【番外編完結】わんこ系年下騎士に懐かれたけど実家の愛犬に似ていて困る

かほなみり

文字の大きさ
12 / 36

三日目 夜の湖と柔らかな口付け2

しおりを挟む

「素敵なお店ね」

 通されたのは店内の奥にある大きな窓のある席。窓の向こうには明かりが灯された中庭が広がり、幻想的な景色が広がっている。

「個室なのね」
「はい。その方が気兼ねないかと思って。正解でしたけど」
「まだ言ってる」

 クスクスと笑うとマリウスはムッと眉根を寄せた。

「アメリアはご自分が人にどう映っているか分かっていないんです」
「そうかしら。私はあくまでドレスを引き立てる側よ。私よりドレスに目が行く人がほとんどなんだから」
「では僕はそのほとんどから外れた人間です」

 ウェイターがワインを持ってきてくれたのをマリウスが手で制し下がらせ、私のグラスにワインを注いでくれる。はちみつ色の液体がふわりと甘い香りを放つ。

「……アメリアはとても美しいんです。どうか分かってください」
「ええ!?」
「では、乾杯」
「か、かんぱい……」

 チン、と小さな音を立てグラスを合わせる。お酒が苦手なマリウスは、やはり果実水を飲んでいる。

(何だって言うの突然! なんかデートみたいじゃない!?)

 ただの親切で今日一日付き合ってくれているのだと間抜けにも思っていたけれど、もしかしなくても立派なデートになっていない?
 でもただ共通の知り合いがいないからこうして二人で食事をしているだけかもしれないし、でも婚約者もいない二人がこんな個室で会っていたら他の人には絶対そう言う仲だって思われるし、でも年の差もあるし相手は伯爵家の人間だし私なんてただの田舎者だし?
 釣り合う訳がないのは一目瞭然よ!

「アメリア? どうしました?」
「い、いいえ! 美味しいワインね」
(味なんて全然分からないけど)

 取り繕って笑っても、何だかぎこちない気がする。マリウスは不思議そうに少しだけ首を傾げて私を見た。

「食事で苦手なものはありますか?」
「ないわ、大丈夫」

 にっこりと微笑めばマリウスはふにゃりと笑う。
 ああ、この笑顔がかわいいと初めから思っていた。弟のようだと思っていたのに。
 店内の照明が薄暗いせいか、髪を上げているからか、マリウスがとても大人の男性に見えてしまう。
 ふにゃりと笑う表情も、時々見せる大人の男性の表情も、可愛らしくて格好よくて素敵で、全て魅力的だ。

(……どうしちゃったのかしらね、私)

 あと二日で領地に帰る。
 今夜くらい、この時間を楽しんでもいいだろうか。
 美味しい食事に楽しい会話、魅力的な相手。もう暫くは王都に来ることもないのだから、こうして楽しむのも悪くはないだろう。今のこの時間を楽しんで、良い思い出を作って領地に帰ればいい。
 ――マリウスは、私とは違う世界の人なのだから。
 

「あ、ほら曲が変わりました」
「……本当だわ。それにしても凄いのね、個室なのにとてもきれいに聞こえるわ」
「音響にこだわっているらしいですよ。個室でもホールでも、音楽がずっと聞こえるような造りにしたかったそうです」
「ふふ、マリウスは本当に色々知ってるのね」
「知っているところをご案内していますから」

 恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻くマリウスは、ふと視線をテーブルに落とした。長い睫が目許に影を落とす。

「せっかくなので踊りませんか?」
「え?」
「舞踏会で踊るようなものじゃなくて、こういう音楽に合わせて踊るのが流行っているんですよ。さあ」

 マリウスが立ち上がり、手を差し出した。手を乗せ立ち上がると、少し広いスペースに移動して向かい合う。

「どうやるの? 私は分からないわ」
「こちらの手は僕の肩辺りに。後はこうして身体をゆっくり……」

 ゆったりと流れる音楽に合わせ、向かい合いまるで抱き合うように身体を揺らせば自然と足もステップを踏む。
 マリウスからふわりと森のような落ち着いた香りが香った。掌から熱が伝わってくる。
 なんとなく顔を上げるのが恥ずかしくて、ずっとマリウスの胸元に視線を落としていた。
 私、今どんな顔をしているのかしら。少しくらい赤くても、きっとそれはワインのせいだと言えるかしら。

「アメリア、領地へはいつ帰られるんですか?」
「二日後の予定よ。マリウスはまだお仕事が続くんでしょう?」
「はい。この期間はずっと警備が入っていて……まだご案内したい場所がたくさんあるのに」
「十分よ、ありがとう。貴重な休みを使ってくれてとても感謝してるわ」
「……感謝だけですか?」
「え?」

