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32 悪女と騎士団長のやり直し
「姉さん、聞いてる?」
「えっ!? ええ! 聞いてるわ!?」
ごめん聞いてなかった。
両親が帰宅して、エイデンさまと一緒に晩餐を取った私たちは、居室で談笑していた。憧れの騎士団長に会えて興奮する弟たちは、彼のそばを離れようとしない。みんなやっぱり、王都の騎士に憧れがあるのだろう。
そして私は、彼の言葉が頭から離れなくてずっと上の空だった。晩餐だって、何を食べたのか覚えていない。
(ダメ、全然落ち着かない……!)
両親も楽しそうにエイデンさまといろんな話をしている。
さっきまで子爵家で話していた今後のことも話題に挙がっているようだけれど、ちょっと今は無理。全く頭に残らないのだ。
「あの、ごめんなさい、私もう部屋へ戻るわね」
「もうそんな時間か。我々もそろそろ休まないとな」
耐えきれず立ち上がる私を見て、お父さまが時計を見た。お母さまも、弟たちに向かってほらほら、と部屋へ戻るように促す。
「イーゼンブルグ卿は明日にはもう戻らなければいけないのよ。遅くまで引き留めてはダメよ」
「ええ~っ! もう少しだけ!」
「お前たち、いい加減にしなさい」
「はは、今度はゆっくり王都へ来るといい。俺が案内しよう」
「えっ、本当!?」
すっかり彼に懐いた弟たちが嬉しそうにはしゃいでいるのを「静かにしなさい」とお父さまが注意するのを見ながら、それじゃあ、と私は先に部屋へ戻った。
*
(まったく落ち着かないわ!)
部屋へ戻り、湯浴みをした。部屋着に着替えて、ベッドに腰掛けても全く落ち着かない。着こんだ夜着は、別に色気も何もないただの白い木綿のもの。そもそも他人に見せるものではないから、機能的なものしか持っていないのだ。
これで色気のある下着や夜着持っているほうが、なんだか意味ありげだしこれでいいんだとは思うけれど! とても田舎臭い気がする……!
(ていうか、この後どうしたらいいのかしら?)
彼は私の部屋に来るのだろうか。このまま待っていたらいい?
(――待って……? エイデンさまは私の部屋を知らないのでは……?)
ベッドに腰掛けてしばらく固まっていた私は、やっとその考えに至ったのだった。
*
「――よかった、どうしようかと思っていた」
やっとの思いで部屋の扉をノックすると、すぐにエイデンさまが扉を開いた。室内の明かりが細長く廊下に伸びる。
「ご、ごめんなさい、お待たせしました、か……?」
「いや。――どうぞ」
言葉少なに身体を引いた彼は、私を室内へと誘う。
なんでもない夜着が逆に恥ずかしいと思いながら、そっと部屋へと滑り込んだ。背後で扉の閉まる音を聞いて、途端に心臓がバクバクと激しく音を立てだす。
「あの、私から訪れるのは、はしたないかとか、いろいろ思ったんですけど、そもそもエイデンさまは私の部屋をご存じない、し」
「ああ」
「それに私の部屋だと兄弟の部屋が近かったりして、もし見つかったらまたエイデンさまが弟たちに捕まって一晩中話をさせられたりとかですね、あの」
「アレックス」
室内を落ち着きなくウロウロする私を、背後から逞しい腕が抱き締めた。
夜着一枚しか隔てていないせいか、彼の体温を感じる。腰に回された逞しい腕が私の腰にがっしりと回されて、コルセットを締めていないことが急に心許なく感じた。
「湯浴みを済ませた? いい香りがする」
「え、ええっ! お気に入りの香油があって……」
(準備万端みたいだったかしら……!)
「あなたらしい、いい香りだ」
(ひぃぃ! 色気!)
