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最終章 深淵
夏祭りの支度
しおりを挟む「オーウェンさん、これくらいでどうですか?」
メニューを書き出した紙をオーウェンさんに見せる。
「ああ……これは? どうやって出すんだ」
「それは串に刺します。一本に三個」
「串」
「はい。だってお皿とか、洗い物大変ですよ」
ね、と一緒にテーブルを囲む調理スタッフに視線を向けると、激しくブンブン頭を振っている。ここには使い捨てのお皿とかないからね。
「唐揚げはお店の外で揚げてどんどん串に刺していけばいいかなって。串焼きのお店があるから、わざわざ同じメニュー出す必要ないかと思って」
「まあな。で、折角揚げ物するからこの揚げ芋もやると。これは何だ、…ほっとどっく?」
「それは、こう、柔らかいパンに切れ込みを入れてウインナーとキャベツを挟むんですけど、食べやすいし作るのも簡単で…」
そう言って試しに作ったホットドックを出す。
パンはパン屋のロブさんにお願いしてたくさん焼いてもらう予定。コラボ商品よね。オーウェンさんも調理スタッフもサッと手に取るとすぐにかぶり付いた。
「ああ、確かに食べやすいな」
「そう、子供でも食べやすいと思うんですよね!」
手招きして入り口に立つ護衛二人にも食べてもらう。
お昼前のオーウェンさんのお店でテーブルに何品も料理を並べてうんうん考える私達三人。
一体何をしているのかと言うと、十日後に迫る夏祭りの屋台で提供する料理について、お昼ご飯も兼ねて意見交換。邸で試作品を作って、こうして味見をしながら準備する物を決めていく。
そんな私たちを入り口で微笑ましく見守る護衛二人にも協力して貰い、メニューを選考中。二人は美味しい美味しいしか言わないけど。
今日、オーウェンさんのお店に行くとお義兄様に話したら、もの凄く、もの凄く渋々許してくれたけど、護衛が増えた。私のそばに常に二人、外にもまだいるらしい。…何故なのかは聞かないけど。
バルテンシュタッドで開催される夏祭りは、天災や虫害が起こらず作物が無事育っている事を神様に感謝し、みんなで喜びを分かち合い楽しく過ごすもの。
夕方から翌日の昼まで夜通し行われ、夜の涼しい時間に街のみんなが様々なお店の屋台を渡り歩く。道は封鎖され歩行者天国になり、お店の前には屋台、テーブル席や小さな露店もたくさん並ぶんだとか。
居酒屋だと普段は中々食べに来ることが出来ない家族連れもあちこちのお店を渡り歩くというから、子供も喜ぶメニューを考えたんだよね!
「このクッキーやらマシュマロやら菓子の類は却下だ」
「えー」
「それこそパン屋やケーキ屋が作る」
確かにそうですね。
「もう少し何か目玉商品を考えろ」
「目玉商品」
「そうだ。店でも出したことのない、夏祭りで初めてお披露目するような今後の売上に貢献できるようなやつだ」
おおう、難しい注文だ…!
本当は焼きおにぎりとか出したいけど、この世界でまだお米は見た事ないんだよね。ご飯食べたいなぁ。納豆…もう食べられないんだろうなぁ。
食べ易く、子供にも喜んでもらえてお店でも出していけるような料理……子供って何が好きかな?
オムライス、パスタ、ハンバーグに唐揚げ、カレーライス。
カレーなぁ。スパイスが難しくてまだ完成してないしなぁ。うーんあとはグラタンにエビフライにイカリングフライとか?
お子様ランチにありそうなものよね。
「あ!!」
そうだ!
「思い付いたか」
「はい! 思い付きました! 揚げ物ですけど!」
「揚げ物好きだな」
「ビールに合うので!」
よし! と気合いを入れてキッチンを借りようと立ち上がったところで、急に外から物凄く大きなサイレンのような音が鳴った。
「何?」
思わず耳を塞ぐ。
室内にいるのに響き渡る大きな音、不快な音。何重にも重なっている音は、低く、高く、聞いている者の不安感、焦燥感を煽る。
オーウェンさんは立ち上がると私の肩を掴み護衛に叫んだ。
「ナガセを連れて帰れ!」
お前もだ! と、オーウェンさんが調理スタッフを立たせ出て行くよう指示をする。
「いいか、必ず地下に避難するんだぞ! 家族と一緒にいろ! 軍が来るまで絶対に出るな!!」
調理スタッフは青い顔をしてブンブンと頭を縦に振ると店裏から出て行った。護衛騎士が駆け寄り私の腕を取る。一人は外の様子を確認し、馬が来るのを待つように叫んだ。
もう、叫ばないとお互いの声が聞こえない。
「オーウェンさん!」
オーウェンさんを振り返ると、長い剣を手にして窓から空を見上げている。さっきまで明るい青空が見えていたのに、外は薄暗くなっていた。
「ナガセ、こっちへ!」
外を窺っていた騎士が手招きした。
私の腕を掴んでいる騎士がオーウェンさんに目礼する。
「俺はこの辺りの避難を誘導する、お前らは早く邸へ戻れ!」
「オーウェンさん!」
「心配するな、もうすぐ王国軍が避難の誘導に来る」
「待って、この音は何!?」
ドッドッドッ、と心臓の音がうるさい。
オーウェンさんは眉間に深く皺を刻み苦々しい表情で吐き出した。
「スタンピードだ」
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