。
おかげでうごけないほどでなくなっている。
それでも寒気が肌を貫く。
俺はサンダユウを読んでみた。
「サンダユウ、いるか?」
「は、ここに。」
音もなくサンダユウが傍に現れる。
「相手の人数などはわかるか?」
「はい、相手は十名ほどです。戦闘準備をしているものもおり、切迫した表情をしています。」
十名か・・。ドラゴンだと思えば少ない数じゃないな。
「よし、サンダユウは引き続き警戒にあたってくれ。」
「かしこまりました。」
サンダユウが音もなく姿を消す。
さすがにサンダユウも服を着こんでいたな。
それでも俺たちよりはだいぶ薄着だ。シノビの鍛錬の成果だろうか。
――――――――
俺たちは敵の拠点の前に着いた。
石で作られたやや大型の民家のようだ。
拠点というには小さく思えた。
「俺たちは王宮の使いのものだ!話がしたい!」
と呼びかけてみた。
しばらくして、
「誰だ?」
と誰何する声が聞こえてきた。
「俺たちは王の使いとして、またローム王国の代表として話をしにきた。」
俺が言うと、
「お前らがローム王国から来たというアイズ姫の仲間か?」
と大柄な男が出てきた。
「俺はかつて将軍をしていたヒューリックというものだ。戦いに来たのか?」
「ヒューリック!」
アイズが叫ぶ。
「これはアイズ姫。ご無沙汰しております。」
反乱軍とはいえ、アイズには敬意を払っているようだ。
俺は前に出ると、
「いや、まずは話し合いがしたい。なんで反乱なんて企んでるんだ?」
「・・今の王ではだめなのだ・・我々氷竜族は数も少なく、このままでは朽ちていくのみ。現王の融和政策ではこのまま座して死をまつのみとなってしまう。」
「そんなことはない!父上のおかげでこの国は平和!」
アイズが噛みつく。
「姫。平和だけではだめなのですよ。今後は周囲の中小の竜族を吸収し、人間の国にも劣らぬ大国にならなければ。」
「そんなことは誰も望んでいない!」
「姫。あなたはこの国の王女だからそう思うのですよ。我が国の民がいかに苦しんでいるかとご存じか?」
「苦しんでいる?」
「この国は強烈な寒さと規模の小ささで経済が発展しないのですよ。これを乗り越えるのは規模の大を目指さなくてはならない。」
「そんなことしなくても他に方法があるはずだ!」
「・・もはや他に方法はないのですよ。現王は素晴らしいお方だが・・病に倒られた今となっては・・」
「父上は必ず復活する!何より僕が反乱なんてさせない!」
「もはや話し合いはこれまでのようですな。あとは実力で我々を説き伏せてみなされ。」
ヒューリックの体が大きくなっていく。
まずい、想像より展開が早い!
「竜化!」
ヒューリックが一瞬で竜の姿に変化する。
「コール!斎藤一!」
俺は一瞬の判断でコールを行い、ヒューリックに突っ込んでいった。
狙いは逆鱗だ。場所はアイズとのやりとりでわかっている。
「ふ、逆鱗か?そう簡単にやらせるわけはなかろう!」
一瞬ヒューリックは腕でかばうと俺の剣を受け止めてしまった。
「く、人間にしては重いな・・だがこれで私の勝ちだ!」
ヒューリックは翼を出すと一気に上空に飛びあがってしまった。
「皆の者!出会え!」
家から配下の者たちがどんどん竜化しながら駆け出してくる。
まずい。直接対決になる!悪い方の想定になってしまった!
「アカネとりあえず爆風で目くらまししてくれ!」
「わかったわ!炎嵐!」
炎をまとった竜巻がドラゴン達の視界をふさぐ。
この機会になんとかできれば・・
「甘いわ!我らを何だと思っておる!息吹!」
ドラゴン達の息吹でアカネの竜巻を吹き飛ばす。
「今度はその身に喰らえ!息吹!」
複数のドラゴン達が俺たちに向けて攻撃してきた!
「僕を誰だと思ってる?この国の姫だよ!竜化!」
アイズはは一瞬で竜の姿になると、息吹で敵の息吹を相殺した。
相手は複数なのに・・アイズは一人で対抗している。氷竜族の中でも強いというのは嘘じゃなさそうだ。
「さすがは姫ですな・・お子の頃は私が教えて差し上げたものを・・ではこういうのはどうです?」
ヒューリックは言うと、上空から、
「氷槍!」
と唱えた。
氷の槍が雨となって降ってくる!
