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皇女リノハル
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高い天井の空を縁取る窓から光が差し、広い議場を神秘的に照らしている。
巨大な円卓を等間隔で囲う6つ椅子には、それぞれ厳しい表情を浮かべた男たちが座っており、少し離れた位置には円卓を見下ろせる高台があり、そこには翼を広げた黄金竜の装飾が施された椅子が据えられていた。
『いやはや、大変な事態が起こりましたな…。
もう既に、街では号外紙がばら蒔かれておりましたぞ』
おもむろに口を開いた*カーガ*が、円卓の中央に新聞をパサリと投げやった。
その見出しには[謎の巨船現れる!!]の文字が踊っている。
『只今、例の巨船は港の入口付近に停船中です。
警備船2隻が動向を監視している状態ですが、一応港には陸警備団も待機させております』
*キリシマ*はそう言うと、斜め横のカイテンへと目をやる。
『まあ…日頃から何かと警備団に熱を御入れになっているカイテン殿とは、何故か、連絡が付かなかったので、*マヤ*殿にお願いしましたがね』
シャーハン国警備団の国内派遣は、元老院に所属している者2名以上の承認があれば可能だ。
『しかし、あれで対抗できるものなのか?
ドラゴンすら持っていない我が軍で…』
『軍ではない、警備団だ。
ドラゴンを保有していない軍などあるか。
それに…あくまでも目的は、対抗ではなく監視だ。
具体的な対策は、その船で帰国した警備団長と、何故か、その船の入港を許可した港警備長の話を、今から聞いて考えようではないか』
マヤの言葉に*シデン*が眉間に皴を寄せながら返す。
『だから!私は何度も言ってきてるだろう!
このような有事に備えドラゴンを保有すべきだと!』
マヤが立ち上がり声を荒げた。
彼は元老院の中で唯一、クジョー神信仰に真っ向から反対する*竜武装論者*だ。
『また、それか…。
ならば先に、*反乱条項*の撤廃に勤しんだらどうだ?』
カイテンが溜め息混じりに言う。
反乱条項とは、破竜大戦後に敗戦国であるシャーハンに対して、ユーナイト、シーナ、ノスカリアの三大国が結ばせた条約の一つである。
その中身はこうだ、
[シャーハン国政府内に他国を軍事侵攻しようとする意思や行為が確認された場合、宣戦布告無しに軍事攻撃を与えることができる]
『もうやっている!私は長年、反乱条項撤廃に関する意見書の提出を三大国のみならず他の国にも送っている!
御主ら長老は何故やらない?シャーハンは独立国家だろう?反乱条項など…まるで占領されているのと同じではないか!』
『意見書…か…。
それだと、撤廃など貴殿が生きている間には到底叶わぬ願いであろうな』
『何だとカイテン!
この、ユーナイトの犬が!!』
『私は、貴殿と違い現実主義者なのだよ』
『ユーナイト軍の基地をシャーハン国内に造ろうとすることが、現実主義者とやらの考えか!?』
そんな、マヤとカイテンのやり取りを黙って見つめていた一人の長老が、おもむろに口を開いた。
『静まれ』
その、しゃがれ声は掠れていながらも重く深く響き渡った。
背中で束ねた白髪と歴史を物語る顔。
*ジンリュウ*は、元老院で最年長の長老だ。
『くだらん話は後回しにし、今は目の前の問題を片付けることに専念せよ。
そして何より…そろそろ、皇女様がお出でになられる』
ジンリュウがそう言い終えたのと同時に、高座の後ろの巨大な扉が開いた。
直ぐ様、六人の長老たちが一斉に立ち上がる。
扉の向こうから溢れだす白い光の中から、まるでその化身であるかのような白い影が現れた。
そして、その影は左右に分かれ二人の巫女の姿となった。
巫女たちは剣を胸のあたりに両手で抱えたまま、足並みを揃えて黄金竜の椅子の両脇に立つ。
これは、太古の昔から皇女を議場に出迎える時に行われている儀式だ。
やがて、眩い薄蒼のローブを全身に纏いし皇女リノハルが、光の奥からゆっくりと姿を見せた。
唯一、視認できるその美しい口許には少女のようなあどけなさが垣間見えている。
長老たちは皆一様に頭を下げて皇女に忠誠の意を示す中、まるで雲にでも座るかのように音もなく、リノハルは黄金竜の椅子へとその身を納めた。
『さて…始めるとしよう』
白く華奢な手を翳したリノハルはそう言うと、眼下の長老たちを席につかせたのだった。
巨大な円卓を等間隔で囲う6つ椅子には、それぞれ厳しい表情を浮かべた男たちが座っており、少し離れた位置には円卓を見下ろせる高台があり、そこには翼を広げた黄金竜の装飾が施された椅子が据えられていた。
『いやはや、大変な事態が起こりましたな…。
もう既に、街では号外紙がばら蒔かれておりましたぞ』
おもむろに口を開いた*カーガ*が、円卓の中央に新聞をパサリと投げやった。
その見出しには[謎の巨船現れる!!]の文字が踊っている。
『只今、例の巨船は港の入口付近に停船中です。
警備船2隻が動向を監視している状態ですが、一応港には陸警備団も待機させております』
*キリシマ*はそう言うと、斜め横のカイテンへと目をやる。
『まあ…日頃から何かと警備団に熱を御入れになっているカイテン殿とは、何故か、連絡が付かなかったので、*マヤ*殿にお願いしましたがね』
シャーハン国警備団の国内派遣は、元老院に所属している者2名以上の承認があれば可能だ。
『しかし、あれで対抗できるものなのか?
