騎士になりたい貧乏庶民の少年が、付呪された鎧で成り上がる話

杏たくのしん

文字の大きさ
7 / 26
一章

(7)決意と彼女の秘密

しおりを挟む
 レクセルはアネモネの研究所の二階にある一室で目を覚ました。

「ここは……」

「良かった。目覚めたんですね」

 銀髪のメイドメリッサがベッドの横で微笑んだ。

「俺は……どうしてここに?」

「覚えてないのですか?貴方はあの時、急に倒れてしまったのですよ。だから私達がここまで運んできたのです」

 レクセルは記憶がフラッシュバックする。

 ジェラルドと対面して、臂力の鎧を着装した。そこまでは覚えている。しかし、その後の記憶が一切思い出せない。

 激しい憤怒。誰かの叫び声。あれはジェラルドのものだったか。またはアリスのものだったのだろうか。

「他の皆はどうしたんです?」

「まだ寝ていますよ。今はまだ深夜ですから」

 窓の外を見ると確かに深夜だった。

「でも、アリスさんは起きています。貴方のことが心配でさっきまで看病してたんです。今はアネモネ様と一緒に何か話あってるようですが。噂をすればホラ」

「レクセル!」

 ドアの方から声がした。

 アリスが部屋に入ってくるなり、勢いよく抱きついてきた。

「大丈夫なの!?私心配したんだから!」

「俺は大丈夫だよ。心配かけてゴメン」

 アリスは泣きじゃくっていた。
 レクセルはその頭を撫でてやる。

「その様子だと大丈夫そうだな」

 部屋のドアにアネモネが立っていた。

「私はこれにて」

 メリッサが席を外した。

 アネモネは言った。

「一時はどうなるかと思ったが、案外反動は大したことなさそうだ」

「何言ってるのアネモネ!レクセルは丸一日気を失ってたのよ!」

 アネモネに抗議するアリス。

 レクセルは疑念を口にした。

「教えて下さい。あの鎧を身に着けた後、どうなったんですか?決闘の顛末は?ジェラルドはどうして俺を殺さなかったんですか?」

「何も覚えてないんだな」

 アネモネは淡々と告げる。アリスは顔を伏せた。

「決闘は君の勝ちだ。ジェラルドは君が殺した。」

 レクセルに衝撃が走る。

「俺が……ジェラルドを殺した……!?」

 レクセルにはにわかには信じられなかった。顔を手で覆った。

「記憶がないとは。自我を失ってしまうみたいだな。副作用としては十分強力だな」

「俺が……人を……!!」

 取り乱すレクセル。

「レクセル……」

 心配そうに手を握るアリス。

「落ち着くんだレクセル。あれは決闘だった。やらなければ君が殺されていた」

「でも……!俺は殺すつもりなんてなかった……!」

「結果的にそうなってしまっただけだ。君は悪くない」

「違う!俺が悪いんですよ!俺が弱かったから!あの鎧に頼ってしまった……!」

「レクセル!落ち着いて!」

 アネモネに詰め寄るレクセルを止めるアリス。

「その様子だとあの鎧はもう着たくないのかい?」

「当たり前でしょう!あんな恐ろしいもの二度と使いたくありません!」

「本当にそれでいいのか……?」

「えっ……」

「君は騎士になりたいんだろう?そのためにはまず第一に強くならなければいけない。それなのに君はここで諦めてしまうのか?」

「それは……」

 レクセルは何も言えなかった。

「アネモネ!これ以上レクセルを苦しめるのはやめて!」

 アリスがアネモネに言いすがった。

「これは大事な問題だ。あの鎧を使うのか、使わないのか。私とレクセルがこれからもパートナーとしていられるかに関わる」

「ありがとうアリス……でも大丈夫」

 レクセルはアリスの手を解くとアネモネを見据えた。

「必要とあらばあの鎧は使います。でも俺はあの鎧無しでも騎士になってみせる。」

「いい答えだ。私はこれからも君とはパートナーでいたい」

 アネモネは満足そうに答えた。

「騎士を目指す君に朗報だ。少年が騎士ジェラルドを破ったことが王都でニュースになっている。一部の貴族や王宮も君に注目しているとか。まぁ私の鎧の力に依るところが大きいということは評注させてもらったがね」

「それは……そんなことが……」

「君は一躍有名人だ。騎士としてスカウトされることがあるかもしれないぞ」

「そうですか……」

 素直に喜んでいいのか分からず複雑な表情を浮かべるレクセル。

「さて、そろそろ寝るとしようか」

 アネモネは立ち上がり部屋から出ていった。

「レクセル……」

 不安げに見つめてくるアリス。

「大丈夫だよ。アリス。俺は強くなる。強くなって、ティックスみたいな目に会う子は俺が守ってみせる」

「うん。私信じてる。」

 アリスは笑顔で答えた。

「お休みなさい。アリス」

「お休みレクセル」

 アリスは部屋から出ていき、部屋の明かりを消した。


◇◆◇◆

 次の日、レクセルは妹のベルディに起こされた。

「もう、お兄、いつまで寝てるの!メリッサさんがお兄は大仕事をしたから十分休ませてやってって言ってたけど、いくらなんでも寝過ぎだよ!」

 ベルディは決闘があった日からアネモネ邸に預けられていた。決闘があったことはベルディには口止めしていた。

「あーごめんなベルディ。昨日から色々ありすぎて疲れちゃったんだよ」

「私、先下行ってるからお兄も早く降りてきてね。メリッサさんが朝食できてるって」

「分かったよ……」

 レクセルは着替えて下に降りた。

 一階のダイニングにはベルディとアリスとメリッサ、アネモネが居た。

「おはようございますレクセル様」
「おはようございます」
「おはようレクセル。よく眠れたか?」
「はい……おかげで」
「よし……じゃあさっそく今日の予定について話したいのだが、その前に朝ごはんを食べようじゃないか」