「!炎壁!」
アカネが一瞬魔法で防ぐが、氷槍のいくつかが炎壁を破って飛び込んでくる!
俺たちは風魔法でかわそうとしたが、一瞬、高速移動に不慣れなアイリスとアイズが氷槍を喰らってしまった。
「こんなもの効かない!」
アイズは大丈夫そうだ。さすがだな。
アイリスは腕から血を滴らせている。
「アイリス!」
「大丈夫!これくらい!すぐにヒールで直せるから!」
アイリスは即座に自分にヒールをかけると傷口をふさぐ。
「やってくれたわね・・これならどう?複角度熱線!」
アカネが得意魔法を放つ!
複数の熱線が空中に浮かんだ火球から発射される。
「・・これは・・!皆の者、避けよ!」
ヒューリックから指示が飛ぶ・・が、数匹のドラゴンはまともに喰らった。
以前、アイズと対峙したときには対して効かなかったアカネの炎魔法だが、ルースとの修業やその後の自己鍛錬によって威力が大幅に増しているようだ。
氷竜たちが驚いたような表情をした。数匹は身をよじって地に倒れこんだ。
貫くまではいかないようだったが、戦闘不能にするには十分だったようだ。
元々氷竜には炎が効く。アカネは炎のスペシャリストだ。氷竜には天敵だろう。
「次はこれよ!喰らいなさい!極光!」
今度は一つにまとまった極太の熱線がドラゴンたちを襲う!
これは・・アカネの新しいオリジナル魔法だな!
さすがにこれは喰らってはまずいと思ったのかドラゴン達も慌てて逃げ惑う。
しかし、また数匹が逃げ遅れ、翼や胴体に直撃を喰らう。
今度は貫通したようだ。ドラゴン達が倒れ伏し、慌てふためいている。
よし、攻撃のチャンスだ!
俺はホーンテッドを持ち直すと、ダメージを受けたドラゴン達の逆鱗や目を狙ってとどめを刺していった。
「くっ・・やりおる。あの炎使いが厄介だな・・皆の者、あの少女に攻撃を集中させよ!」
ヒューリックから指示が飛び、残っているドラゴン達が息吹をアカネに集中させ始めた。
「くっ!まだまだ!」
アカネは風魔法の付与されたブーツと元々の操気の術で息吹をかわしていく。
「そう簡単にやらせない!」
アイズが同じく息吹で攻撃を相殺していく。
しかし、アカネは一部かわし切れずに足にくらってしまった。
これでもう素早い動きはできない。
「アカネ!待ってて!ヒール!」
アイリスがすかさずヒールをかける。
「!助かったわ!アイリス!」
「今度は僕の番!息吹!」
満を持してアイズが残った敵に攻撃を放つ。
アイズの息吹は敵より威力が高いのか残っていたドラゴン達が次々と動けなくなっていく。
上空から見ていたヒューリックは我慢できなくなったのか、
「ええい!何をしている!相手は子供だぞ!我らの悲願を忘れたか!」
それを聞いて未だ動けるドラゴン達は再び攻撃を開始する様子を見せた。
「遅いわ!複角度熱線!」
今度は残っていたドラゴン達を襲う複数の熱線。
ヒューリックを残しドラゴン達は動けなくなっていた。
と同時に俺のコールも時間切れが迫っていた。
「アイズ、俺たちを乗せて上空のドラゴンに向かってくれ!」
「わかった!」
アイズはすぐに俺たちを乗せると上空に飛び上がる。
空中戦だ!
「ほう姫自らとは・・光栄ですな。だが!」
再度氷槍が飛んできた。
これは避け切れないか?
「それは一度見たわ!複角度熱線!」
アカネが複数の熱線で迎撃する。
氷槍はことごとく撃墜されていった。
「な・・なんだとぉ・・!」
ヒューリックがうめく。
アカネの戦闘の才には驚くばかりだな・・。
「今だ!アイズ、あいつに突っ込んでくれ!」
「!わかった!」
「ぬ・・そうはさせん!」
今度はヒューリックが息吹を放ってくる。
アイズは俺たちをかばうような動きをしつつも、攻撃を無視して突っ込む!
「よし、アカネ!さっきのやつをあいつの腕中心に頼む!」
「!わかったわ!複角度熱線!」
アカネの熱線がヒューリックの体を襲う。
今度は胴体ではなく左右の腕を狙ったものだ。
よし、今だ!