ドラゴンすら持っていない我が軍で…』
『軍ではない、警備団だ。
ドラゴンを保有していない軍などあるか。
それに…あくまでも目的は、対抗ではなく監視だ。
具体的な対策は、その船で帰国した警備団長と、何故か、その船の入港を許可した港警備長の話を、今から聞いて考えようではないか』
マヤの言葉に*シデン*が眉間に皴を寄せながら返す。
『だから!私は何度も言ってきてるだろう!
このような有事に備えドラゴンを保有すべきだと!』
マヤが立ち上がり声を荒げた。
彼は元老院の中で唯一、クジョー神信仰に真っ向から反対する*竜武装論者*だ。
『また、それか…。
ならば先に、*反乱条項*の撤廃に勤しんだらどうだ?』
カイテンが溜め息混じりに言う。
反乱条項とは、破竜大戦後に敗戦国であるシャーハンに対して、ユーナイト、シーナ、ノスカリアの三大国が結ばせた条約の一つである。
その中身はこうだ、
[シャーハン国政府内に他国を軍事侵攻しようとする意思や行為が確認された場合、宣戦布告無しに軍事攻撃を与えることができる]
『もうやっている!私は長年、反乱条項撤廃に関する意見書の提出を三大国のみならず他の国にも送っている!
御主ら長老は何故やらない?シャーハンは独立国家だろう?反乱条項など…まるで占領されているのと同じではないか!』
『意見書…か…。
それだと、撤廃など貴殿が生きている間には到底叶わぬ願いであろうな』
『何だとカイテン!
この、ユーナイトの犬が!!』
『私は、貴殿と違い現実主義者なのだよ』
『ユーナイト軍の基地をシャーハン国内に造ろうとすることが、現実主義者とやらの考えか!?』
そんな、マヤとカイテンのやり取りを黙って見つめていた一人の長老が、おもむろに口を開いた。
『静まれ』
その、しゃがれ声は掠れていながらも重く深く響き渡った。
背中で束ねた白髪と歴史を物語る顔。
*ジンリュウ*は、元老院で最年長の長老だ。
『くだらん話は後回しにし、今は目の前の問題を片付けることに専念せよ。
そして何より…そろそろ、皇女様がお出でになられる』
ジンリュウがそう言い終えたのと同時に、高座の後ろの巨大な扉が開いた。
直ぐ様、六人の長老たちが一斉に立ち上がる。
扉の向こうから溢れだす白い光の中から、まるでその化身であるかのような白い影が現れた。
そして、その影は左右に分かれ二人の巫女の姿となった。
巫女たちは剣を胸のあたりに両手で抱えたまま、足並みを揃えて黄金竜の椅子の両脇に立つ。
これは、太古の昔から皇女を議場に出迎える時に行われている儀式だ。
やがて、眩い薄蒼のローブを全身に纏いし皇女リノハルが、光の奥からゆっくりと姿を見せた。
唯一、視認できるその美しい口許には少女のようなあどけなさが垣間見えている。
長老たちは皆一様に頭を下げて皇女に忠誠の意を示す中、まるで雲にでも座るかのように音もなく、リノハルは黄金竜の椅子へとその身を納めた。
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