勘違いから始まりましたが、最強辺境伯様に溺愛されてます

かほなみり

文字の大きさ
76 / 119
最終章 深淵

夏祭りの支度

しおりを挟む


「オーウェンさん、これくらいでどうですか?」

 メニューを書き出した紙をオーウェンさんに見せる。

「ああ……これは? どうやって出すんだ」
「それは串に刺します。一本に三個」
「串」
「はい。だってお皿とか、洗い物大変ですよ」

 ね、と一緒にテーブルを囲む調理スタッフに視線を向けると、激しくブンブン頭を振っている。ここには使い捨てのお皿とかないからね。

「唐揚げはお店の外で揚げてどんどん串に刺していけばいいかなって。串焼きのお店があるから、わざわざ同じメニュー出す必要ないかと思って」
「まあな。で、折角揚げ物するからこの揚げ芋もやると。これは何だ、…ほっとどっく?」
「それは、こう、柔らかいパンに切れ込みを入れてウインナーとキャベツを挟むんですけど、食べやすいし作るのも簡単で…」

 そう言って試しに作ったホットドックを出す。
 パンはパン屋のロブさんにお願いしてたくさん焼いてもらう予定。コラボ商品よね。オーウェンさんも調理スタッフもサッと手に取るとすぐにかぶり付いた。

「ああ、確かに食べやすいな」
「そう、子供でも食べやすいと思うんですよね!」

 手招きして入り口に立つ護衛二人にも食べてもらう。

 お昼前のオーウェンさんのお店でテーブルに何品も料理を並べてうんうん考える私達三人。
 一体何をしているのかと言うと、十日後に迫る夏祭りの屋台で提供する料理について、お昼ご飯も兼ねて意見交換。邸で試作品を作って、こうして味見をしながら準備する物を決めていく。
 そんな私たちを入り口で微笑ましく見守る護衛二人にも協力して貰い、メニューを選考中。二人は美味しい美味しいしか言わないけど。
 今日、オーウェンさんのお店に行くとお義兄様に話したら、もの凄く、もの凄く渋々許してくれたけど、護衛が増えた。私のそばに常に二人、外にもまだいるらしい。…何故なのかは聞かないけど。


 バルテンシュタッドで開催される夏祭りは、天災や虫害が起こらず作物が無事育っている事を神様に感謝し、みんなで喜びを分かち合い楽しく過ごすもの。
 夕方から翌日の昼まで夜通し行われ、夜の涼しい時間に街のみんなが様々なお店の屋台を渡り歩く。道は封鎖され歩行者天国になり、お店の前には屋台、テーブル席や小さな露店もたくさん並ぶんだとか。
 居酒屋だと普段は中々食べに来ることが出来ない家族連れもあちこちのお店を渡り歩くというから、子供も喜ぶメニューを考えたんだよね!

「このクッキーやらマシュマロやら菓子の類は却下だ」
「えー」
「それこそパン屋やケーキ屋が作る」

 確かにそうですね。

「もう少し何か目玉商品を考えろ」
「目玉商品」
「そうだ。店でも出したことのない、夏祭りで初めてお披露目するような今後の売上に貢献できるようなやつだ」

 おおう、難しい注文だ…!

 本当は焼きおにぎりとか出したいけど、この世界でまだお米は見た事ないんだよね。ご飯食べたいなぁ。納豆…もう食べられないんだろうなぁ。

 食べ易く、子供にも喜んでもらえてお店でも出していけるような料理……子供って何が好きかな?
 オムライス、パスタ、ハンバーグに唐揚げ、カレーライス。
 カレーなぁ。スパイスが難しくてまだ完成してないしなぁ。うーんあとはグラタンにエビフライにイカリングフライとか?
 お子様ランチにありそうなものよね。

「あ!!」

 そうだ!

「思い付いたか」
「はい! 思い付きました! 揚げ物ですけど!」
「揚げ物好きだな」
「ビールに合うので!」

 よし! と気合いを入れてキッチンを借りようと立ち上がったところで、急に外から物凄く大きなサイレンのような音が鳴った。


「何?」


 思わず耳を塞ぐ。
 室内にいるのに響き渡る大きな音、不快な音。何重にも重なっている音は、低く、高く、聞いている者の不安感、焦燥感を煽る。


 オーウェンさんは立ち上がると私の肩を掴み護衛に叫んだ。

「ナガセを連れて帰れ!」

 お前もだ! と、オーウェンさんが調理スタッフを立たせ出て行くよう指示をする。

「いいか、必ず地下に避難するんだぞ! 家族と一緒にいろ! 軍が来るまで絶対に出るな!!」

 調理スタッフは青い顔をしてブンブンと頭を縦に振ると店裏から出て行った。護衛騎士が駆け寄り私の腕を取る。一人は外の様子を確認し、馬が来るのを待つように叫んだ。
 もう、叫ばないとお互いの声が聞こえない。

「オーウェンさん!」

 オーウェンさんを振り返ると、長い剣を手にして窓から空を見上げている。さっきまで明るい青空が見えていたのに、外は薄暗くなっていた。


「ナガセ、こっちへ!」

 外を窺っていた騎士が手招きした。
 私の腕を掴んでいる騎士がオーウェンさんに目礼する。


「俺はこの辺りの避難を誘導する、お前らは早く邸へ戻れ!」
「オーウェンさん!」
「心配するな、もうすぐ王国軍が避難の誘導に来る」
「待って、この音は何!?」

 ドッドッドッ、と心臓の音がうるさい。
 オーウェンさんは眉間に深く皺を刻み苦々しい表情で吐き出した。

「スタンピードだ」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。