 テーブルには焼き立てのパンやスープ、卵料理などが並べられていた。

「食べながら聞いてくれ。もう少ししたらゴードンとジャック、ロゼッタが来る」

「昼まではレクセルはジャックと一緒に稽古してくれ。私が付呪した武具を使ってな」

「午後からはロゼッタと身体の検査だ。臂力の鎧を使う。あぁ、そんな顔をするな。臂力の鎧のプレートの一部を君の身体に貼り付けて身体への影響を測定する。ロゼッタの腕にも貼り付けて比較を行う」

「私はどうすればいいの?」
 アリスが言った。

「アリスはゴードンについてくれ。彼は今日付呪の作業があるから手伝ってやってくれ」

 マッチョの初老ことゴードンには、付呪する才能がある。彼にはアネモネの付呪した武具をコピーすることができた。その能力を買われてアネモネの研究室にいるのだが、彼は専らアネモネの発明した付呪を量産する仕事をしていた。

「分かりました」

 レクセル達は食事を済ませた後、3人が到着するのを待った。
 しばらくしてから3人は順番に到着した。
 三者三様に挨拶する。

「おはよう諸君。今日も張り切っていこう」
 ゴードンの挨拶である。

「おはようございます。そっかアリスとレクセルは泊まりだったんすね」
 ジャックの挨拶。

「おはよう……みんな……」
 ジャックと一緒に到着したロゼッタの挨拶。

「おう。相変わらず声が小さいなロゼッタ。大丈夫?具合が悪いなら休んでもいいんだよ?」

「大丈夫……心配しないでアネモネ……仕事はちゃんとするから……」

「無理はしないように。君は大事な被験者なんだから」

「うん……」

「さて、全員揃ったところでそろそろ仕事にとりかかるか」
 
 ジャックがレクセルに手招きした。

「中庭に来いよ。俺と剣の稽古だ」

「よろしくお願いします」

 ジャックの後について外に出た。

「まずは、この木刀だが……鋼鉄並の強度を誇るように付呪してある。これでやり合うぞ」

「はい」

「行くぞ」

 ジャックが斬りかかってきた。
 レクセルはそれを受け止める。

「まだまだこんなもんじゃないぞ!ソラァ!」

 ジャックは次々と、斬撃を繰り出してくる。
 レクセルは応戦するのにいっぱいいっぱいだった。


 数十分後、レクセルは身体の、あちこちに生傷を、負っていた。

「くっ」

 レクセルは息が上がっていた。

「おいおいもう終わりか?」

 ジャックが煽ってくる。

「ちょっと、休憩を」

「仕方ないな」

 ジャックは座り込んだ。
 レクセルは息を整えて、ジャックの隣に座って汗を拭き取った。

「お前、まだまだだな」

 ジャックはレクセルに単刀直入に言った。

「えぇ、まだ未熟者です」

「だが、お前の臂力の鎧を着たときの鬼神ぶりは凄かった」

「……」

 表情が曇るレクセル。

「あれは俺の力じゃありません」

「いや、お前の力だよ。実は俺もあの鎧を着たことがあるんだよ。俺が着たのは試作版だったが……」

「でもあんな力は出せなかった。あんな戦いぶりは俺にはとてもできない」

「それは……」

「なぁレクセル。頼みがある」

「なんですか?」

「ロゼッタに何かあったら、お前が守ってくれないか?」

「えっ……」

 唐突に、出てきたロゼッタというワードに戸惑うレクセル。

「それはどういう意味ですか?」

「いや。あいつは、自分の身を守ることを知らない。誰かのために自分が犠牲になるのを厭わない性格だ」

「心に留めておきます」

「ありがとう。じゃあ続きをやるぞ」

 その後ジャックとの稽古は1時間続いた。



◇◆◇◆

 正午過ぎ。研究室でレクセルはロゼッタと一緒に腕に鎧のプレートを貼りつけられていた。

 アネモネが何かの装置で、その影響を、測定している。

「じゃあ、しばらくじっとしてて。私は席を外すから」

 アネモネが出ていった。

 ロゼッタと二人きりになるレクセル。

 気まずくて何かを話しかけようとするも何も出てこない。

「ねぇレクセルさん」

 ロゼッタの方から話しかけてきた。

「わたし、迷惑かけてばかりだけど、これからも仲良くしてくれる?」

「勿論ですよ。僕なんかで良ければいつでも」

「よかった……」

 緊張の糸が切れたのか、ロゼッタは微笑んだ。

「ねぇレクセルさん」

「はい」

「レクセルさんって凄く強いですよね。私はこの前の戦いぶりを見てそう思いました。そしてレクセルさんは騎士を目指しているとか……」

「えぇ、そうですね」

「だったら?」

「へ?」

 突然の告白に呆気に取られるレクセル。

「私の本名はルーラ・ヴァンラーレ・アルストロメリア・エルドヴィエ。エルドヴィエの次期女王候補の1人です。」

 レクセル達の今いる国の名はカザド。エルドヴィエはカザドの南に位置する超大国だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

処理中です...