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五日目 お茶会2
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マーガレットはふふ、と微笑むと、カップをソーサーに戻し視線を庭へ向けた。庭には優しい日差しが柔らかく降り注ぎ、金木犀が輝いている。
その庭で、ブランディス卿が花木の手入れをしていた。
「貴女も私たちの噂話を聞いたことがあるでしょう?」
「……あ」
「私が彼より年上だから、当時は随分と色々な噂が流れて社交界を賑わせたのよね」
くすくすと笑いながら、マーガレットは懐かしそうに目を細めた。
「イヴァンに愛を伝えられた時ね、私は全て諦めて仕事に生きようと思っていたの」
社交界では、ブランディス卿が全てを捨ててマーガレットを選んだと、ずいぶん話題になったことがあった。
ブランディス卿はその美貌で社交界では有名な人物だった。しかも伯爵家の嫡男。彼と懇意になりたい女性たちは数多いたけれど、浮名を流すこともなく一度も女性と噂になったことがなかった。そんなブランディス卿が年上の、しかも男爵家の女性と駆け落ちのように王都から出て行ったと、本人不在の中で尾ひれがつき社交界はその話題で付きっきりだった。
中にはマーガレットのことを、若く将来有望な騎士を唆した悪女だとまで言う人もいたくらいだ。
けれど、何年経っても二人は仲睦まじく、そしてマーガレットが実家の商会から独立して興した会社は事業を広げ、確実に成長している。
そこには、二人三脚で仕事に取り組む夫婦の姿があり、二人のその姿を見た人々は皆一斉に口を噤んだ。
「前の婚約者が浮気をしてね、もう何もかも諦めて仕事に生きていくと思っていたの。だから、イヴァンから私に向けられる視線も言葉も、全て受け流していたわ。どうせ若者の一時の感情だろうって」
庭で手入れをしているブランディス卿の元へ、小さな女の子が駆け寄った。手には小さなバケツとシャベルを持っている。二人で並びしゃがみ込むその姿を見て、マーガレットからふふっと小さく笑い声が漏れた。
「でもじゃあ、私はどう思っているのかって、考えたの。いたってシンプルな問いよ。彼のことが、好きなのか否か」
マーガレットは庭にしゃがみ込み並ぶ小さな背中と広い背中を見つめたまま、言葉を繋げる。
「仕事をすることと人を愛すること、どちらかを選ぶ必要はないわ」
ブランディス卿にそっくりなふわふわのピンクブロンドの女の子は、翠の瞳を誇らしげに輝かせブランディス卿を見上げている。
『そうやってなんでも決めつけて一人で結論出すの、アメリアの悪いとこだよ』
今朝のイーサンの言葉を思い出す。
私は、この選択が最善だと思っている。彼のこれからのことを考えれば、年上の、しかも田舎の男爵家の女なんかよりも相応しい人が彼の周囲にはたくさんいる。
一時の気の迷いだと、このままお互いが顔を合わせずにそれぞれの人生を生きていけばいいのだと、きっと誰しもが納得するはず。
『教えてください、アメリア。僕をどう思っていますか』
でもマリウスは、それを許さなかった。
一時の気の迷いなんかではないと、怒りにも似た想いを私にぶつけてきた。
「女が商いをするなんて、と偏見を持つ人たちは沢山いるわ。私たちはそれでも、自分の好きなものを選び、したいことをしている。そんな私たちを見守って、支えようとしてくれる人たちもいるでしょう? 私たちは、そんな人たちから目を逸らしてはいけないのよ」
「……相手にとっての最善が何か分かっていてもですか?」
「それは本当に最善なのかしらね?」
庭から「ママ!」と声が掛けられた。
マーガレットは笑顔で女の子に片手を挙げる。ブランディス卿に抱き上げられた女の子は嬉しそうに何度も手を振った。
「……希望と違う結果になるとしても、商談相手と会話を重ねて落としどころを見つけるのも、優れた経営者の腕の見せ所だと思わない?」
マーガレットはにっこりと私に向き合うと美しく口元に弧を描いた。
「……マーガレット、教えて欲しいことがあります」
「私の分かることならいくらでも」
赤い髪を日の光に煌めかせた美しい女性は、優しく柔らかく、私に微笑んだ。
その庭で、ブランディス卿が花木の手入れをしていた。
「貴女も私たちの噂話を聞いたことがあるでしょう?」
「……あ」
「私が彼より年上だから、当時は随分と色々な噂が流れて社交界を賑わせたのよね」
くすくすと笑いながら、マーガレットは懐かしそうに目を細めた。
「イヴァンに愛を伝えられた時ね、私は全て諦めて仕事に生きようと思っていたの」
社交界では、ブランディス卿が全てを捨ててマーガレットを選んだと、ずいぶん話題になったことがあった。
ブランディス卿はその美貌で社交界では有名な人物だった。しかも伯爵家の嫡男。彼と懇意になりたい女性たちは数多いたけれど、浮名を流すこともなく一度も女性と噂になったことがなかった。そんなブランディス卿が年上の、しかも男爵家の女性と駆け落ちのように王都から出て行ったと、本人不在の中で尾ひれがつき社交界はその話題で付きっきりだった。
中にはマーガレットのことを、若く将来有望な騎士を唆した悪女だとまで言う人もいたくらいだ。
けれど、何年経っても二人は仲睦まじく、そしてマーガレットが実家の商会から独立して興した会社は事業を広げ、確実に成長している。
そこには、二人三脚で仕事に取り組む夫婦の姿があり、二人のその姿を見た人々は皆一斉に口を噤んだ。
「前の婚約者が浮気をしてね、もう何もかも諦めて仕事に生きていくと思っていたの。だから、イヴァンから私に向けられる視線も言葉も、全て受け流していたわ。どうせ若者の一時の感情だろうって」
庭で手入れをしているブランディス卿の元へ、小さな女の子が駆け寄った。手には小さなバケツとシャベルを持っている。二人で並びしゃがみ込むその姿を見て、マーガレットからふふっと小さく笑い声が漏れた。
「でもじゃあ、私はどう思っているのかって、考えたの。いたってシンプルな問いよ。彼のことが、好きなのか否か」
マーガレットは庭にしゃがみ込み並ぶ小さな背中と広い背中を見つめたまま、言葉を繋げる。
「仕事をすることと人を愛すること、どちらかを選ぶ必要はないわ」
ブランディス卿にそっくりなふわふわのピンクブロンドの女の子は、翠の瞳を誇らしげに輝かせブランディス卿を見上げている。
『そうやってなんでも決めつけて一人で結論出すの、アメリアの悪いとこだよ』
今朝のイーサンの言葉を思い出す。
私は、この選択が最善だと思っている。彼のこれからのことを考えれば、年上の、しかも田舎の男爵家の女なんかよりも相応しい人が彼の周囲にはたくさんいる。
一時の気の迷いだと、このままお互いが顔を合わせずにそれぞれの人生を生きていけばいいのだと、きっと誰しもが納得するはず。
『教えてください、アメリア。僕をどう思っていますか』
でもマリウスは、それを許さなかった。
一時の気の迷いなんかではないと、怒りにも似た想いを私にぶつけてきた。
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「私の分かることならいくらでも」
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