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五日目 お茶会1
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「明日帰るんだって?」
今朝も重たい身体をなんとか起こしてダイニングへ行くと、イーサンが新聞から顔を上げ私を見て眉を顰めた。
「酷い顔だな。体調悪い?」
「大丈夫よ。ちょっと疲れただけ」
「無理して帰らなくても、体調良くなってからにしたら?」
「そんな訳にはいかないわ。それじゃなくても繁忙期に抜けて来たんだもの、少しでも早く帰らないと」
「まあ、その気持ちは分かるけどさ」
イーサンはそれ以上何も言わず、紅茶のカップをゆっくりと傾けた。
「今日はどうするの?」
「皆にお土産を買って帰ろうかと思ってるから、街を見て回ろうかなって」
「ああ、それならいいところがあるよ」
紅茶を飲みながらイーサンと領地の話や家族の近況報告をしていると、ハウスメイドがダイニングに手紙の束を持ってやってきた。
「こっちは俺の、……こっちはアメリアのだ」
「これは……まあ、晩餐会でお話した人たちね。よかった、繋がりが持てそうよ」
「優秀だなあ」
「まあね」
ふふっと笑いながら、一通の封筒を開封すると、ふわりと素敵な香りが香るカードが入っていた。
「……まあ、ブランディス夫人からだわ。……ん? アフタヌーンティー?」
センスのいいカードに美しい文字で書かれたそれは、昨夜少しだけお会いした、ブランディス夫人からのお茶会のお誘いだった。
*
「お忙しいのに突然お招きしてごめんなさいね」
招かれたブランディス卿のお屋敷は王都の中心部から少し外れた、庭の美しい邸宅だった。
ブランディス夫人はエントランスで、花が咲くような美しい笑顔で迎えてくれた。
「いいえ! お招きいただき光栄です、ブランディス夫人」
「あら、そんなに固くならないで。お互い事業を興している者同士、しかも女性同士だもの。貴女とお話ししたいとずっと思っていたの。ぜひ、マーガレットと呼んでちょうだいね、アメリア」
「ありがとうございます、マーガレット」
通されたコンサバトリーは美しい花であふれ、庭木には金木犀が植えられている。
「素敵なお庭とコンサバトリーですね!」
「ありがとう。中心部じゃ庭付きって難しいけれど、ここまで外れると叶うのよね。遠かったでしょう?」
「いいえ! ここに来るまでの道のりもとても楽しかったです」
「まあ! ふふ、さあかけて」
案内されたテーブルに着くと、ワゴンを押したブランディス卿が現れた。
「ブランディス卿!」
「大丈夫、そのまま座っていて下さい」
ブランディス卿は笑いながら私を手で制すると、ちゅっとマーガレットの頬に口付けを落とした。
「マーガレット、貴女の好きなお茶を用意したから、あとはゆっくりしてください」
「ありがとうイヴァン」
(噂には聞いていたけど、本当に仲睦まじいご夫婦なのね)
二人とも美しすぎて目のやり場に困る。
ブランディス卿は慣れた手つきでお茶を淹れると、では、とコンサバトリーを後にした。
「昨日はごめんなさいね、騙すようなことをして」
「あ、いいえ! そんな……」
「ちゃんとお話はできた?」
何と答えたらいいのか答えに窮していると、マーガレットは眉尻を下げて微笑んだ。
「あなたの気持ちは分かるわ。私もそうだったもの」
「……」
「イヴァンと出会った時は、彼、まだ十八だったのよ」
「え」
「若すぎるわよね」
マーガレットはそう言って笑うと、美しい所作でカップを持ち上げ紅茶の香りを楽しむ。
「この紅茶はお気に入りなの。どうぞ、気持ちが落ち着くわよ」
「ありがとうございます」
琥珀に赤い色をした液体から、花のような香りがする。その香りにほうっと息を吐くと、向かいに座るマーガレットは優しく微笑んだ。
「お仕事はとても順調のようね」
「はい。お陰様で今回の晩餐会では沢山の方とお話ができました」
「とてもいい糸だものね。ぜひ私のレース工場でも取り扱いたいわ」
「ありがとうございます、ぜひ!」
「領地にはいつ戻られるの?」
「明日、には」
そう、私は明日の朝、王都を立つ。
領地に戻り、今回繋がりのできた人々と具体的な商談に移らなければならない。やるべきことが沢山ある。
だから、早く帰らねばならない。早く。
――けれど、こんなに気持ちが重たいのはなぜだろう。
「……あまり、蓋をするのはよくないわ」