私の髪に顔を埋めて、すぅっと香りを嗅ぐ彼は、普段よりも穏やかな声で、私の耳に直接吹き込むように囁く。それだけで身体がぞくぞくして、あの夜を思い出させた。
彼は髪から首筋へ移動して、熱い唇を押し当てる。その感触に、小さく身体が揺れた。
「早く、あなたに触れたかった」
「~~っ、わ、私も……」
早く、触れてほしかった。
大きな掌が私の頤を捕らえて、後ろを向かせる。振り返って仰ぎ見る彼の瞳が、ギラギラと強く光っている。
「大事にしたい。今夜は特に」
「十分大事にしてもらっているわ」
「本当に?」
彼の腕の中でくるりと回転して、向かい合う。密着した身体は、お互いの鼓動を伝える。音が重なり合い、伝染するようにじわじわと身体を侵食していく。
「エイデンさま」
手を伸ばして頬に添えれば、彼はうっとりと瞳を閉じた。私の掌に、頬ずりをするように顔を寄せて、掌にちゅっと音を立てて口付けを落とす。
「ダメです」
「ダメ? 何がいけなかった?」
「そこじゃなくて」
やっと二人になれたのに。焦らすなんて、ずるい。
そんな私の気持ちを分かっているのか、青い瞳がオレンジの明かりの元でギラギラと揺れた。
「――ちゃんと、唇にしてください」
*
「――っ、ぁっ、あんっ、エイデンさま……っ」
噛みつくように口付けを受けて、二人でベッドへ倒れ込んだ。
私に覆い被さりながら口付けを繰り返すエイデンさまは、夜着の裾から手を差し込んで、太腿を大きく撫で上げた。熱い掌が太腿を何度も往復し、するりと内側へ潜り込んだ。柔らかな部分を指先で確かめるように揉まれ、期待に自然と腰が揺れる。
ほとんど肌着など付けていなかった私は、彼に夜着を脱がされると、あっという間にほぼ全裸になった。
「アレックス……、ああ、美しいな」
身体を起こして私を見下ろすエイデンさまは、言いながら私の身体を掌で撫でた。指の背で、ゆっくりとくすぐるように身体の線をなぞられ、くすぐったさに身体がぴくぴくと揺れる。
「エ、エイデンさま……っ」
「うん?」
焦らすような触れ方に、もどかしさが積もっていく。
「も、もっとちゃんと……」
触れてほしい。
そんなこと、言ってもいいのか分からないけれど。
私の顔を見下ろしていた彼は、ごくりと喉を鳴らして顔を近付けた。熱い吐息が掛かる距離で、彼はそっと囁く。
「今夜は駄目だ。ちゃんと、あなたの全身を愛したい」
(それってすごい、いやらしい言い方だわ!)
本当に、いったい誰が彼を怖いと言ったのだろう。噂だけが独り歩きをして、きっと誰も本当の彼の素敵さに気が付かなかったのだ。
また身体を起こしたエイデンさまは、私の脚の間に陣取って私の足首をそっと持ち上げた。私へ視線を向けながら、足の甲へちゅっと口付けを落とす。
「~~っ」
恥ずかしい。
恥ずかしくて隠れてしまいたいくらいなのに、彼から目を逸らせない。何度も私の足の甲へ口付けを落とす彼の唇から、赤い舌が覗いた。
ぬるりと舐め上げられて、ぞくぞくと背中が痺れる。やがて舌は、足の指へと伸びた。
「ぁっ、待って、汚いから……っ!」
私の制止する声を無視して、そのまま舌が足の指の間をぬるぬると舐め上げ、彼の口内に指が含まれた。
ぐちゅぐちゅと水音を立てて舐めしゃぶられて、恥ずかしさでどうにかなりそうだ。
視覚的な刺激も大きい。
エイデンさまが私の足の指をしゃぶっているのだから。
ちゅぽん、と音を立ててやっと解放された足を慌てて引っ込める私に、彼は不敵な笑みを見せる。
「気持ちいい?」
「そっ、そんなの……、恥ずかしいです!」
気持ちよかった気もするけれど、恥ずかしさの方が勝っていた気がする。
私の足首を持ったままの彼は、そうか、と小さく首を傾げて、今度はきつく足の甲を吸い上げた。
赤い痕が付いたのを見て、満足そうに口端を上げる。
「今夜はあなたの感じる場所を探していく。気持ちよかったら教えてほしい」
(それって言ってもいいことなの!?)
そういえば、叔母さまから借りた小説にも、ヒロインが気持ちいいことを相手にストレートに伝えている場面が多かった。
(でもちょっと初心者にはハードルが高いというか……!)
なんて答えたらいいか分からない私を置いて、彼は足首からふくらはぎ、脛を舌先でゆっくりと舐め上げていく。肌の上を這う熱い舌の感触が、私の中に何かを呼び起こす。
彼のゆっくりとした動作も、汗ばんだ肌と、時折こちらを見上げるギラギラした視線も、私にあの夜の快感を思い出させた。
膝から太腿へ移動した彼は、私の膝裏に手を差し込み、持ち上げた。
肩に脚を載せたエイデンさまは、目を閉じて太腿に頬ずりをした。
「滑らかな肌だ。まるで陶器のようで、それでいて甘く、蜜のように俺を誘う」
(それは何かの小説の引用でしょうか!?)
ただでさえ不慣れな閨で、不慣れな甘い言葉を掛けられて、顔が、全身が熱くなる。その言葉に答える正解を、私は持っていない。
恐らく真っ赤になっている私を見て、彼はふっと優しく笑った。
「恥ずかしがるあなたは、とてもかわいい」
「か、からかわないで……っ」
「からかってなどいない。もっと恥ずかしがらせたい」
(怖いこと言ってる……!)
これ以上の恥ずかしいことってなんだろう。
彼は頬ずりしていた太腿に唇を寄せて、きつく肌を吸い上げた。また赤い痕が散る。その痕を癒すように舌で舐め上げて、また吸い付く。
何度も繰り返されるその行為に、じわじわとお腹が熱くなっていった。くすぐったさの向こうに段々と快感が押し寄せてきて、声を上げないよう両手で口を押える。
「ん……っ」
青い瞳が私を見たまま、舌でぬるぬると肌を嬲る。段々と脚の間へ移動していく彼を見ながら、身体に走る甘い痺れを逃すように腰を捩った。
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