36 / 53
VRルーム
しおりを挟む
空に突き刺さるように建ち並ぶ巨大なビル、二重にも三重にも迷路のように交わった道路には、ひっきりなしに車が列をなして走っている。
商業施設の壁にはプロジェクションマッピングによって形成されたバーチャルアイドルが歌って踊り、その眼下のアスファルトの上の、無数の目的によりそれぞれの方向へと歩いているはずの人々は、まるで1つの意思によって操られている群のようにも見え、システム化された都市を無機質に冷たく彩っている。
そんな大都会の雑踏の中、エリーは目を丸くしてと立ち尽くしていた。
前を、横を、通り過ぎてゆく人々の服装といい周りの風景といい、そこはエリーにとっては初めて目にするものばかりで溢れていた。
『パパ!今日は、ずっとお仕事休みなんだよね?』
ふと、聞こえてきた声に導かれるようにエリーの視線が動いた。
少し離れた先にある噴水の側のベンチに、幼い少女とその子の父親であろう白髪の男性が並んで座っている。
『ああ、もちろんだ。
今日はホタルの8歳の誕生日だからね』
『やったー!
パパ大好き!』
雑音だらけの街中にも関わらず、不思議とその二人の会話ははっきりとエリーの耳に届いてくる。
しかし、エリーはそんなことよりも、ホタルと呼ばれた可愛らしい少女の姿に驚きの表情を浮かべていた。
『ベニ…ボタル…さん…?』
そう…声は違えどその少女はどう見ても、巨船に宿っている水槽の少女と全く同じ姿だったのだ。
『ね!早く行こう!』
満面の笑みを浮かべた少女が立ち上がり走りだす。
『おいおい、迷子になっても知らないぞ』
『早く!早くー!』
娘にせかされ、白髪の男性がおもむろに立ち上がった、その瞬間…天を引き裂くかのような轟音と共に、上空に一機の戦闘機が飛来してきた。
そして、それと同時に辺りは一瞬にして炎に包まれたのだ。
悲鳴と絶叫がこだます地獄絵図の中、エリーは腰を抜かしてその場に座り込んだ。
こんなにも凄まじい炎が間近にあるというのに、熱は一切感じとれない。
『ホタルーーー!!
ホタルーー!!』
噴水に落ちたことで助かった白髪の男が少女の名を何度も叫び呼んでいるが、燃え盛る業火に染められた景色の中にその姿は確認できない。
《彼は赤城博士。
私の創造主です》
突然、頭の後ろの方から響いてきた声に、エリーが驚いて振り返ると、そこには紅蛍が立っていた。
『あれ…?ベニボタルさん…?
あの女の子は…?』
戸惑うエリーの視界に映る周りの風景が、少しずつ分解しだした。
やがて、何も無い真っ白な空間へと変貌した部屋の中にエリーと紅蛍だけが佇んでいる。
《いかがでしたか?
*記録の部屋*での体験は。
今のが、私が居た世界です》
そう問いかけてくる紅蛍は、先程の蛍と呼ばれていた少女と同じ顔をしているが、その笑みは実に機械的で人間味を全く感じさせない。
《予め言っておきますが、私のこの姿も記録の部屋が作り出した存在ですので、触れることはできません》
その言葉で、まだ夢見心地なエリーの伸ばす指先が紅蛍の頬の手前で止まる。
『そっか…。
ここにあるのは全部、幻なんでしたよね』
エリーが我に返ったように笑った。
ここは、紅蛍艦内に設置されている、記録保存を目的としたVRルームだ。
エリーが見せられていたのは、第二次アジア大戦が勃発した日の、東京都内での赤城博士とその娘である蛍を捉えた防犯カメラの映像をVR加工したものだ。
『あの男の人が創造主…。
最愛の娘を失い、その魂を宿した船であるアナタを創った…ってことですか?』
《そう解釈して頂いて結構です。
私と同等のスペックを有する兵器は、私の世界にも存在していません》
世界で唯一、次元転送システムの開発に成功した赤城は、それを兵器に転用することを頑なに拒んでいた。
しかし、娘が空爆の犠牲になったことでその考えは変わり、日本政府が開発中だったAI戦艦に娘の名前と姿を取り入れることを条件とし、次元転送装置の搭載に協力することにしたのだ。
『その、アカギって人は、今どこに…?』
《敵兵の銃撃により死亡、もしくは拘束されたと予想できます》
紅蛍の冷たい声がエリーの胸に刺さった。
『悲しくは…寂しくは、ないんですか?』
エリーの思わず口をついた問いかけに、やはり紅蛍は、間も躊躇もなく、まるで予め決まっているあらすじを読むかのように答えた。
《私に感情はありません》
商業施設の壁にはプロジェクションマッピングによって形成されたバーチャルアイドルが歌って踊り、その眼下のアスファルトの上の、無数の目的によりそれぞれの方向へと歩いているはずの人々は、まるで1つの意思によって操られている群のようにも見え、システム化された都市を無機質に冷たく彩っている。
そんな大都会の雑踏の中、エリーは目を丸くしてと立ち尽くしていた。
前を、横を、通り過ぎてゆく人々の服装といい周りの風景といい、そこはエリーにとっては初めて目にするものばかりで溢れていた。
『パパ!今日は、ずっとお仕事休みなんだよね?』
ふと、聞こえてきた声に導かれるようにエリーの視線が動いた。
少し離れた先にある噴水の側のベンチに、幼い少女とその子の父親であろう白髪の男性が並んで座っている。
『ああ、もちろんだ。
今日はホタルの8歳の誕生日だからね』
『やったー!
