ド派手な髪の男にナンパされたらそのまま溺愛されました

かほなみり

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「ヴィルツ補佐官!」

 船が港に到着し、給油と荷積みのため半日の停泊となる。
 すぐに下船すると、補佐官がタラップの下で待ち構えていた。

「何かあったんですか!? わざわざ補佐官がいらっしゃるなんて……」

 早馬ですらなく上司本人が来るなど、よほどの非常事態しか考えられない。
 嫌な予感がして胸がドキドキとうるさくなるのを抑えながら駆け寄ると、普段はびしっと後ろに流し固めた髪が崩れ、ややくせのある前髪が下りている。しかも、眼鏡がない。

(……誰かに似てる)

 誰だっけ?
 真っ黒な髪の間から覗く真っ青な瞳に、一瞬ドキリと胸が鳴る。あの夜が脳裏に蘇り、慌てて思考を散らした。
 今はそれどころではない。目の前の上司に気持ちを戻して、私!

「仕事を終えて馬で来た」
「え? 終えて……う、馬で? 何かありましたか?」
「ない」

 益々意味が分からない。
 
「あの?」
「話がしたい」

 そう言うとヴィルツ補佐官は私の手を取り、船内の私の部屋へと戻っていった。

「すみません、説明してください」

 部屋に戻り、なんだか草臥れた様子の補佐官に椅子を勧める。黙って言われるままに腰を下ろした彼は、はあっと深く息を吐き出した。馬で来たって、一体どれだけ走り続けたのだろう。王都からは相当な距離だ。
 水の入ったグラスを手渡すと、彼は礼を言い一息に飲み干した。

「馬で来たって、一体どうしたんですか? 何か有事が……」
「有事ではない。急がないと君が国を出てしまうから、手っ取り早く馬で来ただけだ」
「はあ?」
「わからない?」

 補佐官は膝の上に両肘を乗せ、身を乗り出すように私の顔を窺い見た。その顔にまた、あの夜が蘇る。
 ……待って。……待って……?

 癖のある長めの前髪から覗く真っ青な瞳。その瞳に、見覚えがある。

「……え?」
「エリカ」

 ヴィルツ補佐官は立ち上がり、私の前に跪いた。

(元騎士だと言っていたわ。身体つきも逞しいし、馬だって乗りこなせるのは当然……、だ、し、でも)

 信じられない。気がつかないことなんてあるだろうか。酔っていたから? 違う、それだけじゃないわ、雰囲気も話し方も……。

「わかった?」

 ふっと優しく瞳を細めるその表情に、一気に顔が熱くなった。

「あ、あれは、え!? そんな、だってっ!」

 思わず両手で口を覆うと、補佐官は困ったように眉尻を下げ笑った。この人、笑うんだ。いや、あの夜は随分と笑っていた。
 
「言いたいことはいろいろあるだろうな」
「か、かかか、髪は!?」
「あっちが地毛だ」
「ええ!?」
 
 金と青の髪が地毛!?

「仕事の時はこの色に染めている。あの色はどうしても目立つし、馬鹿にされることが多いから」
「こ、言葉使いだって違いますし」
「気をつけているからな。普段はあの話し方だよ。が知らないだけだ」
「わ、わたし……」

 それ以上言葉が続かない。腰が抜けた気がする。座っていたソファの背にへなへなと寄りかかると、今度は補佐官が私の手に水の入ったグラスを手渡した。

「ほら、一回飲んで」

 聞き覚えのあるその言葉に、顔が熱くなる。

「ひ、ひどいわ」
「傷心の貴女に付け入った自覚はあるよ」
「どうして」

 顔を両手で覆い、目をギュッと瞑る。

(一夜だけだと思っていたのに、まさか上司とか!)

 そんな私の手首を掴み引き剥がすと、補佐官は私の顔を覗き込んだ。目の前の顔をそっと窺い見る。
 ああやっぱり、顔がいい。
 あの夜もなんとなく似ているとは思っていたけど、まさか本人だったなんて。
 恥ずかしさに視界がじわりと滲んだ。

「……貴女は知らないだろうけどね、婚約解消の話はあっという間に広がったんだよ」

 あの夜出会った男と同じ声、口調で補佐官は話す。

「貴女を狙う男がたくさんいてね……、先を越されたくなかったから」
「……」
「だから、貴女が現れたら俺が行くまで誰にも声をかけさせず、引き留めてほしいとマスターに連絡をしていた」
「ま、マスターはあの姿を」
「知ってるよ。騎士の頃から通ってる店だからね」
「あの、本当に……」
「エリカ」

 低い声がすぐ近くで囁く。
 補佐官はこんな風に私の名前を呼ぶ人だっただろうか。こんな、甘さも情欲も載せて。
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