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三日目 午後の美術館と黄金色のふわふわ2
しおりを挟む美術館を出て整備された川沿いを歩く。
石畳の美しい街並みに美しく整備された川、街路樹の黄色い落ち葉が時折風に吹かれかさかさと音を立てる。
あちこちに出ている小さなワゴンでは温かい飲み物やお菓子が売られていて、子連れの家族や若いカップルが買い求め、美味しそうにベンチで頬張る姿も見えた。
(美味しそう! でもせっかくだから、マリウスに教えてもらったお店にも行ってみたいわ)
せっかく王都まで来たのだから、お勧めのレストランにはぜひ行ってみたい。
近くにいた衛兵に道を尋ね、レストランまでのんびりと歩きながら街並みを堪能する。
領地とはまるで違う風景につい寄り道も多くなる。可愛らしいウィンドウの店にお洒落な看板、露天。街を行き交う人々の格好も素敵だ。
次に来るのがいつになるのか分からないのだから、今日はのんびりと自分の時間を過ごしても問題ないだろう。
道端の花売りから小さな花束を買って、教えてもらったレストランへ向かった。
*
マリウスが教えてくれたレストランは、小路を進んだ奥にある小さなレストラン。深緑の扉を開けるとカランと来客を知らせるベルが鳴り、カウンターから白髪交じりの髭のオーナーが対応してくれた。
お昼を過ぎた時間だったので席も空いていると、快く席に案内してくれたそこはお店の奥にある小さな席。
店内はこぢんまりとした造りで、人もまばらに入っていて思い思いに食事や会話を楽しんでいる。
(こんなに素敵なお店だなんて)
もっと堅苦しい、マナーの必要なお店かと身構えてもいたけれど、素朴な、けれど可愛らしいお店。
白地に赤いギンガムチェックのテーブルクロスがなんだかマリウスに合っているような気がして、思わず一人で笑みが漏れる。
オーナーに一通りお任せで料理をお願いして、画集について尋ねると快く貸してくれた。ゆっくり見ていいという言葉に甘え画集をテーブルに広げ、ゆったりと一人の時間を楽しむことにした。
「気に入りましたか?」
突然かけられた声にはっと我に返り顔を上げると、向かいの席にマリウスが座っていた。
「マリウス!?」
「お待たせしてしまってすみません。料理はもう食べられましたか?」
いつもは整えられている髪が少し乱れ、上下する肩で彼がここまで走って来たのだと分かる。
「ま、まだだけど、どうしたの? 公爵令嬢は……」
「ちょうど学芸員がいたので、交代してきました。間違いなく学べるでしょう?」
「ええ?」
だって絶対そういう目的ではなかったわよ、あの空気は!
「僕は今日、アメリアを案内すると決めていたんです。アメリアを優先します」
「嬉しいけど、大丈夫なの? その、公爵家は……」
「問題ありません。むしろあの場で断れず、申し訳ありませんでした」
マリウスはテーブルに額が着くかと言うくらい頭を下げた。
「や、やめてちょうだいマリウス!」
「本当はきっぱりと断れたらよかったんですが、子供の頃マナーの講師をしてもらったことがあって苦手と言うか……」
「公爵夫人が?」
「はい……。僕の解説を採点されそうな雰囲気で、堪らず学芸員を見つけて交代してきました」
ごん、とついに額をテーブルに着けてしまった。それはもう頭を下げているのではなく、突っ伏しているだけ。その姿に笑いが込み上げる。
「あとで絶対に何か言われそうね」
「確実に言われます……」
もごもごと話す金色の頭頂部を見て、思わず吹き出してしまった。マリウスが顎をテーブルに乗せたまま、上目遣いでこちらを見る。むうっと口を尖らせたそれは、笑ったことを咎めているのかしら。
可笑しくてクスクス笑いが止まらなくて、つい無意識に手を伸ばしその髪に触れた。思ったよりふわふわしていて手触りがいい。
「……アメリア?」
「あ、ごめんなさい、ちょっと触ってみたかったのよね」
よしよしと頭を撫でていると、目許が赤くなった。
流石に頭を撫でられるのは恥ずかしかったかしら。
手を止め引っ込めようとすると、目許を赤く染め潤んだ薄水色の瞳でマリウスがじっと私を見た。
「アメリア、……もう一度いいですか」
「……これ?」
もう一度そのふわふわした髪を撫でると、マリウスはそっと瞳を細め、ゆっくりと閉じた。
(なんだか本当に子犬みたいで可愛いわね)
オーナーが料理を運んでくるまでの間、私はマリウスのふわふわした髪をいつまでも撫で続けていた。
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