パパ大好き!』
雑音だらけの街中にも関わらず、不思議とその二人の会話ははっきりとエリーの耳に届いてくる。
しかし、エリーはそんなことよりも、ホタルと呼ばれた可愛らしい少女の姿に驚きの表情を浮かべていた。
『ベニ…ボタル…さん…?』
そう…声は違えどその少女はどう見ても、巨船に宿っている水槽の少女と全く同じ姿だったのだ。
『ね!早く行こう!』
満面の笑みを浮かべた少女が立ち上がり走りだす。
『おいおい、迷子になっても知らないぞ』
『早く!早くー!』
娘にせかされ、白髪の男性がおもむろに立ち上がった、その瞬間…天を引き裂くかのような轟音と共に、上空に一機の戦闘機が飛来してきた。
そして、それと同時に辺りは一瞬にして炎に包まれたのだ。
悲鳴と絶叫がこだます地獄絵図の中、エリーは腰を抜かしてその場に座り込んだ。
こんなにも凄まじい炎が間近にあるというのに、熱は一切感じとれない。
『ホタルーーー!!
ホタルーー!!』
噴水に落ちたことで助かった白髪の男が少女の名を何度も叫び呼んでいるが、燃え盛る業火に染められた景色の中にその姿は確認できない。
《彼は赤城博士。
私の創造主です》
突然、頭の後ろの方から響いてきた声に、エリーが驚いて振り返ると、そこには紅蛍が立っていた。
『あれ…?ベニボタルさん…?
あの女の子は…?』
戸惑うエリーの視界に映る周りの風景が、少しずつ分解しだした。
やがて、何も無い真っ白な空間へと変貌した部屋の中にエリーと紅蛍だけが佇んでいる。
《いかがでしたか?
*記録の部屋*での体験は。
今のが、私が居た世界です》
そう問いかけてくる紅蛍は、先程の蛍と呼ばれていた少女と同じ顔をしているが、その笑みは実に機械的で人間味を全く感じさせない。
《予め言っておきますが、私のこの姿も記録の部屋が作り出した存在ですので、触れることはできません》
その言葉で、まだ夢見心地なエリーの伸ばす指先が紅蛍の頬の手前で止まる。
『そっか…。
ここにあるのは全部、幻なんでしたよね』
エリーが我に返ったように笑った。
ここは、紅蛍艦内に設置されている、記録保存を目的としたVRルームだ。
エリーが見せられていたのは、第二次アジア大戦が勃発した日の、東京都内での赤城博士とその娘である蛍を捉えた防犯カメラの映像をVR加工したものだ。
『あの男の人が創造主…。
最愛の娘を失い、その魂を宿した船であるアナタを創った…ってことですか?』
《そう解釈して頂いて結構です。
私と同等のスペックを有する兵器は、私の世界にも存在していません》
世界で唯一、次元転送システムの開発に成功した赤城は、それを兵器に転用することを頑なに拒んでいた。
しかし、娘が空爆の犠牲になったことでその考えは変わり、日本政府が開発中だったAI戦艦に娘の名前と姿を取り入れることを条件とし、次元転送装置の搭載に協力することにしたのだ。
『その、アカギって人は、今どこに…?』
《敵兵の銃撃により死亡、もしくは拘束されたと予想できます》
紅蛍の冷たい声がエリーの胸に刺さった。
『悲しくは…寂しくは、ないんですか?』
エリーの思わず口をついた問いかけに、やはり紅蛍は、間も躊躇もなく、まるで予め決まっているあらすじを読むかのように答えた。
《私に感情はありません》
0
あなたにおすすめの小説
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】純白のウェディングドレスは二度赤く染まる
春野オカリナ
恋愛
初夏の日差しが強くなる頃、王都の書店では、ある一冊の本がずらりと並んでいた。
それは、半年前の雪の降る寒い季節に死刑となった一人の囚人の手記を本にまとめたものだった。
囚人の名は『イエニー・フラウ』
彼女は稀代の悪女として知らぬ者のいない程、有名になっていた。
その彼女の手記とあって、本は飛ぶように売れたのだ。
しかし、その内容はとても悪女のものではなかった。
人々は彼女に同情し、彼女が鉄槌を下した夫とその愛人こそが裁きを受けるべきだったと憤りを感じていた。
その手記の内容とは…
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる