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8話
缶詰6日目 森山君と夏目さん【8】
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新井さんの事を言うべきか迷ったけど、正直に昨日会った事を話した。
「そうですか」
森山君の声は落胆したようにも、怒ったようにも聞こえなかった。どう思ってるか感情が見えない。
「怒ってる?」
眼鏡がズレた顔を見上げると、森山君が居心地の悪そうな笑みを浮かべて、眼鏡を外した。その眼鏡をサイドテーブルの上に置く森山君がくたびれて見える。触れてはいけない話題だったんだ。
「妹さんの話はダメだった?」
「ダメって訳ではないですけど」
森山君がゴロンと背を向けた。白いワイシャツの背が妹さんの話を拒絶してるように見える。
昨日が命日だって新井さんに聞いてたのに、今、この話題は出すべきじゃなかった。しんどいよね、亡くなって4年しか経ってない妹さんの話は。なんて無神経な事、聞いちゃったんだろう。
謝ろうと口を開いた時、深いため息が背中越しに聞こえた。
「昨日、命日だったんで夜は実家に帰ってたんです」
背を向けたまま、森山君は静かに話し出した。
急いだ様子で、ホテルを出た昨日の森山君を思い出した。何の用事か少しだけ気になってた。森山君が何も言ってくれなかったから。
「親父もお袋も平気そうにしてるんですけど、まだ無理してるっていうか。でも、一番引きずってるのは俺かもしれない」
森山君の肩が落ち込むように揺れた。その後ろ姿が苦しそう。妹さんが亡くなって、森山君は深く傷ついたのかもしれない。そういえば妹さんの舞台に必ず花束を持って駆けつけてたって聞いた。大事な妹さんだったんだろうな。
「愛子は交通事故で亡くなったんです。俺に自分が出る芝居のチケットを届けに来てくれたんです。郵送でいいって言ったのに、あいつ、直接渡したいからって会社まで来て。その帰りに交差点でトラックに轢かれて……」
痛まし過ぎる。トラックに轢かれたなんて。
しかも森山君にチケットを届けに来た帰りだったなんて。
森山君、妹さんの死に責任を感じて、ずっと自分を責めてるのかもしれない。だから、引きずってるんだ。
横になったままの広い背中が泣いてるように見える。いつもは頼りがいがある背中なのに。
「葵さんと出会ったあの赤い庇のコーヒー屋から、愛子が亡くなった交差点が見えるんですよ。傘を借りた日は事故から一週間経ってて、俺もあの交差点に飛び込んじまおうかって、ちょっと考えてたんです」
冗談のように笑った声が悲し気だ。
赤い庇の下に立ってじっと雨の方を見ていたのは、その先にあった交差点を見ていたからだったんだ。
そんな時に私たちが出会ってたなんて……。
「あの時、声をかけてもらわなかったら、きっと俺は……」
森山君が言葉を飲み込んだ。その先を想像して、胸が張り裂けそうになる。
森山君が生きてて良かった。こうして今、一緒にいられる事は奇跡かもしれない。
「森山君に傘を貸せて良かった」
心から思う。
大事な森山君を失わないで良かった。
広い背中に顔を埋めて、森山君の存在を確かめた。
背中越しにしっかりとした鼓動を感じる。体温も、匂いも、ワイシャツ越しの背中の固さも、全部が愛しい。
「森山君が大好き」
やっと気持ちが言葉に出せた。やっぱり涙が溢れたけど。
「大好きだよ」
もう一度繰り返すと、森山君の背中が揺れた。それからゆっくりとこっちを振り向いた。
向き合った森山君は戸惑ったような表情を浮かべてた。
「夏目さんの次にですか?」
茶化すように森山君が笑った。
「そうですか」
森山君の声は落胆したようにも、怒ったようにも聞こえなかった。どう思ってるか感情が見えない。
「怒ってる?」
眼鏡がズレた顔を見上げると、森山君が居心地の悪そうな笑みを浮かべて、眼鏡を外した。その眼鏡をサイドテーブルの上に置く森山君がくたびれて見える。触れてはいけない話題だったんだ。
「妹さんの話はダメだった?」
「ダメって訳ではないですけど」
森山君がゴロンと背を向けた。白いワイシャツの背が妹さんの話を拒絶してるように見える。
昨日が命日だって新井さんに聞いてたのに、今、この話題は出すべきじゃなかった。しんどいよね、亡くなって4年しか経ってない妹さんの話は。なんて無神経な事、聞いちゃったんだろう。
謝ろうと口を開いた時、深いため息が背中越しに聞こえた。
「昨日、命日だったんで夜は実家に帰ってたんです」
背を向けたまま、森山君は静かに話し出した。
急いだ様子で、ホテルを出た昨日の森山君を思い出した。何の用事か少しだけ気になってた。森山君が何も言ってくれなかったから。
「親父もお袋も平気そうにしてるんですけど、まだ無理してるっていうか。でも、一番引きずってるのは俺かもしれない」
森山君の肩が落ち込むように揺れた。その後ろ姿が苦しそう。妹さんが亡くなって、森山君は深く傷ついたのかもしれない。そういえば妹さんの舞台に必ず花束を持って駆けつけてたって聞いた。大事な妹さんだったんだろうな。
「愛子は交通事故で亡くなったんです。俺に自分が出る芝居のチケットを届けに来てくれたんです。郵送でいいって言ったのに、あいつ、直接渡したいからって会社まで来て。その帰りに交差点でトラックに轢かれて……」
痛まし過ぎる。トラックに轢かれたなんて。
しかも森山君にチケットを届けに来た帰りだったなんて。
森山君、妹さんの死に責任を感じて、ずっと自分を責めてるのかもしれない。だから、引きずってるんだ。
横になったままの広い背中が泣いてるように見える。いつもは頼りがいがある背中なのに。
「葵さんと出会ったあの赤い庇のコーヒー屋から、愛子が亡くなった交差点が見えるんですよ。傘を借りた日は事故から一週間経ってて、俺もあの交差点に飛び込んじまおうかって、ちょっと考えてたんです」
冗談のように笑った声が悲し気だ。
赤い庇の下に立ってじっと雨の方を見ていたのは、その先にあった交差点を見ていたからだったんだ。
そんな時に私たちが出会ってたなんて……。
「あの時、声をかけてもらわなかったら、きっと俺は……」
森山君が言葉を飲み込んだ。その先を想像して、胸が張り裂けそうになる。
森山君が生きてて良かった。こうして今、一緒にいられる事は奇跡かもしれない。
「森山君に傘を貸せて良かった」
心から思う。
大事な森山君を失わないで良かった。
広い背中に顔を埋めて、森山君の存在を確かめた。
背中越しにしっかりとした鼓動を感じる。体温も、匂いも、ワイシャツ越しの背中の固さも、全部が愛しい。
「森山君が大好き」
やっと気持ちが言葉に出せた。やっぱり涙が溢れたけど。
「大好きだよ」
もう一度繰り返すと、森山君の背中が揺れた。それからゆっくりとこっちを振り向いた。
向き合った森山君は戸惑ったような表情を浮かべてた。
「夏目さんの次にですか?」
茶化すように森山君が笑った。
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