「え」
その言葉にいつの間にか俯いていた視線を上げると、美しい翠の瞳が私を優しく見守っていた。
今朝も重たい身体をなんとか起こしてダイニングへ行くと、イーサンが新聞から顔を上げ私を見て眉を顰めた。
「酷い顔だな。体調悪い?」
「大丈夫よ。ちょっと疲れただけ」
「無理して帰らなくても、体調良くなってからにしたら?」
「そんな訳にはいかないわ。それじゃなくても繁忙期に抜けて来たんだもの、少しでも早く帰らないと」
「まあ、その気持ちは分かるけどさ」
イーサンはそれ以上何も言わず、紅茶のカップをゆっくりと傾けた。
「今日はどうするの?」
「皆にお土産を買って帰ろうかと思ってるから、街を見て回ろうかなって」
「ああ、それならいいところがあるよ」
紅茶を飲みながらイーサンと領地の話や家族の近況報告をしていると、ハウスメイドがダイニングに手紙の束を持ってやってきた。
「こっちは俺の、……こっちはアメリアのだ」
「これは……まあ、晩餐会でお話した人たちね。よかった、繋がりが持てそうよ」
「優秀だなあ」
「まあね」
ふふっと笑いながら、一通の封筒を開封すると、ふわりと素敵な香りが香るカードが入っていた。
「……まあ、ブランディス夫人からだわ。……ん? アフタヌーンティー?」
センスのいいカードに美しい文字で書かれたそれは、昨夜少しだけお会いした、ブランディス夫人からのお茶会のお誘いだった。
*
「お忙しいのに突然お招きしてごめんなさいね」
招かれたブランディス卿のお屋敷は王都の中心部から少し外れた、庭の美しい邸宅だった。
ブランディス夫人はエントランスで、花が咲くような美しい笑顔で迎えてくれた。
「いいえ! お招きいただき光栄です、ブランディス夫人」
「あら、そんなに固くならないで。お互い事業を興している者同士、しかも女性同士だもの。貴女とお話ししたいとずっと思っていたの。ぜひ、マーガレットと呼んでちょうだいね、アメリア」
「ありがとうございます、マーガレット」
通されたコンサバトリーは美しい花であふれ、庭木には金木犀が植えられている。
「素敵なお庭とコンサバトリーですね!」
「ありがとう。中心部じゃ庭付きって難しいけれど、ここまで外れると叶うのよね。遠かったでしょう?」
「いいえ! ここに来るまでの道のりもとても楽しかったです」
「まあ! ふふ、さあかけて」
案内されたテーブルに着くと、ワゴンを押したブランディス卿が現れた。
「ブランディス卿!」
「大丈夫、そのまま座っていて下さい」
ブランディス卿は笑いながら私を手で制すると、ちゅっとマーガレットの頬に口付けを落とした。
「マーガレット、貴女の好きなお茶を用意したから、あとはゆっくりしてください」
「ありがとうイヴァン」
(噂には聞いていたけど、本当に仲睦まじいご夫婦なのね)
二人とも美しすぎて目のやり場に困る。
ブランディス卿は慣れた手つきでお茶を淹れると、では、とコンサバトリーを後にした。
「昨日はごめんなさいね、騙すようなことをして」
「あ、いいえ! そんな……」
「ちゃんとお話はできた?」
何と答えたらいいのか答えに窮していると、マーガレットは眉尻を下げて微笑んだ。
「あなたの気持ちは分かるわ。私もそうだったもの」
「……」
「イヴァンと出会った時は、彼、まだ十八だったのよ」
「え」
「若すぎるわよね」
マーガレットはそう言って笑うと、美しい所作でカップを持ち上げ紅茶の香りを楽しむ。
「この紅茶はお気に入りなの。どうぞ、気持ちが落ち着くわよ」
「ありがとうございます」
琥珀に赤い色をした液体から、花のような香りがする。その香りにほうっと息を吐くと、向かいに座るマーガレットは優しく微笑んだ。
「お仕事はとても順調のようね」
「はい。お陰様で今回の晩餐会では沢山の方とお話ができました」
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「ありがとうございます、ぜひ!」
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「明日、には」
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だから、早く帰らねばならない。早く。
――けれど、こんなに気持ちが重たいのはなぜだろう。
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