 その言葉にふと顔を上げると、マリウスの湖のような瞳が私をじっと見下ろしている。

「昼間、お願いがあると言ったのを覚えていますか」
「ええ。話が途中だったわね。私に出来ること?」

 見上げてマリウスの瞳を見返すと、いつもとは違う真剣な表情で見つめられる。
 
「……僕は、貴女が好きです。アメリア」
「!」

 思わず身体を仰け反ると、マリウスの手がぐっと腰を抑え強く引き寄せられた。密着する身体から、どちらのものか分からない心臓の音が響く。顔が熱い。絶対に赤くなっている。

「僕は、貴女からすると頼りない年下かもしれないし、出会ったばかりでこんなことを言うのは信用置けないかもしれないけど」
「あ、貴方は伯爵家の人なのよ?」
「僕は僕の力で生きていくんです。家は関係ない」
「そんな訳にはいかないわ!」
「アメリア」

 ぎゅっと抱き締められいつの間にか足が止まっていた。音楽がやけに遠くに聞こえる。
 
「お願いです、僕に時間をください。どうか待っていて欲しい」

 耳元で少しだけ震えるマリウスの声が、私の心を揺さぶる。
 こんな事、私の人生に起こるはずがない。私なんかに、こんな若くて人気があって、人懐っこい笑顔を見せる魅力的な人が……

「アメリア……」

 少しだけ身体を離したマリウスが、私の顎に指をかけ上を向かせる。
 湖のような瞳がゆっくりと近付いてくるのをじっと見つめ、いつの間にこの湖に溺れてしまったのかと思い返しながら、私はその柔らかな口付けを、静かに唇で受け止めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

周囲からはぐうたら聖女と呼ばれていますがなぜか専属護衛騎士が溺愛してきます

鳥花風星
恋愛
聖女の力を酷使しすぎるせいで会議に寝坊でいつも遅れてしまう聖女エリシアは、貴族たちの間から「ぐうたら聖女」と呼ばれていた。 そんなエリシアを毎朝護衛騎士のゼインは優しく、だが微妙な距離感で起こしてくれる。今までは護衛騎士として適切な距離を保ってくれていたのに、なぜか最近やたらと距離が近く、まるでエリシアをからかっているかのようなゼインに、エリシアの心は揺れ動いて仕方がない。 そんなある日、エリシアはゼインに縁談が来ていること、ゼインが頑なにそれを拒否していることを知る。貴族たちに、ゼインが縁談を断るのは聖女の護衛騎士をしているからだと言われ、ゼインを解放してやれと言われてしまう。 ゼインに幸せになってほしいと願うエリシアは、ゼインを護衛騎士から解任しようとするが……。 「俺を手放そうとするなんて二度と思わせませんよ」 聖女への思いが激重すぎる護衛騎士と、そんな護衛騎士を本当はずっと好きだった聖女の、じれじれ両片思いのラブストーリー。

【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り
恋愛
羊獣人の伯爵令嬢リーゼル18歳には、双子の兄がいた。 二人が成人を迎えた誕生日の翌日、その兄が突如、行方不明に。 リーゼルはやむを得ず兄のふりをして、皇宮の官吏となる。 叙任式をきっかけに、リーゼルは皇帝陛下の目にとまり、彼の侍従となるが。 皇帝ディートリヒは、リーゼルに対する重大な悩みを抱えているようで。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

こんにちは、最強騎士にお持ち帰りされたダメエルフです~もう逃げられません~

西野和歌
恋愛
おちこぼれエルフのシャーリーは、居場所を求めて人の国にて冒険者として活躍する事を夢見ていた。 だが、魔法も使えず戦闘ランクも最低のお荷物エルフは、すぐにパーティーを解雇される日々。 そして、また新たに解雇され一人になったシャーリーが、宿の食堂でやけ酒をしていると、近づく美貌の男がいた。 誰もが見惚れるその男の名はウェダー。 軽い調子でシャーリーを慰めるついでに酒を追加し、そのまま自分のベッドにお持ち帰りした。 初めてを奪われたエルフは、ひたすらハイスペックエリートの騎士に執着されるうちに、事件に巻き込まれてしまう。 これは、天然ドジな自尊心の低いシャーリーと、自らに流れる獣の血を憎みつつ、番のシャーリーを溺愛するウェダーの物語です。 (長文です20万文字近くありますが、完結しています) ※成人シーンには☆を入れています。投稿は毎日予定です。※他サイトにも掲載しています。

処理中です...