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闇夜に翔る
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満月が照らす空に翼を広げたゾイルは、闇夜に突き出す木々の先端に沿うようにしながら風を切り進んでいた。
その背に乗せているのは、主であるクフィールだ。
ゾイルが初めてクフィールと出会ったのは、彼女がタワン基地に初めてやって来た日だった……。
その日、生まれつきの気性の荒らさ故に、訓練中に騎士を振り落とし負傷させてしまったゾイルは、飛竜小屋の奥に閉じ込められていた。
『ゾイル…って名前なのね』
その声で閉じていた瞼を開いたゾイルは、いつの間にか柵の向こうに立っていたその人間へと首を上げた。
紅色の髪が綺麗な女が、世話係りのダンイルと並んでこちらを見つめている。
『グルル…』
初めて目にする女に、ゾイルは牙を剥き警戒感を露にするが、その女は躊躇もせずに施錠を外し柵の中へと入って来た。
『お…おい、よせ!何考えてんだアンタ!』
ダンイルは突然の女の行動に狼狽えた様子だ。
『フフ…大丈夫よ』
優しく微笑む女の声は、ダンイルへというよりもゾイルへと向けられているように響いた。
だが、ゾイルの興奮は収まらない。
立ち上がり脚を激しく動かし首を振る。
『ゾイル!落ち着くんだ!
アンタ!死にたいのか!早く柵から出るんだ!』
ダンイルがそう叫ぶも、大口を開けたゾイルが女へと喰らいかかった。
しかし、鋭い牙が女の頭に届こうとしたその刹那、ゾイルは女の姿を見失ってしまった。
『ホント、とんでもない利かん坊ね』
いつの間にか、ゾイルの背に跨がっていた女は、そう言って鱗にそっと手を添えてきた。
その瞬間、ゾイルの心は果てしない空のように透き通った感覚に満たされた。
竜の首もとの鱗には、触れた者の感情を読み取れる器官があり、それにより竜騎士(ドラゴンライダー)たちは竜と心を通わせ、その動きを操っているのだ。
幾人もの飛竜騎士たちを主とは認めず振り落としてきたが、
偉大で優しく、それでいて、どこまでも深く吸い込まれてしまいそうになるような、恐怖に近いものを感じさせるクフィールの魂が鱗から伝わってきた時、ゾイルは彼女こそが自分の主となるべき存在だと本能で悟ったのだった……。
両翼で木々の葉を揺らすこの夜、ゾイルの鱗に触れている、いつもの手から伝わってくるのは、憎悪と憤怒に包まれた初めて感じる主からの感情だった。
『見えた…。
ゾイルいい?ここから狙うわよ』
遥か前方の森が開けた場所の高い位置に、松明の炎が点のように浮かんでいる。
この島に住む部族の集落にある見張り台だ。
対竜槍の射程は約200M程であり、並大抵の飛竜騎士が目標を狙うならば昼間であれど最低でも150Mは近づく。
しかし、今ゾイルが飛んでいるのは松明の炎から300M以上は離れている夜の空。
『さあ…いくわよ』
クフィールの合図で、ゾイルはその場でグルグルと旋回を始めた。
速度が上がるにつれ、その描く円の範囲は狭まってくる。
そして、加速が限界に達そうとした時、クフィールは指を弾き対竜槍を発射させた。
高速回転するゾイルから放たれた金属の槍は、物凄い速度で闇夜に消え去って行った。
そして、遠くで松明の灯りが落下するのを、クフィールは満月を宿した冷たい瞳で見つめながら呟く。
『ゾイル、すぐに降りるわよ』
その背に乗せているのは、主であるクフィールだ。
ゾイルが初めてクフィールと出会ったのは、彼女がタワン基地に初めてやって来た日だった……。
その日、生まれつきの気性の荒らさ故に、訓練中に騎士を振り落とし負傷させてしまったゾイルは、飛竜小屋の奥に閉じ込められていた。
『ゾイル…って名前なのね』
その声で閉じていた瞼を開いたゾイルは、いつの間にか柵の向こうに立っていたその人間へと首を上げた。
紅色の髪が綺麗な女が、世話係りのダンイルと並んでこちらを見つめている。
『グルル…』
初めて目にする女に、ゾイルは牙を剥き警戒感を露にするが、その女は躊躇もせずに施錠を外し柵の中へと入って来た。
『お…おい、よせ!何考えてんだアンタ!』
ダンイルは突然の女の行動に狼狽えた様子だ。
『フフ…大丈夫よ』
優しく微笑む女の声は、ダンイルへというよりもゾイルへと向けられているように響いた。
だが、ゾイルの興奮は収まらない。
立ち上がり脚を激しく動かし首を振る。
『ゾイル!落ち着くんだ!
アンタ!死にたいのか!早く柵から出るんだ!』
ダンイルがそう叫ぶも、大口を開けたゾイルが女へと喰らいかかった。
しかし、鋭い牙が女の頭に届こうとしたその刹那、ゾイルは女の姿を見失ってしまった。
『ホント、とんでもない利かん坊ね』
いつの間にか、ゾイルの背に跨がっていた女は、そう言って鱗にそっと手を添えてきた。
その瞬間、ゾイルの心は果てしない空のように透き通った感覚に満たされた。
竜の首もとの鱗には、触れた者の感情を読み取れる器官があり、それにより竜騎士(ドラゴンライダー)たちは竜と心を通わせ、その動きを操っているのだ。
幾人もの飛竜騎士たちを主とは認めず振り落としてきたが、
偉大で優しく、それでいて、どこまでも深く吸い込まれてしまいそうになるような、恐怖に近いものを感じさせるクフィールの魂が鱗から伝わってきた時、ゾイルは彼女こそが自分の主となるべき存在だと本能で悟ったのだった……。
両翼で木々の葉を揺らすこの夜、ゾイルの鱗に触れている、いつもの手から伝わってくるのは、憎悪と憤怒に包まれた初めて感じる主からの感情だった。
『見えた…。
ゾイルいい?ここから狙うわよ』
遥か前方の森が開けた場所の高い位置に、松明の炎が点のように浮かんでいる。
この島に住む部族の集落にある見張り台だ。
対竜槍の射程は約200M程であり、並大抵の飛竜騎士が目標を狙うならば昼間であれど最低でも150Mは近づく。
しかし、今ゾイルが飛んでいるのは松明の炎から300M以上は離れている夜の空。
『さあ…いくわよ』
クフィールの合図で、ゾイルはその場でグルグルと旋回を始めた。
速度が上がるにつれ、その描く円の範囲は狭まってくる。
そして、加速が限界に達そうとした時、クフィールは指を弾き対竜槍を発射させた。
高速回転するゾイルから放たれた金属の槍は、物凄い速度で闇夜に消え去って行った。
そして、遠くで松明の灯りが落下するのを、クフィールは満月を宿した冷たい瞳で見つめながら呟く。
『ゾイル、すぐに降りるわよ』
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