【完結】ディープキス

コハラ

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8話

缶詰6日目 森山君と夏目さん【9】

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「違う。森山君だけが好きなの」
「妹を亡くした俺が可哀そうだからですか?」

 眼鏡なしの森山君の顔が険しくなる。

「違うよ」
「今の話の流れからすると、同情で好きだと言ったようにしか聞こえません」

 森山君がベッドから起き上がって、こっちを見下ろした。その視線が冷たい。夢の中の森山君みたいに。

「だから違うって」

 起き上がって反論した。この気持ちをわかって欲しい。毎日、顔を合わせる度に大きくなってる好きを。

 目が合うと、森山君は拒絶するように視線を逸らした。
 同情で言ったと思って怒ってるの?なんで伝わらないの。こんなに好きなのに。

「妹の話はしたくなかったんです。妹を亡くした可哀そうな男だって思われたくなかったから。俺の事、可哀そうなエピソード抜きでちゃんと好きになって欲しいんです。同情なんかされたくない!」

 声を荒げた森山君が立ちあがってドアに向かった。
 感情的に声を荒げた所を初めて見る。冷静じゃない森山君におろおろする。だけど、誤解は解かなきゃ。

「待って、森山君」

 ベッドから起き上がって追いかけた。森山君はこちらに背を向けてドアの前にいた。
 後ろ姿がこれ以上何も聞きたくないと言ってるように見える。でも今、ちゃんと気持ちを伝えなきゃ。

「森山君、違うの。聞いて。妹さんの話を聞く前からちゃんと好きだから。夏目さんを好きって気持ち以上に森山君が好きなの。ううん。森山君だけが好きなの。好きで堪らないの。森山君と一緒にいたいの。意地悪されても、叱られても、無視さてれも、一緒にいたいの。だって森山君といると私、心のバリアなくなるんだよ。森山君が無効にさせるんだから。わがまま沢山言えちゃうし、甘えたくなるし、触れて欲しいって思うし、これって物凄く好きな人の前じゃないと出来ないよ。夏目さんにはそこまで思わないもん」

 言葉にしながら、どんどん想いが溢れる。
 オフィスで顔を合わせていた時はちゃんと森山君をわかってなかった。

 森山君はいつも優しくて、頼りがいがあって、安心させてくれる。好きって気持ちを感じさせてくれる。森山君を見る度にときめいて、心が弾んで、幸せな気持ちが溢れる。

 この気持ちをわかって欲しい。同情なんかじゃないって。妹さんの事を知る前から好きだって。

「どうして今、そんな事を言うんですか。愛子の話をした後に聞きたくなかった」

 感情をぶけつるように森山君が右手でドアの上の方を叩いた。
 そのまま手をついて、丸まった背中が酷く落ち込んでるように見える。
 落ち込ませるつもりはなかった。ただわかって欲しい。好きだって気持ちを。

「葵さん、酷いですよ。このタイミングでその告白は。同情じゃないと言われても素直に受け取れないです。どうして今なんですか」

 悔しそうにまた森山君がドアを叩いた。

「社長よりも好きだって言われても、全然嬉しくない」

 最後の言葉が涙混じりのような声で聞こえた。
 森山君の右手が何かを堪えるように顔を覆った。それから鼻をすするような音がした。

 ハッと息を飲んだ。
 もしかして泣いてるの?強気で、ちょっと意地悪で優しい森山君が。
 私の言葉にそこまで追い詰められたの?それとも妹さんの事で悲しいの?

「一人にさせて下さい」

 森山君が部屋を出て行こうとする。その背中にしがみついた。森山君を一人にさせたくない。森山君が泣いてるなら一緒に泣きたい。大好きだから。

「離して下さい」
「いやっ!」
「勘弁して下さい。感情的になってる所を見られたくないんです」
「見せてよ。私は全部見せてるよ。感情的になって情けない所も。だって森山君の前だと心のバリアがなくなるから。森山君には心の距離、ゼロなんだから。不公平よ。森山君だけカッコいい所しか見せてくれないなんて」
「何言ってるんですか」
「私にも森山君の苦しい事とか、悲しい事を抱えさせてよ。怒りをぶつけてくれたっていい。そうやって森山君と一緒に生きていきたいの」
「なんで……なんで、そういう恥ずかしい事を、言うんですか」
「大好きだからよ」

 森山君が沈黙した。それから力のない笑い声がして、降参するように森山君は振り向いた。きまりが悪そうに微笑んだ瞳には薄く涙が浮かんでる。その泣き顔が最強過ぎる。どうして好きな人の弱ってる姿ってこんなに愛しいんだろう。もう完敗。

 森山君の首に両腕を回して強く抱きしめた。離したくない。離れたくない。ずっと一緒にいたい。
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