俺はアイズから飛び出し、風魔法を使ってヒューリックに迫った。
「真空固定!伸長!」
俺は続けざまに風魔法で刀身を伸ばす!
「そして重力魔法付与!今度は防げないだろう?くらえ!!」
俺は突きをヒューリックの首筋、逆鱗に突き刺した。
ずぶぶと刀身が入り込む感触がした。
「ぐ・・この威力は・・貴様・・」
ヒューリックがいったんびくりと痙攣すると、錐揉み状に落下していく。
斎藤一の突きの力に重力魔法を乗せたのだ。
耐えられるわけはない。
俺たちは再び地上に降り立つ。
アイズも人間体に戻った。
周囲には残ったドラゴン達も人間形態になり、倒れてうめいている。
もはや戦闘不能だろう。
アイズが同じく人間体になったヒューリックのもとに駆けていく。
「ヒューリック、どうしてこんなことしたの?」
「ひ・・姫・・。私は変えたかったのですよ・・この国を・・」
「変えなくていいこともあるんだよ。ヒューリック。」
俺はそう言った。
「お主は・・そうかアイズ様を撃退したというのはお主だな・・グハッ!先ほどの攻撃は見事であった・・」
何か悪い奴じゃなさそうだが・・。
「しかし・・私の挙兵は失敗した・・。これから・・この国は緩やかに衰退していくだろう・・。」
「いや、そうはならないさ・・。知恵は必要に応じて出てくるもんだ。」
「フッ。ならば・・その様子をあの世から見させてもらおう・・。」
ヒューリックはそういうとついに地面に倒れ伏した。
「ヒューリック・・」
アイズが悲しそうな目で見つめている。
「アイズ・・辛い戦いだったが・・」
「大丈夫。僕わかってる。これはしなきゃいけないことだった。」
アイズはそれでも、一国の姫らしく、振舞った。
「アイズ、体中傷だらけだよ!ヒール!」
アイリスがアイズを癒す。
そういえば氷槍の中突っ込んでいったんだった。
「ありがとうアイリス。僕は大丈夫。頑丈だから。」
俺はと言えば・・
「初めて人を殺してしまった・・」
と悲嘆の思いを抱えていた。
「ユージ。これは仕方ないことだったのよ。あなたがやらなければ私たちが逆の立場だったかもしれない・・。」
アカネがそういって慰めてくれる。
「それにあなたの国ではどうか知らないけれど、魔獣が跋扈しているようなこの世界では人の生き死には珍しいことじゃないわ。その覚悟を持って!」
そうだな・・・いや、その思いを忘れずに生きて行こう・・。
・・
アイズも様々な思いがあるのだろう。
しばらくヒューリックのそばに座り込んでいたアイズだったが、
「さぁ皆、帰ろう!」
と健気に起き上がった。
「病気には効きが悪いですが、いきます!ヒール!」
アイリスが寝込んでいるアイズのお父さんに施術をする。
アイリスの額に汗が浮かんでいる。全力なのが見て取れる。
「ああ・・すまないね・・私が万全ならば反乱などはさせぬものを・・。」
お父さんが息を切らしながら言う。
「いえ、大丈夫です。きっと反乱軍は私たちがなんとかしますから!」
そんなことを請け負っている。
現実問題、ドラゴンの群れにどう戦っていくのかが問題だ。
可能ならば竜化する前に倒してしまいたい。
お父さんは
「ああ・少し楽になってきたよ・・ありがとう・・。」
と体をもぞもぞと動かしている。
「もう少しいきます・・これは・・心臓近くの疾患ですね・・セレクテッド・ヒール!」
アイリスも集中している。
「ありがとう・・。ああ・・ユージ君だったか?明日はすまないがアイズも連れて行ってやってくれ。あれは子供っぽいがドラゴンとしての力は確かだ。」
確かアイズも氷竜族の中でも強いって自分を言ってたな。一応姫だから連れて行くのはまずいかと思っていたけど、あてにできるなら助かる。
「ありがとうございます。僕たちもアイズの力は知っています。お言葉に甘えて頼りにさせてもらいます。」
「ああ、王国のピンチに王族がでないわけにはいかない・・。私の名代だと思って使ってやってくれ。」
お父さんはそういうとやがて疲れたのか眠りに落ちていった。
「これで少しは楽になってくれるといいんだけど・・。全開でヒールかけたからね・・。」
