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悲劇を起こす者は…
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『途中の劇場で降ろしてもらえるかしら。夕方から公演があるの』
外で待っていた馬車に乗り込んだカイテンに続き、オウカも隣に座ってきた。
『一体何があった。
警備団が出動する騒ぎでも起こったのか?』
それを特に気にする様子もないカイテンは馬車が走り出す中、前方の操手席にいる使者に訊く。
『緊急事態です。
これは皇女リノハル様からの召集命令であり、今はそれしか申し上げられません』
手綱を握る使者は振り返らず、緊張にひきつった声でそう返した。
『皇女様からの召集命令か…』
*有事が起こったこと*を意味する命令に、カイテンは何かを考え込むように瞼を閉じた。
快晴の真昼、慌ただしく大通りを駆け抜ける馬車とは裏腹に、シャーハンの街は穏やかな活気に満ち溢れている。
『パパ、言ったでしょ?
港の周辺は今頃、市民たちが殺到して大騒ぎよ。
見たこともない巨大船を、警備船が連れてきたって噂も流れてるわ』
『噂に惑わされるな。
警備団が対応しているなら、報告が王宮にも上がって来ているだろう』
カイテンは落ち着いた表情で、背もたれへと体を委ねる。
『そんなの、オカシイ…。
あんな巨大船を警備団が迎え入れておいて、元老院のパパに何も報せていないなんて…。
もしかして、警備団がクーデターを…』
『口を慎め』
静かだが、怒りに満ちた父の声にオウカは思わず肩を強張らせた。
『我らが誇り高きシャーハン国警備団は、常に最前線で命をはっているのだ。
お前や私…国民を守る為にな』
そして、直ぐに優しい表情へと戻ったカイテンは続ける。
『オウカよ…
平和を愛することは素晴らしいことだ。
確かに戦いの無い世界は楽園だ。
だがな、私の愛しいお前が存在するには、それだけ分の空間を占有し、それだけ分の命を殺め食す。
生きる事とは戦いであり、奪うことだ。
もしお前が、この国…シャーハンこそ
戦いの無い平和な世界だと本気で思えているとしたら…
それは、お前が、自分の代わりに誰かを戦わせているということだ』
『…もういい、ここで降ろして』
父の言葉に首を左右に振りそっぽ向いて溜め息をついた後、オウカはそう呟いた。
『劇場は、まだ先だぞ?』
『いいから!早く止めて!』
オウカの声に驚いた使者が思わず手綱を引き馬を止めた。
馬車内に僅かな沈黙が漂い、その隙間から外界の陽気な声が滑り込んでくる。
『あの、破竜大戦で焦土と化したシャーハンは、戦争の愚かさを嫌と言うほど痛感したんでしょ?
焼け野原からやっとここまで復興を遂げたんでしょ?
大戦を経験したパパが言ってたじゃない…。
悲劇を起こす者は、いつだって耳障りの良い詭弁を語る…って』
涙声に近い声を絞り出したオウカは立ち上がると、足早に馬車から降りた。
そして、おもむろに振り返ると哀しげな瞳で父の顔を見つめて言った。
『パパが、悲劇を起こす者にならないと…私は信じているわ』
外で待っていた馬車に乗り込んだカイテンに続き、オウカも隣に座ってきた。
『一体何があった。
警備団が出動する騒ぎでも起こったのか?』
それを特に気にする様子もないカイテンは馬車が走り出す中、前方の操手席にいる使者に訊く。
『緊急事態です。
これは皇女リノハル様からの召集命令であり、今はそれしか申し上げられません』
手綱を握る使者は振り返らず、緊張にひきつった声でそう返した。
『皇女様からの召集命令か…』
*有事が起こったこと*を意味する命令に、カイテンは何かを考え込むように瞼を閉じた。
快晴の真昼、慌ただしく大通りを駆け抜ける馬車とは裏腹に、シャーハンの街は穏やかな活気に満ち溢れている。
『パパ、言ったでしょ?
港の周辺は今頃、市民たちが殺到して大騒ぎよ。
見たこともない巨大船を、警備船が連れてきたって噂も流れてるわ』
『噂に惑わされるな。
警備団が対応しているなら、報告が王宮にも上がって来ているだろう』
カイテンは落ち着いた表情で、背もたれへと体を委ねる。
『そんなの、オカシイ…。
あんな巨大船を警備団が迎え入れておいて、元老院のパパに何も報せていないなんて…。
もしかして、警備団がクーデターを…』
『口を慎め』
静かだが、怒りに満ちた父の声にオウカは思わず肩を強張らせた。
『我らが誇り高きシャーハン国警備団は、常に最前線で命をはっているのだ。
お前や私…国民を守る為にな』
そして、直ぐに優しい表情へと戻ったカイテンは続ける。
『オウカよ…
平和を愛することは素晴らしいことだ。
確かに戦いの無い世界は楽園だ。
だがな、私の愛しいお前が存在するには、それだけ分の空間を占有し、それだけ分の命を殺め食す。
生きる事とは戦いであり、奪うことだ。
もしお前が、この国…シャーハンこそ
戦いの無い平和な世界だと本気で思えているとしたら…
それは、お前が、自分の代わりに誰かを戦わせているということだ』
『…もういい、ここで降ろして』
父の言葉に首を左右に振りそっぽ向いて溜め息をついた後、オウカはそう呟いた。
『劇場は、まだ先だぞ?』
『いいから!早く止めて!』
オウカの声に驚いた使者が思わず手綱を引き馬を止めた。
馬車内に僅かな沈黙が漂い、その隙間から外界の陽気な声が滑り込んでくる。
『あの、破竜大戦で焦土と化したシャーハンは、戦争の愚かさを嫌と言うほど痛感したんでしょ?
焼け野原からやっとここまで復興を遂げたんでしょ?
大戦を経験したパパが言ってたじゃない…。
悲劇を起こす者は、いつだって耳障りの良い詭弁を語る…って』
涙声に近い声を絞り出したオウカは立ち上がると、足早に馬車から降りた。
そして、おもむろに振り返ると哀しげな瞳で父の顔を見つめて言った。
『パパが、悲劇を起こす者にならないと…私は信じているわ』
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