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喰らうドラゴン
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『あ…あ…』
震える太腿を伝い落ちる滴が床を濡らしていることにも気が付かず、アメディスは怯えた表情で目を見開いている。
その背後には、牙を剥き涎を垂らしているドラゴンが、今か今かと主人の許可を待っている。
『さて、最後にもう一度訊くわ』
先程まで矢継ぎ早に言葉を並べていたソウリュウは、一息つくように軽く俯いた後、ゆっくりと顔を上げアメディスを見つめた。
『何故、銀剣の巫女である貴女が、1人で王宮から出ようとしていたのかしら?』
それは、アメディスがソウリュウから受けた最初の質問だった。
『例え、皇女から拒否されたとしても皇女に付き添い、その身を護る盾にならなければならない…。
これは、巫女になる際に一番最初に教えられる掟よ』
そう言ったソウリュウの瞳は侮蔑に満ちていた。
アメディスの夢は、幼い頃に両親と一緒に劇場で観た舞台女優だった。
そして、銀剣の巫女を経験したことがあるというのは、女優になるのには、この上ないステータスとなる。
厳しい競争と審査を乗り越え、やっとで手に入れた王宮での生活。
国で最も安心安全な場所での暮らしに、家族も喜んでくれた…
はずなのに…。
『なんで…?』
アメディスは震える声で呟くのが精一杯だった。
『平和竜クジョーの末裔であるシャーハン国皇女。
銀剣の巫女は、クジョーが我が子を護る為に遣わしたと云われている由緒正しき存在よ。
なのに…敗戦し占領され、くだらない文化に国が汚染された今は、その厳粛な存在も歴史も、ただの子供の腰掛け扱い…』
ソウリュウが右腕を真っ直ぐ上げて、天井を指した。
そして、その腕をゆっくりと下げていき、アメディスを指差す。
『喰らえ』
ソウリュウがそう言った瞬間、アメディスの視界が真っ暗になった。
「バキャッ!ゴリッ!ゴリッ!」
悲鳴すら上げる間もないアメディスを一気に頭から丸呑みにして噛み砕くドラゴン。
その牙の隙間から、ダラリと垂れたアメディスの両脚が千切れて床に落ちた。
『この国の歴史を踏みにじる者は、それが故意的だろうが無意識だろうが、生きる資格は無いわ…』
骨と肉が潰れて血と共に咀嚼されている音に、ソウリュウは恍惚の表情を浮かべている。
『これは前菜よ。
メインディシュは、あの大罪人である皇女…。
国民観衆のもとで、あの罪人と元老院のゴミ共をドラゴンの餌にし、リノハルを人質に警備団を掌握した後…再び世界に宣戦布告するのよ…』
ソウリュウは順調に計画が進行していることに満足げな表情を浮かべながら、床に転がる脚を舌で掬いとっているドラゴンの頭部を撫でていると、上の階から声が聞こえてきた。
『ジンリュウだぁああ!!』
それに、ソウリュウは一瞬だけ驚いたように目を見開いた後、ゆっくりと笑顔へと表情を変えた。
『お兄様…が、ここに来てるの…?』
それはまるで、子供のように無邪気で、悪魔のように不気味な笑顔だった。
ソウリュウは軽やかな足取りでドラゴンの背に飛び乗ると、首もとの鱗に手を添えた。
そこから流れ込んでくる主の狂気染みた喜びの感情に突き動かされるように咆哮を放ったドラゴンは、その重い巨体を揺らしながら歩き始めたのだった。
震える太腿を伝い落ちる滴が床を濡らしていることにも気が付かず、アメディスは怯えた表情で目を見開いている。
その背後には、牙を剥き涎を垂らしているドラゴンが、今か今かと主人の許可を待っている。
『さて、最後にもう一度訊くわ』
先程まで矢継ぎ早に言葉を並べていたソウリュウは、一息つくように軽く俯いた後、ゆっくりと顔を上げアメディスを見つめた。
『何故、銀剣の巫女である貴女が、1人で王宮から出ようとしていたのかしら?』
それは、アメディスがソウリュウから受けた最初の質問だった。
『例え、皇女から拒否されたとしても皇女に付き添い、その身を護る盾にならなければならない…。
これは、巫女になる際に一番最初に教えられる掟よ』
そう言ったソウリュウの瞳は侮蔑に満ちていた。
アメディスの夢は、幼い頃に両親と一緒に劇場で観た舞台女優だった。
そして、銀剣の巫女を経験したことがあるというのは、女優になるのには、この上ないステータスとなる。
厳しい競争と審査を乗り越え、やっとで手に入れた王宮での生活。
国で最も安心安全な場所での暮らしに、家族も喜んでくれた…
はずなのに…。
『なんで…?』
アメディスは震える声で呟くのが精一杯だった。
『平和竜クジョーの末裔であるシャーハン国皇女。
銀剣の巫女は、クジョーが我が子を護る為に遣わしたと云われている由緒正しき存在よ。
なのに…敗戦し占領され、くだらない文化に国が汚染された今は、その厳粛な存在も歴史も、ただの子供の腰掛け扱い…』
ソウリュウが右腕を真っ直ぐ上げて、天井を指した。
そして、その腕をゆっくりと下げていき、アメディスを指差す。
『喰らえ』
ソウリュウがそう言った瞬間、アメディスの視界が真っ暗になった。
「バキャッ!ゴリッ!ゴリッ!」
悲鳴すら上げる間もないアメディスを一気に頭から丸呑みにして噛み砕くドラゴン。
その牙の隙間から、ダラリと垂れたアメディスの両脚が千切れて床に落ちた。
『この国の歴史を踏みにじる者は、それが故意的だろうが無意識だろうが、生きる資格は無いわ…』
骨と肉が潰れて血と共に咀嚼されている音に、ソウリュウは恍惚の表情を浮かべている。
『これは前菜よ。
メインディシュは、あの大罪人である皇女…。
国民観衆のもとで、あの罪人と元老院のゴミ共をドラゴンの餌にし、リノハルを人質に警備団を掌握した後…再び世界に宣戦布告するのよ…』
ソウリュウは順調に計画が進行していることに満足げな表情を浮かべながら、床に転がる脚を舌で掬いとっているドラゴンの頭部を撫でていると、上の階から声が聞こえてきた。
『ジンリュウだぁああ!!』
それに、ソウリュウは一瞬だけ驚いたように目を見開いた後、ゆっくりと笑顔へと表情を変えた。
『お兄様…が、ここに来てるの…?』
それはまるで、子供のように無邪気で、悪魔のように不気味な笑顔だった。
ソウリュウは軽やかな足取りでドラゴンの背に飛び乗ると、首もとの鱗に手を添えた。
そこから流れ込んでくる主の狂気染みた喜びの感情に突き動かされるように咆哮を放ったドラゴンは、その重い巨体を揺らしながら歩き始めたのだった。
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