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一日目 条件の再確認

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「私は王太子妃としての務めは果たしますが、殿下と子を成すつもりはございません」
「王族の婚姻がそれで通るとでも?」
「少なくともこの国ではその必要はないとお聞きしましたし、私もそれでいいと思っています」
「どういう意味だ」
「側室……側妃? なんと言っていたかしら、とにかく、この国では私以外の方と堂々と子を成す事ができますよね?」
「私は今日、貴女と婚姻したのだ。なのにその日のうちにすぐ他の女との婚姻を勧められるのか? しかも、他でもない貴女自身から?」
「後継のことをお話ししているのです。手段があるのなら私ではなくともよいと。むしろ、私との婚姻を反対している貴族もいると聞いております。他国の女よりも自国の者に妃になって欲しいと願うのは、まあどこの国でもあることですよね」
「貴女にそんな話をしたのは一体誰かな」
「宮で過ごせば聞こえてくるものです」
「くだらない。この婚姻は貴族の好き嫌いで決まったものではない」
「だとしても、余計な火種を起こす必要はありません。それに、王太子殿下はその美貌ですもの、女性にはお困りではないでしょう? 私は殿下の女性関係に口を挟む気はありませんから、どうぞ子を成すための女性を召し抱えて下さいませ。あ、でも出来ればあれこれ面倒事には巻き込まれたくないので離れた場所に……」
「ちょっと待ってくれ」

 王太子は私の言葉を遮り、息を吐きだして目を瞑った。額にやる長い指が美しい。指まで美しいなんて何なのかしら。

「私はそんな事はしないしするつもりもない。貴女は一体私の事をどんな男だと思っているんだ」
「知りません。今日初めてお会いしたので」
「……」
「殿下にこれまで何度もお会いする機会はありましたが、一度も叶うことはありませんでした」
「それは、……申し訳ないと思っている」
「お手紙も出させていただきましたが、一度だってお返事をもらったことはありません」
「そんな事はない。ちゃんと返信をしていた」
「ええ、毎回違う筆跡で」
「……」
「私と婚姻を結び、これで私の国がこの国の脅威となることは免れたでしょう。私との婚姻はそれが目的では? ですから、必ずしも今すぐ子を成す必要はないのです」
「だが、貴女とここで過ごさなければ周囲の者たちが何を言うか分からないだろう」
「私の心配をしてくださるのですか? ですが、既にお飾りの妃だと言われていますもの、今更です」
「お飾りなどでは……」
「私がいつこの国に来たかご存知ですか?」
「え?」
「ご存じないでしょう? 私、二ヶ月前にはもうこの国へ来ていたんですよ」
「知っていたが……すまない、ひと月前だと聞いていた」
「お忙しくて顔を出す暇もなかったのですよね」
「そんなことは」
「分かっています。興味のない人間に割く時間が惜しいほどにお忙しかった」
「いや、私は」
「私が放置されていたことは皆知っています。ここの侍女長も他の者も皆、私の扱いがぞんざいですから」
「貴女は私の妃だ。そんな不当な扱いを受けるなどあってはならない。私が厳しく」
「いいえ、中途半端に口を出されては更に適当な扱いを受けるだけなのでやめてください」
「しかし」
「構いません。とにかく、この国に嫁いできたからには王太子妃としての義務は果たします。ですが、それはあくまで公務の話です。あなたと寝所を共にすることも子を成すこともありません。この条件については既に織り込み済みと聞いていますが」
「誰から? そんな話が罷り通る訳ないし、そもそも初耳だ」
「お手紙で何度も確認しました。ですから、側妃の件も気にしないでください」
「またその話に戻るのか……」

 王太子はため息をついて今度は両手で頭を抱え俯いた。この人も王太子としての振る舞いをどうやらしまってきたらしい。銀色の髪がサラリと流れ、キラキラと灯りを跳ね返す。
 私の国にはいない色。初めて目の当たりにしたけれど、美しい色だと思った。

「……うん、分かった」
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