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触愛の夜明け
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男の揺れる肩越しから見え隠れしている朝日が、下になっているシェリラの恍惚に満ちた表情を照らしている。
まだ薄暗い室内に二人の息づかいだけが響きわたり、シェリラの華奢な体を包み込んでいる男の鍛えぬかれた逞しい肉体からは、まだ汗と返り血の匂いが漂っていた。
いつも、二人が交わるのは任務や訓練を終えた朝方。
そんな、幾つもの夜明けがシェリラに教えてくれたのは、冷酷無比な悪魔のように任務をこなす主が、ベッドの中ではまるで聖人のように優しく触れてくれること。
終始、お互いに会話は一切ないが、包帯の下の爛れた皮膚をなぞるその指先は、シェリラに確かな愛を語りかけ、割れて変形した唇に重なる男からの口づけは、シェリラに幸福感を与える。
この醜い体を、まるで貴重なワレモノのように取り扱ってくれるこの腕に抱かれている間は、こんな埃まみれの部屋だろうが、たとえ嵐の中の荒野であろうが、シェリラにとってそこは楽園に他ならない場所となる。
このまま…あの太陽が止まってくれたなら…この淫らで安らかな夢の中で永遠に愛でてもらえるのに…と、そんなシェリラの叶わぬ願いを、容赦なく昇る朝日がいつものように掻き消してしまっていった。
『少し寝ろ』
男はシャツを羽織りながらそう言うと、ベッドに裸体のまま惚けているシェリラを残して部屋を後にしたのだった━━━━…。
『もう使われていないオンボロ宿舎で、部下と逢い引きだなんて、随分とロマンチストなのね。
ズムワルドさん…』
宿舎の玄関に出た所で声をかけられた男は顔を上げた。
見ると、紅色の髪の女性が柱に凭れかかるようにして立っている。
だらりと両腕を垂らし、左手には酒瓶が握られていた。
『貴様も、覗きとは随分と良い趣味をしてるな。
何の用だ、クフィール』
ズムワルドが近寄ると、クフィールは柱から背中を離し正面に向き直った。
『失礼ね、覗いてなんかいないわ。
貴方とシェリラがここに入って行くのが見えたから、ついて来ただけ。
長く待たされるかと思ったけど、意外と早かったわね』
クフィールは、そう言うと瓶に口を付け酒を喉に流し込んだ。
『私の我儘で、貴方の部下を死なせてしまったわね』
唇の端から伝う雫を手の甲で拭った後、クフィールが俯き加減に呟いた。
『だから何だ?
俺の部下の体も命も死も…全て俺のモノであり貴様には関係のない事だ。
それよりも、自分の弟の心配でもしていたらどうだ?
まだ意識は戻ってないのだろう?』
ズムワルドは無表情のまま言葉を返す。
『それこそ、貴方には関係のない話ね』
クフィールが悪戯な笑みを浮かべてみせるが、相変わらず無表情のズムワルドは、無言のまま歩きだしクフィールの後ろにある扉へと向かう。
『飛竜雷撃隊は、シャーハンに潜入するらしいわね』
クフィールの真横でズムワルドの足が止まる。
地獄の楽園島で作戦を決行する前に、ウェイビーの命令のもと、海竜を使った捜索が行われており、その時に海に浮かぶ大破したシャーハンの警備船を発見していた。
『脱出用の小型舟は全て残されていたのに、乗組員の姿は一人も見つからなかった。
シャーハンが、警備団が何か絡んでいることは明白…でしょ?』
クフィールがそう言って意味深に首を傾げると、ズムワルドの目つきが微かに変わった。
『それを誰に聞いた』
シャーハンの警備船発見についてならまだしも、極秘であるはずの飛竜雷撃隊の任務に関して知っているのは隊長であるズムワルドか、その要請を出したウェイビーだけであり、本来なら辺境の島にある飛竜基地の隊長ごときが知るよしはないのだ。
ズムワルドがクフィールの肩を掴み、力任せに横の柱に押し付ける。
