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7話
缶詰5日目 揺れる気持ち【2】
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「あの、その……何というか」
言葉を探していると、森山君が寂しそうに微笑んだ。
「俺といるのやっぱり気まずいですか?」
思わず頷いてしまう。だってその通りだから。
森山君がクスリと笑った。
「普通、そんな事ないと否定する所ですよ。大人なんだから」
「そうかもしれないけどさ、昨日の事思い出しちゃって」
森山君が小さく息をついた。
「缶詰期間中に言う事ではなかったですね。気まずくさせてすみません。俺が悪かったです」
あまりにも素直に謝られて、拍子抜けするというか、森山君らしくない。好きなのかどうか聞いて来たのは春川さんなんだから、こっちにも責任があるとかって普段だったら言いそうなのに。
二度まばたきをして、森山君を見つめると、「何ですか?」と、森山君が不思議そうな表情を浮かべた。
「珍しく素直だと思って」
「俺の事どう思ってるんですか?」
「自分がすべて正しいと思ってる頑固者かな」
「何ですか、それ。独裁者じゃないですか」
森山君が心外だと言わんばかりに大げさに眉を上げた。
「独裁者とまでは言わないけどね」
「自分が悪いと思ったら謝る人間ですよ。春川さんと違って」
最後の言葉が引っかかる。
「私だってちゃんと謝るもん」
森山君が「どうですかねー」とクスッと笑った。
「何?その引っかかる言い方」
「引っかかりますか?」
「別に」
いつも通りのやり取りが心地いい。ちょっとした言い合いを会社でもよく森山君としてた。
「夏目さんとはどうでした?」
思い出したように森山君が話題を変えた。
「昨夜遅かったみたいですけど」
帰って来た時間なんて全然気に留めてなかった。
そういえばどうやってホテルに帰って来たんだろう?
「私、遅かったの?」
「深夜0時を過ぎた帰宅だったと思いますけど」
「なんで知ってるの?」
「夏目さんに起こされましたから。春川さんの部屋の鍵が見つからなくて持ってないかと聞かれたんです」
「えっ、夏目さん部屋まで来たの?」
夏目さんにおんぶされた所までは何となく思い出せるけど、それ以降の記憶がない。
「酔った春川さんは手がつけられなくて大変でしたよ。部屋に入ると大暴れして夏目さんを唖然とさせていましたよ」
大暴れ!
「部屋中を走り回ったり、バルコニーで歌い出したりして」
うそっ。そんな事、いくらなんでも今までした事がない。酔って記憶がなくなる事は時々あるけど。
「夏目さんがいる所でそんな事したの?」
森山君がニヤニヤと笑い出した。
「嘘ですよ」
「もうっ、やめてよ。信じかけたじゃない」
森山君の肩を叩いた。嘘なんかついていじめるから。本気にしかけたじゃない。もうっと睨むと、森山君がまた可笑しそうに笑った。何?私、何かやらかしたの?
「春川さん、夏目さんにおんぶされてよだれ出しながら寝てただけですよ」
「えっ、よだれ!それも嘘だよね?」
「残念ながら本当です。夏目さんの上着の襟、よだれでぐっしょり濡れてましたね」
穴があったら入りたい。いや、埋まりたい。誰か私を地面に埋めて。よりにもよって夏目さんに下っ端の私がそんな大失態をするなんて。
「そんなに落ち込まなくて大丈夫ですよ。春川には内緒にしとけよって口止めされましたから。スーツのクリーニング代を請求される事はないと思います」
森山君がクスクスとさらに楽しそうに笑った。
私をからかって楽しんでるんだ。時々、意地悪なんだよね、森山君って。
でも、いっか。気まずい緊張感を感じるよりは百倍ましだし。
これならいつものように仕事ができそう。
「それで夏目さんとは楽しい時間を過ごせましたか?」
笑いをおさめた森山君が優しい表情をこっちに向けた。どうしてそんなに優しい瞳をしてるの?意地悪だと思ったら、優しい顔するなんてズルい。
飴とムチの使い方を絶対にわかってる。
「春川さん、黙秘ですか?」
黙ったままの私を茶化すように森山君が言った。
余裕のある表情がちょっと憎たらしい。なんで平気な顔をして夏目さんの事聞けちゃうの?
私の事、好きだったらそんな事聞きたくないんじゃないの? 胸が痛くなる質問じゃないの? それとも、もう私の事何とも思ってないの?
