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亡命者
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グリペンは、ノスカリアからの亡命者だ。
10年前…
ノスカリア軍の幹部だった父は、身内や側近ですら気まぐれで処刑してしまうノスカリアの女王*イル*による恐怖政治に身の危険を感じ、ある晩、軍の船に幼いグリペンと妻を乗せて、ひっそりとした夜の海原へと波を割った。
しかし、すぐさま異変に気がついた湾岸海警のドラゴン船に追われ、グリペンたちの船は対竜槍による攻撃を何発を受けてしまう。
その中の一発が船体ごと母を貫いた光景を、天井から吊るされた揺れる灯りと共にグリペンは今も鮮明に覚えている。
もうだめだ…と、父が泣きそうな声で呟いた瞬間、眼前に赤い閃光を放つ1隻の船が見えた。
それは、シャーハン国の警備船だった。
追っ手を振り切ろうと無我夢中で船を進ませている内に、いつの間にかシャーハンの領海に入っていたのだ。
赤い閃光は、夜間における領海で不審船に対して示される停船命令用の花火だ。
動きの遅い木造帆船だが、針鼠のように対竜槍で武装しているシャーハン国警備船に対して、ノスカリア海警のドラゴン船は敢えなく自国へと引き返して行ったのだった。
こうして、グリペンたちはシャーハン国自警団によって保護されたが、父がシャーハン政府に出した亡命申請は何故かシーナ帝国に引き渡され、グリペンたちはシーナ帝国へ亡命することになる。
『シャーハンにはノスカリアの工作員が大勢入り込んでいることから、暗殺される危険がある。
ノスカリア軍の機密を話すことを引き換えに、シーナが我々を守ってくれるそうだ』
嬉しそうにそう語っていた父も、亡命から3年もしない内にシーナ帝国の田舎町の自宅で謎の死を遂げた。
そして、身寄りの無くなったグリペンは軍に引き取られ、飛竜騎士として、ここタワン島へと配属されたのだった。
周りは皆、グリペンに優しかった。
しかし、タワンに来る前には周囲からノスカリア人の亡命者として、冷たい視線や心無い言葉を受けてきた事と唯一の家族であった父の不審死が重なり、グリペンは極度の人間不信に陥ってしまっていた。
『何だ?かくれんぼか?』
それは、ある晴れた午後の休憩中の事だった。
いつものように飛竜小屋の裏で、一人で読書をしていたグリペンに、そう声をかけてきたのはダンイルだった。
『あ…あの、すみません…!
すぐに宿舎へ戻ります…』
強面のダンイルに肩をすくませたグリペンが慌てて立ち上がる。
『お前さん、新米のグリペンってんだろ?
ナンシーが探してたぜ。一緒にランチしよう…ってな』
ダンイルの言葉に、グリペンは無言で俯く。
タワンの飛竜騎士たちが、自分のことをよくを気にかけてくれるのは知っていた。
特に、先輩のナンシーは人懐っこい笑顔で気さくに接してくれる。
しかし、それは同時に恐怖でもあった。
もしかして、憐れみの目で見られているのではないのか、という…。
『僕って、そんなに可哀想な存在なんですかね…?』
グリペンがそう呟いた瞬間、バサッと何かが胸にのし掛かってきた。
『え!?』
それは、真っ白な蕾をつけた花竜草だった。
優しい香りが鼻孔をくすぐる。
『せっかくだ、飛竜の餌やり手伝ってもらうぞ』
『え…?あの…』
戸惑うグリペンに構わず、ダンイルは飛竜小屋の扉を開けた。
『言っておくがな、ここは狭い島だ。
お前さんが何処に隠れようが、何か理由つけて壁を作ろうが、ここの輩は容赦無くズケズケと傍に寄って来やがる。
因みに、俺もその一人だ』
そう言って笑った髭顔に、グリペンは恋をしたのだった…━━━。
『はい…大好き…です…』
グリペンは布団の上に散らばる白い蕾に涙を落とした。
部屋を包む香りに、さっきまで精神を蝕もうとしていたおぞましい感覚は一瞬で消え去っていた。
『ほーらな。
アンタは、もうちょっと乙女心ってのを勉強しろよな』
ロサードはそう言ってダンイルへと振り返ると自慢げに顎を上げた。
『…ったく、どーすんだ、こんなに散らかしやがって…。
