勘違いから始まりましたが、最強辺境伯様に溺愛されてます

かほなみり

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最終章 深淵

一石

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「ベアンハートは」
「分からん、だってさ」
「そうか」

 戻って来たアルベルトから視線を元に戻す。
 防壁の天端から見下ろす足元には多くの魔物の死骸が転がり、こちらまで匂いが漂って来ていた。共食いを始めた魔物の死骸は浄化される事なく、そのまま穢れが残り大地を汚染している。
 周囲の木々が朽ちて行くのが目に見えて分かるようになってきた。

「こっちで直接調べたがってるよ」
「駄目だ。何かあった場合王族の護衛まで手が回らん」

 魔物の死骸を少量だが採取しベアンハートに解析を頼んだが、何も手掛かりが掴めない。魔物の死骸の処理のために教会に聖水を依頼しているが、数が不足しており追い付いていない。


 五番防壁で起こった魔物の襲撃に始まり、これで三件目だ。
 小規模だが魔物の発生が頻発している。
 しかも魔物の共食いなど初めて見る光景だった。
 奴らはお互いに全く干渉せず、群れて行動することなどなかった。
 それが突然群れで出現し、防壁にぶつかったり側にいるものと殺し合うようになったのだ。明らかに普通ではない。しかも殺し合っている所へ次々と魔物が集まり際限なく共食いをし、屍が増えていく。

「これで勝手に滅びるなら苦労しないよ」

 アルベルトが下を見下ろしながらボヤいた。

 今出来る事はこの死骸の山に新たな魔物が近づかないようにする事。大地の浄化を進めながら死骸を処分し、近づく魔物を共食いを始める前に滅する。
 先に発生した共食いが起きた第五防壁はやっと浄化が終了したと連絡があった。

「レオニダス、はいこれ」

 アルベルトが小さな包みを手渡して来た。

「ここは僕が見てるから、ちょっと休んで来なよ」
「ナガセは」
「元気、ではなかったよ。いつも通りに振る舞ってたけど。何か伝言はあるか聞いたらこれをくれた。砦には毎日来てるみたいだね」

 包みを受け取り、室内に戻る。

 包みを開けると、いつもよりシンプルに食べ易くカットされたサンドウィッチ。
 傷まないよう気を遣ってくれたのだろう。それでも保存食ばかりだった最近に比べ、もっちりとした食感のパンに挟めてある肉、水気を絞った野菜の食感、さっぱりとした酸味、全てが美味い。
 レモン水も塩と蜂蜜でほんのり味が付いており、渇いた喉を潤した。

 包みには他に、カレンの折ったがいくつか入っていた。
 ひとつ手に取り開いてみると、中には短くメッセージが書かれている。他も開くと、毎日ひとつずつ書いてくれたであろうメッセージが書かれていた。
 小さなおりがみは全部で七個。
 もう、七日もカレンに会っていないのだ。

『今日はグラブとブランとお散歩に行ったよ。走り回って大変だったよ』
『ケガはしてない?私は元気だよ。新しいパンも好評だから帰ったら食べてね』
『素敵な場所を教えてもらったよ。戻ったら一緒に遠出しようね』
『ちゃんと待ってるから私のことは心配しないで、身体に気を付けてね。大好きだよ』
『エーリクに手紙を書くの。レオニダスも一緒に書いて出そうね』
『レオニダス、大好きだよ』
『レオニダス、早く会えますように』

 目を瞑り、メッセージに唇を寄せる。
 ほのかにカレンの香りがする。

 そうだ、疲れている場合ではない。早く終わらせてカレンの元へ帰らねば。


 おりがみを丁寧に畳み元の形に戻して、懐に仕舞った。

 机上の報告書を読み直し椅子の背凭れに背を預ける。ここ一週間で確認できた魔物の共食いは三件。小隊を森奥まで偵察に向かわせ確認したが、この不自然な共食いは全て防壁の側で起きている。
 監視下にあるあの男たちの仕業で間違いないだろう。
 王国軍の注意が魔物に向いているその隙に、何かをしようとしている?
 だがあの者たちの目的は魔物の死骸を回収すること。他に何かあるとは考え難い。魔物は加護のない武器で仕留めるには限度があり、小物しか殺せない。
 …だから共食いをさせている?
 だが、どうやって? 一体何を使ったんだ?


「そろそろ踏み込んでも良いと思う」

 戸口から声が掛かり、その声にこの一週間で一番の疲労を感じた。大きくため息を吐く。

「ベアンハート」
「恐らく大物を仕留めるために魔物を共食いさせその死骸を回収する算段だろうがどの程度の効果があるのか試したのだろう。十分効果は確認できたから後は大物がより出る森の奥へ行って副産物を撒くだろう。急いでその者達を捕らえなければ厄介な魔物が出てくる事も考えられるぞ」
「副産物?」
「魔物の毒素を抽出しを製造する過程で出た副産物だ。私も確認した。人には何の効果もないが魔物を呼び寄せ狂わせる」
「何故アルベルトに報告しない」
「アルベルトが去ってから分かった」
「……あの者達が魔物を殺し潜伏場所に戻る姿はまだ確認出来ていない。全て推測の域を出ない。無闇に踏み込んで一人でも逃そうものなら全てが水の泡だ」

 潜伏場所には確認できただけで入り口が三つ。
 元はただの氷室だったものを出入り口と空気穴を増やしており、長い時間をかけて機会を窺っているのが分かる。監視に第五小隊の人員を割き、アルベルトの隊の視力まで使っているのに未だあの者達を全員特定出来ていない。
 その理由は恐らく。

「軍の者が噛んでいるな」
「……」

 ベアンハートが壁際の椅子に腰掛けこちらを見つめる。

「アルベルトを呼べ」

 入り口前に立つ兵に声を掛ける。
 室内にはベアンハート以外に軍服を着た見覚えの無い顔の男がいる。ベアンハートの言う優秀な護衛なのだろう。

「王族の警護に気を回している暇はない」
「案ずるな。大丈夫だ」

 お前が答えるな。
 チラリと護衛を見るが特に表情は変わらない。慣れたものなのだろう。

「……何してるのベアンハート」

 アルベルトがもの凄く怪訝な顔で入ってきて、入り口横の椅子に腰掛けるベアンハートを見下ろした。ベアンハートは気軽に片手を上げる。

「アルベルト、使森の警戒を解き全員撤退すると指示を出せ。浄化作業の警備のみにする」
「了解」
「第一は監視を強化させろ。それからクラウスにと伝えておけ」
「レオニダスは?」
「俺も一旦砦に戻る」
「分かった」

 アルベルトはベアンハートの護衛騎士を見るとニヤリと笑って気軽に肩を叩き出て行った。

「ベアンハート」
「現場が見たい」
「駄目だ」
「ここまで来たのに!」
「勝手に来たんだろう!」
「採取だけさせてくれ!」
「お前の仕事は潜伏先の内部調査だ」
「いいのか?」
「お前にしか出来ない」
「よし! 戻ろう! 今すぐ!」

 意気揚々と部屋を後にするベアンハートと護衛を見送り、俺は深くため息を吐いた。
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