アイリスも額の汗をぬぐって言う。
「アイリス、お疲れ様。今日はもう休もう。」
「ううん。もう少し、治療を続けたい。ようやく病気の根が見えてきたから。」
そういうと再びヒールをかけ始めた。
仕方ない。アイリスの好きにさせよう。
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翌日。
俺、アカネ、アイリス、アイズは郊外の森に来ていた。
「アイリス、昨日寝てないだろう?大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫だよ!今度はみんなのサポートに回るからね!」
健気だなぁ・・
さすが学園の女神だ。
「僕、今日は手加減しない。全力。」
アイズが闘志に燃える目でそんなことを言う。
「今さらだけど・・王族の姫が戦いに出て大丈夫なの?」
アカネが心配して俺に聞いてくる。
「ああ、お父さんからも頼まれたし・・何より俺たちにはアイズの力が必要だ。」
「確かにアイズは頼りになるけどね。」
「それに初めから戦いにしようってんじゃない。まずは話し合いをしたい。」
竜人族は理性的だと聞いた。
もしかしたら話が通じるかもしれない。
俺たちは郊外の拠点とされている場所にたどり着いた。
今日は、氷竜族の特殊な皮で作った服を着こんでいる。
今朝、お母さんから与えられたものだ。
おかげでうごけないほどでなくなっている。
それでも寒気が肌を貫く。
俺はサンダユウを読んでみた。
「サンダユウ、いるか?」
「は、ここに。」
音もなくサンダユウが傍に現れる。
「相手の人数などはわかるか?」
「はい、相手は十名ほどです。戦闘準備をしているものもおり、切迫した表情をしています。」
十名か・・。ドラゴンだと思えば少ない数じゃないな。
「よし、サンダユウは引き続き警戒にあたってくれ。」
「かしこまりました。」
サンダユウが音もなく姿を消す。
さすがにサンダユウも服を着こんでいたな。
それでも俺たちよりはだいぶ薄着だ。シノビの鍛錬の成果だろうか。
――――――――
俺たちは敵の拠点の前に着いた。
石で作られたやや大型の民家のようだ。
拠点というには小さく思えた。
「俺たちは王宮の使いのものだ!話がしたい!」
と呼びかけてみた。
しばらくして、
「誰だ?」
と誰何する声が聞こえてきた。
「俺たちは王の使いとして、またローム王国の代表として話をしにきた。」
俺が言うと、
「お前らがローム王国から来たというアイズ姫の仲間か?」
と大柄な男が出てきた。
「俺はかつて将軍をしていたヒューリックというものだ。戦いに来たのか?」
「ヒューリック!」
アイズが叫ぶ。
「これはアイズ姫。ご無沙汰しております。」
反乱軍とはいえ、アイズには敬意を払っているようだ。
俺は前に出ると、
「いや、まずは話し合いがしたい。なんで反乱なんて企んでるんだ?」
「・・今の王ではだめなのだ・・我々氷竜族は数も少なく、このままでは朽ちていくのみ。現王の融和政策ではこのまま座して死をまつのみとなってしまう。」
「そんなことはない!父上のおかげでこの国は平和!」
アイズが噛みつく。
「姫。平和だけではだめなのですよ。今後は周囲の中小の竜族を吸収し、人間の国にも劣らぬ大国にならなければ。」
「そんなことは誰も望んでいない!」
「姫。あなたはこの国の王女だからそう思うのですよ。我が国の民がいかに苦しんでいるかとご存じか?」
「苦しんでいる?」
「この国は強烈な寒さと規模の小ささで経済が発展しないのですよ。これを乗り越えるのは規模の大を目指さなくてはならない。」
「そんなことしなくても他に方法があるはずだ!」
「・・もはや他に方法はないのですよ。現王は素晴らしいお方だが・・病に倒られた今となっては・・」
「父上は必ず復活する!何より僕が反乱なんてさせない!」
「もはや話し合いはこれまでのようですな。あとは実力で我々を説き伏せてみなされ。」
ヒューリックの体が大きくなっていく。
まずい、想像より展開が早い!