しかし、花竜草が好きな奴なんて飛竜以外にもいたんだな』
ダンイルはそう言うと、グリペンに向かって、あの日と同じ笑みを見せたのだった。
10年前…
ノスカリア軍の幹部だった父は、身内や側近ですら気まぐれで処刑してしまうノスカリアの女王*イル*による恐怖政治に身の危険を感じ、ある晩、軍の船に幼いグリペンと妻を乗せて、ひっそりとした夜の海原へと波を割った。
しかし、すぐさま異変に気がついた湾岸海警のドラゴン船に追われ、グリペンたちの船は対竜槍による攻撃を何発を受けてしまう。
その中の一発が船体ごと母を貫いた光景を、天井から吊るされた揺れる灯りと共にグリペンは今も鮮明に覚えている。
もうだめだ…と、父が泣きそうな声で呟いた瞬間、眼前に赤い閃光を放つ1隻の船が見えた。
それは、シャーハン国の警備船だった。
追っ手を振り切ろうと無我夢中で船を進ませている内に、いつの間にかシャーハンの領海に入っていたのだ。
赤い閃光は、夜間における領海で不審船に対して示される停船命令用の花火だ。
動きの遅い木造帆船だが、針鼠のように対竜槍で武装しているシャーハン国警備船に対して、ノスカリア海警のドラゴン船は敢えなく自国へと引き返して行ったのだった。
こうして、グリペンたちはシャーハン国自警団によって保護されたが、父がシャーハン政府に出した亡命申請は何故かシーナ帝国に引き渡され、グリペンたちはシーナ帝国へ亡命することになる。
『シャーハンにはノスカリアの工作員が大勢入り込んでいることから、暗殺される危険がある。
ノスカリア軍の機密を話すことを引き換えに、シーナが我々を守ってくれるそうだ』
嬉しそうにそう語っていた父も、亡命から3年もしない内にシーナ帝国の田舎町の自宅で謎の死を遂げた。
そして、身寄りの無くなったグリペンは軍に引き取られ、飛竜騎士として、ここタワン島へと配属されたのだった。
周りは皆、グリペンに優しかった。
しかし、タワンに来る前には周囲からノスカリア人の亡命者として、冷たい視線や心無い言葉を受けてきた事と唯一の家族であった父の不審死が重なり、グリペンは極度の人間不信に陥ってしまっていた。
『何だ?かくれんぼか?』
それは、ある晴れた午後の休憩中の事だった。
いつものように飛竜小屋の裏で、一人で読書をしていたグリペンに、そう声をかけてきたのはダンイルだった。
『あ…あの、すみません…!
すぐに宿舎へ戻ります…』
強面のダンイルに肩をすくませたグリペンが慌てて立ち上がる。
『お前さん、新米のグリペンってんだろ?
ナンシーが探してたぜ。一緒にランチしよう…ってな』
ダンイルの言葉に、グリペンは無言で俯く。
タワンの飛竜騎士たちが、自分のことをよくを気にかけてくれるのは知っていた。
特に、先輩のナンシーは人懐っこい笑顔で気さくに接してくれる。
しかし、それは同時に恐怖でもあった。
もしかして、憐れみの目で見られているのではないのか、という…。
『僕って、そんなに可哀想な存在なんですかね…?』
グリペンがそう呟いた瞬間、バサッと何かが胸にのし掛かってきた。
『え!?』
それは、真っ白な蕾をつけた花竜草だった。
優しい香りが鼻孔をくすぐる。
『せっかくだ、飛竜の餌やり手伝ってもらうぞ』
『え…?あの…』
戸惑うグリペンに構わず、ダンイルは飛竜小屋の扉を開けた。
『言っておくがな、ここは狭い島だ。
お前さんが何処に隠れようが、何か理由つけて壁を作ろうが、ここの輩は容赦無くズケズケと傍に寄って来やがる。
因みに、俺もその一人だ』
そう言って笑った髭顔に、グリペンは恋をしたのだった…━━━。
『はい…大好き…です…』
グリペンは布団の上に散らばる白い蕾に涙を落とした。
部屋を包む香りに、さっきまで精神を蝕もうとしていたおぞましい感覚は一瞬で消え去っていた。
『ほーらな。
アンタは、もうちょっと乙女心ってのを勉強しろよな』
ロサードはそう言ってダンイルへと振り返ると自慢げに顎を上げた。
『…ったく、どーすんだ、こんなに散らかしやがって…。
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