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軍服の女
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『さて、質問よ…。
皇女の傍にいるはずの巫女が、どうして一人で王宮から出ようとしていたのかしら?』
青い軍服を纏う謎の女は、そう言うと真紅の唇の両端を吊り上げて微笑んだ。
軍帽を目深にかぶり可愛らしく綺麗だが、その首筋を見る限りそれなりの年齢が感じられる女だ。
静まり返った王宮の広いエントランスの中程、アメディスは怯えた表情でその女と向かい合うようにして立ち尽くしていた。
『あら?答えないのなら、アナタはこの子の餌になるだけよ?』
女はそう言って、アメディスの頭上を指差した。
そこには首をもたげた巨大なドラゴンが、大きな口を開けて眼下の幼い少女を獣の眼光に映している。
初めて間近で目にする本物のドラゴンに、アメディスの恐怖は頂点に達していた。
『可愛いでしょ?
この子、私のペットなの。
因みに大好物は…じ・ん・に・く…よ』
女は妖しく微笑みながら、アメディスへと近づくと、その白く滑らかな肌をした頬に手を添えた。
『特に、貴女みたいな若い子の肉はまた一段と柔らかいから、たまんないでしょうねぇ…』
意識を保っているのが奇跡のような状態のアメディスに、まるで吐息をかけるように容赦のない言葉を囁く。
『ひっ…助けて…ください…』
アメディスは全身を震わせ涙ながらに懇願した。
『だったら…私の質問に答えなさいね』
女は振り返ると、カツカツとブーツを鳴らしアメディスから離れると背を向けたまま言葉を続ける。
『30年前に起こった破竜大戦は知ってるわよね?』
『え…?は、はい…勿論です…』
戸惑いながらもアメディスが返す。
『じゃあ、その大戦が起こった理由は?』
『あの…これは一体…』
『早く答えて。
私は気が短いのよ』
質問の意図が分かっていないアメディスに構わず、女は声を王宮の高い天井に投げた。
『……ノスカリアを、植民地にしたシャーハン帝国に反発した…ユーナイトとシーナが、海上封鎖を通告してきたことにより…シャーハン帝国軍がタワン島先制攻撃に踏み切ったからです…』
アメディスが恐る恐る答えると、女は顎を横にして鋭い視線だけを向けた。
『1つ間違いがあるわ』
『え…?』
女の言葉にアメディスが弾かれたように身を強張らせる。
『シャーハンがノスカリアを植民地にしたという歴史は無いわ。
あれはね、併合って言うのよ』
『すみません…あの…でも、学校では…強制併合は植民地にするのと同じことだと…教えられました…』
『なら訊くけど、シャーハンが当時のノスカリアから一体何を搾取していたの?
植民地とは、その土地から搾取すること。
どこまでも広がる荒地を耕し作物を植え、不衛生な町を整備し水路を通し、まともな国として発展していけるように手助けをすることは搾取になるの?
シャーハン帝国はノスカリアを自国と同等に扱ったわ。
それは併合以外の何でもないはずよ』
『私には…分かりません…。
今のノスカリアの国民がそう言って…シャーハンに賠償金を求めていると…教えられただけなんです』
『フフ…戦後教育の賜物ね…』
女が呆れたようにため息混じりに笑う。
『併合前のノスカリアは、国家と呼ぶには脆弱すぎる地域だったの。
このままでは大国のユーナイトとシーナに貪り尽くされてしまうと危機を感じた当時のノスカリア政府は、シャーハン帝国に保護を求めてきた…。
当然、それに関してシャーハン側にもノスカリア側にも反対派は居たわ。
でも、シャーハン帝国政府は併合という名目でノスカリアを保護することに決めたってわけ』
女はアメディスへと向き直り続ける。
『大戦が勃発したら、シャーハンとノスカリアは一心同体で連合国と戦ったわ…。だが!』
その声にみるみると怒りが満ちてゆくのが分かる。
『戦況が悪化し敗色濃厚と成や否やノスカリアは併合反対派が政権を握り、連合国側に寝返ったのよ!
強制併合されて無理やり戦わされていたと、だから我々も連合国に入れてくれと、戦後は戦勝国扱いにしてくれと訴えてね!
まさにっ…!恩知らずで恥知らず!
』
そこまで話した女は、息を調えるように言葉を止めた。
そして、再び妖しく微笑むと、ゆっくりとした口調で話し始めた。
『だけど…私が一番許せないのはね…破竜を奪われ、軍事力を奪われ、誇りも憎しみすら奪われて、罪悪感とこれこそが真の平和だという幻想を塗り付けられて、すっかり骨抜きにされてしまった…この国』
皇女の傍にいるはずの巫女が、どうして一人で王宮から出ようとしていたのかしら?』
青い軍服を纏う謎の女は、そう言うと真紅の唇の両端を吊り上げて微笑んだ。
軍帽を目深にかぶり可愛らしく綺麗だが、その首筋を見る限りそれなりの年齢が感じられる女だ。
静まり返った王宮の広いエントランスの中程、アメディスは怯えた表情でその女と向かい合うようにして立ち尽くしていた。
『あら?答えないのなら、アナタはこの子の餌になるだけよ?』
女はそう言って、アメディスの頭上を指差した。
そこには首をもたげた巨大なドラゴンが、大きな口を開けて眼下の幼い少女を獣の眼光に映している。
初めて間近で目にする本物のドラゴンに、アメディスの恐怖は頂点に達していた。
『可愛いでしょ?
この子、私のペットなの。
因みに大好物は…じ・ん・に・く…よ』
女は妖しく微笑みながら、アメディスへと近づくと、その白く滑らかな肌をした頬に手を添えた。
『特に、貴女みたいな若い子の肉はまた一段と柔らかいから、たまんないでしょうねぇ…』
意識を保っているのが奇跡のような状態のアメディスに、まるで吐息をかけるように容赦のない言葉を囁く。
『ひっ…助けて…ください…』
アメディスは全身を震わせ涙ながらに懇願した。
『だったら…私の質問に答えなさいね』
女は振り返ると、カツカツとブーツを鳴らしアメディスから離れると背を向けたまま言葉を続ける。
『30年前に起こった破竜大戦は知ってるわよね?』
『え…?は、はい…勿論です…』
戸惑いながらもアメディスが返す。
『じゃあ、その大戦が起こった理由は?』
『あの…これは一体…』
『早く答えて。
私は気が短いのよ』
質問の意図が分かっていないアメディスに構わず、女は声を王宮の高い天井に投げた。
『……ノスカリアを、植民地にしたシャーハン帝国に反発した…ユーナイトとシーナが、海上封鎖を通告してきたことにより…シャーハン帝国軍がタワン島先制攻撃に踏み切ったからです…』
アメディスが恐る恐る答えると、女は顎を横にして鋭い視線だけを向けた。
『1つ間違いがあるわ』
『え…?』
女の言葉にアメディスが弾かれたように身を強張らせる。
『シャーハンがノスカリアを植民地にしたという歴史は無いわ。
あれはね、併合って言うのよ』
『すみません…あの…でも、学校では…強制併合は植民地にするのと同じことだと…教えられました…』
『なら訊くけど、シャーハンが当時のノスカリアから一体何を搾取していたの?
植民地とは、その土地から搾取すること。
どこまでも広がる荒地を耕し作物を植え、不衛生な町を整備し水路を通し、まともな国として発展していけるように手助けをすることは搾取になるの?
シャーハン帝国はノスカリアを自国と同等に扱ったわ。
それは併合以外の何でもないはずよ』
『私には…分かりません…。
今のノスカリアの国民がそう言って…シャーハンに賠償金を求めていると…教えられただけなんです』
『フフ…戦後教育の賜物ね…』
女が呆れたようにため息混じりに笑う。
『併合前のノスカリアは、国家と呼ぶには脆弱すぎる地域だったの。
このままでは大国のユーナイトとシーナに貪り尽くされてしまうと危機を感じた当時のノスカリア政府は、シャーハン帝国に保護を求めてきた…。
当然、それに関してシャーハン側にもノスカリア側にも反対派は居たわ。
でも、シャーハン帝国政府は併合という名目でノスカリアを保護することに決めたってわけ』
女はアメディスへと向き直り続ける。
『大戦が勃発したら、シャーハンとノスカリアは一心同体で連合国と戦ったわ…。だが!』
その声にみるみると怒りが満ちてゆくのが分かる。
『戦況が悪化し敗色濃厚と成や否やノスカリアは併合反対派が政権を握り、連合国側に寝返ったのよ!
強制併合されて無理やり戦わされていたと、だから我々も連合国に入れてくれと、戦後は戦勝国扱いにしてくれと訴えてね!
まさにっ…!恩知らずで恥知らず!
』
そこまで話した女は、息を調えるように言葉を止めた。
そして、再び妖しく微笑むと、ゆっくりとした口調で話し始めた。
『だけど…私が一番許せないのはね…破竜を奪われ、軍事力を奪われ、誇りも憎しみすら奪われて、罪悪感とこれこそが真の平和だという幻想を塗り付けられて、すっかり骨抜きにされてしまった…この国』
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