だが、次の瞬間…クフィールはその大きな手を払いのけ、踵を上げて背伸びするような格好で、自らの唇をズムワルドの唇へと重ねたのだった。
まだ薄暗い室内に二人の息づかいだけが響きわたり、シェリラの華奢な体を包み込んでいる男の鍛えぬかれた逞しい肉体からは、まだ汗と返り血の匂いが漂っていた。
いつも、二人が交わるのは任務や訓練を終えた朝方。
そんな、幾つもの夜明けがシェリラに教えてくれたのは、冷酷無比な悪魔のように任務をこなす主が、ベッドの中ではまるで聖人のように優しく触れてくれること。
終始、お互いに会話は一切ないが、包帯の下の爛れた皮膚をなぞるその指先は、シェリラに確かな愛を語りかけ、割れて変形した唇に重なる男からの口づけは、シェリラに幸福感を与える。
この醜い体を、まるで貴重なワレモノのように取り扱ってくれるこの腕に抱かれている間は、こんな埃まみれの部屋だろうが、たとえ嵐の中の荒野であろうが、シェリラにとってそこは楽園に他ならない場所となる。
このまま…あの太陽が止まってくれたなら…この淫らで安らかな夢の中で永遠に愛でてもらえるのに…と、そんなシェリラの叶わぬ願いを、容赦なく昇る朝日がいつものように掻き消してしまっていった。
『少し寝ろ』
男はシャツを羽織りながらそう言うと、ベッドに裸体のまま惚けているシェリラを残して部屋を後にしたのだった━━━━…。
『もう使われていないオンボロ宿舎で、部下と逢い引きだなんて、随分とロマンチストなのね。
ズムワルドさん…』
宿舎の玄関に出た所で声をかけられた男は顔を上げた。
見ると、紅色の髪の女性が柱に凭れかかるようにして立っている。
だらりと両腕を垂らし、左手には酒瓶が握られていた。
『貴様も、覗きとは随分と良い趣味をしてるな。
何の用だ、クフィール』
ズムワルドが近寄ると、クフィールは柱から背中を離し正面に向き直った。
『失礼ね、覗いてなんかいないわ。
貴方とシェリラがここに入って行くのが見えたから、ついて来ただけ。
長く待たされるかと思ったけど、意外と早かったわね』
クフィールは、そう言うと瓶に口を付け酒を喉に流し込んだ。
『私の我儘で、貴方の部下を死なせてしまったわね』
唇の端から伝う雫を手の甲で拭った後、クフィールが俯き加減に呟いた。
『だから何だ?
俺の部下の体も命も死も…全て俺のモノであり貴様には関係のない事だ。
それよりも、自分の弟の心配でもしていたらどうだ?
まだ意識は戻ってないのだろう?』
ズムワルドは無表情のまま言葉を返す。
『それこそ、貴方には関係のない話ね』
クフィールが悪戯な笑みを浮かべてみせるが、相変わらず無表情のズムワルドは、無言のまま歩きだしクフィールの後ろにある扉へと向かう。
『飛竜雷撃隊は、シャーハンに潜入するらしいわね』
クフィールの真横でズムワルドの足が止まる。
地獄の楽園島で作戦を決行する前に、ウェイビーの命令のもと、海竜を使った捜索が行われており、その時に海に浮かぶ大破したシャーハンの警備船を発見していた。
『脱出用の小型舟は全て残されていたのに、乗組員の姿は一人も見つからなかった。
シャーハンが、警備団が何か絡んでいることは明白…でしょ?』
クフィールがそう言って意味深に首を傾げると、ズムワルドの目つきが微かに変わった。
『それを誰に聞いた』
シャーハンの警備船発見についてならまだしも、極秘であるはずの飛竜雷撃隊の任務に関して知っているのは隊長であるズムワルドか、その要請を出したウェイビーだけであり、本来なら辺境の島にある飛竜基地の隊長ごときが知るよしはないのだ。
ズムワルドがクフィールの肩を掴み、力任せに横の柱に押し付ける。
だが、次の瞬間…クフィールはその大きな手を払いのけ、踵を上げて背伸びするような格好で、自らの唇をズムワルドの唇へと重ねたのだった。
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