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7話
缶詰5日目 揺れる気持ち【1】
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とても幸せな夢を見た気がする。そう思ってから10秒後ベッドから飛び起きた。
昨夜の記憶を思い出したから。
昨夜は森山君に呼び出されて居酒屋に行って、森山君が帰って、夏目さんと二人きりになった。それから片思いの人の事をずっと聞かれて、それから、それから……。
――これって、俺の事か?
夏目さんの言葉が頭の中でリピートされた。
あの時、全力で否定したけど、夏目さん、信じてくれただろうか。それとも私の気持ちに気づいただろうか。
この七年、ひた隠しにして来たのに、もし気づかれていたら困る。気まずくなるし、重たいって思われるのも嫌だ。どうしよう。どうしたらいいの。ああ、どうしよう。
ベッドの上でジタバタするけど、解決策は一切浮かばない。しかも夏目さんにおんぶしてもらった事まで思い出した。
自分の勤める会社の社長におんぶされる下っ端社員なんているだろうか。いくら酔っていたとはいえ、昨夜の振る舞いはあまりにも図々し過ぎた。
この失態はどうやって取り返せばいいの。
「春川さん、起きてますか」
コンコンとドアがノックされた。
森山君の声だった。
「もう九時過ぎてますよ」
時計を見ると10時になってた。
開始時間を一時間過ぎてる。遅刻だ。
「今起きた! すぐに行きます」
ドアに向かってそう叫んだ。
ワンピースに着がえて、髪をざっくりと後ろで一本にして、森山君の部屋に駆け込んだ。時間は5分しかかけてない。
化粧も1分。眉毛を軽く描いて、ファンデーションと口紅を塗る最低限で済ませた。
部屋に入ると、微かにコーヒーの香りが漂ってる。
森山君はいつも通り壁際のデスク前に座ってパソコンに向かっていた。今日は水色のワイシャツ姿だ。Tシャツじゃないんだ。
カタカタとキーを叩く音は遅刻した事を責めるように聞こえて、胃がちょっぴり痛い。
「森山君、ごめんね」
と言いながら、森山君の隣に座って、lenovoのノートパソコンの電源を入れた。今朝も調子よくサクッと立ち上がる。
「ええーと、今日はどこからだったっけ?」
「12話を書いてる所です」
「そっか。12話か」
慌ててパソコンを操作してファイルを出した。
そうだ。まだ森山君のチェックが終わってないのがあった。
「あっ、11話の胸キュンシーン、私が書いたやつ、森山君に確認してもらってなかったよね?」
「今朝しました。問題なかったです」
「それはどうも」
「書けた所まで今、更新しましたから、12話の確認お願いします」
「今、共有ファイル開きました」
ファイルを開くと森山君が書いた文章がザーッと画面に現れた。スクロールバーが思ったよりも長くなる。
まだ開始時間から一時間しか経ってないのに、もう八割ぐらい書けてる。
何時から森山君は書いてたんだろう。
寝坊した事が益々、申し訳ない。目覚ましアラームが鳴ってたはずなのに今朝はなんで気づかなかったんだろう。
昨夜、飲み過ぎたかな。
そう言えば森山君は大丈夫だったのかな。昨夜はかなり飲んでたみたいだったけど……。
ちらりと視線を向けると眼鏡をかけた鼻筋の通った端正な横顔は無表情にパソコンに向かっていた。
調子は悪そうには見えないから、二日酔いをする程ではなかったんだな。
失恋でやけ酒なんて、森山君でもするんだな。でも、森山君の失恋相手って……この私だ。
昨日、森山君に傘を貸した人が実は私だって事を打ち明けられて、その流れで好きだって言われたんだ。
どうしよう。意識したらドキドキして来た。背中も何か熱い。余計な事考えてないで仕事しなきゃ。遅刻した分を取り戻さなければ。
でも、昨日の事が頭から離れない。森山君の隣にいるのが物凄く気まずい。
「何ですか?」
抱えきれない気まずさにおろおろしていると、森山君がこっちを向いた。
眼鏡越しの黒い瞳が不機嫌そう。もしかして、怒ってる?
