7 / 15
7
しおりを挟む「……いつまで見てるつもりだ」
私を腕の中に抱き込んだカイさんは、低い声で背後に立つ人物を威圧する。その人は何事か喚いたけど、こっちはそれどころじゃない。
「もも」
もう一度甘い声で私の名前を呼んで、今度は私の顔を上向かせてかぶりつくような深いキスをする。その熱い舌に翻弄されて思わずコートにしがみ付いて。
くしゃりと私の髪を掴んで貪るようなキスを贈られ、私はクラクラと眩暈がした。
苦しくなって。
空気を求めて顔を背けた。
熱く触れ合ってた唇が僅かに離れ、どちらのものか分からない銀色の糸が繋がる。唇を僅かに触れさせながら、カイさんの熱い息が吹き込まれて、息が上がった私は瞑っていた瞳を開けた。
街灯がチカチカと点滅してカイさんの顔を仄暗く浮かび上がらせる。その瞳は強く光り、私の顔を覗き込んだ。
「もも」
ああ、その声やめて。囚われそうになる。
私はグッとカイさんの胸を押して身体を離した。カイさんの腕は私の腰に回されたまま離れない。もう一度カイさんの身体を押すと、今度は大人しく腕が離れた。離れた身体の隙間に冷たい風が流れる。
「…もう、いません、よ」
「……ああ、そうだな」
「…カイさん、私…もう大丈夫ですから」
「…ダメだ。今夜はホテルに泊まれ。ああいう手合いはまた繰り返し来るんだ」
「あの」
「いいから。ほら」
カイさんはあっさり私から離れると助手席のドアを開け私を座らせる。大人しく助手席に収まると、カイさんはどこかに電話をかけてから運転席に乗り込んだ。前を向いたままカイさんが呟く。
「ホテルまで送る」
そう言って、静かに車を発進させた。
「すまなかった」
オレンジの明かりが窓の外を流れていく。遠くのビルの明かりを見つめているとカイさんが話しかけてきた。
フロントガラスにぼんやりと浮かび上がる私たち。
「…いえ、助けていただいてありがとうございます」
「ホテルは押さえてあるから、気にしないで今夜は泊まるといい」
「でも、あの…」
「防犯のしっかりした場所じゃないと安心できないからな。それに……俺からの謝罪だ」
「…謝罪?」
「不快だっただろ」
カイさんは真っ直ぐ前を向いたまま静かに話す。その顔を見つめても、こちらを一切見ない。
「…助けていただいたので」
「それならあれくらい何でもない?」
カイさんは自嘲するように口元を歪ませた。
私は俯いて膝の上の自分の手を見つめる。
酷い。そんな言い方ってない。
「…そんな訳ないじゃないですか…」
私の小さな呟きは、カイさんには届かなかった。
22
あなたにおすすめの小説
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
束縛婚
水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。
清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。
離宮に隠されるお妃様
agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか?
侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。
「何故呼ばれたか・・・わかるな?」
「何故・・・理由は存じませんが」
「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」
ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。
『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』
愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。
義兄様と庭の秘密
結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者
月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで……
誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話
萎んだ花が開くとき
陽花紫
恋愛
かつては美しく、男たちの愛から逃げていたクレアはいつしか四十を過ぎていた。華々しい社交界を退き、下町に身を寄せていたところある青年と再会を果たす。
それはかつて泣いていた、小さな少年ライアンであった。ライアンはクレアに向けて「結婚してください」と伝える。しかしクレアは、その愛に向き合えずにいた。自らの身はもう、枯れてしまっているのだと。
本編は小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる