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すれ違い
《6》
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「濱田課長、待って下さい」
ずんずんと歩いて行く課長の背中を追いかけた。
課長が近くの公園に入って行く。
「課長、急にどうしたんですか?」
公園の噴水前に課長はポツンと立っていた。
もう日は暮れ、夜空には青白い月が出ている。
白い外灯に照らされた課長の背中が泣いているように見えた。
「堪らなくなったんだよ」
「それって、沢木さんに?」
「なんなんだ。あいつ。あの自信。彩を幸せにするだと! 軽々しく言いやがって」
悔しそうに言った課長の言葉に父親としての想いを感じる。
「軽々しく言ってないと思いますよ」
普段より小さく見える背中を撫でると、課長が振り向いた。その表情はとても悲しそう。
課長も心の底では2人を別れさせる事ができないとわかっているのかも。
だったら彩さんと沢木が大丈夫だって安心させてあげれば、課長の気持ちも落ち着くのでは……。
「課長、あの二人はちゃんと好き合ってますよ。沢木さんは彩さんの事を幸せにできると思います。二十才の年齢差なんて関係ないですよ」
「君はわかってないんだ!」
眉間に皺を寄せた険しい表情を課長が浮かべる。
彩さんへの強い気持ちが課長に苦しそうな表情をさせるのかもしれない。
「彩が40才になった時、あいつは60で、定年に近い年なんだぞ。子どもがいたらどうするんだ? 彩が家計を支える為に働くのか? 老人と子供を抱えて彩が苦労するのは目に見えている。彩をそんな所にやれない。彩には誰よりも幸せなってもらいたいんだ」
「課長こそ、わかってませんよ」
「何だと?」
「女は好きな人と一緒になれないと幸せになれないんですよ。彩さんの幸せを願うなら結婚を許してあげるべきです。課長だって本当はそう思ってるんでしょ?」
こっちを見る黒い瞳が揺れた。
やっぱり課長は本心では二人の仲を許したいんだ。だけど、心配し過ぎて許せないんだ。
「課長、許してあげて下さい。私は彩さんに私の分も幸せになって欲しい。私はもう一番好きな人とは結婚できないから、彩さんには好きな人と一緒になって欲しいんです」
「島本くん、なんでそんな悲しい事を言うんだ?」
「だって、私の一番好きな人は課長だから」
「島本くん……」
「あの夜の告白、冗談じゃないんですよ。実は課長に三年片思いしていました。今も課長が大好きです」
傷つく事が怖くて言えなかったけど、自分の気持ちから、もう逃げたくない。
切れ長の目をじっと見つめると、気まずそうに視線を逸らされる。
「困る。迷惑だ」
ハッキリとした拒絶にズキッと胸が痛くなる。
「死んだ人間の事なんか忘れなさい」
息の音を止めるように課長の言葉が突き刺さる。
課長にそう言われるのはわかっていた。
だけど、ちゃんと伝えたかった。
視界がぐにゃっと歪む。
泣いちゃダメだ。そう思うのに、目の際に涙が浮かぶ。
「忘れられません! 幽霊になっても課長が好きです!」
切れ長の瞳が大きく見開いた。
黙ったまま私の顔を見つめ、課長は落胆するようなため息をついた。
「島本くん、もう君とは一緒にいられない」
課長が背を向けて歩き出した。
「待って下さい。話は終わってませんよ!」
課長を追いかけ、公園の外に出ると、課長の姿はなかった。
「課長! 濱田課長!」
課長はどこにもいなかった。
ずんずんと歩いて行く課長の背中を追いかけた。
課長が近くの公園に入って行く。
「課長、急にどうしたんですか?」
公園の噴水前に課長はポツンと立っていた。
もう日は暮れ、夜空には青白い月が出ている。
白い外灯に照らされた課長の背中が泣いているように見えた。
「堪らなくなったんだよ」
「それって、沢木さんに?」
「なんなんだ。あいつ。あの自信。彩を幸せにするだと! 軽々しく言いやがって」
悔しそうに言った課長の言葉に父親としての想いを感じる。
「軽々しく言ってないと思いますよ」
普段より小さく見える背中を撫でると、課長が振り向いた。その表情はとても悲しそう。
課長も心の底では2人を別れさせる事ができないとわかっているのかも。
だったら彩さんと沢木が大丈夫だって安心させてあげれば、課長の気持ちも落ち着くのでは……。
「課長、あの二人はちゃんと好き合ってますよ。沢木さんは彩さんの事を幸せにできると思います。二十才の年齢差なんて関係ないですよ」
「君はわかってないんだ!」
眉間に皺を寄せた険しい表情を課長が浮かべる。
彩さんへの強い気持ちが課長に苦しそうな表情をさせるのかもしれない。
「彩が40才になった時、あいつは60で、定年に近い年なんだぞ。子どもがいたらどうするんだ? 彩が家計を支える為に働くのか? 老人と子供を抱えて彩が苦労するのは目に見えている。彩をそんな所にやれない。彩には誰よりも幸せなってもらいたいんだ」
「課長こそ、わかってませんよ」
「何だと?」
「女は好きな人と一緒になれないと幸せになれないんですよ。彩さんの幸せを願うなら結婚を許してあげるべきです。課長だって本当はそう思ってるんでしょ?」
こっちを見る黒い瞳が揺れた。
やっぱり課長は本心では二人の仲を許したいんだ。だけど、心配し過ぎて許せないんだ。
「課長、許してあげて下さい。私は彩さんに私の分も幸せになって欲しい。私はもう一番好きな人とは結婚できないから、彩さんには好きな人と一緒になって欲しいんです」
「島本くん、なんでそんな悲しい事を言うんだ?」
「だって、私の一番好きな人は課長だから」
「島本くん……」
「あの夜の告白、冗談じゃないんですよ。実は課長に三年片思いしていました。今も課長が大好きです」
傷つく事が怖くて言えなかったけど、自分の気持ちから、もう逃げたくない。
切れ長の目をじっと見つめると、気まずそうに視線を逸らされる。
「困る。迷惑だ」
ハッキリとした拒絶にズキッと胸が痛くなる。
「死んだ人間の事なんか忘れなさい」
息の音を止めるように課長の言葉が突き刺さる。
課長にそう言われるのはわかっていた。
だけど、ちゃんと伝えたかった。
視界がぐにゃっと歪む。
泣いちゃダメだ。そう思うのに、目の際に涙が浮かぶ。
「忘れられません! 幽霊になっても課長が好きです!」
切れ長の瞳が大きく見開いた。
黙ったまま私の顔を見つめ、課長は落胆するようなため息をついた。
「島本くん、もう君とは一緒にいられない」
課長が背を向けて歩き出した。
「待って下さい。話は終わってませんよ!」
課長を追いかけ、公園の外に出ると、課長の姿はなかった。
「課長! 濱田課長!」
課長はどこにもいなかった。
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