「竜化!」
ヒューリックが一瞬で竜の姿に変化する。
「コール!斎藤一!」
俺は一瞬の判断でコールを行い、ヒューリックに突っ込んでいった。
狙いは逆鱗だ。場所はアイズとのやりとりでわかっている。
「ふ、逆鱗か?そう簡単にやらせるわけはなかろう!」
一瞬ヒューリックは腕でかばうと俺の剣を受け止めてしまった。
「く、人間にしては重いな・・だがこれで私の勝ちだ!」
ヒューリックは翼を出すと一気に上空に飛びあがってしまった。
「皆の者!出会え!」
家から配下の者たちがどんどん竜化しながら駆け出してくる。
まずい。直接対決になる!悪い方の想定になってしまった!
「アカネとりあえず爆風で目くらまししてくれ!」
「わかったわ!炎嵐!」
炎をまとった竜巻がドラゴン達の視界をふさぐ。
この機会になんとかできれば・・
「甘いわ!我らを何だと思っておる!息吹!」
ドラゴン達の息吹でアカネの竜巻を吹き飛ばす。
「今度はその身に喰らえ!息吹!」
複数のドラゴン達が俺たちに向けて攻撃してきた!
「僕を誰だと思ってる?この国の姫だよ!竜化!」
アイズはは一瞬で竜の姿になると、息吹で敵の息吹を相殺した。
相手は複数なのに・・アイズは一人で対抗している。氷竜族の中でも強いというのは嘘じゃなさそうだ。
「さすがは姫ですな・・お子の頃は私が教えて差し上げたものを・・ではこういうのはどうです?」
ヒューリックは言うと、上空から、
「氷槍!」
と唱えた。
氷の槍が雨となって降ってくる!
「!炎壁!」
アカネが一瞬魔法で防ぐが、氷槍のいくつかが炎壁を破って飛び込んでくる!
俺たちは風魔法でかわそうとしたが、一瞬、高速移動に不慣れなアイリスとアイズが氷槍を喰らってしまった。
「こんなもの効かない!」
アイズは大丈夫そうだ。さすがだな。
アイリスは腕から血を滴らせている。
「アイリス!」
「大丈夫!これくらい!すぐにヒールで直せるから!」
アイリスは即座に自分にヒールをかけると傷口をふさぐ。
「やってくれたわね・・これならどう?複角度熱線!」
アカネが得意魔法を放つ!
複数の熱線が空中に浮かんだ火球から発射される。
「・・これは・・!皆の者、避けよ!」
ヒューリックから指示が飛ぶ・・が、数匹のドラゴンはまともに喰らった。
以前、アイズと対峙したときには対して効かなかったアカネの炎魔法だが、ルースとの修業やその後の自己鍛錬によって威力が大幅に増しているようだ。
氷竜たちが驚いたような表情をした。数匹は身をよじって地に倒れこんだ。
貫くまではいかないようだったが、戦闘不能にするには十分だったようだ。
元々氷竜には炎が効く。アカネは炎のスペシャリストだ。氷竜には天敵だろう。
「次はこれよ!喰らいなさい!極光!」
今度は一つにまとまった極太の熱線がドラゴンたちを襲う!
これは・・アカネの新しいオリジナル魔法だな!
さすがにこれは喰らってはまずいと思ったのかドラゴン達も慌てて逃げ惑う。
しかし、また数匹が逃げ遅れ、翼や胴体に直撃を喰らう。
今度は貫通したようだ。ドラゴン達が倒れ伏し、慌てふためいている。
よし、攻撃のチャンスだ!
俺はホーンテッドを持ち直すと、ダメージを受けたドラゴン達の逆鱗や目を狙ってとどめを刺していった。
「くっ・・やりおる。あの炎使いが厄介だな・・皆の者、あの少女に攻撃を集中させよ!」
ヒューリックから指示が飛び、残っているドラゴン達が息吹をアカネに集中させ始めた。
「くっ!まだまだ!」
アカネは風魔法の付与されたブーツと元々の操気の術で息吹をかわしていく。
「そう簡単にやらせない!」
アイズが同じく息吹で攻撃を相殺していく。
しかし、アカネは一部かわし切れずに足にくらってしまった。
これでもう素早い動きはできない。
「アカネ!待ってて!ヒール!」
アイリスがすかさずヒールをかける。
「!助かったわ!アイリス!」
「今度は僕の番!息吹!」
満を持してアイズが残った敵に攻撃を放つ。
アイズの息吹は敵より威力が高いのか残っていたドラゴン達が次々と動けなくなっていく。
上空から見ていたヒューリックは我慢できなくなったのか、
「ええい!何をしている!相手は子供だぞ!我らの悲願を忘れたか!」
それを聞いて未だ動けるドラゴン達は再び攻撃を開始する様子を見せた。
「遅いわ!複角度熱線!」
今度は残っていたドラゴン達を襲う複数の熱線。
ヒューリックを残しドラゴン達は動けなくなっていた。
と同時に俺のコールも時間切れが迫っていた。
「アイズ、俺たちを乗せて上空のドラゴンに向かってくれ!」
「わかった!」
アイズはすぐに俺たちを乗せると上空に飛び上がる。
空中戦だ!
