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四日目 朝食と後悔2

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 ――アメリアは、俺がいなくても大丈夫だよ

 五年前、そう言って私の元を去って行った元婚約者。
 仕事をしたいという私を甘やかしてくれて、好きにさせてくれた人。彼の優しさに甘えて、いつも彼からの気持ちを受け取ってばかりだった私は、仕事に没頭して彼に何かを返したことはなかった。

 ――俺だって、俺のことを好きだと言って欲しい。与えるばかりでは苦しいだけだから……

 決して蔑ろにしていた訳ではなかった。彼の優しさが好きだったし、彼に救われることは沢山あった。
 けれど私は自分のことで精一杯で、彼をちゃんと見ることが出来なかった。彼が苦しい時に、寄り添ってあげられなかったのだ。
 彼に婚約の解消を言われて、私は何も言えなかった。だって、仕方ないと思ったのだ。私に出来ることは何もない、彼に返せるものがない、と。引き留める資格などない、だから笑顔で婚約を解消した。

 ――アメリアは、俺がいなくても大丈夫だよ

 そんな私に寂しそうにそう言った彼。
 では私はどうしたら良かったのだろう。泣いて縋ればよかった? 一人にしないでと、涙を流せばよかった?
 彼を自由にしてあげることが、償いだと思ったのに。
 
(結婚とか、向いていないと思うのよね)

 イーサンはマリウスと話せと言うけれど、彼こそ貴族社会の縮図のような立場に身を置いている人だ。三男とは言え、伯爵家の人間。その身を政略的なものとして使われることもあるだろう。
 王家直轄の近衛騎士隊長を歴任している伯爵家と繋がりたい貴族など、数多いる。しかも、自身の力で騎士団小隊の副長まで務めている人だ。騎士団での活躍が期待されているに違いない。これから彼に相応しい然るべき人と婚約し、家庭を持ち、貴族社会で生きていくだろう。
 時間が経てばやがて情熱も冷め、私のことはその他大勢の内の一人として、記憶の中に埋もれていくのだ。

 もし仮に、マリウスの言う私を好きだという台詞が本物だとして。
 私が彼のために領地を捨て、仕事を諦め、王都で暮らす? それとも、将来有望な彼が今の仕事も人間関係も全て捨てて、私を追って田舎に来る?
 ただの、一時の気の迷いにそんな事をする価値はない。
 
 私は職業婦人の道を選んだ。
 恋も、家庭を持つことも諦めた。それらを諦められるほど私は仕事が好きで、手放したくない。手放せない。
 ただひとつ、この身を捧げる相手に出会えなかったことを寂しいとは思っていた。だからこそ、マリウスとの夜を拒まなかった。
 彼のことを好ましいと思ったし、いい人だと思った。心を尽くしてくれる彼と一緒にいるのが心地よかった。離れがたいと、思った。
 でも、どう考えても私たちの関係が進展することはあり得ない。
 だからちょっとした火遊び。それでいい。きっともう、会うこともないのだろうし。
 そう思っていたのだけれど。
 
 (……どうしてこんなに気持ちが重く苦しいのかしら)


 朝の眩しいほどの日差しはダイニングを暖めてくれたけれど、私の胸には後悔と後ろ暗い気持ちが押し寄せていた。
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