昨夜の記憶を思い出したから。
昨夜は森山君に呼び出されて居酒屋に行って、森山君が帰って、夏目さんと二人きりになった。それから片思いの人の事をずっと聞かれて、それから、それから……。
――これって、俺の事か?
夏目さんの言葉が頭の中でリピートされた。
あの時、全力で否定したけど、夏目さん、信じてくれただろうか。それとも私の気持ちに気づいただろうか。
この七年、ひた隠しにして来たのに、もし気づかれていたら困る。気まずくなるし、重たいって思われるのも嫌だ。どうしよう。どうしたらいいの。ああ、どうしよう。
ベッドの上でジタバタするけど、解決策は一切浮かばない。しかも夏目さんにおんぶしてもらった事まで思い出した。
自分の勤める会社の社長におんぶされる下っ端社員なんているだろうか。いくら酔っていたとはいえ、昨夜の振る舞いはあまりにも図々し過ぎた。
この失態はどうやって取り返せばいいの。
「春川さん、起きてますか」
コンコンとドアがノックされた。
森山君の声だった。
「もう九時過ぎてますよ」
時計を見ると10時になってた。
開始時間を一時間過ぎてる。遅刻だ。
「今起きた! すぐに行きます」
ドアに向かってそう叫んだ。
ワンピースに着がえて、髪をざっくりと後ろで一本にして、森山君の部屋に駆け込んだ。時間は5分しかかけてない。
化粧も1分。眉毛を軽く描いて、ファンデーションと口紅を塗る最低限で済ませた。
部屋に入ると、微かにコーヒーの香りが漂ってる。
森山君はいつも通り壁際のデスク前に座ってパソコンに向かっていた。今日は水色のワイシャツ姿だ。Tシャツじゃないんだ。
カタカタとキーを叩く音は遅刻した事を責めるように聞こえて、胃がちょっぴり痛い。
「森山君、ごめんね」
と言いながら、森山君の隣に座って、lenovoのノートパソコンの電源を入れた。今朝も調子よくサクッと立ち上がる。
「ええーと、今日はどこからだったっけ?」
「12話を書いてる所です」
「そっか。12話か」
慌ててパソコンを操作してファイルを出した。
そうだ。まだ森山君のチェックが終わってないのがあった。
「あっ、11話の胸キュンシーン、私が書いたやつ、森山君に確認してもらってなかったよね?」
「今朝しました。問題なかったです」
「それはどうも」
「書けた所まで今、更新しましたから、12話の確認お願いします」
「今、共有ファイル開きました」
ファイルを開くと森山君が書いた文章がザーッと画面に現れた。スクロールバーが思ったよりも長くなる。
まだ開始時間から一時間しか経ってないのに、もう八割ぐらい書けてる。
何時から森山君は書いてたんだろう。
寝坊した事が益々、申し訳ない。目覚ましアラームが鳴ってたはずなのに今朝はなんで気づかなかったんだろう。
昨夜、飲み過ぎたかな。
そう言えば森山君は大丈夫だったのかな。昨夜はかなり飲んでたみたいだったけど……。
ちらりと視線を向けると眼鏡をかけた鼻筋の通った端正な横顔は無表情にパソコンに向かっていた。
調子は悪そうには見えないから、二日酔いをする程ではなかったんだな。
失恋でやけ酒なんて、森山君でもするんだな。でも、森山君の失恋相手って……この私だ。
昨日、森山君に傘を貸した人が実は私だって事を打ち明けられて、その流れで好きだって言われたんだ。
どうしよう。意識したらドキドキして来た。背中も何か熱い。余計な事考えてないで仕事しなきゃ。遅刻した分を取り戻さなければ。
でも、昨日の事が頭から離れない。森山君の隣にいるのが物凄く気まずい。
「何ですか?」
抱えきれない気まずさにおろおろしていると、森山君がこっちを向いた。
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