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5皿目 イエローが少女に願ったのは

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「おいしぃ~~」

「うまぁい~~」

 誰もいない小島にて、ランプから現れた少女とイエローはハツハラカレーを共に食べ声を上げた。

「おいしい!! 私、これまで食べ物を口してこなかったので…こんな食べ物が世の中にあるんですね..」

「でしょ? あんな小さなランプの中じゃ、世界の良い物もうまい物もわからなかったでしょ?」

 イエローの言葉に少女がスプーンを止めた。目を細め、昼間の太陽と海を眺めている。

「…私だって、好きであんな檻の中にいたわけじゃないんです…昔の偉い人たちが私を作って、便利に使われ続けてたから、何を楽しんだり食べたりなんてしたことなくて…」

 少女が目を閉じ過去を振り返りかえる。

 昔の人たちは自分達の平穏や利便性のある生活を求めて精霊を作った。精霊は創造主である人間のために文字どうり自分達の命を削り、命令をこなしてきた。
 数少ない精霊を求め人々が争い、精霊を封じ込めて隠すようになった。

 封じ込められ隠したまま忘れられた精霊は何十年、何百年の間も暗く何もない空間でこ孤独を過ごしてきた。
 孤独の中、ひたすら次はどんな人間が主なのか? どんな無茶な命令を下されるのか? 恐怖のまま長い時間を過ごしてきた。

 ゆっくりと目を開け、カレーとイエローを見つめる。

「けど、こうして誰かと食事してこんなにきれいな景色が見れて…私、とっても嬉しいです…」

 笑顔でそう告げ少女はカレーをほおばる。
 イエローは黙ったままで、少女が涙を必死に我慢しているのに既に気づいていた。

 やがて、カレーを食べ終えると少女はイエローに告げた。

「さて、主様。あなたの願いはなんですか? 金銀財宝ですか? それとも、自分だけの王国ですか?」

 願いを問いかける少女。作り笑顔で主の願いを聞き入れるが、イエローは答えない。

「あの? もしかして、願いが決まらないのでしょうか? 焦ることはありません、私は長寿ですので、この先ゆっくり考えていただければ…」

「ねぇ? その、誰かの願いを叶えるのって楽しいの?」

「え? あ? それは、願い、ですか?」

 突然の質問に少女が戸惑った。イエローが真剣な目で見つめてきて、戸惑いながら答える。

「その、私は精霊ですので…作ってくださった人間のために尽くすのが、私の使命ですから…」

「じゃ、なんで苦しそうな顔してんのさ?」

 イエローの言葉に少女は答えきれなかった。イエローはカレー鍋を持ちながら答える。

「私さ。カレーは好きだけど「タダでカレー作れ」だの「カレーをもっと自分達のために死ぬまで作れ」なんて言われたらブチ切れるか、バックレるよ。それに、さっきカレー食べてた貴女。すごいいい笑顔だったからさ…」
 
「わ、私は…せ、精霊で…」

 精霊は人間に尽くさなければならない。生み出された時に頭の中にあった言葉で、今まで疑わなかったはずなのにイエローの言葉を受け何かが揺らいだ。
 自分は人の願いを聞いて叶えて楽しかっただろうか? 先ほど食べてたカレーの時のような笑顔は一度でもあったのだろうか?
「わ、私は..もう、誰かの願いをかなえるだけの、道具になりたくない…」

 何百年も暗いランプの中で溜まった孤独や恐怖が吐き出て少女は泣き出した。
 これまで、多くの人間の欲と醜さを目の当たりにして人間に対して冷めた絶望を持っていたはずが目の前の少女と一皿のカレーが心と体を温めてくれた。

「だったら私の願いは…あなたを自由にすることね」

 イエローがそう告げると少女の体が光る。見た目は変わらないが少女とランプをつないでいた見えない鎖が断ち切られ、少女は生まれて初めての自由を手にする。

「え、わ、私ランプから離れてる…」

「なんか願いが叶ったぽいね…ってうぉぉぉ!!」

「私、自由なんだぁ!! 自由なんだぁ!! 」

 自由を手にした少女に飛びつかれイエローは倒れる。
 自分の体の上で自由を手にして笑い泣きする少女をなだめつつ、元の世界へ帰る方法を自分から手放した事に後悔はなかった。

(まぁいいか。ここで自分だけ助けたら仲間に顔を合わせられないし…)

 元の世界に返る方法は他にあるさ。と自分を納得させつつ少女に「早くどいてくれ」とうめき声をあげるイエローだった。


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