勘違いから始まりましたが、最強辺境伯様に溺愛されてます

かほなみり

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最終章 深淵

幕間1 汚泥

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「大物?」

 窓のない締め切った空間に男が四人。

 空気穴はあるが換気が悪く酷い匂いがする。外気温とは違いひんやりとしているだけまだマシか。

「毒素が薄い。もっと濃いものを作るよう指示が来てる」

 顔半分を布で覆った男が足を揺すりながら落ち着きなく話す。

「簡単に言うな。加護のない武器で殺すだけでも一苦労なんだぞ」
「このままでは残りの報酬は支払われない」
「おい、ふざけんな!」
「やめろ」

 背の高い男がため息を吐きガシガシと頭をかく。

「辺境伯が戻って来てまだ日も浅い。今動くのは早急過ぎる」
「呑気な事言ってんじゃねえよ。報酬貰わねえと話になんねえだろ。声以外に有効な手段はないのか」

 身体の大きな男はイライラと歩き回った。

「…ない事はない」

 それまで黙っていた剃髪の男が口を開いた。覆面の男がチラリと横に座る男を見る。

「なんだ」
「原料を作る工程で出来た副産物だが…役に立つかもしれん」
「これは?」

 覆面の男が机上に置いた瓶を手に取り中身をランタンに透かして見ると、ドロリとした茶色い液体で満たされている。
 剃髪の男が表情のない顔で呟いた。

「魔物を呼び寄せ、狂わせる」
「……どう使えと?」
「防壁の向こうで撒けばいい。まずは実地で試せ」
「無責任だな」
「手に負えなければ放って置け。軍が対処するだろう」
「呼び寄せてどうすんだよ、倒せなかったら意味がねえだろ」
「狂わせると言っただろう」
「……共食いか」

 背の高い男がふっと笑い、瓶を懐にしまった。身体の大きな男は意味が分からずイライラと声を荒げた。

「だからどうすんだよ!」

 覆面の男はため息を吐いた。

「共食いさせろ。お互いが殺し合うんだ。その死体を持ってくればいい。それが大物なら問題ないだろう」

 身体の大きな男は一瞬の間を置き、大きく笑った。

「他の奴らはどうした」

 背の高い男が仕切り直すように声を上げる。

「またあの店だよ」

 覆面の男が俺も行きたい、とボヤいた。

「ああ、あそこか。飯が美味かったな」
「演奏も素晴らしかったぞ」
「弾いてる奴の色は不気味だったじゃねえか」
「ふん、俺たちに相応しい色だろう」
「モノ好きだな。さて、俺も腹拵えすっかな」
「飲み過ぎるなよ。夜半過ぎ、まずは実地で試すぞ」
「おう」

 剃髪の男はブツブツと何かを呟きながら、また机上の書類に何かを書き始めた。

「飯は」

 背の高い男が覆面の男に尋ねると、ゆるゆると首を横に振る。

「行って来い。また忙しくなる」

 覆面の男は嬉しそうに立ち上がると、悪いな、と背の高い男に声を掛けて出て行った。
 背の高い男は椅子を引き腰掛け、目の前で何かに没頭する男を見遣る。

 これで大きく何かが動くだろう。
 それが何なのか己には分からないが、さっさとこの仕事を終えて金を貰うだけだ。

 耳を澄まし、音を拾う。
 今日も遠くで美しいピアノの音がした。


 こんな腐った場所にも届く、美しいピアノの音が。

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