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第一章
アレクシオスの気がかり
(失敗したな)
国王陛下への謁見を終え、王太子夫妻を交えた晩餐の席で歓談していると、ふとアレクシオスの思考が飛んだ。
(あんな高い場所に座らせては、降りることが難しいんじゃないかな)
ものに紛れていたほうが擬態しやすいかとマントルピースの棚に座らせたが、身動きが取れなくなるのではないかと急に気になりだした。
そう言えば食事も考えていなかった。紅茶を飲んでいたしお菓子も食べていたから、何か持ち帰ったらいいだろうか。
馬車に乗ってから手の中で人形が動いたことに気がついたアレクシオスは、逸る気持ちを抑え王女宮から部屋に戻り、なんとか理由をつけて人払いをした。
そうして話しかけた人形は、やはり小さな人だった。
いや、人、なのだろうか。とっさに妖精などと呼んだが、妖精がこの世界に実在するなど聞いたことがないし信じてもいないが、小さな人だって聞いたことがない。
(魔物、でもない)
そもそも何の禍々しさも持たない無害の魔物も、あれほど小さい魔物も、聞いたことがない。
そして、それが一国の王女の持ち物として使用人たちにも認知されるとは考えにくい。
では、人形だとして。
――傀儡だろうか。本で読んだことはあるが、自らの意思を持っているかのように動き、何者かに操られている様子もない。
(となると、やはり亡くなった母君の魔法か)
他国の王女だったユーリエの母が、一人残していく娘のために用意した魔法かもしれない。だが、あれほど精巧な、ほぼ人のように人形を動かす魔法を亡くなった後も何年も残しておくなど聞いたことがない。ひとつだけ引っ掛かると言えば、腰に結ばれたリボンについていた高価な魔石だ。あれはかなり強大な魔力を持った人間が作ったもの。複雑に魔法陣が込められ折り重なっていたが、あまりの小ささにはっきりと読み取ることは出来ない。
(古代魔法、か)
各国が血眼になって研究と解読を進める古代魔法。ユーリエの母がそれらを人知れず使った可能性も考えられる。
遅々として進まない研究が人知れず使われているなど考えにくいが、そうとしか思えないほどあの妖精の存在は説明ができない。
(早く王女に会って話をしたいな)
話してくれるかは分からない。
だが、これから共に生きていくのだ。少しづつでも歩み寄れたら、自分を信じ信頼してくれるようになれば。
アレクシオスは純粋に、この不思議な事象についてユーリエと話したいと思っていた。
「――だから、アレクシオスには合ってると思うよ」
セオドリックの言葉にふっと我に返る。
「え?」
「ユーリエ王女ですわ」
王太子妃サエラが穏やかに笑いながら隣に座るセオドリックに「ね」と首を傾げた。セオドリックは苦笑しながら王太子妃の言葉を受け続けた。
「ユーリエは魔法が好きらしいんだ」
「魔法が?」
その言葉にアレクシオスが反応すると、サエラは穏やかに笑いながら果実水のグラスを傾けた。
「はい。今日も王城の図書室で偶然お会いしたのですけれど、手には古い魔法書を抱えていて。ユーリエ王女は学ぶことがとても好きな方なのです」
「そうですか。我が城の図書室も気に入ってくれるといいのですが」
「アレクシオスは昔から魔法書が好きだからな。今も集めているのか?」
「うん。特に古い書物なんかは見ているだけで飽きないからね。魔法陣を組み立てるのにとても役立つことが多いんだ」
「ははっ! 相変わらずだなあ」
そう笑うセオドリックに、アレクシオスはひとつ頼みごとを思い出した。
「セオドリック、明日、王都の書店や図書館を見て回りたいと思っているんだけれどいいかな」
アレクシオスの頼みにセオドリックは笑いながらひらひらと手を振り応える。
「好きにするといい。護衛を付けるから時間と場所を後で教えてくれ」
「いなくても大丈夫だよ」
「それは分かってる。外向きに必要なんだ」
「そうだね、分かった」
セオドリックの素直な言葉に答えると、二人のそんなやり取りを見てサエラが笑った。
「ふふっ、仲がよろしくて羨ましいですわ」
「級友とはいくつになっても会えばあの当時の感覚で過ごせるんだ」
セオドリックの言葉を受け、アレクシオスも頷いた。
「これからもっと国交を増やせたらいいね」
「そうだな。きっと、ユーリエが橋渡しとなるだろう」
セオドリックはそう言うとグラスを高く掲げ、皆がそれに倣う。
「我々の未来に」
「未来に」
アレクシオスは、妖精がまだ部屋にいるのか、消えたりなどしていないか、そればかりが気になっていた。
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