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5話
希美の幸せ<1>
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映画館がある木更津市内のショッピングセンターまでは車で一時間の道のりだった。
予定通りの時間に映画館に到着し、予定通りに希美とミステリー系の映画を観た訳だが、僕の隣に座ったのは希美ではなく、青山だったのは予定外だった。そしてその後は四人でショッピングセンタ―内に入るイタリアンレストランで食事をした訳だが、話題はなぜか希美の夫の話――つまり僕のことで、かなり肩身の狭い思いをすることになった。
「いきなり離婚届を置いて、出て行くってないでしょ!」
希美の話を聞いた井上さんが険しい表情を浮かべ、キレ気味に言った。
「しかも、希美さんが入院中に出て行くなんてありえない!」
正面に座る井上さんに睨まれ、胃がギュッと縮まる。
「入院中の妻捨てるとかって、マジ、クソだな」
隣に座る青山にも言われ、また胃がチクッと痛くなる。
「私も最初はそう思ったんですけど。でも、私、夫のこと忘れちゃってるし。顔も思い出せないし。私がそんな状態だったから、会わずに離婚した方が私が傷つかずに済むと思ったのかなって思ったりもして」
斜向かいに座る希美が苦笑を浮かべて僕を見る。
「そういう考え方もありますよね」
そう僕が相槌を打つと「希美さん、人が良すぎ! 自己中夫がそこまで考えてる訳ないじゃないですか!」と井上さんが高いテンションのまま声を上げた。さらに青山が井上さんの言葉に乗っかる。
「自己中夫は倉田さんの記憶喪失を利用して捨てたんですよ」
次々とボディに重たいパンチを食らったボクサーのようにフラフラになった。
……自己中夫。そう言われても仕方ないことをしたが、僕だって苦渋の決断だったんだ。本当は希美と離婚したくなかったんだ。という言葉が喉の奥まで込み上がってくるが耐えた。
希美は二人の言葉を聞いて、「そうね。自己中夫よね。でも、なんか、あの人らしくない気がして離婚届はまだ提出していないの」と言った。
あの人らしくないとう言葉に脈が速くなる。まさか希美は僕のことを思い出したのか?
「希美さん、ご主人を思い出したんですか?」
井上さんが希美を見る。
希美はゆっくりと首を左右に振った。
「思い出せてないよ。でも、妻としての勘が、夫はそんなことをする人じゃないと言っているの」
切なそうに目を細める希美に胸が掴まれる。
「倉田さん、それは気のせいですよ。倉田さんが自己中夫に捨てられたと思いたくないから、そう思ってるんですよ」
希美が寂しそうな笑みを浮かべ、僕を見た。
「佐藤さんも、気のせいだと思いますか?」
希美に話を振られ、ドキッとする。
「僕は……」
希美の為を思うのだったら、ここは厳しいことを言った方がいい。
「僕も青山君と同意見です。気のせいだと思います。少し厳しいことを言いますが、倉田さんは自分が傷つかないように、ご主人のことをそう思いたいだけなんですよ。離婚した方がいいです。倉田さん、自己中なご主人のことは忘れて、新しい人生を踏み出して下さい」
希美の黒い瞳が左右に揺れ、涙で潤むのを見て焦る。泣かせるつもりはなかった。
予定通りの時間に映画館に到着し、予定通りに希美とミステリー系の映画を観た訳だが、僕の隣に座ったのは希美ではなく、青山だったのは予定外だった。そしてその後は四人でショッピングセンタ―内に入るイタリアンレストランで食事をした訳だが、話題はなぜか希美の夫の話――つまり僕のことで、かなり肩身の狭い思いをすることになった。
「いきなり離婚届を置いて、出て行くってないでしょ!」
希美の話を聞いた井上さんが険しい表情を浮かべ、キレ気味に言った。
「しかも、希美さんが入院中に出て行くなんてありえない!」
正面に座る井上さんに睨まれ、胃がギュッと縮まる。
「入院中の妻捨てるとかって、マジ、クソだな」
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斜向かいに座る希美が苦笑を浮かべて僕を見る。
「そういう考え方もありますよね」
そう僕が相槌を打つと「希美さん、人が良すぎ! 自己中夫がそこまで考えてる訳ないじゃないですか!」と井上さんが高いテンションのまま声を上げた。さらに青山が井上さんの言葉に乗っかる。
「自己中夫は倉田さんの記憶喪失を利用して捨てたんですよ」
次々とボディに重たいパンチを食らったボクサーのようにフラフラになった。
……自己中夫。そう言われても仕方ないことをしたが、僕だって苦渋の決断だったんだ。本当は希美と離婚したくなかったんだ。という言葉が喉の奥まで込み上がってくるが耐えた。
希美は二人の言葉を聞いて、「そうね。自己中夫よね。でも、なんか、あの人らしくない気がして離婚届はまだ提出していないの」と言った。
あの人らしくないとう言葉に脈が速くなる。まさか希美は僕のことを思い出したのか?
「希美さん、ご主人を思い出したんですか?」
井上さんが希美を見る。
希美はゆっくりと首を左右に振った。
「思い出せてないよ。でも、妻としての勘が、夫はそんなことをする人じゃないと言っているの」
切なそうに目を細める希美に胸が掴まれる。
「倉田さん、それは気のせいですよ。倉田さんが自己中夫に捨てられたと思いたくないから、そう思ってるんですよ」
希美が寂しそうな笑みを浮かべ、僕を見た。
「佐藤さんも、気のせいだと思いますか?」
希美に話を振られ、ドキッとする。
「僕は……」
希美の為を思うのだったら、ここは厳しいことを言った方がいい。
「僕も青山君と同意見です。気のせいだと思います。少し厳しいことを言いますが、倉田さんは自分が傷つかないように、ご主人のことをそう思いたいだけなんですよ。離婚した方がいいです。倉田さん、自己中なご主人のことは忘れて、新しい人生を踏み出して下さい」
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