言葉を探していると、森山君が寂しそうに微笑んだ。
「俺といるのやっぱり気まずいですか?」
思わず頷いてしまう。だってその通りだから。
森山君がクスリと笑った。
「普通、そんな事ないと否定する所ですよ。大人なんだから」
「そうかもしれないけどさ、昨日の事思い出しちゃって」
森山君が小さく息をついた。
「缶詰期間中に言う事ではなかったですね。気まずくさせてすみません。俺が悪かったです」
あまりにも素直に謝られて、拍子抜けするというか、森山君らしくない。好きなのかどうか聞いて来たのは春川さんなんだから、こっちにも責任があるとかって普段だったら言いそうなのに。
二度まばたきをして、森山君を見つめると、「何ですか?」と、森山君が不思議そうな表情を浮かべた。
「珍しく素直だと思って」
「俺の事どう思ってるんですか?」
「自分がすべて正しいと思ってる頑固者かな」
「何ですか、それ。独裁者じゃないですか」
森山君が心外だと言わんばかりに大げさに眉を上げた。
「独裁者とまでは言わないけどね」
「自分が悪いと思ったら謝る人間ですよ。春川さんと違って」
最後の言葉が引っかかる。
「私だってちゃんと謝るもん」
森山君が「どうですかねー」とクスッと笑った。
「何?その引っかかる言い方」
「引っかかりますか?」
「別に」
いつも通りのやり取りが心地いい。ちょっとした言い合いを会社でもよく森山君としてた。
「夏目さんとはどうでした?」
思い出したように森山君が話題を変えた。
「昨夜遅かったみたいですけど」
帰って来た時間なんて全然気に留めてなかった。
そういえばどうやってホテルに帰って来たんだろう?
「私、遅かったの?」
「深夜0時を過ぎた帰宅だったと思いますけど」
「なんで知ってるの?」
「夏目さんに起こされましたから。春川さんの部屋の鍵が見つからなくて持ってないかと聞かれたんです」
「えっ、夏目さん部屋まで来たの?」
夏目さんにおんぶされた所までは何となく思い出せるけど、それ以降の記憶がない。
「酔った春川さんは手がつけられなくて大変でしたよ。部屋に入ると大暴れして夏目さんを唖然とさせていましたよ」
大暴れ!
「部屋中を走り回ったり、バルコニーで歌い出したりして」
うそっ。そんな事、いくらなんでも今までした事がない。酔って記憶がなくなる事は時々あるけど。
「夏目さんがいる所でそんな事したの?」
森山君がニヤニヤと笑い出した。
「嘘ですよ」
「もうっ、やめてよ。信じかけたじゃない」
森山君の肩を叩いた。嘘なんかついていじめるから。本気にしかけたじゃない。もうっと睨むと、森山君がまた可笑しそうに笑った。何?私、何かやらかしたの?
「春川さん、夏目さんにおんぶされてよだれ出しながら寝てただけですよ」
「えっ、よだれ!それも嘘だよね?」
「残念ながら本当です。夏目さんの上着の襟、よだれでぐっしょり濡れてましたね」
穴があったら入りたい。いや、埋まりたい。誰か私を地面に埋めて。よりにもよって夏目さんに下っ端の私がそんな大失態をするなんて。
「そんなに落ち込まなくて大丈夫ですよ。春川には内緒にしとけよって口止めされましたから。スーツのクリーニング代を請求される事はないと思います」
森山君がクスクスとさらに楽しそうに笑った。
私をからかって楽しんでるんだ。時々、意地悪なんだよね、森山君って。
でも、いっか。気まずい緊張感を感じるよりは百倍ましだし。
これならいつものように仕事ができそう。
「それで夏目さんとは楽しい時間を過ごせましたか?」
笑いをおさめた森山君が優しい表情をこっちに向けた。どうしてそんなに優しい瞳をしてるの?意地悪だと思ったら、優しい顔するなんてズルい。
飴とムチの使い方を絶対にわかってる。
「春川さん、黙秘ですか?」
黙ったままの私を茶化すように森山君が言った。
余裕のある表情がちょっと憎たらしい。なんで平気な顔をして夏目さんの事聞けちゃうの?
私の事、好きだったらそんな事聞きたくないんじゃないの? 胸が痛くなる質問じゃないの? それとも、もう私の事何とも思ってないの?
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