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5話
缶詰3日目 傘の人【4】
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私もハンバーグドリアを頼み、ドリアが来るまで、新井さんの初恋話に耳を傾けた。
それは新井さんが小2で森山君が中2の時まで遡る。
その年の夏休みに新井さんは森山家にお泊りをしたそうだ。
森山君がご飯を作ってくれたり、宿題を見てくれたりと、面倒を見てくれたという話を聞いて感心した。
「しっかりした中学生だったのねー。ご飯なんて私は実家を出るまでは全部、お母さんに甘えてたよ」
森山君が照れくさそうに笑った。
「うちは共働きで、どっちも遅かったから、自然と俺が家の事をするようになったんです」
「涼君、完全な主婦だったよね。私びっくりしちゃった。お母さんみたいにいろいろしてくれたから」
そういえば森山君の家に行った時、私が夕飯を食べてない事を心配してくれて、手際よくチャーハンを作ってくれたな。食事の心配をする所はお母さんぽいかも。
「愛子と私は完全に涼君に甘えた生活をしてて。あ、愛子っていうのは涼君の妹なんですけどね。私たち親友だったんです」
親友だった。何か引っかかる言い回し。
今は違うって事?
「それで涼君と愛子と私の三人で夏祭りに行ったんです」
新井さんがうふふっと、当時の事を思い出したような幸せそうな笑みを浮かべた。
ときめきが詰まった笑顔にわくわくする。恋の話は大好物だ。
「お気に入りのピンクの浴衣を着てて。下駄もピンクの鼻緒が素敵な物で。歩くとカランコロンっていい音が鳴るんです。履いてるだけで嬉しくて、走ったり、飛び跳ねたりしてたら派手に転んじゃって」
新井さんが苦笑いを浮かべた。
その隣で森山君が思い出すようにクスクス笑った。
「顔から転んでたよな。おでこから血、出てさ。俺、焦ったよ」
「本当、あの時は痛かった。でも、涼君がすぐに対処してくれて。傷もちょっと擦っただけで大した事なくて。だけど、下駄の鼻緒が切れちゃって。そっちの方が悲しくて、私、大泣きしちゃって。そしたら涼君がおんぶしてくれて。その背中がすごく温かくて、安心できました」
新井さんが大事な物を見るように、森山君に視線を向けた。
恋心を感じる。
「わかった。それで好きになったんだ」
「はい」
新井さんが頬を赤らめて頷いた。
「素敵なエピソードね。私も同じ事されたら好きになるかも」
「大した事はしてませんよ。ピーピー泣いてたからおんぶするしかなくて」
面倒くさそうに言いながら森山君はコーヒーを飲んだ。
その表情が照れてるように見えて、ちょっとかわいい。
「その時、私は絶対に涼君の彼女になるって決めたんですけど、全然相手にしてくれないんです。それ所かいつも変な女の人とばっかり付き合ってて」
「変な女の人?」
その言葉をどう受け止めたらいいのかわからず、眉間に皺が寄る。
森山君を見ると、困ったように頬をかいていた。
「変なとは言葉が過ぎるだろう」
「だって高校の時は教育実習に来てた女子大生と付き合ってて、すぐに捨てられるし、大学の時は人妻と不倫してたじゃない」
えっ、人妻と不倫……?
目を丸くして森山君を見ると、眼鏡越しの瞳が気まずそうにこちらの視線を外した。
触れられたくない事のようだった。
それは新井さんが小2で森山君が中2の時まで遡る。
その年の夏休みに新井さんは森山家にお泊りをしたそうだ。
森山君がご飯を作ってくれたり、宿題を見てくれたりと、面倒を見てくれたという話を聞いて感心した。
「しっかりした中学生だったのねー。ご飯なんて私は実家を出るまでは全部、お母さんに甘えてたよ」
森山君が照れくさそうに笑った。
「うちは共働きで、どっちも遅かったから、自然と俺が家の事をするようになったんです」
「涼君、完全な主婦だったよね。私びっくりしちゃった。お母さんみたいにいろいろしてくれたから」
そういえば森山君の家に行った時、私が夕飯を食べてない事を心配してくれて、手際よくチャーハンを作ってくれたな。食事の心配をする所はお母さんぽいかも。
「愛子と私は完全に涼君に甘えた生活をしてて。あ、愛子っていうのは涼君の妹なんですけどね。私たち親友だったんです」
親友だった。何か引っかかる言い回し。
今は違うって事?
「それで涼君と愛子と私の三人で夏祭りに行ったんです」
新井さんがうふふっと、当時の事を思い出したような幸せそうな笑みを浮かべた。
ときめきが詰まった笑顔にわくわくする。恋の話は大好物だ。
「お気に入りのピンクの浴衣を着てて。下駄もピンクの鼻緒が素敵な物で。歩くとカランコロンっていい音が鳴るんです。履いてるだけで嬉しくて、走ったり、飛び跳ねたりしてたら派手に転んじゃって」
新井さんが苦笑いを浮かべた。
その隣で森山君が思い出すようにクスクス笑った。
「顔から転んでたよな。おでこから血、出てさ。俺、焦ったよ」
「本当、あの時は痛かった。でも、涼君がすぐに対処してくれて。傷もちょっと擦っただけで大した事なくて。だけど、下駄の鼻緒が切れちゃって。そっちの方が悲しくて、私、大泣きしちゃって。そしたら涼君がおんぶしてくれて。その背中がすごく温かくて、安心できました」
新井さんが大事な物を見るように、森山君に視線を向けた。
恋心を感じる。
「わかった。それで好きになったんだ」
「はい」
新井さんが頬を赤らめて頷いた。
「素敵なエピソードね。私も同じ事されたら好きになるかも」
「大した事はしてませんよ。ピーピー泣いてたからおんぶするしかなくて」
面倒くさそうに言いながら森山君はコーヒーを飲んだ。
その表情が照れてるように見えて、ちょっとかわいい。
「その時、私は絶対に涼君の彼女になるって決めたんですけど、全然相手にしてくれないんです。それ所かいつも変な女の人とばっかり付き合ってて」
「変な女の人?」
その言葉をどう受け止めたらいいのかわからず、眉間に皺が寄る。
森山君を見ると、困ったように頬をかいていた。
「変なとは言葉が過ぎるだろう」
「だって高校の時は教育実習に来てた女子大生と付き合ってて、すぐに捨てられるし、大学の時は人妻と不倫してたじゃない」
えっ、人妻と不倫……?
目を丸くして森山君を見ると、眼鏡越しの瞳が気まずそうにこちらの視線を外した。
触れられたくない事のようだった。
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