「ほう姫自らとは・・光栄ですな。だが!」
再度氷槍が飛んできた。
これは避け切れないか?
「それは一度見たわ!複角度熱線!」
アカネが複数の熱線で迎撃する。
氷槍はことごとく撃墜されていった。
「な・・なんだとぉ・・!」
ヒューリックがうめく。
アカネの戦闘の才には驚くばかりだな・・。
「今だ!アイズ、あいつに突っ込んでくれ!」
「!わかった!」
「ぬ・・そうはさせん!」
今度はヒューリックが息吹を放ってくる。
アイズは俺たちをかばうような動きをしつつも、攻撃を無視して突っ込む!
「よし、アカネ!さっきのやつをあいつの腕中心に頼む!」
「!わかったわ!複角度熱線!」
アカネの熱線がヒューリックの体を襲う。
今度は胴体ではなく左右の腕を狙ったものだ。
よし、今だ!
俺はアイズから飛び出し、風魔法を使ってヒューリックに迫った。
「真空固定!伸長!」
俺は続けざまに風魔法で刀身を伸ばす!
「そして重力魔法付与!今度は防げないだろう?くらえ!!」
俺は突きをヒューリックの首筋、逆鱗に突き刺した。
ずぶぶと刀身が入り込む感触がした。
「ぐ・・この威力は・・貴様・・」
ヒューリックがいったんびくりと痙攣すると、錐揉み状に落下していく。
斎藤一の突きの力に重力魔法を乗せたのだ。
耐えられるわけはない。
俺たちは再び地上に降り立つ。
アイズも人間体に戻った。
周囲には残ったドラゴン達も人間形態になり、倒れてうめいている。
もはや戦闘不能だろう。
アイズが同じく人間体になったヒューリックのもとに駆けていく。
「ヒューリック、どうしてこんなことしたの?」
「ひ・・姫・・。私は変えたかったのですよ・・この国を・・」
「変えなくていいこともあるんだよ。ヒューリック。」
俺はそう言った。
「お主は・・そうかアイズ様を撃退したというのはお主だな・・グハッ!先ほどの攻撃は見事であった・・」
何か悪い奴じゃなさそうだが・・。
「しかし・・私の挙兵は失敗した・・。これから・・この国は緩やかに衰退していくだろう・・。」
「いや、そうはならないさ・・。知恵は必要に応じて出てくるもんだ。」
「フッ。ならば・・その様子をあの世から見させてもらおう・・。」
ヒューリックはそういうとついに地面に倒れ伏した。
「ヒューリック・・」
アイズが悲しそうな目で見つめている。
「アイズ・・辛い戦いだったが・・」
「大丈夫。僕わかってる。これはしなきゃいけないことだった。」
アイズはそれでも、一国の姫らしく、振舞った。
「アイズ、体中傷だらけだよ!ヒール!」
アイリスがアイズを癒す。
そういえば氷槍の中突っ込んでいったんだった。
「ありがとうアイリス。僕は大丈夫。頑丈だから。」
俺はと言えば・・
「初めて人を殺してしまった・・」
と悲嘆の思いを抱えていた。
「ユージ。これは仕方ないことだったのよ。あなたがやらなければ私たちが逆の立場だったかもしれない・・。」
アカネがそういって慰めてくれる。
「それにあなたの国ではどうか知らないけれど、魔獣が跋扈しているようなこの世界では人の生き死には珍しいことじゃないわ。その覚悟を持って!」
そうだな・・・いや、その思いを忘れずに生きて行こう・・。
・・
アイズも様々な思いがあるのだろう。
しばらくヒューリックのそばに座り込んでいたアイズだったが、
「さぁ皆、帰ろう!」
と健気に起き上がった。
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交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
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金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
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不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
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ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
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ユーゴ・タカトー。
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見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
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彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
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女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
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※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
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31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
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===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
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